他のスーパーとは別物に進化!スゴいローカルスーパーの生存戦略とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年7月8日 19時55分
大手と比べるからローカルスーパーは厳しい
「ローカルスーパー」を取り巻く経営環境は厳しい。
地方を中心に毎年人口が減り続け、高齢化が輪をかけるかたちで、胃袋の総量を減らしている。消費のパイが縮む一方で、競争環境は激化の一途だ。全国各地で有力ディスカウントストア(DS)チェーンの出店が目立つだけでなく、地方を中心に食品強化型ドラッグストア(DgS)が大量出店を仕掛け、商圏内の食品スーパー(SM)の売上はじわじわ削られている。
人手不足も深刻で、その対策にもコストがかかる。作業を減らし、人時を付加価値を生む作業に集中させようと思えば、サプライチェーンや店舗、そしてシステム投資が必要だ。
企業規模が大きく業績堅調な大手、あるいはリージョナルSMでさえ、慎重なかじ取りを迫られているのだから、規模の小さい「ローカルスーパー」であれば、なおのこと厳しい局面にある。
しかし、この「ローカルスーパーは厳しい」という認識は、すべて「大手と比べたら」あるいは「大手と同じ戦略をとっている企業にとっては」というただし書きが付く。そもそもなぜ、大手と同じ戦略をとる必要があるのだろうか?
経済もSM業界も右肩上がりで、各社が等しく規模拡大していた時代であれば、大手をベンチマークし、大手を学ぶ(まねる)戦略は合理的だった。失敗も糧としてきた大手の「フォロワー戦略」をとれば、無手勝流でやるよりも効率的に、自社を成長させられたからだ。
しかし、そんな時代はすでに終わっている。
大手の模倣では生き残れない時代に
フィリップ・コトラーは、企業の業界における立ち位置に応じて戦略が変わるとして「戦略ポジショニング」を提唱した。日本では「競争地位戦略」と訳されることが多く、以下の4つに分類される。
❶リーダー:業界のトップ企業が、自社のシェアを維持、増大させ、2番手以下を同質化させる戦略
❷チャレンジャー:首位をめざす2~3番手企業が、トップ企業とは異なる方法でシェアをとる戦略
❸フォロワー:業界中位以下の企業が、トップ企業の模倣をすることで効率的に収益拡大をめざす戦略
❹ニッチャー:専門特化することで収益拡大をめざす戦略
一見「フォロワー戦略でも生き残れそう」に思えるのだが、業界特性と状況をあてはめると、そうではないことがわかってくる。
SM業界の場合、地域ごとの食文化の顕著な違いと、生鮮のマスデメリットがあるため、本当の「ナショナルチェーン」は存在しないうえ、いまなお市場は細分化され、上位寡占化率は他業態と比べて高くない。その点を考えると、リーダーポジションにある企業はリージョナルごとに1社、肥沃な商圏を抱えプレーヤーが多い首都圏や近畿圏などの都市部は複数企業ある場合も考えられるだろう。
問題は、それ以外のポジションの企業が何社ほど存立できるかだ。
先述のとおり、人口減少と業態の垣根を越えた競争が激化するなかでは、特定の商圏内で利益を残せるSM店舗の数はどんどん減っていく。つまり質的経営資源に乏しく、大手の模倣にすぎないフォロワー戦略のままでは、年々パイが小さくなるなかで「生き残りの椅子」を得られなくなる可能性が高いのである。
となると多くのローカルスーパーが生き残るには、リーダーにはない強みを何とか身につけてチャレンジャーに躍り出て競争に勝つことをめざすか、大手とは競争の次元そのものをずらして、圧倒的な差別化を実現するニッチャーを選ぶかが有力な選択肢ということになりそうだ。
フォロワーからチャレンジャーに移行するのは容易ではないが、すでにいくつも事例がある。
その最たる例が、2013年度の年商560億円から、そのわずか5年後の18年度に1356億円まで拡大したロピア(神奈川県/髙木勇輔代表)だ。それまでは神奈川県地盤の精肉が強い「ローカルスーパー」だったが、SMでもDSでもない、品揃えを極端に絞り込みながら大容量の商品を低価格で大量販売し、買物の楽しさをお客に植え付ける「ロピア」という業態の開発に成功した。それが5年間で242%増という驚異的な成長の原動力となり、全国へ次々と出店。いまやリーダーポジションすらうかがう売上4126億円(グループ全体、24年2月期)まで成長している。
SPA(製造小売)という圧倒的な強みを背景に、究極のニッチポジションを自認するのが神戸物産(兵庫県)だ。というのも、沼田博和社長は「『業務スーパー』だけでは商圏内のニーズを満たせない」と断言しているからだ。王道のSMがあり、それでは満たせないニーズを業務スーパーが満たす「補完関係」を前提とする戦略というわけだ。
