日本人の生活を服で変えるも「選択肢」を奪った!?ユニクロの功罪とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年2月26日 20時59分
「ユニクロ」の強さが際立ってきた。ユニクロおよび社名であるファーストリテイリングは、30年前、その名前さえ知られていなかったぐらいだが、今では世界を代表するアパレル企業になってしまった。本日は、「ユニクロの功罪」をそれぞれ3つずつ論じてみたいと思う。
ユニクロの功績1「経営力」がある日本企業があることを明らかにした
まずはユニクロが果たした功績から見ていきたい。
今から約四半世紀前の2000年4月。ハーバード大学のマイケル E ポーターは、その著書「日本の競争戦略」(ダイヤモンド)の中で、バブル沸き立つ日本に独自の視点から危機を感じ、ごく少数の企業だけがGDPを牽引している日本の産業構造、オペレーション偏重からくる戦略の誤謬などを書き上げた。
その中では、アパレル産業についても言及している。
結論だけいえば、「アパレル企業には戦略がない」。オペレーション偏重主義により、改善を繰り返し、昔のやり方を続け国際競争力のあるアパレル企業は皆無となったと書いている。
前回の論考のように、外資に輸入税を課すことで日本市場を閉鎖したものの、ムダに終わった。結果、今、日本の総生産量は、総投入量の1.5%程度まで落ち込んでいる。つまり、ものづくりはほぼ全てがアジアの途上国に移り、日本ではアパレル企業が小売化し、ブランディングやマーケティングだけが残ってしまったことになる。
これを「産業の空洞化」という。
日本の繊維・アパレル産業はその後、「中国でも生産単価が高い」となり、さらに南進をすすめバングラデッシュやミャンマーにまで生産拠点を移した。しかし今は、「インバウンド x 円安」という効果もあって外国人の爆買いが続き、さらに、今週は春節(中国の旧正月)のため、大量の中国人が訪日している。ちなみに私は先日、自宅を売却したのだが、購入者は中国籍の人だった。その人曰く、自国では「あまった金」を増やすことはできないから、海外不動産で安い物件があれば買っているとのこと。完全な投資対象ではあるが、この円安のおかげで爆買いにブーストがかかったようだ。
前置きが長くなったが、ユニクロの功績、その①は「経営力」がある日本企業があることを明らかにした、である。
50件以上のビジネスデューディリジェンスをやってきた経験からいって、昨今のプライベート・エクイティ(PE)・ファンドは、良い経営者以上に良い産業界、よいビジネスモデルに目をつける。最近はPEファンドがアパレルをM&Aすることは減ってきたが、それは、案件がなくなったからではなく、あまりに「ボラティリティ」(不確実性)が高いからだ。
あのユニクロでさえ「今年の冬は暖かかったため」というように、天気やトレンドに大きく影響を受ける。
逆に、PEが「AIをつかったソリューション開発」の仕事を進めた場合、投資の意思決定の難易度は一気に下がる。これからのAIのポテンシャルを考えれば業界としての魅力があることは明らかだからだ。
そうなると、「経営力」という曖昧な言葉の存在さえ疑ってしまう。結局は、プレイヤー達が戦っている場所が上りのエスカレーターにのっているのか、水平の平地にあるのか、はたまた、下りのエスカレーターにのっているのかによって、そこで戦う全プレイヤーが等しく受け入れざるを得ない事実となることになる。
しかし、そんな下りのエスカレーターに乗っていても、我関せずで圧倒的な強さを見せるのが、ユニクロなのである。
ちなみに、アパレル産業が下りのエスカレーター状態なのは日本に限った場合であり、世界では拡大が続く「上りのエスカレーター」である。
今であればAIブームに欠かせない半導体の需要増品から、日本では半導体銘柄が株式市場で買われ、米国ではNVIDIA(エヌビディア)の時価総額で過去最高を更新しているわけだ。
私たちは、まずはマクロ経済ベースで産業界単位で「筋の良さ」を見極め、その次に経営トップがまともか否かを見定める。こうした投資戦略の変化から、私自身も「経営力」を図るむなしさを幾度か考えたものだった。そもそも産業界の筋が悪ければ、経営力はほぼ意味をなさないからだ。
しかし、ファーストリテイリング・柳井正会長兼社長が高い「経営力」を有することは言うまでもない。
事実アパレル業界は、「ユニクロか否かで二分化され、ファーストリテイリング1社が突出し、日経平均を押し上げるほど成長してしまったのである。
投資家が「アパレル産業だけは投資をしたくない」といっているのに、ユニクロだけは勝ち続け、ユニクロに投資したい人は数多い。
これを経営者の力量の差と云わず、なんといえばよいのか。
一般的には、天気やトレンドなど企業は等しく産業を取り巻く経営環境の影響を受けるため、経営者ができる戦略変数など多くはない。つまり、ある程度「成長産業」という下駄を履いた中で、その中でもさらに好調企業が誕生するのが普通なのだ。
しかしユニクロ、ファーストリテイリングだけは、日本のアパレル産業界全体が落ち込みつつある中、一人勝ちで成長し、今期は3兆円を超える勢いだ。
3兆円を超えれば、ZARAの背中が見えてくる。ここまで世界で成功したケースは、半導体、クルマ、昔の家電などがあったが、このユニクロのように、1社だけが突出して世界制覇を目前に踏まえ、その他のアパレルはさっぱりという事例は珍しい
「経営力」の違いを徹底して検証すべきだろう。
ユニクロの功績2 世界のコスパを日本に導入
同社の功を語るにあたり、その圧倒的なコスパについて言及せざるを得ない。ユニクロのつくる服は、プロの私が見ても百貨店のそれと何ら変わるものはない。それで、色以外はベーシック衣料ばかりだから、その圧倒的なコスパで、アパレル業界のファッション衣料の需要を奪いまくっている構図が目に入る。
しかし、そのユニクロも、ターゲットにもよるが、海外にいけば普通の価格。ものによってはユニクロのほうが高いものもあるほどだ。その意味で、ユニクロは私たち消費者に、日本にいながら世界基準の服を着る機会を与えてくれたといえる。
ユニクロの作る服は、私たち日本人の頭の中にプライスアンブレラ(値段の傘:価格基準値)をつくってしまったのだ。また、他の競合アパレルが、その倍以上の値付けで踏ん張っているものだから、価格競争にも陥らないし、むしろ、アパレルの「中価格」が、ユニクロの低価格をより一層魅力的に見せる役割を果たしている。
ユニクロの功績3 日本人の生活を服で変えた!
