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ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年9月27日 2時0分

Pavel Muravev/istock

DCSオンラインで過去に反響の大きかった記事を紹介!(初公開2023年9月13日 記事は取材時の状況)

アパレル産業の死期が迫っている。驚くべきは、現場の人間と話をしても「もうかりまっか?」と聞いても、未だに「ぼちぼちでんな」と悠長な返事が得ってくる。それでは、「比較的好調なんですか」と聞き返せば、「まあまあです」と答える。この台詞、どこかで聞いたことがないか。まさにMBAの教科書に載っている「茹でカエル」である。会社にいる人間は、自社の中しか見えないことが多く、世の中を俯瞰してみていない。今日は、日本のアパレル産業の実態について、15人の現場の人間からインタビューをとりまとめた現場に働く方達の客観的世界観を語りたい。

原料高により商社OEMは限界

Pavel Muravev/istock
Pavel Muravev/istock

米国の利上げによって、世界のマネーは米国に向かう一方、相対的に低金利政策を継続している日本の金利は世界で類を見ないほど低くなってきた。この結果、為替は150(TTB 銀行が外国為替を買うレート)で、来月ハワイに新婚旅行に出かける我が娘が、「おにぎりが1500円!」と叫んでいた。

 私はマクロ経済学者ではないので、本件に関してのこれ以上の深掘りはやめるが、MMT (現代貨幣理論)論者は、金をインフレターゲットまで市場に放出すれば経済は活気づき、その原資は自国通貨を発行できる国であれば刷ることができてデフォルトにはならないと説くが、ならばなぜ自国通貨を発行できる韓国はIMFにはいったのか、など謎だらけだ。

 「今こそ国に産業を戻せば良いではないか。そうすれば雇用も増える」と簡単にうそぶいているのをを聞くと、10年間、海外貿易実務をやってきた私からすれば、「この人は大丈夫か?」となる。それができないから、海外の安い労働力を求めて商社が世界を徘徊し、また、世界最適調達を行うから、国のGDPが上がり途上国が先進国に変わっていくのだ。

 当たり前だが、芋虫が蝶々になれば、再び、芋虫にもどることはできない。そんなことは、賃金的にも、労働の質的にも東南アジアやバングラデッシュにアウトソーシングしている繊維産業を、東京で働いている丸の内OLがやれるはずがないことなど、日の目を見るより明らかだ。

 また、単なる「PL価格比較」しかできない人間が生産部で、アパレル製品の生産産地を決める直貿が拡大したため、商品は荒れ、現在の納期は36ヶ月が標準となっているようだ。「自分の会社は違う」と思う方は、よほどよいパートナーシップを組んでいるか「ぼったくられているか」のいずれかだろう。なにせROIを計算せずに「デジタルありき」で高価なサブスクを導入し、販管費を上げながら人員も減らしていないからだ。そのため販管費の売比が50%台の企業は少なくなく、ファーストリテイリングなどは30台のため完全に勝負にならなくなっている。それでも、その差を原価の責任にしているのだから開いた口が塞がらない。

 商社の給与水準は高い。サプライチェーンはスマイルカーブ(サプライチェーンは、両脇がつり上がり笑った絵になる)の逆、怒りカーブ(付加価値がない商社の給与が一番高く、工場と小売という最も重要な拠点が下がっている私の造語)になっている。

 問題は、こういう話は数十年前から言われてきたなかで、「それでも、生き残っている」とみるか、「もう、ここまできたか」と見るかで見方が180度変わってくる点だ。

 この分岐点がみえないのは、まさに「茹でカエル」状態だからだ。

  しかし、今は日本企業より給与が高くなった中国企業が日本に出店(でみせ)を作り、従来商社がやっていた書類業務を代行し、「輸出国指定倉庫渡し」を加速させているのは伝えたとおり。現在は、従来商社が「常駐ビジネス」といって、アパレルの生産部に入り込んでいたが、「電話交換」しかしていない商社を飛ばし、日本語のできる中国人がアパレルに常駐している。

 私が口を酸っぱくして商社にOEMから撤退せよといっても未だにOEMしかやっておらず、本社は「あいつらは」と苦笑いしている状況だ。結果、発注がフラグメント化して為替や金利とは関係なく「段取り替え」が発生するため原価高に陥ることになっているのが実態なのだ。

 勘違いしてほしくないのは、私は煽っているのではない。私がインタビューした人間は口を揃えて「もはや経営者を外部からつれてきて、従来とはまったくことなるゲームをしなければ悲惨な目にあう」と言っているのに、当の本人達の耳に入っていないのだから始末が悪い。

