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親指サックが30万足の大ヒット! 「タビオ」に学ぶ成果の上がるX運用術とは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年5月12日 20時59分

タビオのX公式アカウント

「靴下屋」「Tabio」などの靴下専門店を運営するタビオ(大阪府/越智勝寛社長)のEC売上高が急増している。2019年までのEC売上成長率は対前期比で5%増程度が平均的だったが、20年は同100%まで上昇。ECチャネルの売上構成比率も急増し、20年以降は1213%と安定的な比率で推移している。急成長の主因は、X(旧Twitter)を中心とするSNS運用の成功だ。SNSをどのように利用して売上増につなげたか、また運用するうえで重視している点について、タビオのSNS運用責任者と実際の運用者に話を聞いた。

タビオのX公式アカウント
タビオのX公式アカウント

SNS運用で大切な“信頼貯金”とは

 タビオが運営するXのアカウントは約9.4万人のフォロワーを抱えており(242月時点)、インプレッション(閲覧回数)が数百万回超の投稿をコンスタントに生み出している。タビオがSNS運用を強化しようとしたきっかけは、20年に始まったコロナ禍だった。タビオのマルチメディア企画部部長の栃真賀悠名氏は「緊急事態宣言により店舗の人手が余ったことで、11人の現場社員を集めてSNSを強化する方針を固めた」と述べる。

 運用するうえで11人のトーン&マナー(広告におけるコンセプトや雰囲気)を揃えることはあえてせず、アカウントを運用する「中の人」の個性をそのまま生かす手法を採用した。すると、マルチメディア企画部係長の肩書で現在もSNSを実際に運用する田口裕貴氏の投稿が、徐々に反響を呼び始めた。

 投稿内容について田口氏は「SNS利用者=消費者が日ごろ抱える悩みに応える内容を強く意識した」と話す。たとえば、フォロワーから「足の冷えに困っており、どうすれば解決できるか」という質問が寄せられたケースがある。その際、一般的なメーカーの場合は自社商品を紹介するが、田口氏は「筋トレをしたほうがよい」という回答を、その根拠となる記事URLとともに返している。

 この投稿のインプレッションは280万を超え、リポストは9000超、いいねは14000超を獲得した。こうした消費者ファーストな投稿が話題を呼び、タビオのアカウントはフォロワー数を伸ばしていった。

 田口氏は自身の考えを次のように語る。「足の冷えに悩む方が求めているのは、『どんな靴下を買ったらいいか』ではない。足の冷え対策を解決する有効な手段として、筋トレという対策を発信した。フォロワーに有益な情報を与えることを最優先した投稿を心がけることで、アカウントを信頼してもらえるようになる。これを継続して“信頼貯金”することで、信頼の対象はアカウントからブランドに転換されていく。そうなれば商品紹介の投稿も信頼してもらえ、購入につながる」(田口氏)

 商品紹介が“バズ”ったケースもある。靴下の破損を防ぐ『親指サック』をXで紹介したところ、画期的なアイデアだとして話題になった。それまでは店頭での反響が高いとは言えない商品だったが、投稿が伸びたことで累計30万足出荷のヒットにつながったという。

親指サック
親指サック

バズった商品は即座にECや売場へ反映

 タビオはXのフォロワーを増やしたことで、ユーザーがリアルタイムに興味を示している商品を探る“観測気球”としてXを活用することが可能になった。

 「1日の投稿数約30のうち、5つ程度を“観測気球”として投稿している。店頭用POPとは異なり、SNSであれば即座にユーザーの反応を確認することが可能で、反応がよい商品はすぐに営業部や商品部、Webチームに共有し、ECサイト内の商品特集や店頭用POPに反映する。投稿1つですぐに売上が上がることはないが、投稿の切り口から何がフォロワーの心を揺さぶったのかを読み取ることができる」(田口氏)

 公式アカウントは店舗スタッフもチェックしているため、X上の反応を即座に売場へ反映することが可能だ。さらに、接客だけでは伝えきれない商品の機能性をXで発信することで、お客が来店中以外の時間も需要を喚起する。

 一方で、今後はフォロワーの拡大をめざしていくわけではないと部長の栃真賀氏は話す。

 「SNSの運用目的は、あくまでブランド認知の向上だ。フォロワー数はさほど重要な指標ではなく、フォロワーの関心をどれだけ集めているかを最も重視している。フォロワー数に捉われ単なる商品紹介に終始して投稿の価値を下げることはしない」(栃真賀氏)

“ツイ廃”の知見をフル活用し、炎上リスクを軽減

 企業SNSの投稿は、たびたび炎上することがある。企業にとってSNS運用は先述したメリットもあるが、企業イメージに傷がつくリスクもある。それでもタビオはSNS運用において部署内にチェック体制やレギュレーションをほとんど設けておらず、投稿内容を各運用担当者の感覚に任せているという。

 栃真賀氏は、「実際の運用内容はすべて各担当者に任せている。致命的な炎上を経験せずに運用できているのは、創業者が社員に対して頻繁に説いていた企業理念である『お客さまにとってよいもの、よい情報を提供する』という信条が社員に浸透しているからだと考えている。その意識から外れた言動はしないだろうと社員を信頼している」と説明する。

 実際の運用において、最も炎上リスクに対する嗅覚がするどいのは田口氏だという。

 田口氏は自らを「ツイ廃」(Twitter廃人の略。現Xの利用頻度が高く日常生活に影響するほど没頭する人を指すネット用語)と称する。かつてスーパーバイザーや広告管理を務めていた田口氏は、自身がツイ廃であることを会社にアピールし、Xの運用担当に任命された経緯を持つ。Xのプライベートアカウントでは、日々さまざまな炎上案件を見て、対応のノウハウを蓄積しているほか、見落としがちな視点は、同じくツイ廃だという田口氏の妻にアドバイスをもらうこともあるという。

 今後のSNSの運用方針について、栃真賀氏は次のように話す。

 「現在、SNS運用に適性のある人員を積極的にマルチメディア企画部へ配置し、個性の幅を広げようとしている。XのほかYouTubeInstagram、ブログなどの各SNSに、コスプレやeスポーツなど、各自が興味のある分野で情報を発信してもらい、各分野のファンと共に盛り上がれるようなアカウントを増やしていく計画だ。WEB上でもリアルでもイベントを積極的に開催してエンタメ性を高めていくことで、企業プレゼンスを高めていきたい」

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