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狙いはZ世代だけじゃない KDDIがeスポーツ施設に取り組む理由

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2025年1月16日 20時55分

KDDI esports Style UENO

若年層を中心に絶大な人気を誇り、市場が急成長期にあるeスポーツ。「eスポーツ部」を設ける学校や企業も急速に増えている。かつての「ゲーム=悪」のイメージは薄まり、すっかり市民権を得たといえるだろう。

そのeスポーツへの追い風をとらえ、eスポーツ市場に参入する企業の動きも目立つ。中でも話題を集めているのが、通信大手のKDDI(東京都/髙橋誠社長)が20242月に東京・上野にオープンした「esports Style UENO」だ。携帯キャリア「au」や「UQ mobile」などで知られる同社がなぜeスポーツ市場に着目したのか。同施設を手掛けるキーパーソンに話を聞いた。

大会やイベントにも対応しうるハイスペック環境

esports Style UENOイベントエリア
イベントエリア

東京・上野駅を下車して徒歩数分。不忍通り、仲町通りの起点となる大きな交差点の一角に面するauの直営店「au Style UENO」に入店し、階段を上がると3階に「esports Style UENO」はある。

店内に入ると、まさにゲーム一色といった異空間だ。メーンフロアには所々にASUS社製の最新モデルのゲーミングPCとモニターが配備されている。正面のステージに設けられた7.2m×2mの巨大モニターは、最大10選手の対戦時の表情を投影できるという。

他にも同施設には、高速10Gbps固定回線を施設専用回線として導入するほか、プロゲーミングハウス同様のスペックで団体戦にも対応したゲーム室、テレビ局でも導入されている映像スイッチャーなど、eスポーツ大会やイベントにも対応可能な環境がフル装備されている。

esports Style UENOオペレーションルーム
オペレーションルーム

「10Gbpsの通信環境を含め、これだけの総合スペックを備えた eスポーツ施設は、都内ではなかなかない」と、KDDIパーソナル第1営業本部 営業推進統括2部 店舗推進2部 部長の砂金智彦氏は自信を見せる。平日の夕方以降や土日になると若年層を中心に多くのゲームファンが訪れ、とりわけゲームイベント時には店内は多くのファンで熱気に包まれる。時折、有名eスポーツ選手がふらっと立ち寄ることもあるという。

「au Style」への集客強化からeスポーツに着目

esports Style UENO個室のゲームブース
個室のゲームブース

なぜ、KDDIではこの「esports Style UENO」でeスポーツビジネスに乗り出したのか。「もともとはリアル店舗への集客から構想が始まった」と砂金氏は振り返る。

auのキャリアショップとして、従来の「auショップ」から2020年にコンセプトを一新した「au Style」。国内に300店舗超を展開し、auやUQ mobileの機種・プランの取り扱いに加え、「auひかり」「auでんき」「auじぶん銀行」など各種サービスを提供する。

しかし、端末価格高騰による買い換えサイクルの長期化や各種キャリアのオンライン販売強化など、auに限らずキャリアショップをとりまく環境は厳しさを増している。加えて、格安SIMスマホの普及や二次流通市場の拡大などスマートフォン市場そのものがレッドオーシャンの様相を呈しており、若年層を中心にキャリアショップから足が遠のきつつあるのが現状だ。

「オンラインの販売チャネルもあるとはいえ『au Style』は当社にとってお客さまとの重要なタッチポイント。店舗に来ていただくためにも、従来の携帯販売店とは異なる領域で特徴を打ち出す必要があった」(砂金氏)

Z世代をはじめとする若年層にとってマグネットとなりうるコンテンツとは何か――そう考える中で浮上したのがeスポーツだった。

一般社団法人日本eスポーツ連合の「日本eスポーツ白書2023」によると、eスポーツの市場規模はコロナ前の2019年の61.2億円から、2023年には162.2億円に拡大。今後も年平均20%を超える成長率での拡大が見込まれるという。市場のポテンシャルが大きいうえに、若年層の圧倒的な支持を得ている。KDDIの本業である通信との親和性も高い。

そこに、アクセスのよい上野の店舗の3階に、もともとイベントスペースとして活用していたスペースがあった。こうした要因や条件が揃い、「espo rts Style UENO」の開設に至った、というわけだ。