素晴らしい技術を持つ日本、しかしマーケティングは三流

Pavel Muravev/istock/istock
Pavel Muravev/istock/istock

 実は、日本という国は伝統的に素晴らしい技術力をもっている。忘れもしない思い出がある。ガラケー時代、すでに07年からバスや電車の乗り降りでは非接触型決済である「モバイルSuica」を「おサイフケータイ」を通じて利用できた*。一方、今や世界の覇者となったiPhoneは同じ07年から販売開始したものの、長らく非接触型決済には非対応でバーコードで代替していた。日本では2016年からようやく始まった。
注:モバイルSuicaの開始は2006年、バスでSuicaが使えるようになったのが2007年だ

 しかし、その「おサイフケータイ」も「iモード」も「ガラケー」も今や消え去った。技術が負けたのではなく、製品トータルとしての付加価値でガラケーがiPhoneに負けたのだ。技術面でいかに優れていようと、使ってみれば、消費者にとっては、さほど差は無い。にも関わらず、日本企業は青い鳥を追いかけた。その間、Appleは世界中から技術でなく、一流デザイナーを雇い、シンプルで美しいiPhoneのデザインを構築、進化させていった。 

 Appleの哲学は至ってシンプルで、「消費者にとって必要なものは画面が空中に浮いている存在で、コンピュータと人間の会話は指で行う」と、iMacやiPadなど今となっては誰も疑わないUI / UXを創造した。マニアックな世界に閉じこもり、消費者の生活をどう変えるのかという大きな視点が抜けている日本企業をあざ笑うかのようだ。

 「技術は一流、マーケティングは三流」は、繊維産業の全てにあてはまる。

 話を繊維・アパレル産業に戻すと、今でこそハイライトされている「ホールガーメント」(無縫製)も同じことが言える。一体、この技術は消費者にどのような価値を提供するのか答えはまちまちだ。

 例えばユニクロは、「つなぎ目がない着心地の良さ」とキャッチコピーを書いているが、「ニットのリンキング(ニット製品のつなぎ目)の有無を着ただけで感じられる人」が何人世界にいるのだろうかと思う。着心地など変わらない。むしろ、針の減らし目こそニットがニットたるゆえんで、クラフトマンシップを感じさせる。

  ホールガーメントは、「編み」という、一本の糸を編むことでパーツを成形し服のパーツをつくる。ニットというのは、編み目と編み目を目視で一針(1インチに16本の針がある)に通してつなぐ手作業が必要になるのだが、これが、不要になる生産効率こそホールガーメントの真骨頂だ。だが、私から言わせれば「So What?(それがどうした?)である。 それよりもイタリアのナポリあたりの職人がハサミで切った波打った生地の方に高い金を払うだろう。それがブランドというものだ。

 日本が最も強い「素材産業」についても同じことが言える。もちろん全ての企業がというわけではないが、一例として、一時期、数百億円もの金を集め注目をあつめた「タンパク質」繊維は一体どこにいったのだろうか。この会社は大学時代に起業されたもので、将来のSDGsもあって、恐ろしいほどのバリエーション(企業価値)がついた。

 簡単にこの繊維の仕組みを説明すると、世の中のものというものは、すべてタンパク質でできている。それを元のタンパク質に変えて全く異なる繊維に変えてしまう技術なのだ。これは、一般的にサーキュラーエコノミーと言われるが、その実態は前工程で無造作に捨てられたゴミを手作業で分類しているのだ。だから、服を捨てても大丈夫、また服になりますとと皆信じていたのだ。

 だが私はこの技術も上記と同様の運命を辿るのではと危惧している。結局、すべてが技術視点で消費者視点ではないからだ。私から言わせればバリューチェーンの設計がデタラメであり、通常の素材の「100倍の値段」になるという。

 不完全な技術でもどんどん世に出して、アップデートという名目で徐々に改良してゆくデジタルアプリの戦略を見直してもらいたい。「完全なものしか世に出さない」というのは技術者のエゴで、どどんなに素晴らしい技術でもタイミングが外れればいずれ市場から消えてなくなるだろう。

 

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海外に興味無く、いまだに中国・韓国は脅威ではないと錯覚!

textile industry worker checking inventory with digital tablet before shipping

 最初に断っておくが、私は日本を心から愛している。だからこそ、日本の力を世に知らしめるにはブランド・マーケティングこそが大事であり、「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社)を処女作として上梓した。アジアの先端技術を再三ここで紹介し警報を鳴らしている私を売国奴と宣う方達にいいたい。 

 私が商社マンだった頃、「日本の技術を見たい」と、よく尾州地区にイタリア人をつれていったものだった。イタリア人は一生懸命日本の技術を研究し、また、長袖の赤いシャツを半袖の青と白のショートシャツに染め直し、着丈を半分にしてしまったときには、思わず歓声があがった。しかし、すでに愛知県・一宮にはこうした産業は跡形もなくきえてしまった。

