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ロピアにクルベ 安いだけでは勝てない!ディスカウントスーパーで進む多様化の理由

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2025年2月7日 19時55分

 世界的なインフレの波は依然引くことを知らず、消費者の節約志向と価格感度は高止まりしたままだ。

 日本銀行が全国の満20歳以上の個人を対象に年4回実施している「生活意識に関するアンケート調査」の第100回(2024年12月調査)の結果によると、「暮らし向き」について「ゆとりがなくなってきた」との回答は57.1%、「物価に対する実感」は「かなり上がった」(69.2%)と「少し上がった」(25.9%)を合わせて95.1%に上っている。

 第97回(24年3月調査)と比較すると、前者の回答率は7.6ポイント(pt)増、後者では「かなり上がった」の回答率が7.2pt増となり、一般消費者の“実感”としても、物価高騰下で生活に余裕がなくなってきていることが強く示されている。

全国で勇躍する食品ディスカウンター

 こうしたなかで勢いを盛んにしているのが、食品を中心に価格訴求を行うディスカウントフォーマットだ。

食品スーパー、ディスカウントストア イメージ
長引くインフレで消費者の価格感度が依然高いなか、食品を中心に価格訴求を行うディスカウンターの存在感はより大きくなっている(i-stock/monticelllo)

 たとえばロピア(神奈川県/髙木勇輔代表)。全国で出店攻勢をかけ、直近ではイトーヨーカ堂(東京都/山本哲也社長)からの店舗承継により、北海道や東北への進出も遂げた。近年の生鮮強化が奏功し業績好調のトライアルホールディングス(福岡県/亀田晃一社長)は24年3月に株式上場を果たし、さらなる出店拡大を進めている。

 食品スーパー(SM)によるディスカウントフォーマットの開発・出店も拡大している。ヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)の「フーコット」、ベルク(同/原島一誠社長)の「クルベ」、マミーマート(同/岩崎裕文社長)の「マミープラス」「生鮮市場TOP!」と、奇しくも埼玉県を地盤とする有力SMはそれぞれ、価格訴求型フォーマットの出店を強化。首都圏の競争環境に少なくない影響を与えている。

 そして忘れてはならないのが、オーケー(神奈川県/二宮涼太郎社長)の関西進出だ。24年11月に関西1号店を大阪府東大阪市に出店、さらに今年1月には2号店を兵庫県西宮市に開業した。二宮社長は「ドミナント戦略の観点で言えば、(出店数は)10店や20店の規模ではない」としており、同社プレスリリースでも26年までに兵庫県と大阪府で計12店舗を開業することが発表されている。

 さらに、そのオーケーと「関西スーパー」をめぐる争奪戦を展開したエイチ・ツー・オー リテイリング(大阪府/荒木直也社長)は、低価格帯商品を主軸とした新たなSMブランドを、今春をめどに出店することが報じられている。関西における価格競争のさらなる激化を受けた対抗策であることは明らかだ。

 地方部でもSMによるディスカウントフォーマットの出店拡大が顕著だ。イオンビッグ(愛知県/小林健太郎社長)、イオン北海道(北海道/青栁英樹社長)、イオン九州(福岡県/中川伊正社長)はそれぞれ、ディスカウントSM「ザ・ビッグ」を事業エリアで展開。イオングループの調達力を生かしながら価格優位性を極めたフォーマットを確立し、前述のロピアやトライアルなど有力ディスカウンターの出店を迎え撃つ。

 また、アークス(北海道/猫宮一久社長)グループでは、中核会社のラルズ(同/松本直人社長)を中心にディスカウントフォーマット「ビッグハウス」を改装するかたちで、価格と品揃えを追求した「スーパーアークス」の出店を強化している。

“安さの仕組み”自体では差別化が難しい時代に

 「SMとディスカウントストア(DS)の垣根がどんどんなくなっている」──。あるSM関係者は市場をそう俯瞰する。

 そもそもDSは、サプライチェーンや店舗オペレーションそのものを究極的に効率化することで、圧倒的な価格競争力を維持するというビジネスモデルで成立していた。つまり「安さ」を実現するための確固たる仕組みがあり、それはSMとはまったく異なるものだった。

