アパレルのいまを全解説!GU、しまむらとシーインを比較してはいけない理由
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年9月9日 20時55分
アパレル業界は大きな変化にさらされており、かつさまざまな注目点と課題を抱えている。今回は業界で起こっている諸問題に対しての私の回答を、一問一答形式でお届けしたい。これを読むことで、業界のいまとこれからがくっきりと見えてくる。
アパレル倒産件数
急増の理由とは
Q1 2024年、ここまでのアパレル業界の経営環境について
河合 業界に与える最も大きな影響は、①円安、②コロナなどの新型感染症の流行、③異常気象などの環境破壊です。私たちは、「なんとなくこれらを克服した気になっている」だけで、実は何もやっていない。「放置プレー」のままです。
その間、企業経営はじわりじわりと悪化し、特にアパレル産業の倒産件数は増えています。これは、新型ウイルス対策で政府が補助金をばらまいたときの資金回収が始まっているからです。実は、多くの企業が、コロナが原因で資金ショートに陥ったわけではなく、事業継続そのものに必要な運転資金に充てていたからです。これらの企業はコロナの有無にかかわらず、早晩倒産していた企業です。政府のバラマキは「企業の一時的なゾンビ化」を進めただけなのです。
その間、外資企業は日本の優良工場のM&Aを進めたり、日本の市場調査をしたりしていました。何もしていなかった日本企業の甘さは目を覆うばかりです。
Q2 とくに好調なアパレルは?
河合 ユニクロです。こういうと「河合はいつもユニクロと答えてお茶を濁している」とよくいわれますが、本当に分かっていないのは、批判する人たちの方です。ユニクロは、柳井正氏の著書「一勝九敗」にあるように、野菜のSPA、ロンドン進出の失敗など、過去たくさんの失敗をしてきましたが、必ずそこから学んで本業のアパレル・ビジネスに生かしています。
一方、私達はどうでしょうか。ユニクロが原宿に店を出したとき、「あんな安物屋はロードサイドに店をだすのが正解だ」とうそぶき、ユニクロが巨大企業になったら、「ユニクロは世界企業だから自分達とは違う」と逃げ口上だけは一流ですが、そこから何かを学ぼうという姿勢は見られません。
今、ユニクロの名前を出すことは、一昨年前にユニクロの名前を出すのと意味合いは全く違います。ユニクロの経営は盤石で、もはや、成功の「正の循環」にはいっています。いわゆる「隙」がないのです。
ユニットごとに社長をおいて「社長の分業化」を図り、北米、グレイターチャイナ、欧州、日本がそれぞれのエリアにそって、大型店舗で収益を出すことによって、ユニクロの勝ちパターンを強固なものにしました。
これをもって、ファーストリテイリングは今後売上3兆円、そして5兆円に手が届き、遠くない将来ZARAを抜いて世界一になるのは確実です。
なぜなら、ユニクロは世界の大手3社と比較して、成長がもっとも著しい東南アジアに販売拠点を山のようにもっているからです。その点では、ZARAもH&Mもかないません。私は、ニューヨーク・ロンドンの世界的アナリストとディスカッションをしましたが、彼らも全く同じ見方をもっていました。
好調アパレルと不調アパレルを分かつものとは?
「10月まで残暑」で業績どうなる?
Q3 好調アパレルと不調アパレルを分けているものは何か?
河合 ひと言で言えば「経営力の差」。「戦略の差」とも言い換えられます。
勝っている企業の戦略は経営のセオリーにきわめて忠実でシンプル、かつその戦略を徹底して実行しています。対して不調アパレルが抱えるもっとも大きな課題は「責任者が誰か不明」「キャッシュフローが読めない」「余剰在庫を放置している」の3つ。これらの課題を埋めるため、「社長がすべて自分でやっている」という創業時のまま組織を変えずに大きくなっており、沈没するときはみな一緒という具合に非常に危険な状態になっています。
ファンドはこうした実態を知らないため、社長の一極体制の理由とリスクをもっと知るべきです。なぜなら今は、30年に一度ぐらいしかない業界再編のチャンスだからです。
個人的には、マクロ的な動きとオペレーションのような現場の両方に精通したコンサルタントを使って改革を進めるべきだと考えますが、最近はコンサルタントの評判も悪くなり、アパレルもコンサルも自分達で勝手にやりたいように改革を進め、撃沈しているところが多いです。
Q4 2024年秋冬の見通しは?
河合 今年は、10月まで残暑が残りそうです。そうなると、各アパレルは余剰在庫で勝負をするしか手はなく、気温に沿った形のMDが組めているのかいないのかで成功するか否かは変わってきています。
また、商社は黙っていますが、円安のため生地の輸出で大儲けしており、死の淵にあるアパレルOEMの課題解決(注文から納品までの期間の長期化)を放置し、目的の不明確なデジタル投資を続けています。その結果、アパレルの調達期間はよりいっそう長期化し、このツケが25年春ぐらいから出てくるでしょう。注文から納品までの期間が長期化すればするほど、トレンドとズレが出てくるから、当てるのが難しくなるのは自明です。
Q5 秋冬以降注目のアパレル、業態、関連する企業は?
