儲かるアパレル、儲からないアパレルの違いが判明!「TOC」をわかりやすく解説!
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2025年1月20日 20時59分
私がある1冊の本と出会ったのは、今から10年以上も前だ。この本は、当時QR (Quick Response: 素早く追加発注を行い、売逃しや過剰在庫を避ける手法のこと)に沸き立っていた産業界に魔法の杖の如く寄り添い、誰もがQRこそMD(商品政策)の究極の姿であると考え、SPA (製造小売業)のコンセプトへ発展してゆく。当時、QRとSPAは非常に分かりやすかったため、このコンセプトは一気に産業界に広がっていった。
その本は「ザ・ゴール」。イスラエルのゴールドラット博士が書いた書籍だ。私も、食い入るようにこの本を幾度も読み、そして、この本の中核をなすTOC (Theory of Constrains: 制約理論)と「ボトルネック」(飲料の口がぐっと絞られて小さくなっているところから、サプライチェーン上スムースな流れを遅れさせる要因)という言葉は日常会話に取り入れられるほど産業界のDNAに組み込まれていった。
しかし、私がこのTOCの話をMDと絡めて講演でおこなっても、会場は盛り上がらなかった。日本において、ボトルネックは「邪魔なもの」という短絡的な意味合いで片付けられており、全体のスピードは最も遅いボトルネックのスピードで決定づけられるという核心を付いたところまで掘り下げた理解が広まっていなかったためだ。
そこで、あらためて今日は、「ザ・ゴール」の執筆者であり、権威であるゴールドラット博士が生んだコンサルティング会社 Goldratt consulting の飛田基氏を招いてディスカッションをした。私自身、TOCの意味をキチンと理解しているかという疑問もあったし、何よりもこの対談が日本のアパレル業界にとって有意義なものになってもらえれば何よりだ。
生き残るアパレル、死ぬアパレルの違いは
河合 こんにちは。今日は、ディスカッションをする機会をえられ大変感謝しています。「ザ・ゴール」は、私の宝の一つですから、本当に何度読んだか分からないほどです。今日は、核心にせまる議論ができそうで、わくわくしています。それでは、宜しくお願いいたします。
飛田 よろしくお願いします。私も河合さんと議論できるのを楽しみにしていました。早速ですが、まずは、大きな利益を出しているファッションやアパレル企業と、そうでない企業の根本的な違いはどこにあるのでしょうか?
河合 アパレルビジネスは、大きく二つの脳が働いており、デザインやクリエイターなどが使う右脳。MDや経営者が使う左脳。このバランスがしっかりとれている企業は強いですね。逆に、今は大きく利益を出していても、その状態が強固なシステムによりサステナブルか否かは重要な視点です。
というのは、社長一人がこの部分を行い、社長以外はほぼ全員オペレーションばかりやっている会社は、なにか問題が起きると対応に時間がかかったり、下手をすると対応さえできないこともあります。ようは、属人的なのです。
私は、「アパレルは感覚も大事」だというところにあえて反論をしています。というのは、世の中の変化は非常に早く、私が改革に入った会社は「勝ちパターン」をもっていませんでした。こういう企業は、世の中のトレンドが少し変化しただけで、昔のやり方で直そうとし、いつまで経っても課題は放置されているということがあります。
飛田 なるほど、属人的ではなく、「科学的に経営と業務をせよ」ということですね。実は、当社も同じ考えをもっており、TOCを土台にした、実務で実証済みの「うまくいくロジック」が埋め込まれたソフトウエアをもっております。世界24か国で、多店舗展開する数百以上のアパレルチェーンが、当社のクラウドサービス使い、余剰在庫と機会ロスの撲滅に大きく寄与し、利益を伸ばしています。
河合 属人化されているMDをシステム化できるというのは凄いことです。今、多くのコンサル会社は、システムをつかってコンサルティングができないか四苦八苦していますが、私は広義な意味でコンサルティングは科学であるという信念に近いようなものを持っています。しかし、現実は、なかなかうまく感性と科学の融合ができない。標準化も、他の企業同士ならまだしも、同じ企業でありながら「隣の部署と一緒に仕事はできない」などといって、感情が先にきて標準化ができていないのです。
飛田 そこがチャンスなんです。部署内でできる改善は、相当進んでいても、部署と部署をつなぐのは簡単ではないので、劇的な改善効果がでることが多い。それが、TOCの根幹である「全体最適」のパワーです。
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余剰在庫を減らすのではなく在庫が余らないように先手管理する
河合 「全体最適」のコンセプトをもう少しくおしえてもらえませんか?
