非常識だからこそやる!リアル店舗の価値を具現化するプロショップ「プラスワン」のねらいとは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年9月24日 21時0分
長野県で建築職人・DIY向けの資材・工具・金物・作業衣料などの専門店を4店舗運営するプラスワン(山梨県)。7年半ぶりの新店は、売場面積約4000㎡の大型店で、無人決済、接客しないという常識破りのスタイルだ。そのねらいについて、矢崎金雄社長と笠原加奈子店長に聞いた。
店舗運営は未経験5人のみ
──7年半前に出店した「PLUS ONE長野店」に続いて、4月23日にオープンした新店「PLUS ONEⅡ信州箕輪店」も常識にとらわれず、多くの人を驚かせる店舗になりました。同店を構想されたのはいつからですか。
矢崎 2年前から。既存店と同じやり方では今後は成り立たなくなる。今までのやり方を、根底からひっくり返さないと、やっていけなくなるのではないかと考えた。
ECとの差別化も必須になった。リアル店舗として顧客体験価値を高めることを具現化した店づくりをしたつもりだ。
──その結果、接客をしない、無人決済のスマートストアになりました。
矢崎 人に頼りたくないというコンセプト。これまでは、どうしても特定の人のスキルや経験に依存した店になっていた。
今、人件費がどんどん高くなっている。この先、人材の採用もますます難しくなる。そうなっても維持できる店舗づくりへのチャレンジでもある。
発注は自動発注でスタッフの経験や勘に依存しない。会計もすべてセルフで精算できるようにした。特定の人のスキルに頼ることなく、接客、発注、会計がすべて回っていく。
信州箕輪店の1日の運営スタッフは笠原店長を含めて5〜6人。みんな店舗運営の知識はほぼゼロだった。
「非常識だからこそやる」がプラスワンのモットーだ。
──笠原店長はこれまでどのような業務にかかわってきましたか。
笠原 塩尻店でパートとしてレジ打ちをしていた。正社員になったのは2023年の8月。この半年間、さまざまな業務について、矢崎社長をはじめ、先輩たちからゼロから教えてもらっている。
──笠原店長以外の方はどのような業務をされていますか。
笠原 レシートの検品、サービスカウンターでの質問対応、資材館のレンタルサービスの対応、商品管理が主な業務だ。売場面積は約4000㎡で長野店と同等だが、運営人数は半分以下になった。
無人決済で接客はしない
──無人決済を実現した、信州箕輪店の買物の流れについて教えてください。
笠原 事前にお客さまに専用アプリ(寺岡精工の「Shop&Go」)をダウンロードしてもらう。購入する商品をセルフスキャンしてもらい、最後に出口に設置したセルフレジで2次元コードを読み込ませると決済が完了する仕組みだ。
防犯上、カバンの持ち込みは禁止し、入口前のロッカーに預けてもらう。AIカメラでお客さまの行動をモニタリングしている。セルフレジ通過後にはスタッフが検品もする。
──無人決済の仕組みには、さまざまなものがあります。この手法をとろうと思ったのには、理由がありますか。
矢崎 デジタル化が最も進んでいる国の1つ、エストニアでスーパーマーケットの決済を見て、これだと思った。
──無人決済だけでなく〝接客をしない〞店とされたのはなぜですか。
矢崎 そもそも接客そのものがいらないのではないかと考えた。とくに若い世代は、YouTubeやSNSで事前に情報を調べてから来店している人も多い。購買行動の変化に合わせた店づくりとしてチャレンジした。
ただ、このスタイルが受け入れられるには3年、5年と時間がかかるだろう。もっとお客さまから罵声(ばせい)を浴びせられると思ったが、今のところ思ったほど罵声は浴びていない(笑)。
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情緒的な価値も売場で表現
──売場づくり、商品政策について、注力したポイントはありますか。