ユニクロの功績3つ目は、ヒートテックやエアリズムなど、防寒性や撥水性が高い機能性衣料を原料からつくり、私たちの生活の一部となり、名実ともに国民服になったということだ。とくに、ヒートテックは、持っていない人はいるのだろうかと思うぐらい、全日本人に深く定着している。同社は私たち「日本人の生活を服で変える」ほどの力をもっている
どうだろう。これが、私が考えるユニクロの光の部分だ。そして、大変僭越ながら、「罪」の部分について考察をすすめよう。
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ユニクロの罪1 「ファッションの楽しさ」を奪った
まったくの優等生であるユニクロの功罪の「罪」の部分をみつけだすのは実は難しい。
しかし、「ユニクロ前とユニクロ後」を比較してみると、若者のファッションに変化がでてきたように思う。
とくに、ユニクロに行く層は、私のように「インナーや肌着はユニクロでいいや」という合理主義者、あるいは、「ファッションに悩むなんて馬鹿らしいユニクロで十分」という層。そして、「ユニクロだったら、好きな服を好きなだけかえる」という自分自身の言い訳ができる買いもの好きな女子達だろう。
女性は、身にまとう服で自分のイメージを変えたり、気分を変えている。それによって、その日一日の行動様式は変化するのだという。
本来、ファッションとは楽しいものなのだ。この楽しさを奪った、といったら言い過ぎだろうか。
いずれにせよ、今の若者の服装を見ていると、私が大学生だったころと比べて、本当に貧しくなった(バブル時代が異常だったということも言える)と思うことがある。
ユニクロの罪2 大きさが生み出す社会的責任
次に、ユニクロの罪の部分は、その「大きさが生み出す社会的責任」である。
日本のアパレルで3兆円企業となったアパレルは過去存在しないし、これからもないだろう。
ユニクロが名実ともに、世界ブランドに変わってゆくことになるわけだが、新疆ウイグル自治区の綿糸を使ったと文句をつけられ、米国の輸入を禁止させられる、あるいは、パリで査察が入るなど、社会的影響が大きくなると、優等生としての「振る舞い」を求められる。
同社はこれまで「より高く」、「より大きく」を目指してきたわけだが、この局面でうまく自社をコントロールできるのか、という疑問が残る。
ファーストリテイリングが全社をあげてサステナビリティファッションに力をいれていることは、私はよく知っている。そして日本人も少しずつその活動を知るようになってきただろう。
一方で、ファーストリテイリングの売上は大きすぎるため、例えば衣料品の在庫を燃やすカーボンや、糸を染めるときに使う有害物質などの量も桁違いに大きくなる。
大きくなると敵は「国家」となる。とくに欧州諸国を相手にビジネスをするときには注意が必要だ。
自分自身で環境問題に対する確固たる哲学を持ち、例えば売上・利益のトレードオフが発生した時、広く世の中を見て意思決定ができるかという部分が大事なのだ。
ユニクロの罪3 消費者の選択肢がなくなった
最後は、ユニクロの責任とは言えない部分もあるのだが、指摘しておきたい。あまりに勝ちすぎ、あまりに成長してしまったため、国内で健全な競争が生まれてこない、つまり、消費者は最初からユニクロ一択になってしまっている点だ。
それがなぜ罪なのかといえば、消費者は企業同士が競争し、切磋琢磨することで良い服を手にすることができるからだ。
今の「ユニクロ一強、その他は、、、」というアパレル業界の構図は、結局は消費者にとってよいことではない。
いっそ、輸入税をとりはらい、外資のアパレルをどんどん入れてみるという手もあるだろう。いずれにせよ、今ユニクロが独占しているように見えるアパレル産業を消費者目線でみると違った見え方ができるということだ。
さあ、どうだろうか。功罪というテーマでユニクロに対する考察を書いたが、私たちは数字の裏にあるストーリー、つながり、経営環境を定性的にもっと分析する必要がある。ユニクロは研究し尽くし、学ぶものは少ないと考える人もいるだろう。
しかし改めて高い視点で同社の過去と未来を考察すれば、今我々が見ているユニクロとは全く違うユニクロが見えるのではないだろうか。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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