河合 今、ZOZOTOWNには、無名の素晴らしい企業がたくさん出店しています。彼らは、成長のための投資余力がないため、足踏みしていますが、日本のファンドが「アパレルなんてやめておけ」といっている間に、実は外資のファンドが狙いを定めています。おかげさまで、私は外資系企業から講演依頼などで引っ張りだこです。
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アパレルを変えるAIだが、販売予想はできない
では何に使うのか?
Q6アパレル・小売に関連したテクノロジーで注目しているものは何か?それは業界をどう変えるか?
河合 AIです。AIは登場時、MDと結びつけて「将来のこと(販売数量)がわかる」という触れ込みで、期待感が一気に高まりました。私も当時、AIベンダー側にいたからわかるのですが、「AIで読むMDの世界」は、どこか神秘的で、さらに科学の下支えもありました。だから日本中のアパレルがこれに飛びついたのです。経済産業省の有識者会議にでたときは、司会者の大学の教授までもが「AIをつかって余剰在庫を減らす」などいいだす始末でした。
私はそんなとき「ではあなたは、来年ユニクロが何を出すのかわかっているのですか?競合が同じ商品を高コスパで出したらどうするのですか」と発言しました。この正論を言って以来有識者会議に呼ばれなくなったのですが、いくらAIを使っても商品力の差があれば、売れないのです。だからAIを使っても余剰在庫はなくならないのです。もしくは、悲しいほど少ない売上予想をAIがはじきだして終わりです。
アパレルがいかに正確に未来を予想しても、ユニクロが同じ商品をだせば一発で負ける。また、QRの得意なアパレルは2週間ほどで“パクり商品”(類似デザインの品)をすぐに作れます。こういうことをAIベンダーはわかっていないのです。
情けないのは、技術そのものにたいするリスペクトが無いということです。いわゆるMDの5適などは個社・個別ブランドによって全く違うため、競合の出方から昨年の余剰在庫などの戦略変数は無数で、過去の趨勢から読み出すAI搭載のSaaSでだせるものではありません。つまり、予想には使えないのです。
私がそもそもAIをMDに使えるといったのは、MDを組み立てる前の、「今の世の中のトレンド」を分析し、大きく市場の流れを捉えるためにAIを使えるという意味です。
これは市場調査と言って、これまではみなで大名行列のように穴場のスポットをぶらぶらあるいたり、イタリアやフランスに行って街をみたりしていました。こういうことを客観的にできるようになる、という意味です。MDの5適までAIで実現可能だなどとは一言も言っていません。
正しい使い方をすれば、個別のMDが違っても、その精度は格段にあがるのです。そのことをいくら言っても、会場からの質問は「AIを使うと日本中のアパレルはみな同じ商品を使ってしまうじゃないか?」という、がっくりするような質問をいう人がいまだにいます。AIを使った同じSaaS型MDを日本中のアパレルが同時に使うわけがないじゃないですか。
疲れ切った私は、いまではAIを使ったMDについて、聞かれなければ話さないようにしています。
話は変わりますが、メタバースの使い方も同様です。日本人は、技術だけに焦点を当ててしまって、そもそもそれを使って何をしたいのかが見えていない人ばかりです。
離れたスタッフ同士が会議をしたり、コストの関係で出店できない過疎地に住まう人のために出店するといったことをメタバース活用で考えるべきなのですが、いまだにドラゴンクエストのようなRPGをしようとしています。
新宿伊勢丹の売上3700億円!
百貨店のこれからとスーパーブランドの戦略
Q7 新宿伊勢丹店の売上は23年度、3758億円(対前年度比14.7%増)に達した。2位の阪急うめだ本店は3140億円、同20.3%増となった(なおそごう西武は売上非公表) 。これら都心巨艦店が売上急拡大する要因とどこまで増えるか、さらには他の百貨店店舗との格差はどうなるか。
河合 これは明確で、インバウンドが増えたのが理由です。今、東京の渋谷や新宿、浅草などにいけば「ここは東京か?」という印象を受けます。また、大阪でも梅田やミナミ、日本橋などにいくと、「ここは日本か、大阪か?」と同様の印象を受けます。
あくまでも感覚値ですが、多いところで2~3割ほどがインバウンドの店やカテゴリーもあるのではないでしょうか。逆に、百貨店でインバウンドの恩恵をうけていないのは、地方の百貨店でインバウンド客がリーチしないエリアにある百貨店でしょう。そうなるとそもそも他の商業施設にお客を奪われていた地方百貨店は、人口減少や値上げに伴う消費マインドがさらに打撃を与えることになります。
Q8 都市部の百貨店復活が目に見えるなか、海外スーパーブランドの戦略に何か変化は起こりそうか?また日本市場向けに高級ブランドなどの積極的な店舗展開は起こるのか?
