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第2次ブーム到来!? セブン&アイ買収提案で注目集まるMBO、そのメリット・デメリットは?

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2025年2月11日 20時55分

winhorse/iStock

国内流通トップ企業、セブン&アイ・ホールディングス(東京都:以下、セブン&アイ)への買収提案が注目を集めている。カナダのコンビニ大手、サークルKを世界展開するアリマンタシォン・クシュタール(Alimentation Couche-Tard:以下、ATC)は、セブン&アイの米国事業を主眼に、7兆円規模で買収をねらう。その対抗策としてセブン&アイ創業家(同社代表取締役副社長の伊藤順朗氏および同氏が関係する会社である伊藤興業)は、特別目的会社を設立しセブン&アイに対してTOB(株式公開買付)を行い非公開化(上場廃止)するという、MBO(経営陣による買収)に近いかたちでの買収提案を行ったとされ、総額9兆円規模との報道も出ている。

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“第2次MBOブーム”が到来?

 この創業家が検討しているといわれるMBOは、実はいま、“第2次MBOブーム”の到来かと言われるほど、増加傾向にある。MBOによって上場を廃止する「非公開化」事例は、2001年に初めて登場、11年にピークを迎え、その後落ち着いていたが、20年を過ぎるあたりから再び、活気づいてきた。

 この約1年を見ただけでも、一般の人にもよく知られているような上場企業がMBOを実施し、上場を廃止している。大正製薬ホールディングス(24年4月)、アオキスーパー(24年5月)、ベネッセホールディングス(24年5月)、スノーピーク(24年7月)、アウトソーシング(24年6月)、永谷園ホールディングス(24年9月)、APAMAN(24年10月)などだ。このうち、アオキスーパーを除き、投資ファンドを活用してMBOを実施している。

 以下には、06年以降に実施された、主な流通小売業のMBO事例を以下にまとめた。流通小売業においても、全業種での傾向同様、11年をピークとする第1次ブーム、20年あたりから始まる第2次ブームの到来がうかがえる。

ただし表からもわかるように、投資ファンドを活用するMBOは多くはない。

MBO完了時期 上場企業名 主たる事業内容 投資ファンドの活用 MBO後
2006年 6月 すかいらーく
(現すかいらーくホールディングス)
外食 14年にすかいらーくホールディングスとして再上場
2009年 9月 リオチェーンホールディングス 婦人服販売    
10月 オオゼキ 食品スーパー    
12月 チムニー 外食 投資ファンドと組んでのMBO、2012年に再上場
2010年 5月 ユニマットライフ コーヒー・紅茶・清涼飲料水・食品日用品雑貨の販売    
2011年 1月 サザビーリーグ 衣食住ブランドの企画、販売及び卸売等    
3月 エノテカ ワインの輸入販売  
8月 ゴトー 紳士服、レディス、キッズ衣料の販売    
9月 コージツ(現好日山荘) 登山用品・アウトドア用品の販売  
10月 バルス(現Francfranc) インテリア・雑貨の企画、開発、販売   13年セブン&アイが子会社化。投資ファンドを経て、24年8月、アインホールディングスが子会社化し、10月インテリア・雑貨の小売事業についてはアインファーマシーズが承継
2012年 1月 アップガレージ
(現アップガレージグループ)
中古カー&バイク用品の買取・販売   組織再編後、21年、グルーバーとして上場。23年、アップガレージグループに商号変
2013年 5月 メガネトップ メガネ、コンタクトレンズ、補聴器の販売    
9月 タイヨー 食品スーパーほか    
11月 クレックス ガス及びガス器具類の販売    
2018年 12月 一六堂 飲食店経営    
2020年 3月 総合メディカルホールディングス
(現総合メディカルグループ)
調剤薬局ほか 24年2月、別ファンドに売却
10月 キリン堂ホールディングス ドラッグストア 23年11月、一部株式を同業のサンドラッグに売却
2021年 6月 ファミリー 中古車販売、輸入車正規ディーラー    
10月 オンリー 紳士服・婦人服・雑貨の販売    
2022年 11月 プレナス ほっともっとFC、やよい軒FC    
2023年 7月 ピーシーデポコーポレーション 周辺機器、中古、パーツの販売、修理、    
2024年 2月 アオキスーパー 食品スーパー    

MBOとは何か

 そもそもMBOとは何か。マネジメント・バイアウト(Management Buyout)の略で、自社の経営陣が自社または自社の事業の一部を買収することをいう。経営陣の自己資金のみで買収するケースもあるが、とくに上場会社に対するMBOでは多額の買収資金が必要となるため、経営陣がPE(プライベート・エクイティ)ファンドと協力して資本(エクイティ)を調達し、そのエクイティを基に金融機関から借入金を調達して買収資金とするLBO(レバレッジド・バイアウト)による買収手法が多くみられる。

