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本当の敵はユニクロ!?苛烈なアフターコロナのアパレル業界の世界

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2020年4月20日 20時55分

RyanJLane / iStock

コロナに関する論や方向性もそろそろ固まってきたようだ。各国でワクチンの開発が粛々と進められており、人類がいずれこの脅威のウイルスに打ち勝つことは明白、その期間は長くても1年程度と想定される。
このコロナショックをあえて前向きに捉えるならば、「数十年動かなかったアパレル業界を変革するトリガーになる」と考えられる。その理由を示すとともに、アフターコロナのアパレルビジネスの世界にお連れしよう。

RyanJLane / iStock

アフターコロナが全く別の世界になる理由

「前向きに捉えれば、このコロナショックは、数十年、鉄の山のように動かなかったアパレル業界を変革するトリガーとなるだろう」。

 このようにある経営者は言ったが、私も同意見だ。私は様々な人たちと討議を繰り返しているが、彼らと合致している論点は、「アフターコロナは全く違う世界になる」ということである。ロックダウン、オーバーシュートなど、近視眼的な話が飛び交うが、賢明な企業や個人はすでに「アフターコロナ」の準備を着々としている。PBR(株価純資産倍率)が1を割った日本企業に株式投資を行っている個人もそうだし、事業モデルを変える時期と、テレワークを使って戦略立案プロジェクトを進めている企業もそうだ。

  西の名門アパレルといわれたワールドは、45歳のコンサル出身の鈴木信輝氏が新社長に就任することを発表。同時に物販からの脱却を宣言するかのごとく、次々と企業買収を行い、独自のプラットフォーム事業を主軸に置くことを発表した。

 またファッションビルの丸井もD2Cと呼ばれるイノベーション企業に投資や育成を行う子会社を設立した。もはや、「安く買って、高く売る。売上は出店で増やす」という昔の教科書は通用しないのだ。

 アフターコロナに向けた準備は、一部企業で着々と行われているのだ。ある企業の経営者の言葉を借りれば、「巣ごもりしている場合ではない」のである。

  こうした中、弱体化したアパレル企業とは裏腹に日本は投資先が見つからず空前の金余り現象となり、ファンドを中心とした金融機関は大忙しである。すでにいくつかのメディアに発表されているように、業績不振企業ではカーブアウト(大企業が不要な子会社を切り離すこと)や事業承継(主に中小企業の後継者問題)型M&A(合併・買収)が増加している。これらの状況はコロナショックが潜在化させたわけだが、その原因は本質的にはコロナと関係ない事業環境の変化に遅れた企業の末路であるというのが私の見立てだ。

  コロナショックをトリガーに、テクニカルノックダウンを食らった企業に対して、アクティビストと呼ばれるファンドや商社がM&Aを仕掛ける。何十年も動かなかった「鉄の山」が動き、再編が加速されてゆくのである。

 

すでに、アジアの後進国になっている日本

「中国人の給与は日本人の1/20だから、彼らを使えば安くものづくりができる」というのは今は昔。現代は中国人が日本企業の立て直し(鴻海によるシャープの事例)や、経営者の更迭も実行する(中国山東如意集団によるレナウンの事例)。声高に「日本人は優秀だ!」など空に向かって叫んでも、現実は、日本は凋落の道を歩んでいることに疑いない。野戦病院と化したM&Aマーケットには、次々と乱脈経営を行った結果、半身不随になったアパレルが担ぎ込まれてくる。

 つまり、アパレル業界も「医療崩壊」を起こしているが、見方を変えれば、不謹慎かもしれないが、「新陳代謝」が起きているともいえる。

 こうしたなか、私は30年の業務経験と50社の企業再建の体験から、粛々と「アフターコロナ」の準備をしている。具体的には、「本気でこの業界と心中しよう」という覚悟を持っている人、組織と緩やかなネットワークを組んで「アフターコロナ」の絵を描いているのである。

 私は、評論家でも無ければ、調査レポートを渡す「ペーパー・コンサルタント」でもない。企業の中に入りハンズオンと呼ばれるやり方で自らが戦略立案やオペレーションをやってみせ、成果にコミットしながら企業変革を現場とともに伴走するスタイルを続けている。ここまでやらねば企業は変わらないからだ。調査報告書に数千万円を払っても、未知の世界に仮説をたて、真っ白い紙に戦略絵を描ける力がなければ、デジタルツールなどのハイテクツールもタダの箱。アフターコロナの準備にはならないことは企業も分かってきた。

アフターコロナの世界1
繊維商社はプラットフォーマーだけが生き残る

 私の出自である繊維商社に対して、私は3年前から最後のブルーオーシャンといわれるPLM (Produt Lifecycle Management )を主軸とした「デジタルSPA」の提案を行ってきた。だが、この3年で私の提言を実現化した商社は数社のみであり、そのうち、私の描いた「CPFR (シーファー)」理論 (バリューチェーン全体が情報を共有し合い、全体最適を実現するコンセプト) ベースの戦略に沿った業態改革をした企業はたったの二社である。

