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A.T.カーニー福田稔氏が見通す、GMS改革、セレクトショップ、ECの未来

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年8月28日 20時55分

FURKAN TELLIOGLU/iStock

リベンジ商品も一巡し、見通せない状況が続くアパレル業界。前編では、A.T. カーニー(東京都/関灘茂日本代表)の福田稔シニアパートナーにアパレル小売のトレンドと今後の見通しについて語ってもらった。後編では、業態や販売形態など、さらに具体的な領域に落とし込んで、ファッションビジネスの未来について福田氏が解説する。※取材は2023年11月に実施

FURKAN TELLIOGLU/iStock

グローバルSPAの店舗数は減少する!?

──GMS(総合スーパー)の衣料品改革が成功する可能性はあるのでしょうか。
福田
 GMSの衣料品の市場シェアは低下し続けているため、イトーヨーカ堂のように直営の衣料品から撤退する流れは今後も継続すると思います。供給過多とはいえ、消費者から見ると、低価格な衣料品のニーズは高いので、イオンのように直接貿易や生産管理によるコスト削減、ブランド力などの企業努力があれば、残れるかもしれません。

──ラグジュアリーでも低価格でもないセレクトショップはどうなっていくのでしょうか。
福田
 マーケット全体が二極化しているので、中間は淘汰されると考えています。ハウスブランドとして消費者から支持されるブランド力や商品を持つショップしか残れないと思います。一方で、事業継承という問題もあります。ファンド傘下に入るセレクトショップが出てくる可能性もあるでしょう。

──アパレルのEC化はさらに進みますか。
福田 足元ではEC化率が30%を超えるアパレル企業は増えており、47%50%ともいわれるEC化率の上限も見えているはずなので、伸びは緩くなっていくのではないでしょうか。ただ、OMO(オンラインとオフラインの融合)で面白い顧客体験を提供する革新的な形態や企業が登場すると、そうした流れが変わってくる可能性もあります。

──その際のリアル店舗の位置づけはどうなるのでしょうか。
福田
 ブランドの立ち位置によって変わりますが、グローバルSPA(製造小売業)の低価格の領域は、基本的にスペインのZARA型が一つの標準形になっていくと思います。ZARAは店舗数を減らして大きな旗艦店に集約。その旗艦店に地域での物流のハブ(中核)機能を持たせて各店に配送するかたちで、全体的に効率を高めています。今後、グローバルSPAはその方向に進むのではないでしょうか。

──出店以外で成長しなければならないということですか。
福田 そうですね。サステビリティの観点では、CO2を減らしながらトップライン(売上高)を伸ばしていくことが、リアル店舗に頼っているとできなくなるはずです。先進国では多くの店舗を展開できなくなってくるでしょう。

 サステナビリティ基準は上場企業では統一的なルールが設けられ、ハードルになります。EUではCSRD(企業サステナビリティ報告指令)が制度化され、サステナビリティ情報の開示が2024年度から段階的に適用されます。国際会計基準(IFRS)財団の傘下で活動する国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)も基準を作成しており、上場企業であれば国を問わず守らなければならなくなれば、ゲームのルールが大きく変わってくると思います。

古着市場はさらに拡大する

──素材開発の方向性も変わっていくのでしょうか。
福田 経産省の産業構造審議会内の繊維産業小委員会ではサステナブル素材や環境配慮素材の定義を作成し、国際規格(ISO規格)にも対応させようとしています。

 大きなトレンドとしては、長持ちする、何度も着られる、リサイクルもしやすいことが一番サステナブル(持続可能)な消費行動であるので、欧州では耐久性の低い素材は排除していくという方向です。

 もう一つが生分解性。要は土に返るということです。新しい素材としては耐久性があって生分解性があり、生産時に環境負荷が低いことが求められています。それに最も近いのがSpiber(スパイバー:山形県/関山和秀社長)のタンパク質素材「ブリュード・プロテイン」です。コストをどこまで下げられるかが課題ですが、スパイバーはユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)であり、繊維の分野でもう一度産業全体を盛り上げていこうという動きがあります。

