ファーストキッチンとのダブルネームで売上3割増!ウェンディーズの復活劇
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年10月1日 20時59分
世界的な知名度を誇るハンバーガーチェーンながらも、一度は日本市場から撤退したウェンディーズ。再上陸を果たした後、ファーストキッチンとコラボ―レーションしたダブルネーム店舗「ウェンディーズ・ファーストキッチン」として展開を拡大している。どのような戦略によって、華麗なる復活を遂げたのか。ウェンディーズ·ジャパン/ファーストキッチン(東京都)の紫関修社長に話を聞いた。
サントリーからファーストキッチンの全株式を取得
米国発のウェンディーズが日本に初上陸したのは1980年。当時、流通業最大手として栄華を極めたダイエーの資本で出発した。しかしダイエーが経営危機に陥り、2002年に牛丼チェーン「すき家」などを展開する外食大手のゼンショーホールディングスが経営権を取得。一時は大都市圏を中心に100店舗超を展開していた。しかし業績が振るわず、2009年に日本市場から撤退した。
再上陸したのは2年後の2011年。日本に宅配ピザのドミノ・ビザを根付かせたヒガ・インダストリーズと投資ファンドが出資してウェンディーズ・ジャパンを設立する。そして2016年6月にはサントリーの完全子会社だったファーストキッチンの全株式を取得。ウェンディーズ・ジャパンの増資を引き受けたロングリーチグループが最大株主となり、ウェンディーズ・ファーストキッチンのダブルネーム店舗による出店を始めた。
日本マクドナルドで経営戦略立案に携わり、フレッシュネスバーガーを展開するフレッシュネスの代表取締役を務めた紫関社長がウェンディーズ·ジャパンとファーストキッチンで経営のかじ取りを行うようになったのは2016年9月から。まず着手したのが都心部にあるファーストキッチンのダブルネーム店舗への転換だったという。
「都心の真ん中で好立地の店舗から着手し、その次は大阪、京都、神奈川などでも展開していった。初年度はコストがかかることもあり、P/L(損益計算書)の伸び率は緩やかだった。その後、郊外にも展開を広げて、利益がグーンと上がったのが2019年。売上が先、少し遅れて利益が上がり、両方がピークになった」(紫関社長)
2020年の東京オリンピック開催を控えてインバウンド需要も高かったことから、勢いに乗ったまま業績を拡大させていく見込みだった。しかし新型コロナウイルスが流行。一気に業績が落ち込んだ。
「長く外食に携わってきたが、これほどまでに落ちるかと思った。そこからは何とか右肩上がりで、2019年と同じ程度まで売上が戻ったのが2022年から2023年。今の業績は2019年を上回っているが、2022年後半からは国際情勢の悪化と円安の影響を受けている。本来であれば売上が向上すれば、利益も急速に回復していくはずだが、そのスピードが鈍かった」(紫関社長)
そこで利益をしっかり確保するための施策を、2023年から2024年前半にかけての1年で矢継ぎ早に打ち出していったという。円安はまだ続いているものの、結果として、しっかりと利益を確保できるだけの体制が整った。それを可能にしたのがウェンディーズとファーストキッチンがコラボレーションしたことによるシナジー効果。この1年、価格改定だけでなく、商品の入れ替え、レシピの見直しなどに積極的に取り組んできたという。
ダブルネーム店舗で売上は前年比3割増に
ウェンディーズ・ファーストキッチンのメニューを見ると、「ウェンディーズバーガーUSA」や「ベーコネーターUSA」のように、商品名の後ろに「USA」と付いているハンバーガーがある。これが米国とレシピが同じ商品で、例えば「ウェンディーズバーガーUSA」は現地ではウェンディーズの創設者であるデイブ・トーマスの名前にちなんで「デイブズシングル」と呼ばれる。
「現地と同じレシピの商品は食材を変えられない。しかし『USA』と付いていない商品は、日本で開発されたメニューで、とくに期間限定商品などは柔軟にアレンジできる。例えば菓子メーカーなどは、原材料が高騰した場合などの対策として、商品価格を上げるか内容量を減らして利益を確保することが多い。ところが私たちには今、単純に値上げをするのではなく、内容を変えて、お客さまにしっかりと価値を提供しながら、利益を出していける余地が生まれている」(紫関社長)
ファーストキッチンの店舗がウェンディーズ・ファーストキッチンのダブルネーム店舗に転換し、もっとも大きく変わったのがハンバーガーで、ビーフパティが丸型から四角になった。これは創設者の口癖「don’t cut corners」(角をカットしない→手抜きをしない)にちなんだもので、ウェンディーズの品質へのこだわりを象徴している。ファーストキッチンで創業当時から提供されてきた人気メニューのベーコンエッグバーカーは「ウェンディーズベーコンエッグバーガー」にグレードアップした。
パスタ、サイドメニュー、ポテト、デザートなどの商品カテゴリーに並ぶのは、ファーストキッチンで以前から提供していたメニューだ。ご存じの方も多いと思うが、ファーストキッチンは女性に強く支持されてきたファーストフードチェーンである。それが本場と変わらないボリュームのハンバーガーを提供するようになって、男性の来店客も増えた。そしてオーダーされるハンバーガーの割合が高まり、客単価と売上が向上したという。
「ファーストキッチンがウェンディーズ・ファーストキッチンに変わって、多くの店舗で売上は前年比3割増になり、5割増、倍増した店舗もあった。ハンバーガーで客単価と売上が上がり、客層も広がった。それがダブルネーム店舗への転換で得られた大きなメリット」(紫関社長)
とはいえ、ファーストキッチン自体、1977年に誕生し、45年以上の歴史を築いてきたブランド。日本発のファーストフードチェーンとして認知され、オレンジ色のイメージカラーが市場に定着していた。それを変えることに抵抗はなかったのだろうか。
ダブルネーム店舗で出店するメリットとは?
