「圧倒的な商品力の差」から目を背け、「売り方」だけで勝負しユニクロに惨敗する悲劇
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2020年2月24日 20時44分
前回その詳細について説明した「Product Lifecycle Management (PLM)」について、2020年初頭、あるビジネス誌が「欧州でも導入実績は無い」とする記事を掲載したが、全くの事実誤認だ。米国ではすでに数十のアパレル企業が導入しているし、世界の工場が集積する生産地・中国でも本格的にPLMパッケージの導入検討が2年前から始まっている。
どうやら日本のアパレル企業は、「なぜ海外では導入できるのに日本ではできないのか」という理由を徹底的に考え抜く癖がないようだ。同様のことは「なぜユニクロにできて、自社はできないのか」という問いでも言える。その本質に迫る。
ユニクロを無視する悲しき日本アパレル
「私たちは独自のやり方をやっている」とは、変われない企業が必ずいう台詞である
2000年、ユニクロが快進撃を続けていた頃、日本の企業は「単なる安売り企業が頑張っているが、あんなものはファッションではない。いずれブームは去る」と高をくくっていた。
あれから20年、ユニクロは、日本のアパレル企業の遙か彼方に行った。今では「ユニクロは特別。我々と比較するのはナンセンス」というのが共通認識になっている。
競争をしているときは「安物屋」と無視しておいて、、競争に負けたら「ナンセンス」といって無視をする。こうしたメンタリティは、自らのやり方に固執し、彼我の差を学ぼうとしないと言っているのと同じで、組織が変わらない原因の一つである。アパレルビジネスで最も大事な商品力にかかわるバリューチェーンは、その典型といえる。
私は7年前、「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社)を上梓し、日本企業がユニクロから学ぶべき論点を、誰も書かなかった生産領域に関する実態を深掘りし、解決策まで丁寧に書き記した。しかし、私の書籍は数多ある「How to本の一つ」の中に消え去り、昨年絶版となった。この書籍は、一部の企業を除いて改革のガイドラインとなることは無く、この世を去ったのである。私の絶望感は言い表せないほどだった。
ユニクロの競争力の源泉は「売り方」にあらず
2020年元日、私は家族とともにショッピングセンターに新春セールに出かけた。服好きの私は、大手セレクトショップやブランドショップに入り、買い物を楽しんだ。私の好きなブランドのイタリア製ニットは、定価4万円のところ30%オフで2万8000円となっている。イタリア製のパンツは、定価3万円が2万1000円だった。とはいえ、これらの商品は、確かに定価と比べると安いものの、何万円も服にお金をかける位なら、そのお金で何回家族で食事ができるだろうと考えてしまった私はセールをスルーした。その後、家族に連れられユニクロに入り、幾度も経験済みの衝撃を受けた。
ユニクロは、店舗の一番前に「繊維の宝石カシミヤ」という打ち出しをし、ニットのセーターを5000円で売っていた。遠くをみれば、399円、1900円という数字が目を奪う。ニットビジネスの現場を9年経験した私は、ユニクロのホワイトカシミヤセーターを手に取り、その圧倒的なコスパを再確認し、先に見たセール対象品の2万8000円のメリノウール(梳毛の中では高級品だが、カシミヤより格は落ちる)セーターを思い浮かべた。
また、奥に入れば、世界的ヒット商品であるヒートテックがおいてある。いうまでも無いが、ヒートテックは東レと組み、素材原料から開発を行った他社を圧倒する保温性を持つ繊維製品だ。
ユニクロの打ち出しは見事で、自らの立ち位置をよく分かっている。決して、ファッション性を打ち出すことなく、ヒートテックの暖かさや、さらに、改良を重ねた商品の保温性を、迫力をもって打ち出していた。外国人が群がる店内では、奪い合うようにユニクロのセール品が売り裁かれていた。
ユニクロとの差は「作り方」 バリューチェーンに違いがある
「ここまでコスパが違うのか・・・」、私はため息が出た。そして、今、再建を依頼されているブランド・リテーラーに思いを巡らせた。ショッピングセンターに山のように存在するブランド・アパレル。そのコスパはユニクロと比較にならない。勝敗は明らかだった。
「もし、彼らに再建を依頼されたら・・・、打つ手無し」
これが、私の結論だった。日本の総人口の12%程度しかいないと言われる、年収1000万円程度の世帯でも一着3万円もするニットをおいそれと買うのは、よほどの服好きではない限り不可能だ。子育て、家と車のローン、そして、老後の貯金を考えれば、服は当然ユニクロになるし、我が家ではユニクロでも高いということで、娘達はGU(ジーユー)を買っている。私もユニクロを3年着ることもめずらしくない。いま、メルカリなどC2Cチャネルで最も売れているのがユニクロだということもよくわかる。家庭の幸せや状況を考えれば、3万円も4万円も服にお金を使っている場合でない。
ユニクロは、一見、世界の超優良都市に巨大店舗を立て、世界最先端の技術を導入し、世界の勝ち組を徹底的に研究して売場改革を進めている。しかし、それは、同社の商品の価格と商品価値のバランスがずば抜けて高く、圧倒的な競争力を持っているからだ。例えば、同じような綿のリブソックスが、某アパレルでは1500円だが、ユニクロでは300円。両社に品質差は無い。それほどユニクロの商品完成度は高い。それが、霜降り牛と化したバリューチェーンから生まれる商品と、綺麗でシンプルなバリューチェーンから産まれる商品の差である。
では、どうすればよいのだろう。
デジタル投資を「売り方」だけに振り向けているから勝てない
おそらく、ユニクロとて、前述の交差比率と稼働率の融合課題については、最初から今のような完成形を生み出した分けではないだろう。彼らは、トレンドを追うのでなく、ベーシックで着回しの良い商品を扱うことで在庫問題を解決した。同時に、私が定義する「機能的価値」を前面に押し出し戦いを挑んだことが大きい。ビジネスが小さくても、ライトオフまでの期間が長ければ、在庫が残っても商品を売り切るまでビジネスを続けられる。このことに誰よりも早く気づいたことが大きかったのだと私は思う。
感覚を重視してトレンドを追いかける企業と、ものごとを論理的に考える企業の差ではないだろうか。もちろん、同社躍進の背景には、日本の悪化する社会環境も良い意味で追い風となったことを付加しておく。
いずれにせよ多くのアパレルは、「そもそも商品力の違いはどこからでてくるのか」という本質的な部分に目を向けず、店舗オペレーションやデジタル技術ばかりに注目している。つまり、「商品力」の強化でなく、「売り方」の強化だけで競争をしているのだ。
例えば、多くのITベンダーがCRM (顧客との長期的な関係を維持する経営手法)を強化するデジタルソリューションを出しているが、結局、ユニクロと比較して商品力に圧倒的な差があるのだから、消費者にとって不要なものを押しつける「押し売りシステム」となっている。実際、メディアを見ても「デジタル化」といえば、「売り方」だけにフォーカスし、「作り方」についての記述は皆無に等しい。
デジタル投資はその結果、数倍もユニクロとコスパが違う商品を、どのように売るかという「負け戦」に向けられているのである。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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