守破離の精神で変化に対応日清シスコが見据える“次の100年”
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年9月24日 1時0分
日清シスコ代表取締役社長 浅井 雅司(あさい・まさし) 1965年生まれ。兵庫県出身。91年4月に日清食品(現・日清食品ホールディングス)入社。2016年日清食品中国支店長、19年に日清食品大阪営業部長などを経て、20年3月より日清食品営業副本部長西日本統括。21年4月、日清シスコ代表取締役社長(現任)。趣味は農作業、そば打ち。愛犬家。
2024年に創業100周年を迎えた日清シスコ(東京都)。「シスコーン」「ごろグラ」を軸に、総合シリアルメーカー、そして菓子メーカーとして市場を牽引している。代表取締役の浅井雅司氏に同カテゴリーの外部環境と事業戦略、社長としてのミッションについて聞いた。
インフレ時代に求められるマーケティングとは?
──直近の業績についてお聞かせください。
浅井 おかげさまで2025年3月期の第1四半期は前年の売上を超えて着地することができました。コロナ禍以降、好調に推移していた「ごろグラ」ですが、昨年は原材料の高騰を受け、規格変更をせざるを得ない状況となり、苦戦しました。「値ごろ感」を外してしまったという反省があります。
24年に入ってからは売上ベースで対前期比2ケタ増、数量ベースでもプラスと好調に推移しています。値上げから一巡したからだけでなく、「ごろグラ」レギュラーシリーズのリニューアルでより商品の満足感が高まったこと、テレビCMの影響も大きかったと思います。
一方、「ごろグラ」が苦戦した時期も好調だったのが「シスコーン」です。コロナ禍以降ずっと好調だったブランドですが、グラノーラ類の価格改定や規格変更に伴い、値ごろ感のある「シスコーン」に流入する動きが見られ、現在もなお伸び続けています。コーンフレークカテゴリーでの当社のポジションは、当社製造のプライベートブランド(PB)も含めると70%以上と圧倒的なシェアを有しており、今後も力を入れていきます。
──菓子カテゴリーの市場環境はいかがですか?
浅井 菓子カテゴリーではスナック菓子が非常に好調です。
昨今、貧困やダイエットブームの影響から、支出を抑えるため昼食をスナック菓子で済ませる学生やZ世代が増えていると聞きました。実際、コンビニエンスストア(CVS)の中にはランチ需要を見越してポテトチップスなどの菓子類を強化しているチェーンもあると見受けます。朝食を抜き、昼食をスナック菓子、夜はパスタやピザで済ませる彼らの一部は、1955年と同程度の栄養価しか摂れていないというデータもあるそうです。
Z世代の食事は新しい価値観ではありますが、栄養面を考えると肯定し難い部分もあります。当社は栄養バランスに優れたシリアルという商品群を持っていますのでこのノウハウを生かし、今後は日清シスコらしい栄養価のある菓子類を開発していきたいと考えています。
若年層はCVSでの購買機会が多く、価格よりも目新しさや楽しさを基準に商品を選びます。これまで当社の菓子類は特売などで価格訴求をすることが多かったのですが、デフレからインフレへと時代が変化する中、今後はCVSでも展開しやすいパウチタイプの商品など、付加価値型の商品開発に注力していきたいです。
インナーマーケティングで活気のある社風へ変化
──3年前の社長就任時のインタビューでは「社員が遠慮がちでおとなしい」といった印象を語っていました。その後変化はありましたか?
