コロナ収束後も増収増益見込みの生協 今後の成長を阻む壁と直近の施策
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年4月2日 20時59分
全国の生協の連合会である日本生活協同組合連合会(東京都:以下、日本生協連)が、2023年の事業概況を発表した。コロナ禍で大きく利用が伸長した生協はそのぶん、反動減が懸念されていたが、総供給高(小売業の売上高に相当)増収増益を達成見込みだ。しかし中長期的な成長に向けては課題が残る。生協の現状と今後の課題について解説する。
宅配事業が高止まり
商品値上げが業績を底上げ
日本生協連は2月6日、毎年恒例の新年記者会見を開催した。23年度の事業概況について事業担当専務の藤井喜継氏は「コロナ禍で総事業高(営業収益に相当)が2桁成長し、コロナ後も高止まりで推移している」と順調な見通しを述べた。
コロナ後に予想された急成長の反動は、食品宅配市場の拡大を背景に抑えられ、23年度第3四半期(4-12月期)までの宅配事業の供給高(売上高に相当)は対前年同期比99 .8%とほぼ同水準を維持した。店舗を含めた総供給高は同100.6%と、21、22年度の2 年連続の減収から23年度は増収に転じる見込みだ。
総供給高の増収は、商品の値上げで、宅配、店舗事業ともに、客単価がアップしたことが主な要因となる。半面、利用人数と利用点数は減少した。とくに今後の成長の柱である宅配事業の成長の原動力は組合員数の拡大だが、コロナ後、配達担当の人手不足の影響で勧誘活動に手が回りきらず、新規加入数は目標を下回り、利用人数の減少につながった。
収益面については、コープソリューション調査では、第2四半期までの経常剰余(経常利益)が同102.3%と前年を維持。年末商戦の宅配と店舗事業の総供給高が同104.4%と好調だったことを踏まえ、増益となる見込みだ。
直面する5つの課題
今後の生協の成長を担う宅配事業は、20年度供給高が2兆1000億円を超え、食品宅配のトップランナーの立ち位置を堅持している。しかし、今後については楽観視できない。
直面している主な課題は大きく5つある。ラストワンマイルを担う配達担当の人手不足、燃料費や車両価格、人件費など事業コストの増加、競合との競争激化、デジタル改革の遅れ、組合員の高齢化と若年層の加入推進だ。
生協宅配がここまで複合的な課題に直面した例は過去にない。なかでも、若年層の加入推進と人手不足への対策は、今後の事業成長に関わる重要課題と言えそうだ。
メディア活用により
生協宅配のイメージ改革へ
では、こうした課題について生協は今、どのように対策を進めているのか。
まず、若年層の加入促進については、日本生協連では2030年ビジョンの第2期中期方針(23~25年度)で「足場の強化と飛躍への一歩」を掲げ、最重要課題として「若年層の生協への加入・参加」への対策を進めている。
日本生協連が21年度に行った全国生協組合員意識調査で組合員の平均年齢は59歳。50歳以上の割合は6割を占めた。24年度の調査では平均年齢60歳超えも予想される。現在、生協は高齢者に支持される組織として社会的にも存在意義を発揮しているが、少子化・人口減少が進むなかで若い世代の加入が進まないことは事業継続の危機につながる。
藤井専務理事は「全国共通の課題は、若年層に生協宅配の利用が進んでいないこと。これにどうアプローチしていくか、全国的にチャレンジしている」と述べた。そして、全国の地域生協のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進する「DX-CO・OPプロジェクト」と連動した若年層加入推進について直近の施策を報告した。
一人や二人で暮らす少人数世帯の若年層向け施策では、メディアを通じたイメージ改革を進めている。たとえば、人気の女優やタレントを起用して、女性向けメディアとのタイアップ企画を実施し、生協宅配のPR記事を掲載したほか、動画クリエーターとのコラボレーション企画も行った。生協はこれまで、若年層では主に子育て世代へのアプローチを進めてきたが、今後はそれ以外の20代、30代にも生協への理解・共感を広げていく考えだ。
期待の施策「TRY CO・OP」