飛田 「全体最適」の反対である、「部分最適」を考えると分かりやすいです。調達部門はなるべく安く仕入れる、物流部門はなるべく安く運ぶというように、それぞれの部門が自部署のKPIを追求する行動をとることが「部分最適」です。
しかし、安く調達できた服が、100枚のうち50枚しか定価で売れない、ディスカウントしてもあと20枚しか売れなかったら? 30枚の売れ残りは、1年寝かせるか、アウトレット行き、シーズン後の財務成績は散々な結果になります。
全体最適の考え方では、業務のつながりに着目し、流れの改善に注力します。調達、物流、販売というモノの流れがありますよね。この中で、「制約」はどこかを考えるのが最初のステップです。「制約」とは、能力を少し上げたら、利益(のように最終的に上げたい数字)もそれに応じてあがる場所のことです。調達、物流、販売のつながりでは、「制約」は、ほぼ「販売」になります。(もちろんディスカウントに頼ることなく)「販売」が1%あがれば、利益もそれに応じてあがりますから。
見つけた「制約」を最大活用するのが次のステップです。販売機会は限られていますので、利益の取り逃しがないように業務をするということです。これができていないことが多いんです。一消費者としての経験でいうと、せっかく買おうと決めた服が、自分のサイズがなく、購入をあきらめたという経験は一度や二度ではありません。流れはここでストップし、最後の販売に至らなかったわけです。
実は、コンサルティングの仕事を通して、店舗網全体の在庫状況を俯瞰して見るようになって分かったことがあるんです。それは、ある店舗では、商品の在庫が切れていて機会損失が起こっているのに、別の店舗では在庫が4枚も余っているケースは珍しくないということです。売り切れが起こる原因には、仕入れ時の予測が少なすぎて思った以上に売れたという場合もありますが、仕入れた在庫が店舗間に偏在していることで、本来は得られた売上を取り逃していることも極めて多いのです。システムの力を使ってこれを正すだけで、売上が15%上がったという例は、珍しくありません。
河合 セレクトショップなど、余剰在庫の解決を謳うシステムを販売している企業はたくさんありますが、それらとはどこが違うのでしょうか。
飛田 余剰在庫の問題に取り組もうとしているシステムは、複数あります。しかし、それらのほとんどは、どの在庫が余っているのか、どの在庫はよく動いているのかを集計して「見える化」してくれるシステムにすぎません。余っている在庫が分かれば、それらを処分するための手を打つことができます。これは、従来、アパレル企業が手作業やってきた業務の一部を自動化することで、在庫処分によるロスを少しでも小さくしようとする試みであると考えています。
一方で、従来の業務プロセスを変えようとしていませんので、本質的な変革や競争力強化にはつながらないことも多いと言えると思います。実際改善幅が1~2%に留まるケースも報告されています。各商品の売れ行き計算はシステムが自動でやってくれますが、計算結果を分析し、意思決定し、現場に伝え、実行させるのは人の仕事で、属人性が取り除かれなく、行動までに時間がかかるために、大きな改善につながりにくいのだと思います。人が受け持つ部分が多いと、店舗数やSKU数が増えるほどに、全部には目が行き届かないということも効果が頭打ちになる原因の1つです。
当社のシステム、Onebeatは、現実の変化に即応しながら、各店舗、各SKUの「適正在庫数」を最適化し続け、即作業(出荷や店間移動)可能な作業指示を自動で出力できるAI(人工知能)です。Onebeatは、「見える化」し、「分析」するというステップはコンピュータがやってくれ、店舗ごと、SKUのきめ細かい管理を毎日、精度良くこなしてくれます。人手が足りないと、大型店だけ、売れ筋トップ100だけという重点管理に陥ることが多いものですが、ややサイズが小さい店舗や、売上中位の商品でも、いつどこに在庫を置くかでプロパー消化率も、最終消化率も上がります。初期投入、シーズンのピーク、ピークアウトの時期、キャンペーン時、そして地域ごとに異なる気温変化や好まれる商品に応じて、最適在庫数を調整し続けられるのです。そこにピタリと合わせてくれることが最大の特徴で、疲れ知らずの「スーパーディストリビュータ」を雇ったようなものです。結果、余ってしまった在庫をどうにかするという発想ではなく、そもそも在庫が余らないように、初期の段階から精度を上げ、プロパーで販売できるものを最大化するという先手管理ができるのです。
河合 なるほど。それはおもしろい。余剰在庫削減だけでなく、そこにさらに他の部分も全体の動きが同期化するというメリットがあるわけですね。昔、ビルゲイツが「思考スピードの経営」という書籍をだしましたが、思い出しました。そうなると、巷に溢れる余剰在庫削減のパッケージより高い精度で在庫ロスが減り、欠品が最小化されますね。
「勝ち方」は自社だけのもの
他社をそのままマネてもうまくいかない
飛田 河合さんから見て、高業績な会社のうまいやり方から学び、自社に当てはめて利益を上げるコツはなんですか?
