小売業をより進化させる!生成AI活用7つの領域とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2025年1月27日 1時55分
前回の記事で、生成AIに寄せられている大きな期待と、小売業における導入の課題についてご紹介しました。さまざまな期待と課題が入り交じる生成AIですが、課題をクリアして導入が実現した場合、具体的にどのようなメリットが期待できるのでしょうか。今回は小売業における生成AIの活用について、7つの具体例をご紹介しましょう。
生成AI活用①パーソナライズされた商品推薦・コンテンツ提供
まずは、生成AIを活用する上でイメージしやすい例を挙げてみましょう。
たとえば「ビールを購入する顧客が、おつまみも一緒に買う」という行動はよくある流れですが、小売業側が個々の顧客に都度提案を行うという仕組みはまだ整っていません。現状では顧客が棚から商品を選び取り、自らセルフレジで決済するという形が一般的で会話すら行わないのが現状です。
ここで生成AIを活用すれば、「自動でよりパーソナライズされた商品提案」を実現できます。
ほかにもアパレル業界では、店舗で黒い服をレジで購入する顧客に対して、黒い服を画像で認識し、白いパンツをスタイリング提案としておすすめするなど、個別のニーズに合わせた提案ができるようになります。生成AIの強みは、このような画像認識能力にもあります。
これは、テキスト情報においても同様です。商品説明に「トップス」と書かれていても、素材の綿の割合や手触り・丈感・フィット感などは定性的な要素であり、数字だけでは顧客も判断しづらいことが多い要素です。
しかし、生成AIを使うことで、たとえば「タイトなデザインが好きな方にオススメ」や「肌触りを重視する方に最適な綿製品」など、顧客の嗜好に応じてパーソナライズされた提案が可能になります。これが従来のパーソナライズツールと、生成AIを活用したパーソナライズツールの大きな違いです。
このようなAIを活用した商品提案は、購買データを活用することで、ECサイトだけでなく、実店舗でも行えるようになるのです。
生成AI活用②顧客対応業務の置き換え
メールやチャット対応、さらには店舗での電話対応など、これまで人が行っていた顧客対応業務は、ほぼすべて生成AIに置き換えることが可能となりつつあります。
たとえば、営業時間や商品在庫の確認、注文商品のステータス確認、返品対応など、さまざまな業務をAIが低コストで効率的に処理できる点は大きなメリットです。顧客対応業務の置き換え、これが2つ目です。
ただし、すべての顧客対応をAIに任せることが必ずしも良い結果をもたらすわけではありません。顧客満足度を維持・向上させるためにはAIの運用方法をしっかり設計する必要があります。
まずはAIが問い合わせ内容を自動で分類し、必要に応じてコールセンターのオペレーターが対応するか、AIで自動対応するかを判断する仕組みを導入する方法が効果的です。
また、生成AIは過去の購入履歴をもとに、顧客に対して売上につながる提案を行うことも可能です。これにより、顧客対応だけでなく売上促進にも寄与できる攻めと守りの両方で活用できるツールとして期待されています。
生成AI活用③需要予測と在庫の最適化
また、生成AIは過去の購入履歴をもとに、「顧客に対して売上に繋がる提案を行う」ことも可能です。これにより、顧客対応だけでなく売上促進にも寄与できるツールとして期待されています。
小売業において、メールマガジンやLINEでお知らせを送る作業は、時間がかかるうえに熟練したスキルが必要ですが、労働力の減少により、この業務を継続することが難しくなってきていました。
しかし、生成AIの登場で文章や広告の自動生成が進み、ターゲットに合わせたキャッチコピーや商品提案の文面をほぼ自動化できるようになりました。
さらに、バナー広告の自動生成も進化しており、現時点ではまだ人間の作成レベルには及ばないものの、今後1年程度で人と同等のクオリティに達すると期待されています。広告やメール作成が自動化されることで、作業効率が飛躍的に向上するだけでなく、購買履歴や顧客属性、来店・来訪履歴などを基に、個人個人に最適化された広告を作成することが可能なのです。
これまでのマーケティングでは、A、B、Cの3パターン程度にターゲットを分けていたのに対し、生成AIを使うことで、無限にペルソナやターゲットを細分化し、100パターンでも1000パターンでも一気に作成できるようになります。
とくに小売業においては、広告やマーケティングにかかるコストが大きかったため、この自動化の効果は非常に高いとされています。さらに、紙のチラシだけでなく、デジタルチラシも顧客の属性に応じて自動生成できるようになり、これからのマーケティング領域で大きな期待が寄せられています。
生成AI活用④需要予測と在庫の最適化
小売業では長年、発注や在庫管理において過剰在庫や欠品が問題視されており、とくに季節商品ではその影響が大きく出ていました。この課題に対しても生成AIの導入により、需要予測の精度が大幅に向上しています。つまり生成AI活用4番目は「需要予測と在庫の最適化」です。
これまでの予測は、天候やイベント、店舗や商品の特性に基づいて在庫量を調整してきましたが、データの限界があり正確な予測が難しい場面も多くありました。
