事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年10月21日 20時57分
本日は、アパレル企業の事業再生後半をお届けしたい。軽く前回のおさらいをすると、事業再生は「キックオフ」と呼ばれる改革のスタートを全員で行う儀式からすべてが始まる。キックオフまでに、計画に穴がないか、また、そもそも正しい計画なのかを再度見定めてキックオフを行うことはいうまでもない。今回はその続きだ。
実行フェーズ 現場の信頼を獲得し、「生の情報」を得る!
コンサルティングの世界では、ペーパーに書き綴った計画を実行に移すことを「インプリメンテーション」という。インプリメンテーションで大事なのは、クライアントと仲良くなり絶対の信頼を勝ち取ることだ。
私の場合、そのために自分の席を現場の真ん中に置いて現場の人と一緒に仕事をするようにしている。現場で仕事をし続け信頼を獲得していくと、「本当か?」というような貴重な情報が入ってくることがあるからだ。
実際気心が知れてくると、私宛に支援先の社員(当然、近くで一緒に仕事をしている)からメールがよく届くようになる。中には「河合さん、お話ししたいことがあるのですが、内密に時間をとれますか」というものも少なくない。話を聞くと、今起きているトラブルの原因は自分の上司だが、自分の上司はそれを隠蔽しようとしており、また、上司だから指摘することもできない、といったものだ。こんな話がどんどん入ってくる。「現場」は見ているのだ。
もちろん、得た情報を元に直ちに改革に入れると“ややこしい”ことになるので、まずは情報をすべてヒアリングしたうえで、ノートに書き込んでおく。複数の社員との1対1の「インタビュー」を通して上手に裏取りをすることは、言うまでもなく重要な仕事だ。私たちは常にニュートラルでなければならず、誰かにバイアスをかけられてはいけないのである。
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従業員50人と1対1でインタビュー
不都合な真実を知る!
さて、インプリメンテーションは、まずはインタビューからスタートする。インタビューには、絶対に誰も同席させない。「変なことを言わないだろうか」と気が気ではない人がインタビューに同席し、睨みを利かせたいからだ。こういう人間がいると、インタビュー対象者は本音を語らないし、極端なケースになるとインタビュー対象者はずっと黙ったままで、上司が最初から最後まで話すこともある。「それなら、俺の方が詳しいぞ」言わんばかりで、不都合な真実を隠ぺいするのだ。
インタビューは、20人から50人の規模で行う。企画(MD)、生産、営業からトップを数名ずつ、キーパーソンを選抜する。一日に3~5人とインタビューを行い、10日ぐらいですべて終了する。途中、20人ぐらいにインタビューしたところで、おおよそ問題のありかが分かり、依頼された内容とは「異なる真実」が判明する。30人を過ぎると、あとは同じ内容の繰り返しになり、この段階までいけばインタビューは成功だ。これで、クライアント以上にクライアントの内状が理解できている状況になる。
インタビューの成果物は、現場に見せなければならない。せっかく協力してもらったのだ、黙って持って帰ってはならない。協力してくれた人々を集め、辛辣な言葉がちりばめられたインタビュー結果を披露する。誰が発言したのかは秘密にしてあるため、誰も何も言わないし、こちらからも聞かない。ある種の異様な雰囲気に包まれ、インタビューセッションは終了する。
4KPI駆使し財務分析
すべて適正値の場合、問題があるのは?
次に、インタビューをしている間に同時進行で分析していた財務分析も披露することが多い。ここで財務分析の際の簡単なポイントを説明したい。
どの現場にいっても、「在庫が山のように溜まっている」「回転率が異様に長い」「生産リードタイムも半年以上かかる」など、課題ばかりだ。そこで、本連載で再三説明している4KPI (プロパー消化率、オフ率、企画原価率、残品率)を駆使して、いろいろな角度から事業を分析するのである。
プロパー消化率は、50%以上であれば及第点。オフ率は50%。企画原価率はショッピングセンター向けであれば35%、百貨店などであれば25%ぐらいである。最後に残品率は10%程度だ。4KPIの値がこのようになれば、営業利益率は10%を超える。
もし、4KPIがすべてこの範囲に収まったとしても、営業利益率が数%しかでない場合は、販管費に問題がある。特に店舗売上は、月坪25万円、人件費は15%程度になるように工夫をしなければならない。
現場が自発的に課題解決するように!
そこに至るまでに重要なこととは
さて、インタビューには現場と一体感を醸成するという役割と、もうひとつ、とても大事なことがある。それは、「絞り込まれた課題のありかを見つけ出す」というものだ。
定量調査(主に財務面)、定性調査(主にオペレーション面)でしっかり裏もとっているので、課題の特定はされたも同然なのだが、なぜか、この段階で「自分はそんな分析には賛同しない。勝手にやってくれ」と斜に構える人がでてくる。
これが最初の難関だ。この場合、プロジェクトに非協力的な人は無理にプロジェクトに参加させないようにし、スケジュール通りにプロジェクトに協力的な人達だけでプロジェクトを進めてゆくのがよい。横で盛り上がっているプロジェクトを見ながら、「楽しそうだ、自分も入りたい」と思うようになってくるからだ。途中からだが入れてほしいといってきたら、何事もなかったようにメンバーに入れてあげる、再生は、自らが「やる」という気概を持たねば成功しない。やりたいと思ってくれた段階でメンバーにいれればいいのだ。
このように、論理的な課題解決手法を導入していくと、従業員自らが主体的に課題解決をするようになってくる。時に、スケジュールを逸脱するようなやり方でプロジェクトを進めてくることもあるが、それでも「褒める」ことが大事だ。人は褒めるとドンドン成長するからだ。従業員自らが改革のグループをつくり、課題解決をやり始めたら、コンサルタントの仕事は終了する。
実際、あるプロジェクトで「まだ終わっていないではないですか?」と部下に言われたことがあった。私は、「彼らの動きをみてみろ。自分達で課題解決できるようになってきた。ここまできたら、コンサルの力は不要だ」と返したのである。
自分で考え、自分でプロジェクトを解決するようになった時、コンサルは不要になり、コンサルとしての支援は終了する時なのである。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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