 だからSMが安易にディスカウントフォーマットを開発したところで、既存の“SMの仕組み”の中でできるのは品揃えを既存フォーマットより絞り込み、取引先の卸・メーカーに“価格努力”を求めるといった程度であった。そのためフォーマットとしての持続性や成長性に乏しく、実際、過去に登場したディスカウントSMの多くが撤退もしくは大幅な事業縮小を余儀なくされた。

 しかしここに来て、再びSMが「ディスカウンティング」に本腰を入れ、フォーマット開発に力を注ぐようになった。

 背景としては、①未曾有のインフレ下で顧客の価格感度が前例のないほど高まっている、②従来型のDS(「ドン・キホーテ」や「トライアル」など)やドラッグストアが生鮮の扱いと品質を格段に向上させたことで競合の度合いが高まった、③技術革新や商品開発力の向上に伴い「安さを実現する仕組みづくり」のハードルが下がった、④所得格差に伴う「エコノミーマーケット」が一定以上の市場規模に達し、それをSMでもカバーする必要が生じた、といったことが挙げられるだろう。

 とくに大きいのが③だ。たとえば、SMにとって慢性的な課題となっていた人手不足の問題に対して、近年はAIを活用した自動発注や売場管理システムの導入が進む。

 プロセスセンターの活用域も各社で拡大、さらに各カテゴリーで下限をおさえるPBの開発も加速している。「ローコストオペレーションでよい商品をより安く」というビジョンは、SMにとって以前よりも、簡単ではないにしろ取り組みやすいものになったといえる。

安さ+“尖った個性”で集客力を向上させる

 ただ、前出のSM関係者はこうも言う。「安さだけでディスカウンティングを表現できる時代は終わった」。

 安さの仕組みを手にしたチェーンが増え、SMとDSが入り乱れての食を中心とした価格競争が激化するなか、「競合が戦意を喪失するほどの安さ」、あるいは「専売特許レベルの仕組みに裏打ちされた本質的なEDLP(エブリデー・ロープライス)」などを打ち出さない限り、価格は差別化要素にならないというわけだ。

 他方、原材料費の高騰はディスカウンティングを志向するチェーンにとっても喫緊の課題。今回取材した企業でも、「ナショナルブランド商品を軸としたこれ以上の価格訴求はもはや不可能」と担当者は口を揃える。

 「安さ」だけでは競争を抜け出せず、そもそもこれまでのレベルの「安さ」を維持することが物理的に難しくなっているなか、ディスカウンティングの手法をどう変化、多様化させるべきか。これが本特集のメーンテーマである。

生鮮TOP!の売場
安さは前提に、それ以上の“個性”を打ち出すことが、ディスカウンティングの新たな手法の1つとなりつつある

 その方向性はさまざまあるが、たとえば安さにエンタメ性を付加したのが「ロピア」や「クルベ」だ。生鮮や総菜を中心に安さを打ち出しつつ、POPや売場装飾を個店ごとに工夫することで、買物の楽しさを演出。無機質な雰囲気が漂うかつてのDS像を一新し、安さ以上に「その店に行くことが楽しい」という来店動機を創出している。

 PBをはじめオリジナル商品の品揃えによって差別化を図る動きも見られる。

 たとえばトライアルはメーカーと共同開発したダブルチョップ商品を生鮮を中心に増やしているほか、産地に入り込んだSPA(製造小売)型のPB、そして職人品質を追求した総菜メニューなども日々拡充。

 オーケーも同様に生鮮でSPAを志向し、相場高騰下で値頃感のある価格を維持するほか、PB「オーケーオリジナル」、さらに新天地の関西では、地域の需要に即したMDのローカライズも部分的に行っている。

 このほか、イオン九州の「ザ・ビッグ」の新店では、冷凍食品売場に100坪超を確保し、地域いちばんの品揃えを訴求。アークスの「スーパーアークス」では、カインズ(埼玉県/高家正行社長)のPBを非食品売場で投入するほか、総菜や日配品で「スーパーアークス限定」のアイテムを差し込むことでオリジナリティを出している。

 これらはあくまで一例だが、共通するのは安さプラスアルファの独自性、あるいは個性とも表現できるような要素を追求するという姿勢である。本特集ではそうした“尖り”で集客につなげ、マーケットシェアを高めようとする先進企業を取材・調査した。ディスカウンティングフォーマットの開発手法は、もっと多様であってよいはずだ。

 

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