  その他は、相も変わらず我田引水発想による「個別最適」、つまり、「バリューチェーン全体の中で、自社が儲かればよい」という発想で、本質的な競争力を生み出すビジネスプラットフォームを構築するものではない。これは、業務関係者がデジタルに対してあまりに無知であること、加えて、デジタル関係者も業務に対して無知であること。さらに、この両者を結合した総合戦略を白紙のホワイトボードに描ける人がいないことが原因だ。商社については、まったくの白紙にゼロベースで商社の次世代の姿をデザインできる高度な戦略思考が必要だ。

  個別最適=内部オペレーションの効率化をめざすだけであれば、数百万円のRPA (ロボティクス ロボット技術をつかって反復処理を自動化する技術)で十分だ。PLMというのは、そのように矮小化された領域を最適化するものではないのである。 

中国では既に稼働しているCPFR型ベースのデジタルSPA

  私は、米国ニューヨークのPLMベンダー、アジアの統括CEO達と、定期的にSkypeなどを使って世界のPLMの先端技術について議論をしている。日本でやっても伝言ゲームになるだけで、正確な情報が入らないからだ。そして、私の提唱するCPFAベースのデジタルSPA、クラウド技術を使ったマルチベンダー、マルチアパレルエコシステムはすでに中国で同様のコンセプトを使って稼働しているという事実を知った。

  私が「デジタルSPA」を海外講演したのは、今から3年前のこととなる。当時、中国も韓国も立ち見客が現れるほど、大学や講演会場に人があつまり私の話に聞き入っていたことを思い出す。このままいけば苦境に陥るのがわかっているくせに動こうとしない日本企業とは大違いだ。

  インバウンド需要がなくなった今、国内では日本人だけの本当の需要が見えてきた。コロナショックにより、多くのアパレルは壊滅的な打撃を受けている。ただ、誤解して欲しくないのは、アパレル業界の本当の敵は暖冬でもなければ、コロナでもないということだ。本当の敵は、今や世界2位のアパレル企業となった、ファーストリテイリングであり、ユニクロである。既知の事実だが、もはやユニクロのキラーアイテムであるヒートテックは日本の認知率の90%を超え、ユニクロの購買者には多くの富裕層が含まれる。今時、「ユニクロは我々とは客が違う安物屋だ」などと言っているねは、全くマーケティング視点が欠落していると言わざるを得ない。

 

ユニクロとその他アパレルの
コスパの違いは 3倍から5

 私は、ユニクロのイタリアン梳毛糸を使ったリブウールのセータ (1250)をアパレル企業に持ち込み、同じものを売価がいくらなら作れるか、という実験をした。その結果は「5500円」だった。その差は4倍である。同じような商品でありながらこれだけの価格差があるのだから、いくらWebだ、オムニチャネルだ、デジタルマーケティングだ、AIによる需要予想だといっても勝負になるはずがない。改革すべきポイントが全くズレているのである。

  そうした中で商社は、下工程、上工程とデータ連係を行い、すべての工程を「見える化」し、適切なプロフィットシェアを約束し、無駄なミドルマンを排除してシンプルな商流 (=CPFR) を作るべきだ。先が読めない、あやまったQuick Response (QR)をいまどきやっているアパレルとは付き合わない。私が提言するZARAMDで、生産稼働を安定化しているアパレルとだけ付き合いするべきだ。

  また、商社が川中で商品に20-30%もの口銭をのせ、商流をブラックボックス化させた商品を仕入れるアパレルが、ユニクロに勝てる時代ではない。唯一解は、バリュチェーンの製販統合を行い、工場、商社、アパレル・リテーラーの3社全てがデータを開示し、相互に連携し合うことである。アパレル・リテーラーにはお客だけを見てもらい、素材調達、物流配送、工場稼働など、重複機能をデジタル統合し、アパレル・リテーラーの要求を、最低価格の最高品質で現実化させるデジタルSPAプラットフォームをつくる以外に生き残る道はないのである。

 他産業に目を向ければ、パソコンや家電製品などは、部品や資材の共有化が当たり前のように行われている。例えば、私の趣味である一眼レフカメラ。このカメラセンサーは、世界中がソニーのモノを使っているし、自動車産業に目を向ければ、今では、ドイツのBMWとトヨタのスープラが、同じプラットフォームを使い、ルノーと日産などは「上物を外せば中身は一緒」という時代である。

  日本という縮小する市場に2万社ものアパレルがひしめき合い、それぞれが全く連携せずに個別に素材を発注し、物流を行っているなどというのは産業効率が悪すぎる。本来商社は、寝技と腹芸で口銭を奪うのでなく、こうした企業間重複機能をデジタル技術を使って統合して産業効率を上げる役割を果たし、適正価格の口銭を対価としてもらうべきだ。また、数億円規模の投資ができない中小アパレルのため、商社が代わりにデジタル投資を行い、彼らのイニシャルコストを負担し、アパレル企業にサブスクリプション型でデジタル技術を提供するのである。

「コバンザメ戦略」(儲かっているところのOEMしかやらない)と「南下政策」(デジタル化による生産性向上でなく、人件費の安い南の国へ移ってゆくこと)では、商社はもはや「自らユニクロと無印の二社しかやりません。あとは、コスト競争でがんばります」といって、破滅の道を歩んでいるのと変わらない。商社こそ今こそ変わらなければならないのである。

  次週、アフターコロナの世界について、さらに2つのシナリオを紹介したい。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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