笠原 基本的には長野店を踏襲した。信州箕輪店も本館と資材館の2つがあり、本館は工具・金物・ワークウエアが中心で、プロ向けのクオリティにこだわった専門性の高い品揃えを特徴としている。什器の高さを場所によって変えることで売場全体を広く見せるようにしたり、カラーコントロールを意識した陳列に取り組むなど、女性客からも支持されるような空間演出に力を入れている。
資材館はお客さまの利便性を重視して、トラックに乗ったまま売場に入って、必要な商品を積み込んで、セルフレジで会計するというドライブスルー方式をとっている。資材館の品揃えは、木材、ブロック材、石材など、長野店の約2倍になるように拡大した。
積み込みのサポートもしない分、ホイストクレーンを新設して、より便利に買物してもらえるように設備を整えた。電動工具、機械のレンタルサービスも実施している。
──そのほか店舗づくりでとくにこだわったところはありますか。
笠原 いちばんは駐車場だ。
駐車場には四季を意識した植栽を行っている。金木犀、藤、山茶花、梅、クルメツツジを植えてあり、春夏秋冬で咲く花が変わる。夏場を除いて、それぞれの季節ごとに違う香りがここから広がっていくはずだ。また、5年後、10年後、20年後となったときに、店舗を取り巻く景色も変わってくる。
──確かに、それは楽しみになりますね。
笠原 たとえば藤の花が咲いているからここに来る。買物目的でこの店に来てもらいたいということもあるが、そういうお客さまばかりでなく、「そろそろ、あの花が満開だから見に行ってみよう」、その帰りに「何か買物をして帰ろうか」、そんなふうに記憶の中に、少しでも残ってくれればいいかと考えた。
矢崎 接客なし、無人決済という無機質な部分もあるが、その一方で、ビジュアルにこだわった緻密な売場づくりや駐車場の植栽など情緒的な価値も重視したい。それがリアル店舗の価値につながる。
──信州箕輪店で得られた知見を既存店にも生かしていくという考えはありますか。
矢崎 僕らはチェーンストアをやっているわけではないので、個店個店が違っていい。単店レベルで黒字を出していきたい。
長野店をオープンして7年半がたつ。今は同じ店ではもう古いと思っているから、今回も新しいことにチャレンジした。塩尻店、岡谷店もいずれ建て替えることになると思うが、信州箕輪店のようにするとはかぎらない。商圏特性と時代の変化に合わせて対応していくことが重要だと考えている。
女性活躍のモデルになる
──笠原さんはレジ打ちのパートからいきなり店長になられましたが、そのときの心境を振り返るといかがでしたか。
笠原 社長から「新店を出すから一緒に来てやってみないか」と言われたのが最初で、まさか店長としてとは思わず、軽い気持ちで「行きたい」と答えた。
店長というと「男性がするもの」というイメージが強かったが、女性にだってできる。それを自分が証明したいというか、自分でもできるんじゃないかと考えた。プラスワンの中だけでなく、社会全体でこれからどんどん女性が活躍していく時代になる。自分もその後押しをしたい。
──実際にオープン以降の手応えはいかがですか。
笠原 まだ店長らしいことはできていないが、周りの皆さんに意見を聞くことを意識しながら、毎日試行錯誤している。ほかの従業員とも「こうしよう」「ああしよう」「こうじゃないか」「ああじゃないか」と積極的にコミュニケーションをとっている。
──今後の抱負について教えてください。
笠原 どういうものになるのかわからないが、私なりの店づくりを見つけていきたい。「非常識だからこそやる」がプラスワンのモットーなので、女性だから、知識ゼロだからこそ気づくこともあると思う。
プラスワン会社概要
1987年7月に山梨県の沢田屋のホームセンター部門として設立。96年岡谷店、99年塩尻店をオープン。2003〜04年に塩尻店を資材・工具・金物・電材・水管・作業衣料・消耗品の専門店へと業態転換。06年に岡谷店も業態転換。16年10月長野店をオープン。「STORE OF THE YEAR2017」で第1位獲得。24年4月 23日「PLUS ONEⅡ信州箕輪店」をオープン。現在、長野県内で4店舗を運営する
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