配膳ロボにセルフレジ…すかいらーくHD、接客の魅力残す絶妙DXの進め方
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年7月17日 20時59分
すかいらーくHD(東京都/金谷実社長)は、5月に発表した第一四半期決算で前年比64億円増の黒字達成を報告。併せて、中期事業計画(最終年度2027年12月期)で国内300店舗の大量出店計画を示した。コロナ前は200店舗の大量閉店を強いられたが、ポストコロナで満を持しての反転攻勢だ。とはいえ、人手不足は飲食業界の慢性的課題。そうした中で同社が活路を見出すのは、テクノロジーを最大限に活用した、人との“ハイブリッド接客”による超効率化だ。
接客の魅力を削がないDXのさじ加減
コロナ禍、来店客が激減し、閉店も相次いだ飲食業界。厳しい状況下でも、「コロナ禍はいつか終わる」と耐え抜く動機はあった。だが、人手不足だけは本質的な課題として、重くのしかかっていた。
長時間労働、低賃金、クレーム対応、教育体制、少子高齢化など、理由はさまざまだが、接客業は人が根幹。それだけに、人手の課題は難易度と比例して解決の優先度が高い。例えば事務作業なら、AIなどに大幅シフトすることで、人の代替もできる。だが、接客は単純にAIでよしとはいかない。
業界でも先進的にデジタル・トランスフォーメーション(DX)化を推進する同社のテクノロジー活用戦略は、その意味で接客のコア部分をぎりぎりまで残しつつ、その魅力を最大化する絶妙のさじ加減で着々と進められている。
最初に配膳ロボ導入に着手したあたりが、それを示している。注文した料理を届けることは、人であれロボットであれ、顧客満足度に大きな影響はない。いかに早く、間違いなくテーブルに運ばれるかが、最大の肝だからだ。
実際の導入効果も測定している。それによるとランチタイムのピーク時の回転率は2%アップ、従業員の歩行数は42%、片付け完了時間は35%がそれぞれ減少し、フロアにおける生産性の向上に十分といえる貢献をしている。
セルフレジでは従業員負担を“9割減”
すかいらーくが現在注力しているのがセルフレジの導入だ。2024年上期中にも全店でセルフレジ化を進め、これまでに約2400店舗で導入しているテーブル決済サービスやデジタルメニューブックなどでの利便性向上と併せ、さらなる待ち時間短縮につなげる。
「約70%のお客さまがセルフレジを活用されている。レジの台数を増やしていることもあり、会計でお待ちいただく時間が減少している。また従業員においては、お客さま1組あたりの会計対応時間が80秒から9秒へと短縮していることで、その他の接客サービスに時間を充てることができるようになった」と、サービスの質向上を大きく押し上げる結果となっている。
セルフレジ活用はまだ3割の未使用派がいるものの、従業員の会計対応時間は約9割減となっており、多大な導入効果がみてとれる。セルフレジは慣れてしまえば、顧客にとっても利便性が高いことから、時間の経過とともにさらなる導入効果が期待される。
さらにDX化は、従業員間のコミュニケーション活性化につながっているという。「近年外国人の方の採用を積極化する中、DX化が進むことで、フロア業務の習熟度の向上が進み、多様な人財に活躍いただける環境づくりにつながっている」と、同社は約3000人在籍する外国人スタッフへの副次的な効果もあることを明かす。
独自ポイント導入で顧客体験向上も
5月16日にスタートした、すかいらーくの公式アプリを活用した「すかいらーくポイント」の運用も、間接的に生産性向上に貢献する。
同ポイントは、ガスト、バーミヤン、しゃぶ葉、ジョナサンなど16ブランド・約2600店舗で導入。利用金額の税込200円で1ポイント付与、次回の会計以降で1ポイント=1円から使用することができるポイントプログラムだが、POSデータとアプリ会員の情報を紐づけられ、顧客の好みに応じたパーソナライズした顧客体験を届けることが可能になる。
「データマーケティングについては、顧客体験(CX)向上を目的としており、一人ひとりのお客さまの心情に寄り添い、心地のよい体験をしていただくレストランを目指していきたいと考えている。いわゆる一般的なポイント制度としてお客さまのロイヤルティを高め、来店頻度を高めるような販促手法というだけでなく、お客さまをこれまでよりも深く理解して商品・サービスの開発に還元していこうという施策。短期ではなく、長期的な視点で考えている」と同社。データ活用においても、単に数値分析で売上をのばすというスタンスでない点に、すかいらーくのDXに対するこだわりがにじむ。
DXはあくまで店舗体験を高めるために
「お客さまの利便性を高めていくとともに、DX活用により空いた時間で人によるサービスを充実させることで、より店舗体験を高める試みに力を入れている」。同社のDXに対する考え方はこの言葉に集約されているといっていいだろう。
従来であれば、より多くの人員を投入し、質の高い接客研修などで実現していた手厚い接客サービス。人手不足という慢性的課題が横たわる中で、同社が取り組むDXによる接客の効率化は、顧客にも従業員にもやさしい。必要な要素を厚く、そうでないところは合理的にする、接客を熟知するからこそのハイブリッド型として、時を経てより洗練されていくことになるだろう。
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