スイーツも「OMO」の時代!チーズタルトの「BAKE」が編み出した新たな成功法則とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年4月21日 20時57分
令和の世はまさに、チーズタルト群雄割拠時代。さまざまなチーズタルト専門店が生まれては消えていく中、立地の良さと、店舗で焼き上げる「工房一体型」の専門店業態で、右肩上がりに成長を続けてきた『BAKE CHEESE TART』。だが2020年、コロナ禍の緊急事態宣言を受け、『BAKE CHEESE TART』を含めてBAKE(東京都/山田純平)が運営するパティスリーの売上は、9割減まで落ち込んだ。そこから脱却するために仕掛けた新たなる戦略と、同社の強みについてレポートする。
店舗で焼き上げるシズル感とおいしさ
駅中で、ふと漂ってくるお菓子の甘い香り。惹かれて近づくと、ガラス張りのシックな店舗に並ぶ、焼き立てのスイーツ…。そんな五感に訴える設計で急成長し、2013年の創業から2019年にかけて、全国100店舗に拡大した製菓企業BAKE。中心ブランドは、チーズタルト専門店の『BAKE CHEESE TART』、カスタードアップルパイ専門店『RINGO』、バターサンド専門店『PRESS BUTTER SAND』の3種類だ。
BAKEの強みは、駅近や通行人の多い立地と、工場で半製造して店舗で焼き上げる「工房一体型」のシズル感、そして、期待を裏切らないおいしさの追求にある。
だがそこで、どうしても高くなるのが原価率だ。BAKEは原価の高さを、「1ブランド・1プロダクト」に絞ってコスト効率を上げることでカバーしている。看板商品だけを提供することで、製造工程と費用を極力削減。さらに、来客数を予想して個数を調整できるため、ロス削減にもつなげている。
一転、ブランド横断型のECサイトと実店舗を
そうして右肩上がりで成長・拡大を続けてきたBAKEだが、2020年、コロナ禍で緊急事態宣言が出て状況が一変する。「これまでは通りすがりに、『ここは何屋さんだろう』と興味を持って入店、購買くださるお客さまが多くいたが、人通りが激減した。ECも実店舗も、商品を目指して『目的来店』してもらわなければいけないフェーズになった」と執行役員の北村萌氏は振り返る。
その巻き返しとしてスタートしたのが、「1ブランド・1プロダクト」を脱却するECサイト『BAKE the ONLINE』だ。チーズタルト、アップルパイなど全ブランドの商品をラインアップすることで、毎日のように訪れてもらえる利便性と、「選べる楽しさ」を優先した。いくらこだわった商品でも、毎日同じスイーツは食べてもらえないからだ。
さらに、グループ共通でポイントが貯まる会員制度をつくるなど、オンライン・オフライン、各ブランドを回遊してもらえるOMO(オンラインとオフラインの融合)の仕組みもつくられた。加えて2020年6月には、各ブランドの商品が結集する実店舗『BAKE the SHOP』も開店。現在、国内4店舗を運営している。
これまで運営店舗で社名を出すことがほぼなかったため、当初は「『BAKE』と『RINGO』は同じ会社が経営していたのか」などと驚いた客も多かったそうだ。だが、アップルパイを目指して来店した客がバターサンドを購入するなど、確実に相乗効果が生じているという。
何度も訪れたくなる“物語型”の新ブランド
『BAKE the ONLINE』オープンから3年。その知見を活かして2023年10月には、EC主体の新ブランドも立ち上げた。さらなるECビジネス拡大とOMOの推進を目指して考案された『しろいし洋菓子店』(以下『しろいし』)だ。
『しろいし』のコンセプトは“没入感”。「架空のマンション1Fにあるパティスリーで、住人の好きなお菓子が販売されていく」という物語に合わせてWEBサイトや商品が演出されている。絵本のようなかわいさと、マンションの階と同じく4層立て・4種類入りのうず巻きクッキー缶など、つくり込まれた世界観が楽しい。
設計の段階から、各分野のプロが結集する強さ
実はこのように、商品、WEB、パッケージ、さらには店舗まで、ジャンルを超えた統一感のあるアートワークがなされているのもBAKEの強みだ。その理由はブランドコンセプト設計の段階から、各分野のプロフェッショナルが参加する社内体制にある。誰か一人がブランドのコアをつくったら、あとはパティシエやデザイナー、広報など、それぞれの視点から知恵を出し合って肉付けしていくのだ。
コンセプトの起点は『しろいし』のように、「こんなブランドが必要」という「マーケットイン」発想のときもあれば、『BAKE CHEESE TART』のように、圧倒的においしいチーズタルトという「プロダクトアウト」の場合もある。「元々、おいしいプロダクトと圧倒的デザイン、そしてコミュニケーションの力で“どう商品を世の中に広めていくか”を考えるのが得意な会社。その良さを継承しつつ、時代に合わせたものづくりをしている」と北村氏。
これまでと方向性が全く異なる『しろいし』を立ち上げたきっかけについては、「コロナ禍では利便性を求めるだけでなく、ウィンドウショッピング的にECサイトを見る方が増えた実感があった。そこで買う楽しさ、見る楽しさを第一に、何度も訪れたくなるブランドをつくりたかった」と説明する。
その反響は上々で、評価の高いレビューやクチコミが数多く集まっている。東京駅のポップアップショップやバレンタインイベント出店では、限定クッキー缶が半日で売り切れる人気ぶり。メディアからの注目度も高いという。「限定缶は、マンションの隣の森が舞台のクッキー。今後も『しろいし』という街をつくっていく構想で、物語の進行や新しい商品を求めてリピーターが訪れる設計を考えている。期待値を高め、街の世界観が好きになって買ってもらいたい」(北村氏)
現在、『しろいし』を含め、ECの売上は好調。コロナ禍のEC特需に留まらず、アフターコロナも成長を続けている。実店舗の売上もコロナ以前に戻り、対前年比の売上は100%を超えている。
2月15日には『ナッツの美味しさが開花する』をコンセプトにしたEC主体の新ブランド『caica』を立ち上げたBAKE。今後について北村氏は、「『1ブランド・1プロダクト』に固執せず、例えばチーズタルト専門店の商品をチーズ、ミルクのお菓子まで拡張するなど、新たな一手を考えている。フロランタンやブラウニーを進化させたブランドの計画もある。年に2つは新しいブランドを開発していきたい」と力強く語った。
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