百貨店の婦人服売場で異変!?高島屋がジュンとのコラボショップを立ち上げた理由
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年4月9日 20時59分
百貨店やセレクトショップとアパレルブランドとのコラボといえば、商品企画を協業で行う「別注」などが定番だろう。ところが、近年ではその別注を超えた「協働での店舗運営」のコラボが生まれている。大手百貨店・高島屋と、「ロペ」などのブランドを展開する大手アパレルメーカー「ジュン」のコラボによるライフスタイルショップ「moi salon et rope’(モア サロン エ ロぺ)」だ。2023年5月の大阪店を皮切りに横浜店、京都店と3店舗を展開し、従来の婦人服売場の常識にとらわれない自由な店舗運営を行っている。
この業態・立場を超えたコラボに乗り出した背景には何があるのか。“仕掛け人”である高島屋MD本部 部長で婦人服・婦人雑貨などを統括する嶋廻由希子氏に聞いた。
従来の百貨店とは一線を画した商品展開
高島屋横浜店4階、婦人服フロアの一角に、2023年6月にオープンした「moi salon et rope’(モア サロン エ ロぺ)」はある。
外観は普通のレディースブランドショップと変わらないように見えるが、店内に入り個々のアイテムに目を留めるとその違いがわかる。オンタイムで着るジャケットやシャツだけでなく、オンオフ問わず着られるアイテムや、ジャージ素材などカジュアルだが上品に見えるアイテムなど、従来の百貨店のMDとは一線を画した多様なアイテムを取りそろえている。
「従来の百貨店ではカジュアルアイテムはあまり取り扱ってこなかったが、一定以上の年齢のお客さまの中には、ストレスを感じずにおしゃれを楽しみたいというニーズも高い。キレイ目に見えるが着心地のよい服、無理をせずにおしゃれを楽しめる服を用意している」(嶋廻氏)
「モア サロン エ ロぺ」は、ジュンの「ROPE’(ロペ)」と「SALON adam et rope’(サロン アダム エ ロペ)」の2つのブランドをミックスした、高島屋限定のライフスタイルショップだ。
アパレルだけでなく、店舗の中央にはライフスタイル商材を展開するスペースを用意。この日(取材日は12月中旬)はクリスマス商戦中ということもあり、独自にセレクトしたオーナメントを販売。その他の通常月には食器類などの雑貨類、フレグランスなども展開し、季節に応じたポップアップショップも設けている。
また、横浜店限定の別注アイテムや、高島屋がセレクトしたアイテムも揃えるなど、横浜店ならではの独自性の高い店舗運営を行っている。
「セール品を買わなくなった」ことへの危機感
徐々に百貨店からショッピングセンター(SC)に主戦場を移し、接点がなくなりかけていたジュンに対して、今回の協業の話を持ちかけたのは高島屋のほうだったという。その背景にあるのが、コロナ禍を契機とした消費行動の変化だ。
「以前なら懇意のブランドのアイテムをコーディネート一式購入する方が多かったが、コロナ禍での断捨離ブームを経て、今は目的を持って必要なアイテムを探し、買い足す傾向が高まっている」(嶋廻氏)
その買い方の変化が表れているのが、7月・1月のクリアランスセールでの売上だ。以前なら確実に確保できていた売上の山が、年々低くなっているという。
「セール品を買わなくなったという事実は、お客さまの買い方がシビアになってきていることの表れ。『ここで買うと心地がいい』もしくは『あそこになかったものがここにある』といったことが認知されなければ、百貨店でファッションアイテムを購入する意味が薄れてきていると感じていた」
長年、高島屋で婦人服のMDに携わる中で、そのような危機感を抱いてきた嶋廻氏。これまでも「マッシュスタイルラボ」と企画したブランドアイテムを展開するなど、従来の百貨店の枠組みにとらわれないブランドとの取り組みを模索し続けてきた。
その中で、「ロペ」などのレディースブランドを展開するジュンに注目した理由として、嶋廻氏は同社の「発信力」を挙げる。
