総菜SPA化に本腰!イオン「次世代型総菜PC」の全貌とねらい
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年6月11日 20時59分
イオン(千葉県/吉田昭夫社長)は6月から、総菜のSPA(製造小売)化をより高いレベルで実現するべく、総菜の新たなプロセスセンター(PC)の稼働を始めた。食の多様化が進むなか、食品スーパー(SM)で販売する総菜にもプロの料理人のクオリティが求められつつある状況を踏まえ、商品開発から販売までの工程を刷新。開発・製造・販売の3領域を革新し、新PCのコンセプトとして掲げる「まいにち、シェフ・クオリティ」の実現を図る。
”総菜の固定観念”を打破する戦略的拠点に
今回稼働を開始した総菜PCの名称は「Craft Delica Funabashi(クラフトデリカ船橋)」。千葉県船橋市で開設し、イオン傘下のイオンフードサプライ(千葉県/戸田茂則社長)が運営する。温総菜や寿司などのほか、半加工品(キット商品)やソースの製造、原料の加工なども行い、イオンリテール(千葉県/井出武美社長)のほか、まいばすけっと(神奈川県/岩下欽哉社長)など、イオングループが展開する関東エリアの計1500店舗に供給する。
クラフトデリカ船橋の設置の背景としてイオンリテールの井出社長は、「これまでの総菜は家庭の食卓の補助的な役割が大きく、提供する商品も家庭的なメニューを中心とした、いわば”固定観念化”したものとなっていた」と指摘。一方で近年は食に関する好みが多様化していることから、そうした固定観念にとらわれずに幅広い食のニーズに応えるため、2021年からイオン、イオンリテール、イオンフードサプライの3社でグループ横断型のプロジェクトを立ち上げたという。
その枠組みの中で、食の多様化に対応しながら総菜の品揃えを拡充するには、PCと店舗のそれぞれで生産性を高める必要があるとして、クラフトデリカ船橋の開設に至った。井出社長は「総菜はますます食品部門の柱になっていく。固定観念を打ち破る総菜開発に挑戦する」と強調した。
開発・製造・販売の3領域で「革新」
クラフトデリカ船橋では、商品開発・製造・販売の大きく3つの領域で、既存PCとは異なる革新的な施策を展開している。
まず商品開発面では、料理、MD、製造など各領域の専門人材が集結。PCを商品開発の”ラボ”と位置づけて、チーム体制で商品開発を実施する。テストマーケティング用に小ロットの製造設備も導入した。
次に製造面では、シェフ・クオリティを生産ラインで再現できるよう、最新の調理機器や技術を導入。家庭では難しい高温調理や、素材への味の浸透、おいしさを維持する保存法などを実現する最新鋭の専門機器を採用した。
そして販売面では、商品特性に応じた最適な加工度を設計できる仕組みを整えた。たとえば焼き物や揚げ物、寿司などは最終加工前の段階までをPCで製造、冷総菜や弁当類などはPCで製造・包装までを完了する。これによって総菜の品質と品揃えを向上させつつ店舗での作業負荷を軽減させることで、店舗の総菜販売能力を現状から20%以上向上させる計画だ。
新商品・既存商品それぞれでシェフ・クオリティを追求
クラフトデリカ船橋では、まずは約40アイテムの商品製造を開始。このうち新たな試みに位置づけるのが、井出社長が「洋総菜の成長の柱になる」とするスープごはんシリーズだ。フランス料理で使われるアメリケーヌソースを使った「海老トマトクリームスープごはん」や、鯛だしを生かした「真鯛のスープごはん」を新たに展開する。このほか、「タイ風ココナッツカレー」など、エスニック系メニューの充実も図る。
一方、これまでの定番商品も原材料や調理工程を刷新した。人気商品の鶏唐揚げ「唐王」は自社製のオリジナルブイヨンを真空調理で浸透させる製法を採用。また、「自慢のアジフライ」も原料の鮮度管理を徹底させるほか、独自の製法でフライがふっくらするように改良し、専門店クオリティを追求している。
AI発注システムとの連携、生鮮総菜開発も計画
今後、クラフトデリカ船橋での製造アイテム数は100アイテムまで拡大する計画だ。また、同施設で開発・製造したソースや具材などは冷凍・真空パックなどでキット化して他のPCに供給し、全国の店舗へ供給網を広げていく。加えて、28年までに中部圏や関西圏など3大都市圏を含めた各エリアで、クラフトデリカ船橋同様の次世代型総菜PCを新規開設していく計画だ。
さらに、イオンリテールが昨年導入したAI発注システム「AIオーダー」との連携も年度内をめどに実現し、需要に即した最適な製造計画の策定や原料調達などにつなげる。中長期的には生鮮部門と連動した生鮮総菜の開発・製造や、物流システムを調整したうえでのウエルシアホールディングス(東京都/桐沢英明社長)への供給なども図る。
イオン執行役物流担当の手塚大輔氏は、「シェフクオリティの総菜を毎日食べていただきたい。食は幸せそのもの。価格的にもお求めやすくカジュアルに、でも高い品質で実現することを、プロセスを全部見直すことで実行することに向き合ったのが今回の取り組みだ」と意気込みを語った。
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