知る人ぞ知るスーパーマーケットの聖地、 福岡・小倉の旦過市場を歩く
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年7月4日 20時55分
かつて福岡の小倉を訪れると、活気ある雰囲気が好きでよく立ち寄っていたのが旦過市場(たんがいちば)。しかし最近はコロナ禍の影響もありごぶさたになっていた。その間、2度も火災に見舞われたとのニュースを聞き心を痛めていたが、今回、久しぶりに現地を歩くことができた。食品スーパーの歴史においても重要な同市場の今をレポートする。
多様な顔を持つ街
本州から新幹線に乗って西へ、関門海峡を越えて最初に停車するのが小倉だ。九州の玄関口であり、駅名を知らせる車内アナウンスが流れてくるだけでも気分が盛り上がってくる。
小倉と聞き思い出すのは、「点と線」「砂の器」「ゼロの焦点」などの作品で知られる作家の松本清張。北九州が舞台の小説も多く、小倉城近くの「松本清張記念館」には何度か足を運んだ。
駅南側にはアーケードが整備された商店街、また繁華街が広がり、効率的に街歩きができるのも魅力だ。
老舗の居酒屋やうどん店、カフェ、雑貨店や各種サービス店など。ほかにも少し入り組んだ小道に迷い込むと、怪しげな映画館や店が集積するエリアもある。新幹線駅の至近に、これほど多様な顔を持つ土地はあまりないのではないだろうか。
一方、小倉に来るとよく立ち寄ったのが旦過市場である。北九州市を代表する市場であり、鮮魚、精肉、青果といった生鮮食料品店のほか、郷土料理はじめ地元ならではの総菜を売る店などを見るだけでも楽しめる。
とはいえここ数年はコロナ禍の影響もあり、ごぶさたしていた。その間、2022年4月と8月には、連続で大きな火災に見舞われ、大きな被害が出たというニュースを聞き、心を痛めていた。だが今回、福岡県で仕事があり、久しぶりに時間を見つけ現地を歩いてみた。
北側から市場を眺めると、入口の右に立つのが旧・丸和フードセンター(現・ゆめマート 小倉)。日本で初の食品スーパーは、1953年開業の紀ノ国屋だと言われるが、1956年に営業を開始したこの小倉の店が1号とする説も有力だ。
鰹節の卸売業者だった関西スーパー創業者の北野祐次氏が、同店の盛況ぶりに食品スーパーの将来性を見出したというエピソードは有名である。その後、同氏は食品スーパーの効率的な運営ノウハウを構築、他の企業に広めたという意味では、旦過市場は食品スーパー業界の聖地であるといっても過言ではない。
数年ぶりの旦過市場。中の様子はどうなっているのか、入ってみよう。
「特上にぎり」をいただく
市場を南の方向に進むと、火災の被害を受けたのは左手、つまり通りの東側だったことがわかる。かつては古びた商店が所狭しと並んでいたが、今は更地になっているのか簡易の塀で覆われていた。ただ、中には焼け残った看板を掲げ、以前と同じ場所で再スタートを切っている店も見られた。
さらに歩き、発見したのは被災した店舗が仮設の建物で営業する「旦過青空市場」という区画。環境は大きく変わってしまっても、旦過市場にこだわり、商いを続ける様子からは、人間のたくましさが伝わってくる。
よく見ると、その一角の通路には飲食スペースが設けられている。テーブルが並べられ、市場で購入した商品を持ち込めるようになっている。当初、その予定はなかったのだが、応援の意味を込め、私もここで食事してみることにした。
市場を何度も往復し、まず買ったのは寿司。鮮魚店直営の店とのことで見た目にも大いに食欲をそそられた。数ある商品のうち大トロやあわびなど8貫入りの「特上にぎり」を選んだ。さらに人が群がっていた揚げ物の店では「アジフライ」、「鹿児島県産豚肉メンチカツ」なども購入した。
飲食スペースへ戻っていただく。最初は寿司からである。容器のフタを皿代わりにして入れたしょうゆにつけ頬張った。ネタが新鮮なのだろう、歯応えもこりこりした食感、パック入りの寿司とは思えないおいしさに感動した。フライも美味で、箸が止まらなかった。あれよあれよという間に完食した次第である。
満足して再び市場を歩いた。するとさっきよりも人出が増えており、皆、笑顔で各店をのぞき込んでいる様子が印象的だった。大きな被害を受けたものの、北九州市を代表する市場は再起に向け、確実に動き出していると感じた。
もし小倉を訪れる機会があれば、ぜひ足を運んでほしいと思う。
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