浅井 着任当初は、どこか自信なげな表情を浮かべる社員もおり、商談でもお取引先からの要求を呑んでばかりで主体性に欠けていると感じていました。私自身が営業出身ということもあり、とくに営業部門の意識を変えたいとの思いがありました。ですから「(『シスコーン』という)カテゴリーナンバーワンブランドを持っているのだからもっと自信と主体性を持って動こう」と声をかけてきました。
営業部門だけでなく社内全体の意識を変えるため、この3年間はインナーマーケティングに取り組みました。東京本社では21年11月から、大阪本社では22年9月からフリーアドレスを導入。また、中途入社のメンバーと私が直接対話する1on1の実施、企業向けSNSの導入、SCM本部の立ち上げ、社内オープンセミナーの「ごろっとチャレンジアカデミー」や「次世代リーダーチャレンジ」といった施策を通じ、部門や立場に関係なく意見を交える場を整えました。
そこに今年、創業100周年の施策が加わり、活気のあるボトムアップ型の組織へ転換することができました。
──24年、日清シスコは創業100周年を迎えました。
浅井 100周年プロジェクトも社員の主体性をテーマにプロジェクトを進めました。周年を迎える1年前より、マーケティング部の有志のメンバーがカウントダウン企画として、Microsoft Teamsを活用し、商品の開発秘話やブランド名の由来、キャラクターのひみつなど、当社100年の歩みに関するエピソードを週2回配信(全100回、100回目は創業記念日に配信)し、商品や会社への興味を育みました。
直近では、私を含め160名の従業員が店頭に立って自社の商品を対面販売するといった取り組みを行いました。管理部門や開発研究所の従業員などふだん、消費者と接する機会の少ないメンバーも接客を通じ、当社のスローガンにもある「もっと楽しく、健やかに。」という想いをお客さまに伝える貴重な機会になったと思います。
「ごろグラ」ブランドを育成、シリアル市場を1000億円規模へ
──25年3月期に注力するシリアルの商品群について教えてください。
浅井 まず、「シスコーン」は大人をターゲットとした「クラフトシスコーン」を発売します。「シスコーン」はパッケージデザインから子供向けのブランドと思われがちですが、大人のユーザーも多くいらっしゃいます。また牛乳をかけると柔らかくなることから、シニア層にも勧めやすいです。「クラフトシスコーン」を通じ、新たなユーザーを獲得していきたいと考えています。
また、パフ系の新商品として「シスコーンサクサクハートいちご味」も投入します。ピンクのハート型という特性上、朝食提案に加え、バレンタインにはチョコレートなどへのトッピング訴求も行う予定です。
「ごろグラ」ブランドは引き続きブランドの育成を強化します。今期は期間限定品として「ごろグラさつまいもづくし280g」を発売しました。コロナ禍で伸長したといわれるシリアル市場ですが、その規模はいまだ1000億円に到達しておらず、パンや米といった他の主食カテゴリーと比べると小さな存在です。今後は業界全体で市場を盛り上げ、まずは1000億円市場を達成したいですね。
──オートミールについてはいかがですか?
浅井 オートミールは現状、苦戦していますが、ポテンシャルは高いと考えていますので当社では粘り強く訴求していきます。今期は既存の「おいしいオートミール新ごはん」に加えて、香ばしい風味や色味、食感にこだわった「おいしいオートミールじっくりロースト」を投入し市場の活性化を図ります。
──流通企業向けにPB開発も行っています。PBとナショナルブランド(NB)のバランスについてどうお考えですか?
浅井 当社はPBを受け持つことで成長をしてきた歴史があるため、NB、PBどちらも大切に考えています。NBもPBも両方の特性をそれぞれ生かして市場の総需要の拡大を目指せるように、PBを位置づけています。お取引先さまと積極的にコミュニケーションを取り、お互いによい商品をつくろうと開発部門、企画部門、営業部門が一丸となって取り組んでいます。
これは、リテール商品戦略チームという専門の部署を設けたことも大きいのですが、NB、PBを問わず、小売業の方々から「最近、シリアル売場の風景が変わって日清シスコの存在感が高まった」と声をかけていただくことが増えました。3年かけて取り組んだインナーマーケティングの成果のひとつだと感じています。
──最後に今後のミッションについてお聞かせください。
浅井 私は「守破離」という言葉をよく使います。伝統を守りつつも、既成概念にとらわれず新たな考え方を模索することを指す言葉ですが、常に変化を求められるこの時代に最も合った考え方ではないでしょうか。
創業100周年を迎えた当社ですが100年後は総合シリアルメーカーだけにとどまらず、まったく違う商材を扱うメーカーになっているかもしれません。企業のDNAを守りながらも、その時代にあった形で成長を続けていきたいですね。
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