 そして、いまだに「日本は安心安全、中国製や韓国製などの安物をお客が使うはずがない」と信じている「世捨て人」のような学者も存在する。しかし中韓は、官民をあげて日本の国家予算並みの投資を行ってきた。勝敗は明らかだ。

 その学者たちは、実業の経験がないから、例えば、Sheinが今でも一日で3000SKUの商品を「生産」できると信じている。私がこの連載にSheinの残品リセルの決定的な写真を掲載したのに、それを見もせず絵空事だと信じ、私は本件について深く聞きたいと投資銀行の海外本社からダイレクトに話をすることになった。これが日本の産業界のレベルである。

 またアパレル企業は、検品なら品質管理部という組織が専門でやっていて、4時間で3000枚を出荷しなければならないような場合、ライティング、穴あき、汚れを一枚ずつチェックするよう指導する。だが、そんなこと現場では不可能で、実質抜き取り検品になる。

 そんなとき「検品を中国でやれば良い」と誰かが言い出してはじめて「全量検品」が可能になることに気づくのだが、こうした発想はサラリーマン化したアパレル企業からはでてこなかった。現場で四苦八苦している商社や工場からでてきた発想なのだ。私は20代の中国人が数百人が目視検品をしているのをみて腰を抜かしたこともあった。

 すべては、現場をみていないから起きることだ。

無くなった方が良い半官半民団体

 半官半民の委員会や教育機関は、次々と合併を繰り返している。私は、自らがクビになったから言っているのではなく、いっそ無くなってしまえば良いと思っている。理由は、我々の血税を無駄に使っているからだ。私は、昔の生徒に「なんで河合さんの講座がないの?」と連絡が来る。

 半官半民団体は、特定アパレル企業の「天下り先」となっている。私が以前関わっていた半官半民の教育機関は巨額の預貯金があり、その平均年齢は65-70歳ぐらいだった。こうした活動に、ファーストリテイリングや外資SPAは参加しない。ムダだからだ。出るのはお爺さんと業務を知らない大学の先生で、先生は、ただひたすら「デジタルをいれろ」を繰り返す動画を見せていた。 

 その教育機関で最悪なのは、例えば私が最新の中国事情やSDGsの潮流について話をしても、出席者は課長クラスである点だ。本来は、取締役、社長がでて世界を学ぶべきで、そこから正しい判断ができるのだ。「経営者こそこの講演を聞くべきだ」とこれまた同じことを何年も繰り返すが、一度も実現した試しはない。結局、お遊びで、本気になっていないのだ。

原価高を消費材に転嫁:ユニクロが中価格帯へ

 さて、米国では、もはや「ファストファッション悪玉説」はなくなったといえる。むしろ、「ファストファッションの勢い」こそ、見習うべきだという論調が主流になっている。アメリカが右を向いたら盲目的に右を向く日本企業はどう出るだろうか?

 ファストファッションの定義を「売り切り御免」 x 「超低価格」とするなら、MDという仕組みそのものをリデザインする必要はある。そうなれば、グローバルレベルで「勝ち組」、あるいは勝ち組になりうる可能性のあるブランドは「GU」「しまむら」「ハニーズ」などがそれにあたる。実際、彼らは巨額の利益をだしている。その反面、一部の企画力の高いセレクトショップ業態を除くと、ほとんどのブランドが、ユニクロと価格帯がバッティングするようになった。

 私もユニクロでブルゾンを買ったのだがレジで驚いた。なんと、一着 約7,000円もするのだ。あと一声でモールの「中価格帯レベル」ではないか。「ユニクロは安い」というのは昔の話である。今、衣料品でユニクロに勝てる商品は存在しない。

 ユニクロ最後の砦(とりで)、それも最も難しい商品は高級革小物(バッグ、財布、高級シューズ)やシルバーグッズ(男性向けファッションリングなど)だろう。こればかりは、現在のユニクロの店舗業態のままでは難しい。私は、都内の渋い個人経営のセレクトショップなでコードバンの手作りのイタリア製の財布などをみると心がウキウキしてくる。これが、クラフトマンシップを含めたリスペクトというものなのだ。

 さて、今日はアパレル企業の「誰もが」思っているが、口に出して言えないことを書いた。私は、事業再建をするとき、課題をすべて見える化する。「見えない化」と「仮説という名のいい加減な想像」が、サプライチェーンをメチャクチャにしているのである。

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

株式会社FRI & Company ltd..代表(2023年8月1日に社名を河合拓コンサルティング株式会社より変更)Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。最近ではAI企業、金管楽器メーカー、中国企業などのスタートアップ企業のIPO支援などアパレル産業以外にクライアントは広がっている。座右の銘は生涯現役。現在は自費で大学院で経営学の、独学で英語の学び直しを行っている。
著作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送サテライトTV」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議にたびたび出席し産業政策を提出。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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