全国32生協まで導入拡大
このように若年層との接点強化を進めるとともに、「DX-CO・OPプロジェクト」のもと、生協に未加入の人が宅配商品を気軽に試せるサービス「TRY CO・OP」の提案も進めている。
売れ筋の冷凍食品の3品のセットがワンコイン(税込500円)で試せるという企画で、若い女性やDINKsをターゲットに、お得なセットの購入で接点をつくり、申込者を生協加入につなげていく。
背景には、これまで組合員拡大の方法として戸別訪問を進めてきたが、今の若い世代にはここうした手法は合わず、さらにインターネットでの加入促進も思うように実績が上がらなかったことがある。
そこで23年から若年層とタッチポイントをつくる新たな施策として「TRY CO・OP」の実験を開始した。24年1月現在で32生協が実験を実施。利用者数の目標など具体的な数値は非公表だが、利用者数は計画の250%で推移しているという。「急激な加入の伸びは期待できないが、成功、失敗事例を共有し、各地域生協ともに模索しながら若年層へのアプローチを図っていく」(藤井専務理事)。
今後、日本生協連では全国の生協と「若年層推進部会」を立ち上げる計画で、若年層と生協のつながりをさらに深めていきたく考えだ。
進むAI活用、紙カタログの
送付者を選別しコスト減
「DX-CO・OPプロジェク」の直近の取り組みとしては、宅配事業における紙カタログのコスト削減に取り組んでいる。この10年で宅配事業におけるインターネット注文数は2.5倍に増加している。しかし供給高ベースでは、カタログ注文が77%に対してインターネット注文が23%と未だ紙媒体が占める割合が大きい。
紙カタログによるコストは、OCR注文書やカタログの制作、紙代など、大まかな数字ではあるが組合員1人当たり年間1500円ほどの費用が発生していると言われる。食品や生活用品、乳幼児商品などカテゴリーやテーマ別に複数のカタログ媒体を制作し、配布していることがコストを重くしている。
他方で、組合員からはカタログが複数種類あることで、「商品を探しきれない」「環境に悪い」といった声も上がっている。
そこでDX-CO・OPでは、生活用品の専門カタログにおいて、AIを活用し、過去の注文履歴や属性から配布の「継続」「中止」を予測、判断。利用する可能性が高い組合員のみに配布することで費用対効果を高めるという試みを始めている。
組合員からも好評!
注文レコメンド機能
AI活用では、宅配事業のネット注文時の利便性向上を図る施策として、「注文予測型レコメンド」機能の導入が地域生協で広がっている。
これは個々の組合員の過去の注文履歴や志向にあわせ、注文しそうな商品をAIが予測し、注文画面に自動的に提示するサービスだ。商品検索の手間を省けると組合員から好評でコープデリ連合会(埼玉県)、コープ東北サンネット事業連合(宮城県)、東海コープ事業連合(愛知県)の会員生協が導入している。
2024年問題へは対応済も
ラストワンマイルへの懸念続く
直近の課題である「物流の2024年問題」への対応では、日本生協連は自主行動計画を策定し、物流子会社のシーエックスカーゴ(埼玉県)において、入庫待機時間の短縮化、パレット積載改善、BOXパレットの活用などを進めている。
生協と、その配送パートナー会社については、働き方改革関連法に定められる労働時間の問題に対して早期より対策を進めてきたことから、求められる条件はほぼクリアしており、直接の大きな影響はないという。
しかし2024年問題では、競合他社とのラストワンマイルにおける労働力の奪い合いが進み、配達担当が今まで通り確保できるかといった懸念がある。また、国内全体の労働力の不足は24年度だけの問題ではなく、さらに深刻化の道を辿る。
今後の事業を支えるための、若年層の組合員の加入推進と、生協の強みとなるラストワンマイル配送を維持するための人手不足対策。生協はこの2つの課題をどう乗り越えるか。打ち手を着実に進めつつあるも、抜本的な打開策はまだ見いだせていない。食品宅配市場を取り巻く環境が厳しさを増すなかで、このハードルを乗り越えることが、生協が同市場で勝ち組となる必須条件である。
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