 すべての株式の買い取りを前提とするMBOが大半のため、上場企業が実施する場合には証券取引所への上場が廃止(非公開化)となる。借り入れなどによる買収資金はそのまま被買収企業が引き継ぐことになる。

 ではなぜ、上場企業という「看板」を返上してまで非公開化(上場廃止)に向かうのか。

 非公開化をめざす多くの企業に共通するのが、短期的な業績変動や株価動向、株主の要求などにとらわれず、中長期的な視点から経営課題に対処するためには、いったん非公開化するのが望ましいという判断だ。

 とくに昨今は、事業環境の変化が著しく、非公開化により経営改革への意思決定を迅速化したいという狙いもある。そのため、事業会社やコンサルティング会社などでの経験を持つ専門家が、資本や財務面だけでなく当該企業の事業を現場レベルで支援可能なPEファンドと組んでMBOを実施するケースが定着してきている。

MBO後、再上場のケースも

 MBOにより非公開化した後、再上場するケースもある。

 よく知られたところでは、すかいらーく(06年MBO、14年すかいらーくホールディングスとして再上場)、ワールド(05年MBO、18年再上場)がある。

 MBOから8年後に再上場を果たしたすかいらーくは、MBO後、創業以来の中核業態であった「すかいらーく」を完全閉店、出店ありきの成長から「ガスト」への転換やリモデルへの投資、顧客データの“見える化”などをはじめとした経営改革を断行した。ワールドは「企業体質強化のための構造改革プラン完遂」と「持続的成長に向けたコーポレートデザイン構築」といった目的の達成により13年後に再上場した。

 上場維持費用の負担増がMBOの理由の一つにあげられることもある。

 22年4月の東京証券取引所の市場区分変更に伴い、流通株式時価総額や流通株式比率、株主数などの上場基準が厳しくなり、中堅クラスやオーナー系企業にとっては上場維持のハードルが高まったといわれている。上場によって得られる資金調達や信用度、知名度などのメリットを考慮しても、上場維持に価値を見出せなくなった場合には、MBOによる非上場化は合理的な選択肢として考えられる。

 例えばアオキスーパーはMBO実施に際し、その理由として「上場から19年以上経過し、ブランドや信用力は確保できており、非公開化によるデメリットは限定的。上場維持に必要な人的・金銭的コストは増加を続けており、経営推進上の大きな負担となる可能性も否定できない」といった内容の開示をしている。

 そしてもうひとつMBOに向かう理由として見過ごせないものがある。

 MBOは企業価値を持続的に成長させるための手段であって、それ自体が目的ではないはずだが、敵対的買収(事前に被買収企業の取締役会の同意を得ずに発表される上場企業へのTOB。最近では「同意なき買収」と表現することもある)やアクティビストの攻撃に対応するための「究極の」買収防衛策としてMBOが実施されることもある。

 ただし最近は、そうしたアクションに対し「経営陣の保身ではないか」との批判も高まっており、安易な買収防衛策に対する株主の目は厳しくなっている。

 19年に経済産業省で策定された公正なM&Aの在り方に関する指針では「買収する側、買収される側双方の企業価値向上や株主利益に資する買収は『望ましい買収』と位置づけ、そうした買収の提案を受けた企業は真摯に検討するよう」求めている。これにより「経営者の保身につながる」と批判の強かった買収防衛策の抑止が進むことも期待される。

GCShutter/iStock

セブン&アイMBO、実現すれば過去最大のM&Aに

 さて、セブン&アイ創業家によるMBOの場合はどうだろう。

 買収提案に至る経緯から明らかなように、ATCによる買収に対する防衛策に近い提案と考えられる。

 しかし当該会社の代表取締役が提案する買収防衛策だからといって、そのまま取締役会の同意が得られるわけではない。経産省の指針に沿って、企業価値向上や株主利益に資する提案である限りは、ACTからの提案も、創業家からの提案も、社外取締役を中心に外部有識者で構成される特別委員会により、検討されることになるはずだ。

 セブン&アイが24年11月13日のリリースで明らかにしたところによれば、

当社の特別委員会委員長及び取締役会議長であるスティーブン・ヘイズ・デイカス氏は、以下のようにコメントしております。
「我々は、伊藤順朗氏及び伊藤興業からの提案、ACTからの提案、並びに当社が実行可能なスタンドアローンでの施策を含め、潜在的な株主価値の実現のための全ての選択肢を客観的に検討しております。
当社の特別委員会及び取締役会は、価値最大化に向けて各関係者との対話を継続すると共に、当社株主及びその他のステークホルダーの利益の最大化に向け、引き続き取り組む所存です。」

 としており、創業家提案によるMBO、同社の現経営陣による単独の生き残り策を含め、すべての可能性が含まれている。

 もし仮に、創業家からの提案のスキームが実行に移されるとすると、総額9兆円ともいわれる買収費用は、MBOとして最大であるだけでなく(これまでの国内最大は、24年1月大正製薬ホールディングスの7000億円超)、日本国内では過去最大規模のM&Aになる。

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