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トライアルはなぜ福岡の山間部でリテールDXを実現しようとしているのか?

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年5月15日 20時59分

トライアルは福岡県宮若市と連携協定を締結し「リモートワークタウン ムスブ宮若」を開設する

スーパーセンターを主力業態に小売事業を展開しているわれわれトライアルグループですが、目下とくに力を注いでいるのが、福岡県内をフィールドとした「街づくり」です。産官学連携事業として2020年に福岡県宮若市で開設した「リモートワークタウン 『ムスブ宮若®️』」はリテールDXの推進拠点として、トライアルとパートナー企業を合わせた48社・240名以上(23年12月末時点)が流通業の発展のために研究を行っています。連載第5回目となる今回は、小売ビジネスを生業とするトライアルがなぜ宮若という地でリテールDXの実現をめざしているのか、そのねらいと今後の展望についてお話しします。

共創のエコシステムを構築するためのポイントとは

 本題に入る前にまずお伝えしておきたいことがあります。これまでも本連載で繰り返し言及してきたとおり、本当に流通のあり方を変えるのであれば、「トライアルだけ(自社だけ)で進めていくのは不可能」だということです。さまざまな企業が参画・介在する「エコシステム」を形成することで、小売業だけでなく、製造業や物流業、金融業などさまざまな産業が連携し、相互に刺激しあいながら、新たな価値を創出することができる。われわれはそう確信しています。

 そのうえで、実際にエコシステムを構築するためには、いくつかのポイントがあると筆者は考えています。

① 流通業に革命をもたらすためには、小売やメーカーといった枠を超えた「横のDX」が必要であり、単独で取り組む「縦のDX」だけでは不十分
② すべてのステークホルダーが共通の目的を持ち、それに向けて協力することが必要
③ 外部のアイデアや技術も取り入れる「オープンイノベーション」の考え方が重要
④ 流通業界全体にイノベーションを起こすには各分野のスペシャリストと連携することが最短ルートである
⑤ いくら有効なデータや研究結果が得られても、結果的に消費者が変わらなければ意味がない

共創を実現するエコシステムは、企業間の壁を超えて初めて成立する
真のDXとは、企業間の壁を超えて初めて成立する

 これらのポイントをふまえ、トライアルからは効率化された店舗網やIoT機器などから得られる独自のデータを、一緒に取り組んでいただいているメーカー・卸企業などの皆さまからは各業界独自の知見や技術、データサイエンス分野におけるノウハウなど、それぞれを組み合わせることで個社ではできなかったことを実現する――。これが今、宮若で起きていることなのです。

なぜ、福岡県宮若市がリテールDXの拠点になったのか

 「リテールDX」の早期実現には、業界や個別企業の枠を超えた「共創」が不可欠ですが、「共創」という考えを前提に持ったうえで「挑戦」をし続けなければ、とくに組織の規模が大きい場合にはこれまでの慣習に縛られ、大きな一歩を踏み出すことは容易ではありません。

 また、DXは従来の常識ではない新しい分野であるため「どこから取り組んでいいのかわからない」「何をすればいいかわからない」という壁にぶち当たります。自社だけでも慣習に縛られ難しく、また組織の枠を超えた連携では難易度も上がります。これらDXに挑戦する際の障壁を減らし、リテールDXの実現・実装を早めようと始めたのが、「リモートワークタウン 『ムスブ宮若®️』」という街づくりのプロジェクトなのです。

 リテールDXの実装・実現には企業の枠を超えたPoC(概念実証)を行う環境整備が不可欠です。この企業の枠を超えた環境を生み出すのが、ムスブ宮若を形成する3つの施設と2つの店舗です。

 宮若市は、福岡県の県都・福岡市からクルマで1時間ほどの自然豊かな場所です。ここにリテールDXにまつわる研究開発を行うための拠点を複数備えており、IoTデバイスの開発や近隣店舗での実証実験の準備など日々さまざまなプロジェクトが進行しています。

リテールDX実現を図る3つの施設と2つの店舗

ムスブ宮若の概略図
ムスブ宮若の概略図

 現在稼働している研究施設は大きく3つ。全国各社のメーカーや卸企業が集う「MUSUBU AI」、スマートショッピングカートなどデバイスの開発センターである「TRIAL IoT Lab」、ショッパーマーケティングの最適化をめざした店頭の販促企画検討やトライアル公式SNSの情報発信を行う部隊が在籍する「MEDIA BASE」です。

 これら施設を開設するうえでは、個々での作業や研究のしやすさはもちろんですが、横連携の取りやすさという点にも非常にこだわりました。アメリカのシリコンバレーや中国の深圳などもベンチマークしており、あらゆる組織や機関の技術が結集することでさらなる発展を生むという、マイケル・E・ポーター教授が提唱する「クラスター」の形成を期待しています。宮若にさまざまな人材が集まることでクラスター効果が発生しイノベーションが起きる。そんなコミュニティをめざしているのです。

イノベーションを起こす新しい「集合体」をつくるために

 ここでクラスター効果についてもう少し詳しく説明しておきましょう。

 クラスター効果とは、特定部門の関連企業や、供給業者、サービス提供者、大学・自治体などが一定の地域に集積することで、競争と同時に協調が生まれ、「産業の生産性向上」「イノベーション誘発」「新規事業展開」が生まれることを指します。技術面のインフラやお客さまのニーズから生まれる知識的なデータの集積から幅広い横のつながりを形成し、そこからイノベーションを発生させる新しい「集合体」がつくり上げられる、というわけです。

 言い換えれば、一つの産業領域を従来の型にとどまらない「新しいエコシステム」を形成することで活性化させる、要するに「共創」を本当の意味で実現したものと言えるでしょう。

 次回はこの「共創領域」のさらに拡大をめざす、われわれの今後の動きについて詳しく触れていきます。

 

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