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誰も語らなかったZARA圧勝の秘密1 日本企業がZARAに勝てない理由

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2020年1月20日 20時55分

Photo by Terroa

誰も語らなかった世界のアパレルの王者ZARAが圧勝している秘密を全3回に渡って解説していきたい。ZARAとその他のアパレルの関係性を例えるなら、株式投資の世界における、プロと素人ぐらいの絶望的な差がある。今回はまずその絶望的な差のなかで“素人”がZARAに勝つための方法を提示することを通して、改めてZARAのビジネスモデルについて迫ってみよう。

Photo by Terroa

投資の世界でプロには勝てない
アマチュアなりの勝ち方とは?

  2016年、私は病を得、終日をベッドで過ごしていた。有り余るほどの時間があった私は株式取引に没頭していた。病院の朝は早く、私の一日は、夜9時に就寝し早朝に目が覚めるというサイクルであった。

 株式投資の勝ち方は簡単だった。早朝、まず米国の情報をありとあらゆるメディアから集める。雇用統計、ダウ平均の動き、大統領の政策やハイテク企業の新規戦略など、米国依存の日本経済は、恐ろしいほど米国の株価の動きと相関していた。米国が元気になれば日本株も上昇するし、米国が風邪を引けば日本株も下落する。当時日銀は金融緩和政策で午後には恐ろしいほどの金を使い日本のETF(上場投資信託)を買っていたので、いくら金を突っ込んでも絶対に損をしなかった。その結果、同年の私のパフォーマンスは15%を超えた。

 デイトレードをしていると、色々なことに気づく。
 いわゆるプロの投資家は、私のような素人が気づく法則など当然分かっているだろうし、我々アマが絶対に勝てないデジタルトレードを、スーパーコンピュータを使って行っている。
 例えば、この日私は日本株があがることがわかっていたとしよう。すると、その日は、日本株の取引市場が開く午前9時には、同様に日本株があがることを見越して、一気に「買い」が入る。ところが、私のような素人が朝9時に買いを入れても、絶対に安く買うことができないのだ。
 そこで、「成り行き」買いでセットしても、プロが買い占めた後の高値買いになるし、「指し値」買いをセットすれば、プロが先を越して買うことができない。
 プロとは同じ土俵で戦えないと考えた私は「3%の法則」というやり方を考え、株価の3%高でセットする。一日の株価の最高上昇は平均して5%ぐらいだから、2%程度のリターンを頂くというわけだ。これをコツコツと積み上げていったのである。

 

ハイテク技術を持つZARAはプロ
“素人”がZARAと戦う方法は“時間”がカギ

 さて、退院した私は、本業が忙しくなり、株式投資に時間をかける暇はなくなった。いつしか私はプロとの勝負を避け、「時間を味方にする勝ち方」に戦略を変更した。株価は、上がることもあれば下がることもある。うまく買えなくてもファンダメンタルズがしっかりしていれば割安銘柄を買えばよい。
 私は経営コンサルタントだから、ビジネスモデルの秀逸性はすぐに分かる。だからこれだと目をつけた企業の株式であれば、高値で買っても放っておけばいつか株価は上がる。投資額の5%のもうけがでれば売るというルールを徹底して守り「大勝ち」を避けた。この「時間を味方にする戦略」は高いパフォーマンスを私にくれた。

  勘の良い方はおわかりかと思うが、この株式投資の勝ち方は、前回、私がアパレルビジネスで提唱した「ライトオフ時間を長期にする勝ち方」と同じである。トレンドの移り変わりが激しい昨今では、トレンドを読むことは博打に近く、また、超ハイテク技術を駆使したZARAとの勝負は負けが決まっている。したがって、「時間を味方」にし、ライトオフの期間を長期化し、ベーシック型商品を定価販売で売り切ることが勝利の方程式であることを説いた。これは、株式取引でプロとの勝負を避ける戦略と同じである。

 

 

ZARAに日本企業は絶対に勝てない理由

 私は前回、ハイテク技術を使ったZARAに日本企業は勝てないと言い切った。ZARAと同じ土俵に立ち、トレンドという予測不可能な情報に一喜一憂することなく、ハイテクを駆使した競争相手とのトレンド勝負から離れることで、独自の勝ちを掴む手法を提言したのである。
 実際、私が調べた高収益企業はすべからく、値引きをしない定価販売と5年以上のライトオフの組み合わせで利益率を高めていたことは書いたとおりだ。理由は明白で、調達原価率を押し上げる要因はマークダウンとライトオフ(損金処理、評価減)だからである。この二つが解消されれば、50%以上の原価率に苦しむアパレルは、理論的に30%以上のコストダウンが可能となる。

 しかし、こうした単純な計算さえできず、単純に原価が高いからといって、自らの消化率を高める努力を怠り、商社や工場を叩いて商品劣化を加速させ消費者離れを起こす
 また、すでに市場が吸収できないほどの衣料品が市場に出回っているにもかかわらず、ハイテクツールを使い「需要予測」をやれば余剰在庫はなくなると考え、過剰投入を行って赤字をますます増やし業績を悪化させている。こうして、多くの日本企業は逆立ちしても勝てないZARAに真っ向勝負を挑み、私が株式取引で惨敗したように負け戦を続けているわけだ。

 的外れな主張を繰り返す無責任な人達

 こうした負のサイクルに拍車をかけたのは、科学的な分析をせず、アパレルビジネスを語るコンサルやアナリスト達だった。正直、私自身の職業であるコンサル批判をするのは胸が痛む。しかし、私が本気でアパレル業界を救いたいという気持ちであることを理解し、建設的に受け取って頂きたい。

 以下、その代表例を列挙する

 1.「プロパー消化率など関係ないから見る必要は無い」
アパレルはどんぶり勘定で仕事をしろと言っているのと同じで、4KPI(プロパー消化率、オフ率、残品率、企画原価率)なくしてアパレルビジネスの評価と計測は不可能である

 2.「ZARA VS ユニクロで、回転率でユニクロは負けている」
長期開発、長期販売型のユニクロと、高速回転型ZARAは、ビジネスモデルが全く違う(後述) ため、回転率で比較するのは的外れ

 3.「次のトレンドはサステイナブルだ」
ビジネスはトレンドのような確証性のないものを追いかける博打(ばくち)でなく、再現性と反証性を前提としたサイエンスであり、こうした博打ビジネスはアパレル企業を破滅に追いやる危険性さえある。トレンドでなく、ビジネスモデルのサステイナビリティ (トレンドがどのように変わっても生き残れるビジネスモデル)を提言すべきだ。

 4.「このシステムはユニクロが使っているから導入すべき」
今、自ら判断できない経営者に対するシステム導入の殺し文句は、「これはユニクロが使っている」である。しかし、大量生産、大量販売型のユニクロモデルは、流通改革を成し遂げたユニクロのみができる「一人勝負」であり、コスパで圧倒的に負けているアパレル企業がユニクロの仕組みを導入すれば、店頭は山のような在庫を押しつけられ余剰在庫の山となるだろう。デマンド型とサプライ型は全くビジネスモデルが違うのだ

  みなさんも、これらのフレーズをどこかできいたことがあるだろう。これら4つは全て誤った考えである。

 

 ここまで読んできて、ZARAと我々国内アパレルのビジネスモデルがいかに違うか、そして、間違った戦い方でZARAに勝負を挑み無残に敗れ去ってきたが理解できたと思う。これを踏まえ、次回からZARA圧勝の秘密を解き明かしていく。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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