たとえば、店舗に訪れる人数や、その中で実際に商品に触れた人数、さらにその顧客の性別や年齢、来店頻度など、詳細なデータを収集することは困難でした。しかし、これらの情報を把握できれば、在庫の最適化に必要な精度を格段に高めることができます。
今後は、店内に設置されたカメラを通じてAIが顧客の行動を認識し、判断することで精度が向上していきます。これまでカメラやそのほかの端末を使った認識技術が進まなかった背景には、カメラや端末にかかるコストが大きな負担となり、毎月の維持費が生成AI導入コストに影響を与えていたことがボトルネックとなっていました。
しかし、近年ではカメラ導入コストが大幅に下がり、需要予測や在庫の最適化が進んでいます。
生成AI活用⑤商品企画、商品開発への活用
また、小売業では、単に商品を仕入れて販売するだけでなく、OEMや商品企画など、商品開発の重要なシーンにおいても生成AIの活用が大いに期待されています。小売業では、店舗に訪れる顧客のニーズを直接聞き出すことが難しく、とくにセルフレジが普及したスーパーマーケットなどでは、前述の通り顧客との会話すらないことが一般的です。
しかし、楽天市場やAmazonなどの大手ECサイトのレビューを生成AIに分析させることで、顧客がどのようなニーズやトレンドで商品を購入したのかを瞬時に把握できるようになっています。
このような「生成AIによるレビュー分析」は、ニーズやトレンドを的確に把握し、新商品の開発に大きく貢献する可能性があります。
さらに、レビューだけでなく、SNSや化粧品専門サイト「アットコスメ」などでも、AIが売れている商品の成分やデザインを解析し、新たな商品企画に活かすことができます。このような商品開発における生成AIの活用は、今後さらに幅広い分野で進化し、すでに多くの企業が導入を進めている領域です。
生成AI活用⑥バーチャル試着室の活用
すでに一部の店舗やECサイトでは、生成AIを活用したバーチャル試着室が導入され始めています。
従来、フィッティングを行うためには実際に店舗に行き、試着室で着替える必要がありましたが、店舗が混み合っていたり、忙しい週末などにその時間を確保できず、購入機会を逃してしまうことがありました。このような課題に対して、「購入したいけれど、サイズや自分に似合うかどうかが気になる」という顧客に向けた、バーチャル試着室が解決策として注目されています。
バーチャル試着室の具体例としては、2Dアバターや自身の写真を使用して、仮想的に服を着せ替えるものが一般的です。たとえば、自分の写真をアップロードし、Tシャツやアクセサリーを試したり、メイクアップやヘアスタイルのバーチャルシミュレーションも可能です。これにより、どのようなメイクやヘアスタイルが似合うかを、実店舗に行かずに確認することが可能です。
バーチャル試着室のメリットとしては、顧客が「今すぐ欲しい」と感じた商品を、すぐに確認できることで購入する意思が高まるため、購買率の向上が見込めます。また、実際に試着を行うことで、サイズやデザインが確認でき、返品率が低下するという効果も期待されています。
生成AI活用⑦店舗レイアウトの最適化
生成AI活用の最後は「店舗レイアウトの最適化」です。小売業では、棚割りをシーズンごとに変更する店舗が多いのですが、レイアウトの最適化は商品部や各店舗の判断に依存することが一般的でした。しかし、AIを活用すれば自動で最適化することが可能になると、大きな期待が寄せられています。
具体的には、POSシステムで把握している売れ筋商品に加え、店舗内に来店した顧客が手に取った商品や、隣の商品との比較を通じて購入を決定した過程、さらに他の商品とどのように組み合わせて購入したかを、店舗内カメラを用いて学習することができます。これにより、どの商品を近い位置に配置するか、どの売場を入口近くやレジ横に置くべきかといった、店舗レイアウトや導線をデータに基づいて自動的に設計することができるようになります。
これまで属人的だった店舗レイアウトの決定が、データ学習を通じて自動化されることで、商品の補充や陳列、アルバイトの配置といった業務も最適化され、どのタイミングで作業を行うかまで自動的に組み立てられるようになります。
店舗レイアウトは売上に対してとくに大きな影響を与える要素ですが、商品のマーチャンダイジング(MD)や、どの商品を仕入れて並べるかなど、重要性が高い分野でありながらこれまでデジタル化が進んでいませんでした。しかし、画像や動画認識技術の発展により、この障壁が取り除かれつつあります。
まとめ
『生成AIの活用』と聞くと、単純な文章や画像の生成などに注目が集まりがちですが、環境を整えてデータを学習させることで、従来の小売マーケティングに変革を起こし、オペレーションコストやリソースの大幅な削減を可能にするなど、これまで実現できなかったような施策が可能となります。
ほかにも、幅広いターゲットに向けたパーソナライズ接客や広告展開すら自動で実現してしまうのが、生成AIに寄せられている大きな期待とインパクトなのです。これだけ大きな変化が起こるAIの導入が遅れると、ライバルとの差はあっという間に開いてしまう可能性もあるため、しっかりと熟慮して準備を進める必要があるでしょう。
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