イタリア繊維産業に学ぶ、高くても売れるビジネスの秘密とは 染めと売り方が段違い
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2024年11月25日 20時57分
なぜわれわれはイタリア製の生地、繊維を「かっこいい」「素敵」と思ってしまうのか?そして、それは一般消費者だけでなく、アパレルのプロのバイヤーにとっても同じことだ。「高くても売れる」イタリア繊維産業の秘密を解説しよう。
アパレルの素材、覚えるのは3つだけでOK
まず、「素材」の話からはじめたい。
衣料品の天然素材は、春・夏用の「コットン」、秋・冬用の「ウール」が代表的で、これに光沢を出す装飾的色合いの強いフィラメント系の「シルク」がはいる。この3つの素材にはそれぞれ代替品として生まれた「合繊」「化繊」と呼ばれる人工の糸がある。綿の代替は「ポリエステル」(元は資材用途だった「ナイロン」も)、ウールの代替は「アクリル」、シルクの代替は「レーヨン」である。またコットンの派生形としてはいずれも天然繊維の麻やラミーがある。
それぞれ用途や目的、予算、風合いによって使い分けているわけだが、基本的な天然繊維として「コットン」「ウール」「シルク」の3つを覚えておけば素材に関しては十分だ。
昨今の円安とディスカウンターとの競争から「もはや値段を上げられない」という状況になって、「アクリル100%」というゲームセンターの景品並の素材を日本の伝統あるアパレルが使い始めたこと、またアクリルとウールの違いさえ分からず、購買する消費者が増えていることはなんとも嘆かわしいことだ。ここからは私が10年間イタリアの「糸担当」だったころの話を交え、誰も書けないイタリアと日本の紡績(Spinning)について書いていきたい。
イタリアの紡績は「染色」が先 その理由は?
糸を染める際、①まだ綿(わた)の段階で染めて紡績するか、②生地糸をつくって紡績して染めるかのいずれかである。前者を先染め、後者を後染めという。
イタリアは前者、日本の工場は後者である。染色工程を前に置くことと、後ろに置くことで何が変わるのだろう?
前におけば、例えば、違った色綿(わた)同士を組みあわせ、メランジ(色に濃淡がある)色につくることができる。これによって、色に深みと面白さを出すことができる。これに対して日本などの後者は、ベターッとのっぺりとして単色ゆえのつまらなさが出てくる。
この違いは一目でわかるものだ。私は、この先染めの勉強をするため、イタリア北部のコモ湖の近くまで染色工程を見に行ったことがある。
先染めにも欠点がある。それはすべての色をストックしなければならないということだ。綿(わた)を染めるときは、ある程度の量を一度にやらなければならず、必ずストックがうまれるからだ。しかし、イタリアはこの弱みを強みにする戦略をとっている。
イタリアは1㎏からサンプル見本を出荷してくれる。これに対し、後染めしかできない日本の場合は15㎏(ミニマム)からの出荷となり、使い勝手が悪い。
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「トレンドの発信」で弱みを打ち消す!
イタリアの紡績の強さは、トレンドの色を追いかけるのでなく、「トレンドを発信できる」点にある。発信できるから、「来年はこの25色でいこう」という具合に色をしぼることができる。そしてカラーカードをつくって「これ以外の色は染められません」と「上から目線」でバイヤーサイドと接する。それでも、日本のアパレル企業は、自分では流行をつくれないし、失敗するリスクを負いたくない。「イタリアのxxx社はこれが流行ると言っていた(から仕入れた)」と人の責任にできるからよく売れる。このように、イタリアは余剰在庫を抱えることを、「色を発信」することで回避しているのだ。
もうひとつ、イタリアの紡績の強さは、”LABO(ラボ)” といわれる企画室を設置している点にある。そこに世界の一流デザイナーやクリエイターを招聘して、あれやこれやと編み地をつくるのだ。この”LABO”には試紡(しぼう)といって、サンプル作成用の編み地を使ってどんな複雑な素材でも数分〜数時間でつくってしまう。そして「ああでもない」「こうでもない」と議論を交わし、双方にとってよいものをつくる。
このとき、デザイナーは、できあがった編み地を見て、自分がつくりたいサンプルを頭の中でイメージできるのだ。日本の紡績工場だとそうはいかない。酷い例だと、糸の段階で「どうですか?この糸は穴が6つあいていますよ。昨年は5つでしたよね」など、その「穴」が何のためにあるのか分からずに技術ドリブン(技術優先)でものをつくりがちだ。これでは単価をあがらないし、トレンドの色を追いかけざるを得ない一方、サンプルのロットが大きすぎるという欠点も解消できない。
「イタリア型」の仕事をするユニクロと東レ
こうした「すったもんだ」を繰り返している日本のアパレルと繊維工場を尻目に、実にうまく「イタリア型の仕事」をしているのがユニクロと東レである。東レは、レーヨンというパルプからつくる原料の糸をつくるのがうまい。「HEATTECHとはどうあるべきか」「これをよりよくするためにはどうすべきか」というテーマを消費者の声を参考にして開発・改良しているのだ。
こうしたやり取りを紡績の綿からつくり、素材を供給しているのは、ユニクロの他にはオンワード樫山ぐらいしか私は知らない。サウスオーシャンという香港で1、2を争うニット工場と協力し、VMI (Vendor Management inventory 在庫水準点を在庫が下回ったら発注書無しで原料をつくる)で、各店舗にディストリビュートしている。
立場上、直接東レの強さの秘訣を書くことができないので、もどかしいのは承知の上で、イタリアの紡績の強さの本質を論じ、それと近い戦略で展開する部分にこそ東レの強さの本質があるという書き方にさせてもらった。さらに書ける部分があれば今後別途書いていきたいと思う。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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