スポーツアパレル市場が今後も成長する理由とユニクロの役割とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年7月29日 20時58分
パリ2024オリンピックがはじまり、連日ワクワクする日が続いている。オリンピック市場も活況だが、実は国内スポーツアパレル市場も活況が続いている。今、アパレル企業にとって、①インバウンド向け高額ブランド品、②日本人向けスポーツウェアやギアが“ドル箱”となっている。スポーツ市場はこれからも伸びるのか、各社はスポーツアパレルに確信をもって資金を投ずることができるのか?3つの視点から論じてみたい。
スポーツアパレル市場がこれからも成長する理由
まず、国内スポーツ市場の状況について確認しておきたい。国内スポーツアパレル市場は拡大を続けており、矢野経済研究所の調査によれば、2023年度の同市場規模は4.3%増となる6131億円を見込んでいる。これには当然各種スポーツ用のウェアも含まれているが、本稿では主にアウトドアウェアやトレーニングウェア、そしてアスレジャーなど適度に洗練されたスポーツウェアについて主に対象にしている。
答えを先にいえば、スポーツアパレル市場はこれからも成長を続けていく。3つの視点から検証してみよう。
理由1 日本人が貧しくなり、“安価に楽しめる”スポーツやアウトドア関連が売れる
長らく続いたデフレ基調が終わり、ここ数年国内の物価は上がり続けている。給料は大手企業では上がっているという報道がなされるが、日本の企業の99%超を占めるのが中小企業で、そこで働く従業員の給料は下がっている人も少なくない。結果、23年度の労働者1人あたりの「実質賃金」は対前年度比で2.2%の減少となった。これは、インフレに比べて十分な賃金上昇が得られていないということである。
テレビやメディアでは日本の景気が浮遊しない要因として、“日本人の貯蓄志向”を挙げ、「いざという時のために金を貯めていることが悪い」などと言っていた評論家がいたが、今が多くの消費者のとってのその「いざ」というときだ。
足りない収入を「いざという時のために貯めたお金」を切り崩して生きながらえているのが現状なのだ。こうした人達が、コストをほとんどかけずに楽しめるのがアウトドアやスポーツである。この時期、区民プールは多くの人でにぎわうし、真夏を除けばゲートボールを楽しむ高齢者は非常に多い。若い世代も、休日にはゴルフやテニス、野球などに精を出している。ゴルフも中古のクラブを買い揃えて、格安コースを回ればそれほど金はかからない。テニスはラケット1本でプレイは可能だ。
何よりも健康を維持できれば、医療費も節約できる。国民皆保険で高額療養費制度があるからもともと、米国などと比べて医療費はかからないのが日本だが、適度な運動がいっそうの節約につながるというわけだ(けがのリスクは高まるかもしれないが)。
旅行や外食、百貨店でのお買い物、演劇鑑賞などが、数十年前までは家族の憩いの場だったが、今では「家計が苦しくて遠慮している」というのが多くの人の本音である。政治の経済政策の失策が消費を減らし「いざ」というときのために国民は支出を絞る。支出はスポーツやアウトドア製品に向かうわけだ。
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理由2 服で着飾るよりもボディメイクが重視されるから
数年前、ユニクロは「服は何のためにあるのか」という禅問答のような問いかけに答えを見出し、普段の生活をより豊かにする「ライフウエア」(究極の普段着)というコンセプトを打ち出したのは記憶に新しい。しかし、私は何か特別なことをしているとは思えない。上記に挙げたようにユニクロの服が社会背景と合致していることがユニクロの業績を底上げする。
さてYouTubeで昔の映像を見ると、今の男性の肉体美と比べ完全に負けているということに気づく。
今、多くの男性は安物のTシャツやシャツなどを着ているが、身体は「細マッチョ」(全体には細身だが筋肉はついている最近の流行ボディ)で適度にシェイプされている。
とくに韓国映画やテレビをみると、「韓国人はみなRIZAPに通っているのか?」と思うほど、細マッチョばかりである。ニューヨークでも服は平凡なデザインのTシャツとデニムだが、6つに割れたお腹と太い腕周りが際立つ。スーツ姿も生地や編み地がどうなどという前に、全体のシェイプが格好良い。
今は、服にこだわるのではなく、ボディメイクに投資する時代なのである。ボディメイクさえできていれば、庶民の服は手ごろなスポーティな服装がむしろ好都合というわけだ。
ユニクロがスポーツアパレル市場とともにさらに成長する理由
本論考の最後に「ユニクロ」が出てくることに違和感を持つ人も多いだろう。だが、ユニクロのような過度な装飾を排したシンプルで機能的な服は、上記にあげた社会現象にピッタリなのだ。また、ヒートテックやエアリズムは日本人の「国民服下着」と言ってよく、ブラトップやワイヤレスブラ(ノンワイヤー)はワイヤーに苦しめられてきた女子を解放した。
社会現象との合致が、ユニクロの好業績、最高益更新と強く関係性がるわけだ。この合致が、戦略的に100%の意図のみで成し遂げられたことなのか、いくつかの偶然も重なった結果なのかは、何とも言えない部分があるものの、いずれにせよ「だからユニクロの服が売れる」という帰結に至ることは間違いない。だから業績低下のリスクはほとんど感じられない。
以上、スポーツ衣料、アウトドア衣料、ギアなどがなぜこれほど売れ行きが良く、これからも伸びてゆくのかという話をした。日本人は、失敗すると必死になって「失敗の原因を探せ」というが、成功したら皆で飲んでおしまいだ。これでは成長は期待できない。成長しているときほど、その理由をハッキリさせること。これが、成功し続ける秘伝の経営術と言えるかもしれない。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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