脱“割高感”!「独自商品なし」の食品宅配スタートアップ、驚きの戦略とは?
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2025年1月7日 20時57分
コロナ禍以降、急成長から定着フェーズへシフトしつつある食品宅配サービス市場に、スタートアップが独自戦略を携え、新規参入を果たした。モビリティ分野の新規事業などに携わり、社会課題の解消をテーマにキャリアを重ねてきた八田麻紗子社長のミールセレクト(千葉県)だ。オリジナル商品を持たず、激戦区へ乗り込んだ同社の戦略について、八田氏に聞いた。
共働き世帯7割超え時代の「家事」という課題
「おいしく栄養バランスの良いエキナカ総菜を送料無料で自宅に届けられないか?」
起業のきっかけは、バリバリと仕事をこなすキャリア女性として躍動する一方で、家事の時間を取りづらい毎日を過ごし、八田氏自身が感じた素朴な思いだった。
内閣府の最新調査によると、共働き世帯の割合は2001年から2021年までで約1.5倍増加。夫婦のいる世帯全体の約7割にまで達している。
仕事と家事の両立が難しい現実に直面する世帯が増える中で、家事時間を圧縮できれば、より豊かな生活が実現できる―― 社会課題の解決をテーマにこれまで、いくつかのプロジェクトに携わってきた実績もある八田氏が課題に据えたのは”家事の置き換え”だ。
こうした観点に着目し、拡大してきた食品宅配サービスはすでに多くある。だが、それぞれに一長一短があり、「家事の置き換え」と言えるまでに定着しているサービスは見当たらない。八田氏が着目したのは、それらが内包する原因だ。
例えばコロナ禍で一躍、注目を集め、利用者を拡大させたウーバーイーツなどのフードデリバリーサービス。ラインナップが充実しており、食べたいものがすぐに食べられる優位性があるものの、配達費用が上乗せされ、3割前後割高になるデメリットがある。
お気に入りの食品店で販売している総菜の冷蔵や冷凍商品の宅配サービスもあるが、単一メニューという限界がある。ネットスーパーという選択肢もあるが、どちらもやはり、配送コストが上乗せされ、コスト負担がのしかかる。
栄養バランスを考慮し、冷凍で簡単な調理で食せ、安定的に宅配されるサービスは、健康志向派の支持を集めているが、メニュー数が限られ、機能性重視の傾向で万人向けとは言い難い。
宅食サービスの課題克服といいとこ取りで勝負
同社のサービスは、こうした各サービスの”短所”をクリアし、いいとこどりをする形で開発が進められた。八田氏が説明する。
「宅食サービスのなかには自社商品を展開するスタートアップもあるが、やはり既製品を販売されているブランドには実績やノウハウ面で劣る。そこで、提供商材については良い製品をお持ちのブランドにお任せし、代わりに注文窓口となるWebサイトの充実やメニュー提案、商品選定、発送体制の整備などに注力することで総合的な満足度を高めていければと考えている。その際、割高になってしまっては持続が難しくなるので、店頭と同じ価格で販売できるオペレーションを作った」
こうした「割り切り」とシステムで、同社は「多様なメーカーの冷蔵および冷凍総菜を好みで組み合わせ、店頭価格で提供する」という、激戦の宅食サービス業界にあって、これまでありそうでなかった新たな市場を開拓した。
ブランド総菜を定価販売できる理由
宅配コストがかかるにも関わらずなぜ、店頭価格と同じ価格での提供が可能なのか。その点について八田氏は「注文の締切をギリギリまで遅らせることで、”受注生産”とし、本来なら売れ残るリスクを吸収。その分を最適なバランスで価格分配することでブランドとウィンウィンの関係を構築している」とからくりを明かす。
現在までに取り扱っているのは、「大戸屋」「紀ノ国屋」「べじはん」「RFFF」など9ブランドで、今後20前後まで増やす予定という。
サービスローンチまでは数回の実証実験を重ね、2年近くの時間をかけた。どうすれば家事の代替となりうる利便性の高いサービスになるのか、何度も試行錯誤。利用者の生の声もどん欲に吸い上げながら、サービスの穴を埋め、補修・補強しながら磨き上げた。
サービスとしての目処はついても、協力ブランドの開拓フェーズでは、意中ブランドと最終合意に至らず、「ものすごく落ち込んだ」時期があったという。それでも仲間に背中を押されながら、ローンチにこぎつけた。
まずは高収入の共働き世帯を対象に
当初のターゲットは、食の外部化にも積極的と思われる世帯年収の多い共働き世帯。そうしたことも踏まえ、サービスは東京の中央区、港区、江東区の3区からのスタートとした。
だからこその難しさがもっかの課題だ。「対象エリアの想定住居となると、チラシ投函の制約が厳しい実情がある。しかしネットよりもチラシのほうが効果があることは事前のリサーチで把握しており、引き続き対策を練る必要性を感じている」
まずは3区で3500人の会員獲得を向こう1年の目標に定める。将来的には幅広い層への展開も視野にいれており、独自の商品開発も検討するという。
食品宅配サービス市場は今後も当面、成長が続くと見られる。そうした中で、満足度の高い「調理家事の代替」をテーマとする同社のサービスは、共働き世帯の食の新たな選択肢となりうるポテンシャルを秘める。それだけに、どこまでコスパと利便性をターゲットに実感してもらえるかが、ポジション確保のカギとなりそうだ。
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