河合 アパレル業界では、そこが非常に難しいのです。例えば、今勝っている好業績のアパレルはユニクロですね。しかし、では、彼らと同じシステム、MD、戦略を行ってもうまく行きません。例えば、システムですが、彼らのシステムは作った商品を売り減らす手法です。これを他のアパレルが真似したら、過剰在庫の山になって一発で死んでしまいます。ユニクロのように商品競争力が高く、「商品が売れる」場合にのみ機能するやりかたです。例えばZARA。ユニクロより圧倒的にSKUは豊富で、開発型というよりマーケット追随型なので、売れる商品から後半に継ぎ立てしてゆく逆方向に商品や情報を回します。
このように、「本質的な勝ち方」は自社にしかなく、それを他のアパレルを参考にして、自社用にカスタマイズすることがコツです。そういう意味で、コンサルタントを使うというのもよいかもしれません。
飛田 同感です。我々も決まったやり方を押しつけるようなやり方はしていません。そんな中で、より繁盛する会社になるために、テクノロジー(DX, AI)をどこに使うのが良いでしょうか?
河合 これは、「MD」ですとハッキリいえますね。
理由は3つあって、一つは、初期投入計画が、追随商品以上に大事になってきていること、こうした商品投入戦略をコントロールできるのはMDであること。アパレルの業務の中では、感性でなく、再現可能な比較的科学的アプローチが可能であること、の3つです。逆にOnebeatは、MDを中心にアパレルの隅々の業務と連携し、余剰在庫や機会ロスを最小化できるから、うまく行けば、確かに初期投入を含めたこれまでの知見をうまくシステム化できますね。
最後に一つ質問をさせてください。この対談を読んだ読者の方はアパレル出身の方が多いと思うのですが、彼らはすでに在庫削減のソフトウエアを導入しています。このように、過去にいれた余剰在庫削減ツールがすでに入っている場合、共存は可能でしょうか? また、その場合のメリットを教えてください
飛田 可能です。Onebeatを入れるのは敷居が低く、初期に必要なデータは、拠点や商品のマスターファイルと、日々の販売数、在庫数だけです。他社製ソフトを導入済みの場合は、すでにこのようなデータが存在しますので、導入のハードルはさらに低くなります。また、当社では、とにかくシステム投資額よりも、得られる真水の利益額を大きくすることに注力しています。話だけでは在庫管理ツールの性能差が分からないかもしれませんので、無償でトライアルしていただき、実際にお金が生み出されるか実証してもらっています。AI導入が、コンピュータ屋さんを儲けさせるのではなく、アパレル企業のみなさまの儲けを短期間で、かつ、継続的に増やすことにこだわっています。
河合 今日はありがとうございました。私自身もこの業界に長くいますので、よくある余剰在庫削減パッケージと、Onebeatの違いについて、自分なりにまとめてみました。Onebeatは、アパレル業界の収益改善に大いに役立ちそうです。また、仕事でご一緒できるかもしれません。今後ともよろしくお願いいたします
飛田 こちらこそありがとうございました。
河合拓氏の新刊、大好評発売中!
「知らなきゃいけないアパレルの話 ユニクロ、ZARA、シーイン新3極時代がくる!」
話題騒然のシーインの強さの秘密を解き明かす!!なぜ多くのアパレルは青色吐息でユニクロだけが盤石の世界一であり続けるのか!?誰も書かなかった不都合な真実と逆転戦略を明かす、新時代の羅針盤!
プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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