「社長に就任して、ウェンディーズとファーストキッチンのダブルネームでの展開をおもしろいと思った一方、大変だとも感じた。おもしろいを優先して経営を引き受けたものの、認知度を高めることには苦戦している。率直に言えば、わかりづらい。それがデメリット」(紫関社長)
現在も郊外を中心にシングルネームのファーストキッチンとして営業している店舗がある。それは立地による戦略の違い。都市部などインバウンド需要も高いエリアでは、グローバルブランドであるウェンディーズの名前とロゴが入ったダブルネーム店舗で、静岡県産本わさびを使用した「ローストビーフバーガー」(※現在は販売終了)など、2,000円を超えるような日本でしか販売されていない高価格帯のハンバーガーも売れている。その一方で、郊外ではダブルネーム店舗でも500円台とお手頃価格の「GOOD PRICE SET」などをメーンに訴求している。
「ダブルネーム店舗だけでなく、場合によってはファーストキッチンのシングルネーム店舗を出すこともある。ただ出店する際のコストはダブルネーム店舗もシングルネーム店舗もたいして変わらず、リターンはウェンディーズ・ファーストキッチンの方が圧倒的に高い。そう考えると、ダブルネーム店舗で出店するメリットが大きい」(紫関社長)
サントリーの完全子会社だった時代からファーストキッチンのFC展開を行ってきた中で、費用対効果の高いウェンディーズ・ファーストキッチンへの転換は、FCオーナーにとって魅力的に思える。
「サントリー時代からファーストキッチンのFC展開はしっかりプロフィットシェアリングができていて、本部とFCオーナーがお互いにヘルシーに成長してきた。ありがたいことに、非常にうまくいっていると感じている。課題があるとすれば、複数店舗を運営しているフランチャイジーが少ないこと。そこで店舗展開を拡大し、ビジネスとしてより成長させていくよう声を掛けている」(紫関社長)
ウェンディーズの哲学とファーストキッチンの文化
ファーストキッチンからウェンディーズ・ファーストキッチンへの転換が進む中、トレーラーのコンテナを活用したトレーラー型店舗も登場した。出店コストは最大で従来の3分の1に抑えられるという。
「コロナ禍に、郊外や地方の車社会のエリアでドライブスルー需要に対応して、できる限り投資額を抑えて出店できる方法として考えた。ただ、今はパンデミックが収まり、ドライブスルーの需要は落ち着いているので、このスタイルを無理やり広めていくつもりはなく、あくまでも選択肢の一つ。店舗スタイルは立地にあわせて柔軟に対応していける。商業施設のフードコートでの展開も狙っていきたい」(紫関社長)
全米2位、世界3位の売上を誇るハンバーガーチェーンであるウェンディーズは、創設者のデイブ・トーマスが愛娘のウェンディーに、質の高い、おいしいものを食べさせたいという愛情から生まれたブランドだ。ロゴマークに描かれた赤毛で三つ編みの女の子のモデルがウェンディーで、「QUALITY is our recipe」がブランド創業時から受け継がれる哲学だ。
「もともとファーストキッチンはQSC(Quality, Service, Cleanliness)のレベルが高く、顧客を大切に考える文化が根付いている。ウェンディーズのブランドネームももちろん重要だが、実はこれこそが私たちの最大の強みだと思っている」(紫関社長)
2024年7月現在の店舗数はウェンディーズ・ファーストキッチン、ファーストキッチンをあわせて約110店舗。今後の出店計画について具体的な数字は明かせないものの、品質を重視した「ヘルシーな成長」を目指していくという。ウェンディーズの赤いロゴを目にする機会は、これからますます増えていきそうだ。
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