新中期計画は株主の期待に応えているか?好決算発表後、しまむら株価が下落した理由
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年4月7日 20時59分
早いもので2024年も第2四半期に入りました。まず2月期本決算の決算発表が控えています。個人的な関心はセブン&アイ・ホールディングスとイオンにあります。いずれも、事業の選択と集中を進めており、今後は強化分野の進捗が問われる局面だと思います。前者においては北米コンビニエンスストア(コンビニ)事業の体質強化、国内コンビニ事業の省人化、イトーヨーカ堂改革とECへの取り組みが気になりますし、後者においてはネットスーパーを含めた大都市圏の戦略強化と海外のモール・金融事業の行方に興味を持っています。
すでに決算を発表した企業もあり、そのなかで特に目に留まったのは好決算だったしまむらです。そうしたわけで今回はしまむらについて解説していきたいと思います。
好決算のしまむら、25年2月期決算見通しも堅調
しまむらが24月1日に発表した2024年2月期通期決算は、売上高6,350億円(対前年度比+3%増)、経常利益567億円(同+4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益400億円(同+5%増)となり、会社予想を上回り、連続最高益を更新しました。
ROE(自己資本利益率)は8.8%で前年度比ほぼ横ばいです。欲を言えば在庫回転率のさらなる改善を求めたいところですが、商品戦略、価格戦略、在庫管理がトータルにうまくいっていると見受けられます。
また2025年2月期の通期業績会社予想は売上高6,596億円(対前年度比+4%増)、経常利益576億円(同+2%増)、親会社株主に帰属する当期純利益401億円(同微増)と発表しました。増収と粗利率の向上を想定しているものの人件費の上昇により営業利益以下の伸びが小さくなっています。
しかしながら、最高益水準を維持していくというメッセージであり現実的な会社予想だと思います。利益成長が控えめになるなか、一株配当の増配を予定しており株主への目配りも感じられる手堅い印象の決算でした。
決算発表後、株価はネガティブに反応
しかし、しまむらの株価の反応はネガティブでした。決算発表直前に8,600円だった株価は決算発表後の二日間で7,741円まで▲10%下落しました。
この株価のクールな反応の背景にある要因は主に3点あると筆者は推察します。
第一は、株価が高かったこと。昨年末から決算発表までに+9%上昇しており2005年の高値や1999年の最高値をうかがう展開で期待が高かったこと。
第二は、2025年2月期会社予想がコンセンサスを下回ったこと、特に上半期の予想が+3%増収ながら▲4%経常減益となり、当面の業績の足踏みを意識したこと。
第三は、新たにはじまる新中期経営計画2027が投資家目線で不十分な点が残ったこと。
筆者は特に、第三の新中期経営計画2027、が気になっています。どういうことか説明していきます。
新中期経営計画2027の概略
まず新中期経営計画2027の概略を確認します。
数値計画は最終年度となる2027年2月期に売上高7,190億円(2024年2月期6,350億円)、営業利益660億円(同553億円)、営業利益率9.2%(同8.7%)、ROE8.0%程度(同8.8%)、国内出店計画累計150店舗(24年2月期までの3年累計89店舗)です。
しまむらは3つの方針を示しています。
- 成長戦略:
- 事業ポートフォリオの再構築
- 既存店売上の底上げ
- 商品力の強化
- 販売力の強化
- 出店・再配置・改装の拡大
- EC事業の拡大
- 新規海外事業への挑戦
- 基礎と基盤の強化:
- 人材戦略
- デジタル化による生産性向上
- サプライチェーンの再構築
- ESG活動への取組み
資本政策についてまとめると以下の通りとなります。
KPI
- 資本効率:ROE0%程度、株主資本コストを上回る水準
- 株主還元:配当性向0%程度 DOE3.0%程度
- 財務安全性:手元流動性比率4-6ヶ月程度
経営資源配分
- 成長投資:経営資源の50%程度を配分
- 株主還元:上記にある通り、配当性向を25%から35%へ引き上げ、DOE*を導入
筆者注:DOEは株主資本の額に対する配当の比率。配当性向で配当額を決める場合、 利益の減少がそのまま配当額の減少につながるが、 DOEは株主資本というストックに対して配当額を決めることにな るため、 配当性向との併用において配当額を下支える効果が期待される - 内部留保:自己資本比率80%以上
中期経営計画2027は実質「成長投資拡大」宣言
詳しい施策は会社の開示資料をご覧いただくとして、筆者の印象を一言で述べるとこれは「成長投資拡大」宣言であるということです。
しまむら事業を中心に、商品力、マーケティング力の底上げとデジタル化対応に手応えを感じているのでしょう。過去3年間、経営資源のうち10-20%を「既存の延長の投資」に充当してきた経緯から見れば、今後3年間の投資額が経営資源の50%へと2〜3倍増することは大きな変化です。
その中身も、新規出店、改装とスクラップ&ビルド、物流センターである商品センター・ECセンター への投資などなど「持続的成長に向けた投資」へとシフトすると宣言しています。
店舗に関しては都市部への出店を強化するとのことですし、バックヤードの投資については売上高8,000億円への対応をすると述べています。
事業基盤が堅牢であれば投資を増やし事業規模を、そして企業価値を最大化すべきです。とくに財務体力に余力がある同社はそれを生かす好機到来というわけですので、この「成長投資拡大」宣言を大いに歓迎したいと思います。
新中期経営計画、株主目線で「物足りない」点とは
このように新中期経営計画2027はよく練られた攻めの計画であると思いますが、率直に言って物足りない点もあります。
特にROEの着地目標を8%とした点です。これは同社の目線ではおそらく保守的な必達目標として示しているのでしょうが、直近期実績8.8%に対して現状維持以下を意味しており残念でなりません。
実は、2010年から2013年ごろのROEは手元資料によれば12%前後ありました。まずは10%、その後12%越えという道筋を示して欲しかったと思います。
ちなみに直近の売上高営業利益率8.7%は当時の水準に遜色ありません。つまりROEの低下の主因は資産効率、資本効率低下にあるわけです。
しまむらの貸借対照表を眺めると、自己資本比率は2024年2月期88%、また資産側では現金および短期有価証券が総資産の50%を占めておりだぶついているように見えます。会社の想定通りに投資に積極姿勢をとり、配当性向を引き上げるとしても、筆者の試算では現金がまだ継続的に増えていくと思われます。
ちなみにマネックス・アクティビスト・マザーファンドが2024 年5月開催予定の第71期定時株主総会においてDOE5%(同社新中期経営計画2027では3.0%)を提案している模様です。
配当を増やすべきか、自社株買いが良いのかという点で当アクティビストとの見解は異なりますが、DOE3%よりも5%のほうが”投資の原資を確保しつつこれ以上現預金等を増やさない、ROEの分母の増加を抑制する”という筆者の希望に近いと思います。
ここで問われているのは脱デフレ時代のROEのあり方であり、
しまむらの株主総会のおける株主提案の行方は注目です。決算発表後に株価下落を見た株主はどのように投票するでしょうか。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、
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