インフレ下でいかに利益稼ぐか?食品スーパーの2025年の商品戦略まとめ
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2025年1月7日 19時55分
「価値訴求」を意識するバイヤーが増加
SM各社の24年度上期業績は、多くの企業で販管費率が上昇し、売上総利益率が減少。原材料費やエネルギー費の高騰に加え、賃上げによる人件費の増加などが大きく影響した。商品単価が上がったことで売上は増加したものの、客数・買い上げ点数はともに減少を示す企業が目立った。
本特集に際して、食品小売業のバイヤーに対しアンケート調査を行ったところ、約7割のバイヤーがこの1年の景況感を「悪い」と回答しており、消費者の生活防衛意識の高まりなどが理由に挙がった。
競合への意識もまた変化が見られた。アンケート調査によると、各社のバイヤーが競合として意識している事業者では、「ドラッグストア(DgS)」が55.6%で前年に引き続き2位につけている。高速出店を続けるDgSは価格訴求に力を入れるだけでなく、生鮮を含む食品の品揃えを拡充しており、バイヤーにとって目が離せない存在となっているようだ。
また、「コンビニエンスストア(CVS)」が38.9%と前年から7.2ポイント(pt)伸ばして3位につけた。食品小売各社で総菜をはじめ即食・簡便商品の品揃えを拡充するなか、CVSとの競合度合いがより高まっていることがうかがえる。
このように外部環境が大きく変化するなか、各SMはどのような方向性でMDを策定しているのだろうか。同じくアンケート調査によると、各社バイヤーのMDの方針として、「付加価値の提供」と「(消費の)二極化への対応」がともに34.5%で並び、「価格訴求」が20%だった。
実際、本特集で取材したSM各社でも、オリジナル商品の開発や健康志向の商品展開など、「付加価値の提供」を進めることで粗利益の確保を図っていた。インフレ下で節約志向が高まっているとはいえ、価格訴求に振り切っては収益性を維持できない。値頃感は残しながらも、付加価値型の独自商品の開発を加速することで、収益性向上を図ろうとする戦略が共通してみられた。
そうした独自性を打ち出すうえで核となる取り組みの1つが、PB(プライベートブランド)の開発である。
アンケートではPB開発・販売戦略において重視しているポイントとして、「味・品質」が前年から2.9pt伸ばして79.6%だったのに対し、「価格設定」は2pt減って63%だった。PBをこれまでのような単純な価格訴求ツールではなく、味や品質面で付加価値をつけてアピールするための商材として位置づけるバイヤーが多いことが見てとれる。
また、「ブランディング」が46.3%と前年から16.3ptも伸長している点にも注目したい。商品の味や品質を高めるだけではなく、そうした価値やブランドとしての開発コンセプトをいかにお客に伝えるかを重視するバイヤーも増えてきているようだ。
そうしたなか、PBによる独自性の創出に力を入れているのがサミット(東京都/服部哲也社長)だ。同社は、メーンで取り扱うオール日本スーパーマーケット協会(大阪府/田尻一会長)のPB「くらし良好」と重複しない範囲で、PB「サミットオリジナル」の展開を始めている。納豆や豆腐などの日配品をはじめ、冷凍の餃子やたこ焼きなどの簡単調理の商品など現在約130アイテムを展開している。
また、今後はサミットで人気の生鮮総菜を冷凍商品化することにチャレンジを広げ、お客の好きなタイミングで温め、自宅でおいしく食べることができる商品を打ち出す方針だ。
同じくオリジナル商品として、余計な添加物を極力使用せず素材にこだわったシリーズ「素材をそのまま」を展開している。これらは安さだけでなく、お客のニーズに合わせた、手に取りやすい“価格”と“価値”を両立した商品として販売し、ふだん使いしてもらえる位置づけの商品をめざしている。
生鮮の独自化拡大、PCの活用で価格反映も
生鮮部門でも独自化の深耕を進めるSMが増えている。たとえば、近畿、東海で事業展開するオークワ(和歌山県/大桑弘嗣社長)は鮮魚を“看板部門”と位置づけ、即食商品の拡大で価値訴求を図っている。
24年夏から、「あんこうの肝(ぽん酢入)」のようなおつまみメニューを小鉢サイズで展開する「魚旬菜小鉢」シリーズを新たに販売。同シリーズの商品はすべてプロセスセンター(PC)で製造しているため、店舗の負担を減らし、廃棄ロスも少ない。これによる安定した粗利益の確保で、鮮魚部門全体の底上げにつなげている。
西友(東京都/大久保恒夫社長)は、生鮮食品のオリジナルブランド「食の幸」を23年4月から展開。バイヤーが直接目利きした商品は、各部門で設定された独自の選定基準をクリアしたこだわりのラインアップだ。24年10月末時点で3部門合計のアイテム数は138まで増え、売上は対前年度比で倍増と好調だ。
なかでも売れ行きがよいのは、畜産部門で販売しているオーストラリア産のアンガス種「味わい葡萄牛」。飼料にブドウの搾りかすを使うことで、やわらかでジューシーな味わいを特徴とする。これを素材に使ったチルドの「ビーフハンバーグ」やローストビーフなどの加工品の開発も行う。「味わい葡萄牛」では、価格と価値の両軸を追求した商品開発を志向することで差別化を図っている。
また、冷凍食品で価値訴求を図る企業もある。イオンリテール(千葉県/井出武美社長)は、冷凍食品の専門店「@FROZEN(@フローズン)」の出店を拡大。22年8月の1号店「@FROZENイオンスタイル新浦安MONA」(千葉県浦安市)のオープンを皮切りに出店を続け、24年11月時点で、首都圏、東海、関西などで14店舗を展開する。約1500SKUを揃え、マカロンやミートパイなど、一般的なSMの冷凍食品売場とは一線を画した豊富な品揃えを提供している。
価格訴求に重きが置かれる商材だった冷凍食品で、幅広い価格帯と品揃えで専門性を訴求するという、独自フォーマットを成長させようとしている。
●
インフレであらゆるコストが高騰している一方で、お客の価格感度は高まっている。しかし、価格訴求に偏重していては、収益性は悪化の一途を辿るばかりだ。そこで、PBをはじめ、値頃感・付加価値を両立した独自性の高い商品開発に注力することで、差別化を図る動きが進んでいる。
本特集では、そうした動きの先頭にいるチェーンの先進事例を取材した。これらの事例をヒントに、自社の競争力向上に役立ててほしい。
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