正しいTOC(制約理論)の理解 余剰在庫と欠品が激減する本当の理由!
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2025年1月27日 20時58分
先週、Goldratt consulting(ゴールドラットコンサルティング)のシステムOnebeatの考え方について議論をしたところ、こちらが驚くほどの数多くの反響が届いた。「概念的には理解できたが、具体的にどのようなメリットがあるのか」という点について、TOC (制約理論)を活用して説明して欲しいというリクエストだ。そこで今回は第2弾としてさらにTOCを深掘りしていこうと思う。今回も飛田基氏にご登場いただいた。
既存余剰在庫削減パッケージとTOCは何が違うのか?
河合 私の元にきた質問で最も多かったのが「余剰在庫処理のための既存のソフトウエア・パッケージをすでに導入しているが、不具合はないのか」というものでした。
飛田さんの説明によると、既存の余剰在庫ソフトウエア・パッケージでは、在庫をいくつかのセグメントで「見える化」するのみで、それ以上を求めるアパレルには馴染まないというものでした。やはり「まずは、『見える化』からやらないといけない」と考えることに落とし穴はないのか? ここから入りましょう。
私の考えは、それなりの効果は期待できるものの、効果は非常に限定的で、余剰在庫削減には広義には繋がらない、というものです。前シーズンのセール、来期の新商品企画、残った在庫の処理などが複雑に、それこそ日々変化をしながら動いてゆきます。これをいくつかのカテゴリーで分類する、いわゆる「見える化」は、複雑に絡み合った在庫をシンプルにわけるのですが、そのスピードや精度までシステムは保障してくれませんし、そもそも初期投入が大きく間違っていては、何をやってもダメですね。そういうとき、サプライチェーンの上流工程(生産)から下流工程(販売)、MDからバイイング、追加発注、リードタイム、残反の計算など、全体最適ができてはじめて在庫は適正化されます。
そもそものMD精度、追加商品の精度、適切な販売の3つがキチンと揃ってはじめて在庫の適正化が可能なのです。この図のようにまとめてみました。
飛田 言い換えれば、商品の企画、物流、販売のオペレーションが全体最適でつながることで、在庫の適正化が可能になるということですね。これに2つの角度から、付け加えさせてください。
1つ目は、「属人化」の問題です。全体最適のオペレーションは、それぞれの人が自分なりのベストを尽くすだけでは実現できません。会社の各部署を横串で貫く共通の考え方が必要です。そのためのルール変更がキモになります。逆に全体最適がルール化できてしまえば、それをシステム化して強固なオペレーションを手に入れることができます。ベテラン社員は減っていくのに、新人の採用はままならないような昨今ですので、これを機会に属人性を取り除くことができれば、競合よりも1歩も2歩も先に行けるのではないでしょうか?
2つ目は、「スピード」の問題です。オペレーションのスピードは、そのまま、お金を儲けるスピードに直結します。「見える化」される⇒誰かが分析する⇒打ち手を考える⇒定例の部署横断会議ですり合わせる⇒決定事項を現場に落とす⇒実行する というプロセスでは、変化の激しい環境では、打ち手の実行が常に周回遅れになってしまうリスクがあります。一方で、サプライチェーン全体の状況の見える化と分析が自動化され、即実行可能な行動プランが示されていれば、組織全体が自律的、かつ、スピーディに動くことが可能になります。
そもそも論ですが、世の中の余剰在庫パッケージが採用している、目標在庫日数設定や、消化日予想が、設定通りに動かないのはなぜでしょうか?
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「経年データはほぼ意味がない」のがアパレルの特徴
河合 アパレル・ビジネスで失敗する理由は常にここにあります。例えば、食品スーパーやコンビニエンスストアなどを想像してください。牛乳、野菜、魚、肉など、同じ商品を一定量、毎日仕入を行っています。だから、同一商品の経年変化も見えるし、対策も立てやすい。ところが、アパレル商品は、今年のパンツと昨年のパンツは同じパンツでも、色やデザインが全く違い、売れ行きも大きく変わってきます。
つまり、経年のデータは食品スーパーやコンビニでやっているような分析には使えないというわけです。ですから、私は10年ぐらい前からQRによる売り増し型の考え方には反対しているのです。今年のパンツは今年だけで、色、デザイン、素材、販売時期、値段などはその年だけに使えるもので、来年には参考情報程度になってしまいます。
飛田 勉強になります。過去データを使って予測が可能なものと、そうでないものがあるということですね。TOCの創始者であるゴールドラット博士も、「関連のないものを関連づけるな」と言っておりました。
食品スーパーの日配品(例えば、特定ブランドの1リットル牛乳パック)などは、数が売れるので、その日の来客数予測と、商品の売れ行きを関連づけて予測できます。一方で、ある店舗で一日に一枚うれるかどうか分からない衣料品(特定品番のパンツのLサイズ)の場合、来客数が分かっても、変数が多く、いくつ売れるかを言い当てるのは難しい。
そういう商品はデータを得るまでに長い日数がかかることに加えて、その需要そのものが、ころころ変わっていくとしたら、在庫回転日数によるコントロールはナンセンスだと言えると思います。衣料品は難しい業界で、そもそも天気予報さえろくに当たりませんし、競合店にも類似商品があり、ネットで販売される商品の価格をすべてはチェックできません。
そんな中でも、在庫運用の成績を上げる方法はあります。ゴールドラット博士は、「現実を直視する勇気を持て」と言っておりました。売れるはずと思って、商品を買い付けても、売れないこともあります。ここで、現実を認めて、素早く反応することが肝要です。シーズンオフまで待っていては、利益を削って処分する以外に打ち手がなくなってしまいますから。昨年のデータが役立たない「今年のパンツ」の例がありましたね。現実のアパレルチェーン店のデータを見ると、ある店舗では良く売れているのに、他の店舗ではあまり売れていないということが多いのです。
この傾向は販売ランキング中位くらいの商品で顕著です。同じサイズの店舗であれば、シーズン初期にとりあえず3枚ずつ商品を投入するかもしれませんが、現実の売れ行きは店舗ごとに違ってくる。
ここに、素早く反応するのが、儲けるポイントです。具体的には、次のフォロータイミングで、どの商品をどの店にいくつ入れるかということです。すでに、直近の需要変化を捉え、オペレーションの所与の条件まで加味しつつ、高度なデータ解析を通して、最適フォロー量が自動で提示される時代になっています。
これに関連して、河合さんに一度聞いてみたいことがありました。「店間移動」です。
店間移動は善なのか、悪なのかどうお考えですか?