このように、いまや大手といえる規模となったこれら後発企業の成長の原動力は「大手と違うことをする」「大手と同じ土俵で戦わない」ことにある。これこそがまさにローカルスーパーが打ち出すべき戦略だ。
他のSMとはまったくの“別物”へ進化する方法
実際、「大手と同じ土俵で戦わない」ことで、力強い成長を続けるローカルスーパーはいくつも存在する。
いずれも自社の提供価値を明らかにしたうえで、それを構成する自社の強みを明確化し、徹底的に磨いている企業だ。限られた経営資源を強みの強化に集中させるため、「やらないこと」を決めている点に注目したい。
平均年商28億円の「クックマート」を東三河・浜松エリアで展開するクックマート(愛知県/白井健太郎社長)は、ポイントカードもチラシも行っていない。インストア加工に人時を集中させ、値ごろで販売することで、ほかでは得られない付加価値の高い商品を提供している。それが魅力となり、お客がお客を呼び込み、従業員がさらにお客に楽しんでもらおうと努力することで、同社が掲げる「地域の活気が集まる場所」が実現されている。そのための組織づくり、企業文化づくりにこそ独自のノウハウがあり、業界の注目を集めている。
地盤とするエリアにこだわらず、有望なエリアに打って出ることで、急成長を遂げる企業もある。精肉テナント業を祖業とする強みを生かし、地盤の九州のみならず、関東、東海にSMを展開するフードウェイ(福岡県/後藤圭介社長)だ。人口が減り続けるローカルでは成長し続けることができないと考え、13年に関東進出、以来、ドミナント戦略にとらわれることなく、東海エリアにも出店を進めている。
フードウェイは売上高構成比60%を誇る生鮮を圧倒的な強みにしている。それゆえ、広域から集客できる繁盛店戦略をとれるのだが、その生鮮各部門の強さをいっそう引き出すために、生鮮各事業部ごとに独立採算制を導入し、事業会社化を志向する。
両社とも強みをいっそう磨く過程で、組織も企業文化も通常のSMとは“異質”の独自の進化を遂げている。この点についてクックマートの白井社長は「自社独自のコンセプトを見出し、自社の気質や体質に合うことをやれば、おのずと『ディファレントな存在』(=他のSMとは別物)になっていくだろう」と語っている。
リージョナルSMへ移行できた4つの理由とは
店舗の売上は絶対に下がる。だから生き抜くにはネットスーパーしかない──
この危機感と信念のもと、リアル店舗を前提とした収益性の高いネットスーパー戦略を構築したのがスーパーサンシ(三重県/田中勇社長)だ。旗艦店の日永カヨー店の直近の店舗売上は約40億円、対して同店から出荷するネットスーパーの売上は10億8000万円にも上る。ネットスーパー事業の粗利益率は店舗よりも3~4ポイントも高く、独自の高収益モデルを構築している。ネットスーパーは大手も積極的に行っているが、成功している企業はまだ多くはない。かつ、低価格ではなく利便性にコストを支払ってくれる顧客クラスターは限定されているため、ネットスーパーの基本は「一社総取り」のゼロサムゲームだ。そこに企業規模の大小は関係ないので、ローカルスーパーが小回りのよさを生かしてスピーディに始められればエリアで勝者になることも可能だ。
最後に、アルビス(富山県/池田和男社長)はなぜローカルスーパーからリージョナルSMへ移行できたのかを分析して、脱ローカルスーパーの道筋も可視化していきたい。
その要因は大きく4つ考えられる。
①当初から「北陸」という比較的広い範囲を自らの商勢圏に定めていた
②エリアボランタリーチェーンという出自を生かした「物流網」を持っていた
③「M&A(合併・買収)巧者」という他社にはない強みを磨いた
④商勢圏が広がっても「地域のSM」であることに徹した政策をとる一方、他の出店エリアで得られた新たな食文化を他の地域に紹介することで「地域の食文化を豊かにする」役割が支持を得た
以上により、地域密着と規模拡大を両立できたものと考えられる。
●
このように、強いローカルスーパー、あるいはローカルスーパーを経て強大化した企業は、他社にはない強みに特化して磨き上げ、他社とは異質な存在へと進化した。
その強さは、他社ではなく自社を徹底的に分析することで特定されるものだ。これこそが「ローカルスーパーのスゴい生存戦略」の本質と言えるだろう。
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