河合 スーパーブランドはマクロ的に見ると、大きな変化があります。一昔前のスーパーブランドは、いわゆる定番といえる商品を持続的に売っていましたが、最近は、非常に速いスパンで新しいバッグやコレクションをだしてきています。しかも、中には妙なアニメの絵が描かれているようなものや、ロゴマークをおもいきり大きくしたものなどです。ある意味、ファッションの面白さが戻ってきたのだともいえますが、同時に、スーパーブランドも必死なんだということがわかります。
Q9 こうしたなか、いわゆる百貨店アパレルの状況と課題は何か。今後どのような手を打って成長と利益確保を実現していくべきか?
河合 百貨店アパレルとスーパーブランドの状況は違います。また百貨店の中の衣料品のシェアは30%程度で、あとは雑貨などです。さらに、インバウンドが日本の百貨店で商品を買う本当の理由は、自国ではニセモノをつかまされている可能性があるからです。信じられない話ですが、中国のLOUIS VUITTONで購入した商品が偽物であったとしてお客が提訴し、お客が勝訴した事件もあるぐらいです(そのお客が本当に中国のLOUIS VUITTONで買った商品なのかどうかは依然不明ですが、裁判所がLOUIS VUITTONに支払いを命じたことは事実です)。
しまむら、GU VS シーイン・TEMU
Q10 一方、総合スーパー(GMS)の衣料品は改善に向けた動きは進むものの抜本的とは言い難い。GMS衣料品の課題は何か?どうすれば解決できるか、どんな選択肢があるか?
河合 GMS向けのアパレル商品は、全く差はありません。生産している商社もほとんど同じです。それでも、勝ち組と負け組を分かつものは、店内立地とVMDなどです。非常によい場所に大きなスペースをもって見栄えもよければ売れる。この意味で、アダストリアは頭一つ抜けています。
Q11 SHEIN(シーイン)、TEMU(テム)の日本での状況とアパレル各社への影響、対策。
河合 あくまでも私の想像ですが、シーインはすでに日本で4-5000億円の売上をあげている可能性があります。例えば、先月は、私の娘の結婚式だったのですが、大手広告代理店につとめている女性の島があり(私の娘は大手広告代理店勤務)、リッチな彼女たちがシーインで2000円で買ったドレスなどを自慢しあっていました。彼女たちは、「こういう写真の写り方をしている商品には外れがない」など、いわゆる「シーインアイ」をもっており、「外れ」を引く確率が低いのです。また、結婚式にきてゆくほどZ世代に浸透しています。
これに対して、オジサン達は、適当に2-3枚買って、「履いたら縫製がメチャメチャだった」と結論づけ、それをもってシーインを語っています。
Z世代の「シーインアイ」とオジサンの「適当購買」が生む、シーインに対するイメージのギャップは途方もないものです。だからオジサンには、シーインにお客が4000人並ぶのかが理解できないのです。
私は今日、アジアから来日した20名ほどのアパレル経営者に対して講演をしたのですが、全員TEMUについて知っていました。「米国ではシーインがTEMUに負けた」という話をしたところ、みな非常に深くうなずいていました。
日本では「トラッキング」という追いかけ型の広告にはTEMUがでるようになってきましたが、売上が伸びるのはまだまだこれからというところでしょう。
いずれにせよ、残反、残品をネームを替えて売っているだけなので、このあたりの激安中国アパレルはどこで買っても一緒。Z世代の女子が鍛えた「シーインアイ」があれば問題ないわけですから、結局は売上を日本でも大きく伸ばしていくでしょう。
Q12 日本における低価格アパレル市場の可能性と勝者。GU、しまむら、ハニーズ、パシオス、ワークマンなどのゆくえ。
河合 GU、しまむら、ハニーズ、などの低価格ブランドとシーイン、TEMUを一緒に比較してはなりません。シーイン、TEMUはもう一段、いや2段ほど価格は低く、マーケットも商品もまったく異なります。私の想定では、ユニクロが高価格帯アパレル。GUはプライスアンブレラ(価格基準値)、シーインが低価格ブランドという具合になるでしょう。
Q13 日本における低価格型アパレルは、グローバルベースでは安いとは言えないが、グローバル展開は可能か?その時採るべき戦略は?
河合 Q12で回答した通り、GU、しまむらなどはグローバルでみて低価格ではありません。したがって、日本で中価格帯アパレルが採ってきた戦略が必要になります。海外ではユニクロが高価格帯の戦略を行っているのと同様です。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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