イベント需要に支えられ、稼働率は70%以上

esports Style UENOイベント風景
イベント風景

オープンから10カ月以上を経過した「esports Style UENO」。目下の稼働状況は好調で「オープンして半年で、目標としていた稼働率50%を実現した。 ここ最近では稼働率70%となる月もある」と、同部 商品開発4グループ グループリーダーの林晃子氏は顔をほころばせる。

eスポーツ施設というと小規模スペースのeスポーツカフェが主流だが、それよりは大きな100人規模を収容できるキャパシティと、プロ仕様のゲーム機器、通信会社ならではのストレスフリーな通信環境などが支持されているようだ。

主な利用客は、eスポーツイベントを運営するイベンターなど、法人(toB)が中心だ。平日は企業向け、土日は一般向けのイベントで概ね埋まっており、「土日にイベントで訪れた方が、平日プライベートで再訪する流れもできている」(林氏)という。

施設を訪れるのはゲームをプレーする層だけではない。「推し活」の一環でプロのeスポーツ選手やゲームキャラクターのファンも数多く来店し、eスポーツの裾野の広さをうかがわせる。

また、ゲームタイトルやジャンルによって客層もさまざまで、FPS(First Person Shooter:プレーヤーの視点で場面が表示され、標的を打ち落とすシューティングゲーム)では若年層が中心だが、「STREET FIGHTER 6」など昔からある格闘技系ゲームでは30~40代の姿も目立つそうだ。

eスポーツの大会やイベントは、自宅で配信を視聴するというのがメーンの楽しみ方だ。だが、会場の熱気やファン同士の交流など、リアルでしか体験できない魅力がある。「選手やゲームタレントのコミュニティも盛況なので、オフラインイベントとしても活用してほしい」と林氏は期待を寄せる。

なお、肝心の課題である「au Style」への誘客についても、「ゲームを楽しんだ人が帰りにショップに立ち寄り、周辺機器の購入をしたり、新型携帯電話の予約をされるような流れが生まれている」(林氏)とポジティブな傾向が見られているようだ。

企業研修、自治体との連携……広がるeスポーツの可能性

KDDIパーソナル第1営業本部
パーソナル第1営業本部 営業推進統括2部 店舗推進2部 部長の砂金智彦氏(左)と商品開発4グループ グループリーダーの林晃子氏(右)

eスポーツ市場に参入する企業は増えており、中でも多くのアセットを所有する鉄道会社や不動産会社の動きが目立つ。また、地方でも九州電力の子会社・QTネット(福岡県福岡市)が2021年にeスポーツ総合施設「esports Challenger’s Park」を立ち上げるなど、全国規模で広がりつつある。

KDDIでも、これらの企業と日ごろから情報交換したり、他社が主催するイベントに協賛したりしているという。「競合というよりeスポーツ市場を盛り上げるパートナーとお互いに認識している」(砂金氏)

その他にも、eスポーツはさまざまなビジネスやパートナーシップの可能性を秘めている。学校現場ではGIGAスクールなどを背景にeスポーツが急速に普及しており、eスポーツの部活動を持つ学校は545校(北米教育eスポーツ連盟日本本部に加盟する学校数/2024年10月18日現在)に上る。「esports Style UENO」でもeスポーツのプロチームと提携し、ジュニア選手育成のeスポーツスクールを開校している。

また、福利厚生やビジネス交流を目的にeスポーツの社内サークルを設けるなど、企業の間にもeスポーツは浸透しつつある。「対戦型ゲームには、チームプレーや戦術など高度なタスクが求められる。管理職研修としても適しているのではないか」と、砂金氏は企業研修のマーケットにも目を向ける。

「さらに行政においても、認知機能低下の防止など高齢者の健康増進を目的にゲームを推奨する動きが一部の自治体ではある。今後は教育や健康増進などの施策面で自治体との連携も模索していきたい」(砂金氏)

既に「eスポーツの聖地」としてゲームファンの間に認知されつつある「esports Style UENO」。今後はeスポーツを軸に、企業や行政などをつなぐハブとしての役割も大いに期待される。

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