店間移動は善なのか、悪なのか その驚きの答え
河合 店間移動といってもいろいろあり、場合によって考え方が変わってきます。例えば、「客注」といって、Aというお店に在庫がないのに、Bというお店には在庫がある。宅急便で送ってもらえば数日で到着する、というセレクトショップでは一般的になっているようなケースですね。この場合は、当然、BからAへ在庫を動かすことになります。
次に、そもそも店のVMD(Visual merchandising: 店頭内での商品の陳列、飾り付けなど、お客様の導線、打ち出し商品、コーディネートの参考など色々な販売戦略をミックスさせて店をリッチにする手法)がある程度きまっていれば、ある商品の46 (イタリアのサイズ)のネイビーだけ極端に売れるなど、商品が歯抜けになってきます。そうしたときに、さらに、VMDを工夫し、欠品を覚悟して売ってゆくわけですが、どうしても動かない商品は、そのブランドのフラッグシップショップに「集約」して売る場合があります。
この場合、2種類の考え方があって、在庫を1カ所に集めて売れ筋をみてMDが配分する。配分が偏ったら在庫を「横持ち」(よこもち:店間移動)して全体最適(売上がマックスになるようなVMDを組む)を実現する、などです。
質問に答えると、一度配分された商品は、その店舗で原則売り切るべきですが、シーズンが動き出したら、横持ちも激しく動き出すのは仕方ないと思います。
もう少し、この問題について話させてください。私が、あるファッションビルのコンサルティングをしたとき、横持ちの禁止を徹底していました。私が、「大きな機会ロスや余剰在庫が発生するからだ」と社長に説明しに行ったところ、社長はそんなことはわかっているんですね。
しかし、それぐらい強いメッセージをださないと組織は動かない。ましてや、100を超える店舗や1000を超える販売員をつかっているような企業であれば、なおさらです。ですので、どこのポジションで景色をみているのかが決定ポイントになるのですが、現場には「禁止!」と伝え、売らせる。経営会議では横持ちは当たり前で、「集約」という言葉で売れる店に商品を動かす。この二階層になっているのが正解です。
飛田 横持ちの意思決定は複雑なのですね。TOCには、「スループット会計」と呼ばれる、儲けるための意思決定をサポートする知見があります。究極まで単純化しますと、「使ったお金よりも、入ってくるお金(利益)が多いならば、やるべきだ」という考え方です。
ただし実際には、「使うお金をとにかく減らせば、節約した分、利益が残る」と考えて行動してしまうことも多いものです。店間移動にはお金と労力が必要です。店舗スタッフは商品をピックアップし、宛先店舗ごとに梱包し、宛名を書き、配送依頼をし、実際に物流経費をかけてモノを動かすわけです。一方、店間移動で動かしたその在庫が、移動先で売れて利益が生まれる保証がないところが怖いところです。
しかし経営的に、全体を俯瞰すれば、在庫の偏在は必ずありますから、店間移動を活用して、在庫を均したり、集約したりしない手はありません。ここでもAIが活躍する時代になっています。各店舗の作業(出し先の店舗数や、商品数)を作業可能な量に抑え、輸送費も最小化、それでいてサイズ崩れによる戦力ダウンを最小化し、期待される売上向上額が十分大きい。こんな店間移動の作業リストが自動で生成できるのです。
この裏側では、膨大な組み合わせ最適化計算を必要としますので、人ではとても無理です。使ったお金以上に、確実に儲けが増えるオペレーションを取り入れれば、会社に入るお金の最大化につながる。こんな形で、稼げるアパレル業界を作ることに貢献していきたいです。
河合 ゴールドラットコンサルティングが、単なるIT屋でなく、業務の深いところまで入り込み、本質的な改革を行っていることがよくわかりました。
飛田さんとの2週にわたる対談で、TOCに対する理解がとても深まりました。TOCは、ひと言で言えば全体最適化をするということですね。その中心軸にMDがあり、SCMがあり、ECがあり、ERPがある。そこをデータ、商品(サンプル、現物)、金などが動き回るが、それらが全てリンクしている全体最適化を実現するのがOnebeatだということです。
サプライチェーンの在庫をどこにどれだけ置くかが、TOCであると思っていましたが、こうしてつながれた複雑な道路をキレイに高速走行できるような道をつくる。その道は、上流工程から下流工程まですべてに影響を与え、より精度を高めてゆく。いわゆる全体最適がTOCの本質なわけですね。
お忙しい中、2週にわたりありがとうございました!
河合拓氏の新刊、大好評発売中!
「知らなきゃいけないアパレルの話 ユニクロ、ZARA、シーイン新3極時代がくる!」
話題騒然のシーインの強さの秘密を解き明かす!!なぜ多くのアパレルは青色吐息でユニクロだけが盤石の世界一であり続けるのか!?誰も書かなかった不都合な真実と逆転戦略を明かす、新時代の羅針盤!
プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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