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防犯からマーケティングまで、小売業で広がるクラウドカメラの可能性

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年7月25日 20時58分

Safie Oneの設置のs

従来、万引き対策として小売店の店舗に設置されてきた防犯カメラ。近年は、店舗外からアクセスできる「クラウドカメラ」の登場によって遠隔監視での視聴が可能となり、さらには外部システムとの連携、AIとの掛け合わせによって、省人化から業務効率化、マーケティングへと利活用の幅が広がっている。クラウドカメラの小売店での活用実態と今後の展望について、業界トップシェアを誇るセーフィー株式会社(東京都/佐渡島隆平社長)の営業本部副本部長の山本茂氏に取材した。

2014年設立のセーフィー。2021年には東京証券取引所グロース市場(上場時はマザーズ市場)への新規上場も果たしている

選ばれる理由は「高い操作性とセキュリティ」

 国内のクラウド録画サービス市場で54.1%(テクノ・システム・リサーチ社調べ「ネットワークカメラのクラウド録画サービス市場調査〈2023〉)のシェアを誇るセーフィーは、小売業から飲食業、建設業、物流業まで様々な業界にクラウドカメラを普及させてきたパイオニア企業だ。24年3月末時点で稼働中のカメラ台数は24.5万台となっている。

 同社の営業本部で副本部長を務める山本茂氏によると、「人手不足に伴い省人化が進むにつれ、店舗内の従業員数が減り、店舗内の不正に対する防犯の目も不足している。万引きやセルフレジでの不正に対する反応が高まっている」という。

 人の目に代わって遠隔視聴できるカメラの中でも、同社が提供するクラウドカメラは操作性が高く、拡張性に優れている。店舗内完結型のオンプレミスのカメラの場合、映像を確認できる場所は店舗内に限られるが、クラウドカメラならパソコンかスマートフォンがあればどこからでもアクセスできる。アクセス権限はIDとパスワードで管理されているため、セキュリティも担保されている。

セーフィーで営業本部副本部長を務める山本茂氏

 また、工事や複雑な初期設定を要する従来のカメラとは異なり、同社のカメラは電源と有線(LANケーブル)かWi-Fiがあればすぐに使用できる。屋内向けの「Safie One(セーフィーワン)」は1台当たりの価格も3万8000円~と、店舗単位で決裁できる価格帯だ。「追加で設置して店舗内の死角をなくしたい」といった用途で導入されるケースも少なくない。セーフィーによれば、100坪程度のスーパーマーケットであれば20~30台程度の導入でカバー可能。後述する総菜のデータ分析の取り組みは1台から実施が可能だという。

食品スーパー店頭に設置されたSafie One(画像提供:セーフィー ※後述するベルクの取り組みとは異なる)

 導入企業の実態は「約9割が防犯用途」(山本氏)ということだが、「ほとんどのケースで将来的に防犯用途以外での利活用も見据えており、対応ソリューションとの連携や公的機関・有識者を含め社内外と整備を進めている」という。デジタルサイネージ前の滞留人数・時間の記録や、セルフレジの適正台数を判断するためのデータ収集、さらには業務ツールとの連携によって売上を改善したり、遠隔接客機能との連携で店舗業務を効率化・省人化するといった活用も可能だ。クラウドカメラを外部システムと連携させ、AIの機械学習を掛け合わせれば、小売現場のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を一気に推進できる可能性が広がっている。

クラウドカメラ活用で総菜の売上が向上!?

 現に、カメラで取得したデータをマーケティングに活用した成功例も登場している。関東で食品スーパーを展開するベルク(埼玉県/原島一誠社長)は、総菜売場に設置したクラウドカメラのデータを活用して弁当の配置を変えた。その結果、月次の売上が約10%増加したという。

 具体的にどう活用したか。まずはカメラで撮影している画面に「線」を引き、その線を通過した人数や滞留時間を記録できる状態をつくる。その上で、弁当売場をABCD」の4つのエリアに区切り、各エリアの通過人数や滞留人数をカウントすると、ADCのゾーンを通過してBに滞留する人が多い傾向が見えてくる。

ベルクでの実験の様子。カメラで撮影している売場をABCDと4つのエリアに区切り、通過人数や滞留時間を記録。データをもとに商品の配置や演出を工夫し、売上・利益が向上したという(画像提供:セーフィー)

 そこで、ADのゾーンに「カツ重弁当」のような定番商品、DCには売り切り品を置き、Bには高単価だがじっくり見ると価値が伝わる「季節の弁当」やキャンペーン商品を配置した。データをもとに配置を変えたりポップを立てたりと工夫をこらした結果、利益率の高い商品がよく売れるようになり、売上も伸長した。

 「店舗前の通行量、来店数、棚前で立ち止まった人数などのデータが採れると、店舗内のどこで、どのような売り方をすれば売上が伸びるかPDCAを回せるようになる」と、山本氏。もっとも、生のデータを分析し、POSデータなどに紐づけて解釈するためには、データ分析の知見とノウハウが求められる。しかし、小売企業にデータを分析できる人材がいるとは限らない。セーフィーでは、カスタマーサクセスの担当者がクライアントの相談にのり、データ分析をサポートしている。将来的に、分析したデータをもとに具体的な施策を提案できないか検討中だ。

 

 人流データのみならず、商品を対象とした画像データも収集できれば、クラウドカメラのマーケティングへの貢献度はより高まるだろう。山本氏は、「AIを使った物の検知・分析は、対象物や周辺環境が変わるごとに新たに学習させる必要があり、人のカウントと比べて複雑だ。学習すべきデータ量は膨大で、実装には時間がかかる」としながらも、「すでに実店舗での実験を行っており、非常に可能性を感じている。実現に向けて日々奮闘している」と語った。

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