「デジタルを武装せよ」営業改革を実現する日清食品のDX
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年3月14日 22時0分
日清食品(東京都/安藤徳隆社長)は、コロナ禍に突入する以前からDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んできた。とくに近年はデジタルを活用した業務効率化やデータ分析に基づいた営業改革に力を入れている。
コロナ禍での対応、在宅勤務に素早く移行
コロナ禍を機にこれからの新しい働き方として、テレワークを本格導入した企業は少なくない。そのなかでも、いち早くドラスティックなかたちでテレワークを実施したところが日清食品だ。同社グループでは、東京都に緊急事態宣言が発出(2020年4月7日)される1カ月以上も前から全社が原則出社禁止(在宅勤務)体制に入っていた。
経営トップから在宅勤務の判断が下り、通達の翌日から国内約3000人が在宅勤務に一斉に切り替わった。その時点では、紙での確認が必要だった経理部門、FAXでのやり取りをしていた物流部門もあったが、1カ月後には在宅での勤務が可能になっていたという。
同社グループでは、全社一丸となって、災害に対応し、きっちり事業活動を維持するというミッションを共有している。「どんなピンチのときにもインスタントラーメンを届けられないという状況は許されない」という使命感、DNAを社員全員が持ち合わせている。
そうしたこともあり、トップからの通達ひとつで社内体制が一気に変わったわけだが、その裏側では、コロナ禍の数年前から全社デジタル化への大きな取り組みが動き始めていた。
その象徴とも言えるのが、2019年に経営トップから社内に発信されたメッセージだ。
「DIGITIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」としたもので、今後のマイルストーンとして、「2019年 脱・紙文化元年」「2020年 エブリデイテレワーク」「2023年 ルーチンワークの50%減」「2025年 完全無人ラインの成立」がはっきりと記されていた。
顧客のために使う時間の割合を増やす
「表面的なデジタル化以前に、セールス部門としての問題意識があった」とビジネスソリューション本部の渡辺英樹氏は語る。
同社グループでは「ムダな業務をやめる」「デジタルツールを使いこなして、自動化を進める」ということを進め、その先として「みんなが楽しくイキイキ働けるような状態」を実現する。それがセールス部門の考えるデジタル武装だった。
セールスが使っている時間は大きく2つに分かれる。
「顧客のために使う時間」と「その他の時間」だ。
顧客のために使う時間とは、戦略を練る時間、顧客との接点(商談・プレゼン、巡回、売場づくり)の時間、そのための準備の時間(商談に必要な資料・報告書・決裁書作成、販促物作成の準備)や、顧客との接点、販促物作成といった作業の時間になる。
この割合は、多くの会社で3:7と言われているが、同社としては、さまざまなデジタル手法を用いて、5:5にもっていきたいと考えている。
18年から19年にかけて、同社はすでに動き始めた。
タブレットPCの支給、オフィスではフリーアドレスの採用、SFA(営業支援システム)の導入、販売目標を計画するためのシステムについては、販売計画を起点として、生産、配送マーケティング、資材の調達といった川上から川下まで、把握管理できるようなものに刷新した。
デジタル化に不可欠な業務の標準化も進め、業務に必要なデータや情報がすべてそろう環境(情報ポータル一元化)も整備し、ナレッジの共有も可能にした。
デジタル上での外出管理、行動管理が進むと、「あなたのチームはこういう動きをしていて、移動の時間が多くてムダ。他のチームとこんなに違う」といったフィードバックはもちろん、ダッシュボードを通じて「他のチームと比べてどこが足りないのか」「どんなムダがあるのか」といったことも、データで一目瞭然となるような状況をつくるなど、デジタル環境の利用を促していった。
デジタル化への流れは、ひとたびそのメリットに触れると、一気に加速する傾向がある。
情報ナレッジの共有により、セールス担当者が提案準備にかかる時間が25%削減されたという社内調査の結果が出た。また、全国の現場主導による業務効率化のための見積作成や商品登録作業などのRPAが作成され、4%の業務時間削減も達成された。
クリエイティブとデジタルの掛け合わせ
日清食品の商品にはブランド力がある。そのため、特売販促を中心とする量の商談がベースになってきた。
しかし、さらなる成長を続けていくには提案力の強化、すなわち「日清食品の商品で売場に貢献」「店舗特性に応じた柔軟な売場提案」といった質の商談への転換が求められていた。
そこで渡辺氏たちが進めていたのが、データ起点による提案力強化のための専門部隊だ。2019年に準備室を立ち上げ、データ分析の専門人材をキャリア採用し、ID-POS、得意先のデータ分析を専門に行うトレードマーケティングチームを設置した。
実は、同じころ、もうひとつの組織づくりも進んでいた。
「データ分析はさまざまなツールを駆使すれば、どこでも似たようなことができる。そこから先の提案部分で、日清食品の強みを出す必要がある」(渡辺氏)
その役割を期待されたのが、セールスプロモーションチームだ。
日清食品のだれにもわかる強みといえば、数々の話題性やインパクトのあるCMやプロモーションに代表されるようなエンタメ性だが、トレードマーケティングチームのデータ分析に、エンタメをクロスさせ、小売事業者への提案につなげれば、日清食品らしい課題の解決ができるにちがいない。そうした考えがあった。
コロナ禍により、今までのような対面での商談ができなくなったことも加わり、この2つの新組織による化学反応からさまざまな効果が生まれている。
たとえば従来であれば、商品画像や売価を訴求するだけの売場だったものが、販促ターゲットに合わせたPOPやポスターを小売事業者と共同でつくって売場展開する機会も増えた。さらに、セールスのクリエイティビティ向上のための社内研修も強化している。
「こういう売場にしてお客様を楽しませましょう、といった当社らしい提案が得意先にも徐々に刺さってきていると実感している」(渡辺氏)
エンタメ売場による「地上戦」に注力
日清食品はテレビCMの集中投下による「空中戦」、最近ではSNS・アプリによる「Cyber戦」が得意な会社と思われている。しかし、これから大きな伸びしろがあるのは、「空中戦」「Cyber戦」よりも、エンタメ性の高い売場の実現による「地上戦」だと考えている。
「一つ一つの店舗に対して、データに基づき、いかに細かく的確に、かつ日清食品の得意なエンタメという表現力をもって、お客様がワクワクするような売場をどんどん進行していくという地上戦。セールス部門はいま、この地上戦をキーワードに積極的に売場提案に取り組んでいる」(渡辺氏)
2021年以降、エンタメ化実施企業数は右肩上がりで増えており、22年は21年比400%、23年は同694%になっている。それだけ提案数が増えていれば、従来の働き方であれば7倍近くに業務量が増えるはずだが、現場でそうした声は聞かれない。
つまり、同社グループが意図する、セールスの時間の使い方へのシフトが進んでいるということだろう。
渡辺氏は「今後さらにデジタル化を進め、生成AIを活用していくことで、エンタメ化の実施企業を増やしていきたい」と語っている。
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