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小売チェーンの豆腐コーナーで存在感増す「豆腐総菜」、ヒットの理由は?

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年6月12日 20時59分

「ひとり鍋」シリーズに人気商品、「たんぱく質のとれる濃厚豆乳たっぷりスンドゥブ」

食品スーパーの豆腐コーナーといえば、「絹」「木綿」が主力商品であるのが一般的だが、近年、「豆腐総菜」という新たなカテゴリーが存在感を大きくしている。このムーブメントをけん引するのが豆腐メーカー大手の相模屋食料(群馬県前橋市/鳥越淳司社長)。同社は次々と斬新な商品を市場に投入するとともに、「おとうふ」そのものの価値向上をめざしている。豆腐総菜を生み出した立役者でもある同社の鳥越社長に、豆腐総菜に注力してきた理由とその成果、業界への期待と展望を聞いた。

「ひとり鍋」シリーズに人気商品、「たんぱく質のとれる濃厚豆乳たっぷりスンドゥブ」

「おとうふの可能性は無限大」

 従来、食品スーパーの豆腐コーナーは、「絹」「木綿」「油揚げ」が定番商品として並んでいた。それが今、「豆腐総菜」という新カテゴリーが台頭し、日配などの棚を侵食するかたちで売場が広がっている。その立役者とも言える存在が、豆腐メーカー大手の相模屋食料だ。同社で代表取締役社長を務める鳥越淳司氏は、「10年ほど前は存在しなかった新しいカテゴリーができ、今や60億~70億円規模の市場に広がっている。これは業界にとって大きなチャンス」と力を込める。

豆腐でありながらうにのような食感、味わいが特徴の「うにのようなビヨンドとうふ」

 付属のトレーに「おとうふ」と調味タレを入れてレンジで温めれば簡単に一人用のおとうふメインの鍋料理 ができあがる「ひとり鍋」シリーズ、「うにのようなビヨンドとうふ」「BEYOND TOFU ピザ・シュレッド」など意外性のある「BEYOND TOFU」シリーズ。数々のヒット商品を生み出してきた同社だが、その狙いはまさに「尺数を広げること」にあったという。

 従来の絹豆腐、木綿豆腐といえば、食品スーパーの店頭で安さを打ち出すための商品というのが一般的だった。業界内には「豆腐はダウントレンド」という雰囲気が漂い、新商品を提案しても食品スーパー側からは陳列できるスペースがないことを理由に断られることが多かった。これに対して鳥越氏は、「棚がないなら作ればいい」と、豆腐総菜カテゴリの開拓に乗り出した。総菜となれば、売価も跳ね上がる。

「BEYOND TOFU ピザ・シュレッド」

 「おとうふは、ものすごいポテンシャルを持っている。その可能性は無限大だ。面白い商品を作って提案すればお客さまは見てくださる。今では新商品を出すたびに食品スーパーさんも注目してくれるようになった」(鳥越氏)鳥越社長のこだわりにより、本人の発言はすべて「おとうふ」としている

 もともと豆腐は地域性の強い食品だが、豆腐総菜は地域性に左右されにくく、全国の食品スーパーに展開しやすい。また、ヘルシーで手軽に食べられる「ひとり鍋」シリーズのような豆腐総菜は、絹豆腐や木綿豆腐を手に取ることの少なかった購買層を惹きつけた。

 「絹、木綿の主な購買層は、50~60代以上だが、『ひとり鍋』シリーズのメイン購買層は40代女性が多く、20代女性、30代女性と続く。最近では男性にも支持されるようになってきた」(鳥越氏)。

「思いつき」が生んだヒット商品、集まるチームと技術

 同社の「ひとり鍋」シリーズの売上高は実に40億円を超え、「BEYOND TOFU」シリーズも10億円規模の売上を誇る。しかも新たな購買層を開拓しながら売上高を伸ばしている。「新顧客に訴求できてプラスオンの売上がとれる商品であり、食品スーパー様にも提案しやすい。豆腐総菜は伸びやすい市場との認識も浸透してきて、最近は各社様に売場を拡げていただいている」(鳥越氏)という。

 健康志向や環境負荷を考慮したプラントベーストフードへの需要が高まっていることも、豆腐総菜への追い風といえる。しかし鳥越氏は、「一部の豆腐総菜を除き、健康軸での訴求はしない」と言い切る。

 「たんぱく質や環境面など、豆腐の持つ価値が光るタイミングであることは間違いない。しかし、おとうふはあくまで伝統食品。ヘルシーさやさまざまな効能を言い立てることに違和感がある」と、こだわりを語る。

相模屋食料の工場での製造の様子

 ちなみに鳥越氏によると、斬新な商品開発のきっかけは「思いつき」という。なぜなら、「“優等生”的な商品をつくったとしても、売場から落ちてしまうことのほうが多い」から。市場調査やアンケート結果に商品開発の“答え”はないというのだ。

 そうした同社こだわりの商品が市場に刺さり、売上が伸びていくにつれ、最近は大手食品メーカーをはじめとする他社からの提案が増えているという。その結果、調味料やだしメーカーとの協業により、強力なチームを組織できるようになった。しかし、いざ商品開発チームがそろっても、必ずしも商品化できる技術があるとは限らない。これに対して鳥越氏は、「ベースのおとうふづくりに関しては、我々はプロ中のプロ」と胸を張る。

 同社はこれまで、価格競争にあえぎ破綻の危機にさらされた地方の豆腐メーカー12社(2024年3月現在)を、救済的M&Aによりグループ化してきた。こうして同社には、「おいしいおとうふ」を作るノウハウと、新商品のアイデアを形にする確かな技術が蓄積されている。鳥越氏の言うところの「思いつき」がヒット商品を生み、新しいカテゴリー創出がされ、強力なチームと技が集結し、さらに魅力ある商品が生まれていく、というわけだ。

 豆腐総菜の盛り上がりは、既存の豆腐カテゴリーへの波及効果も生み出している。「豆腐総菜の隣のおとうふの棚にも、お客さまが立ち止まるようになった。2022年は豆腐市場が約30年ぶりに上向きになったというデータもある。豆腐市場全体に多少なりとも寄与できたのではないか」(鳥越氏)。

 安売り競争には未来はない。付加価値を生む豆腐総菜に新商品を投入するメーカーも増えてきた。鳥越氏は、「業界全体が正のスパイラルに入っていくといい」と、好循環の兆しを歓迎している。

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