「展示会などを見ていても、アパレルの枠にとらわれずさまざまなブースを出し集客している。彼らのように発信力や新しいトレンドへの感度を持った企業と一緒にコラボすることで新しい化学反応が起きないか、という期待があった」(同)
話を持ちかけると、ジュンの側にも「もう一度、百貨店を主戦場としてものづくりをしていきたい」との意向があったという。コロナ前から協業の話を進め、コロナ禍での中断を経て、客足が戻り始めた2022年頃から急ピッチで店舗のコンセプトづくりや取り扱うアイテムなど準備を進めていった。
婦人服フロアに表れた客層の変化
2023年5月、大阪店で「モア サロン エ ロぺ」の1号店をオープン。6月には横浜店、10月には京都店と、ここまで着実に店舗を増やしてきた。
横浜店もオープンから半年以上が経過して、「客層の変化が表れていると感じる」と嶋廻氏は手ごたえを見せる。
「他のショップとは明らかに客層の異なる若い年代のお客さまや、親子で訪れるお客さまの来店も多い。婦人服売場に新しいお客さまを取り込みたいというのが目的の一つではあったので、そこに関しては成果が見られる」
効率を重視して最初からアイテムを絞り込むことは方針として行っていない。例えば6万円台のウールコートは通常ならロング丈とショート丈の2種類展開のところ、さまざまなレングスのバリエーションを用意。その分、来店者が試着に入る回数も増えており、着実に購買につながっているという。
今シーズンにおけるウールの製品は、どのブランドも軒並み苦戦している。前年の上海ロックダウンの影響で非ウールの製品が入荷されなかった反動で、非ウールの需要が高まっているためだ。しかし、その中でも「モア サロン エ ロぺ」では「ウール製品は通常の倍ぐらいのペースで売れている」(嶋廻氏)という。
大阪、横浜、京都と、同じ屋号を冠していながら、一つとして同じ店舗設計はしていない。それぞれの店舗ごとに、客層をとらえて異なる品ぞろえや企画を行っている。
10月にオープンしたばかりの京都店の店舗は、同じく高島屋グループで同月にオープンした「京都髙島屋 S.C.」とを結ぶ渡り廊下の入り口に面している。SCとの親和性の高いライフスタイル型の店舗を百貨店とSCの結節点に設けたことで、SCから百貨店への送客効果も表れているという。
店舗を共同運営するジュンとは、毎月会議を行い、各店舗における商品やターゲットについて議論を交わす。3か月に1回はジュンの佐々木進社長も自ら出席するというから、ジュン側の力の入れようもうかがえる。
百貨店の枠にとらわれない店舗の可能性を模索
百貨店とアパレルブランドとの、立場や業態を超えたコラボに対する業界の関心も高く、「他のアパレルブランドからも協業の話を頂くようになった」と嶋廻氏。また、「モア サロン エ ロぺ」の他店舗への展開も「大型改装が必要なところもあるので、そのタイミングを見て判断する」と含みを持たせる。
その一方で、婦人服のMDを統括する嶋廻氏は、「大きな考え方として、婦人ファッションが急激に人気を回復することは難しいと思っている」と現状に対するシビアな評価を口にする。
「かつてはこの売場面積の中に旬のブランドをいくつ積み込めるかがバイヤーとしての腕の見せどころだった。しかし、SCはさらに大規模な面積でより多くのブランドを、より高速で回している。同じやり方を続けていても百貨店がアゲインストな状況は変わらない」
そのような危機感を抱いているからこそ、「『また高島屋に来たい』と思っていただけるフロアづくり、売場づくりをしていくのが今後の私たちの重要な仕事になる」と嶋廻氏は言葉に力を込める。それだけに「モア サロン エ ロぺ」に賭ける思いは強く、今後は既存の百貨店の枠組みにとらわれない自由な店舗運営も構想する。
「週替わり、月替わりで店舗の顔が変わる、そんな店づくりをしていきたい。花のアレンジメントやヨガのワークショップといった体験型のイベントや、DJブースを設けてもいい。さまざまな仕掛けを行いながら店舗の、ひいては婦人服売場の可能性をジュンと一緒に広げていきたい」
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