──古着ビジネスはどうみていますか。
福田 古着はグローバルですごく伸びています。グローバルのアパレル市場は約200兆円ですが、その中で古着が約30兆円になってきていて、年率約17%で伸びています。

 理由は大きく3つあります。

 1つ目は消費者にC2C(消費者間取引)アプリが浸透し、不要な衣料品を売るという行為が根付いたからです。日本では「メルカリ」、アメリカでは「スレッドアップ」などです。

 2つ目は新しくモノを作らず、循環させたほうがサステナブルな消費行動であるということが世界的に広まっているからです。欧州では原材料の調達、生産から廃棄までに排出されるCO2を示す「カーボンフットプリント」が低いということを消費者が認知しているので、古着を買います。

 3つ目はリセール(再販売)、リユース(再利用)、リペア(再生)までメーカーブランドが責任を持つようになったからです。先進国には拡大生産者責任(EPR)法があり、売った後の廃棄やリサイクルまで生産者が責任を持ちなさいと当局が促しています。

 たとえばZARAも「プレオウンド」(中古品)と呼ぶ2次リリースサービスをイギリスやフランスなどで始めています。お直しサービス、顧客間販売、古着の寄付ができる仕組みを提供します。ユニクロも国内外でリペアサービスの併設店を増やしています。流れとして、ブランドが自分たちの2次リリースを見ることが、これからのトレンドで間違いなく伸びますし、成長の大きなポイントになると思います。

デジタル技術がアパレル産業を変える

──AIはアパレルビジネスにどんな影響を与えますか。
福田 「攻めのAI」と「守りのAI」があると考えています。「攻めのAI」はたとえばデザイン。当然プロンプト(指示文)を打ち込むという人間の役割は残るのですが、「Midjourney(ミッドジャーニー)」のようなデザインを一気にやってしまう画像生成AIが今後増えていくでしょう。ファストファッション企業なら業務効率化の観点で大きな効果をもたらすと思います。

 販売面でも、Eメールマーケティングを全て生成AIがやると、一人一人カスタマイズして文章を作れるようになり、マーケティングの質が上がり、買い上げ点数の増加にもつながります。チャットボット(自動応答システム)も同様です。いろんなところでトップラインに効いてくるような使い方が実装されてくると思います。

 さらにパーソナライズエンジンというのがあって、ECサイトのトップページの配置を人によって変えるという技術があるのですが、生成AIがエンジンに入ってくると、さらに精度が増して最適化が進みます。

──他にもアパレル関連で注目されている企業や技術はありますか。
福田 デジタル技術ではCLO(クロ)です。元々韓国の3D3次元)サンプリングをやっている会社で、日本にはCLO Virtual Fashion JapanCLOバーチャルファッションジャパン:東京都/Jung Huk Boo社長)があります。アパレルは通常、サンプル品をつくり、補正などをして本生産に入りますが、CLOは補正をそれらのすべてソフト上の3Dでやってしまう。グローバルSPAの廉価版のラインで、サンプルをすっ飛ばしてCLOを使い、直接本生産に入る流れがこの5年ぐらいで普及してきています。

 人気ゲーム「フォートナイト」を提供している米国のエピック・ゲームズ社もCLOに出資し、CLOでつくった3Dモデルをアバターファッションにエクスポート(出力)できる機能を開発しています。作成に時間のかかるデジタルファッションが、エクスポーターができることで一気につながるようになるのです。これが完成すると、デジタルファッションがさらに盛り上がると思います。

 アパレル企業にとってメタバース(仮想空間)がチャンスなのは、環境問題です。デジタルの世界は基本的にモノを作っても環境負荷が増えない。デジタルファッションはこれから間違いなく伸びるので、その技術の中心に入ってくるスタートアップ企業やデジタル系の企業はチャンスがあるでしょう。

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