「ダイソー」創業者・矢野博丈さんが「会社は潰れるもの」と考えて経営にあたった真意
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年2月22日 20時59分
“センミツ”を地で行く、とらえどころのない矢野さん
大創産業(広島県)の創業者である矢野博丈(やの・ひろたけ)さんは、まったくとらえどころがない方だった。
初めて取材した時には、4時間ほど席をともにしながら、わずか3ページのインタビュー記事をまとめるのに四苦八苦させられた。
それというのも、接触している間中、のべつまくなしでダジャレや冗談ばかりを口にするからだ。気がつけば、質問の大半は、はぐらかされてしまっている――。
“センミツ”とは、千のことを話したうちホントのことは3つくらいというほら吹き然とした人のことを指すが、まさに“センミツ”を地で行く方のように見えたのが第一印象だった。
真顔で長い話をするから、これは真剣な話であろう、とまじめに聴いていると「全部、ウッソー」という落ちがあったりする。一筋縄では、どうにもならない。
厄介なのは、そんな長い取材時間の中で刹那、鋭い経営論を口にすることだ。だから、集中を切らして、聞き流していることもできない。
常に遊び心を忘れていないから、発想は自由。「メキシコに出店する」とか「大道芸人を派遣する会社をつくりたい」とか、夢かうつつか境のないような独り言が満載だ。
その一方では、「この記者は、こんなことを考えているだろうな」と見透かし、大変な気配りがあったりする。
そんな矢野さんは、創業以来、「会社とは潰れるもの」という考えを持って経営に当たってきた。慢心を嫌い、手を抜くことを戒めてきた。健全だった会社や業界トップにあった会社の傾いていく様を嫌と言うほど見てきたからだ。
「会社は潰れるもの」を一時でも忘れた自身を責める
ところが今から20年間ほど前から数年間にわたって「大創産業は倒産しないんじゃないかな」と考えるようになった。2010年ごろには売上3500億円規模、世界に3000店舗を展開するようになったのだから、決して慢心ではなく、当然と言えば当然。矢野さんは社内に向かっても辛辣な言葉を使うことがなくなっていった。
しかし気がつき後ろを見れば、キャンドゥ、セリアなど同業他社の激しい追い上げを食らっていた。商品、店舗、見せ方…どれをとっても自社に遜色を感じた。
「まずい。このままでは5年先に大創産業は存在しないだろう」。
「会社は潰れるもの」ということを一時でも忘れた自分を責めた。
冷静になってみれば、時代は大きく変わっていた。にもかかわらず、大創産業は、同じ商いを続けていたことに気付いた。
「過去に成功したビジネスモデルはもう古い。時代が変化しているのだから、企業のビジネスモデルも変える必要がある」。
大きく反省し、遅れながらも手を打った。
本部隣接地に1000坪確保していた商談スペースを取りつぶし、若手社員や女性社員にどんどん重要な仕事を任せた。
そうしているうちに出てきたひとつの結論が2011年9月にオープンした広島市内にあるダイソー広島段原SC店だ。「ダイソーJapan」という新業態で売場面積は596坪。既存店舗との大きな違いは、コンビニエンスストア化にあった。
「これまで100円ショップの楽しみは、『こんなものがある!』という「探す」ことにあった。しかし100円ショップが生活に定着した現在は、どこに何があるかが瞬時に分からなければいけない。ショートタイムショッピングが求められている」。
こうした考え方から、主通路を広く取り、売場表示を分かりやすくし、単品を大量に陳列して売場にコンビニエンス性を持たせた。
また、ビジュアルマーチャンダイジングにも力を注ぎ、什器を変え、棚の裏側にバックライトを組み込むことで商品を浮き上がらせた。
商品開発手法も大きく変え、新しいカテゴリーへの取り組みを進めるとともに、従来の機能重視にデザイン性やカラーコーディネート性を加味した。ファンシー文具やおしゃれなマグカップ、ネクタイなどハイセンスの商品が並ぶようになった。
「ハロウィン」「クリスマス」「バレンタインデー」などにはシーズン売場を催事スペースで大きく展開して、購買意欲をあおる。
過去のダイソーから決別し、ひとつのかたちになったダイソー広島段原SC店を見ながら、矢野社長は「助かった」と胸をなでおろしたのだという。
「恐れおののく力」が重要な理由とは
そこから再び矢野さんは、以前の貪欲な矢野さんに戻った。「会社は潰れるもの」という気持ちを新たにして、店舗巡回のたびにケータイ電話で写真を撮り、気付いたことを担当者に写メ(ケータイ電話で撮影した写真をメールで送ること)して苦言を呈するようになった。
「恵まれた者は不幸だ。恵まれているから、そこから先の努力をしなくなる」というのが矢野さんの持論だ。
《人間は、決して強い生き物ではない。丸裸なら「陸」「水」「空」のいずれでも、いろいろな生物に負けてしまう。1対1で格闘すれば、生命がいくつあっても足らない。だから人間は、頭を使い、知恵を絞り、火を利用し、道具、服、家、武器をつくり、決して強くない身体を守った。狩猟をして、農耕をして、定住をして文化をつくった。病気と闘い、原因を追究して、長寿できるようにした。その結果、生命体としては決して強いとはいえない人間が地球の主役になっている》
大創産業(広島県)の矢野さんは、このことを「恐れおののく力」と言っていた。弱いことを知っているから強くなれる、ということだ。
だから矢野さんは、慢心してはいけないと自戒してきたのだ。
その矢野さんが2月12日になくなった。10回ほどの取材を通して、本当にいろいろなことを教えていただいた。ありがとうございます。(合掌)
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