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アパレルのEC売上は「アフターコロナの時代でも増えない」理由

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2020年6月24日 20時55分

JohnDWilliams / istock

「論理的思考」と「数字」に弱いのが、最大の弱点だといわれているアパレル。二言目には「天気」と「トレンド」のせいにして、自らの業績を説明している。私が提唱する4KPIを使えば、マーチャンダイジングの失策、そして、事業が持つ失策が白日の元にさらされるからである。今回は、アパレル業界が信じて疑わない「アフターコロナの時代は、ECの売上が増える」ということがいかに論理的におかしなことかを明らかにしたい。

Tanateph / istock

「真夏に売れまくるダウンジャケット」の説明がつかない

 まず「天気」の話からはじめよう。確かに、冬が極寒となれば一般的にダウンジャケットが売れ、2019年のように暖冬となれば当初の見込みよりダウンジャケットは売れなくなるだろう。しかし、ある企業のダウンジャケットは炎天下の「8月の売上が8割を占めている」という事実を多くの人は知らない。

 これは「超絶に強いブランド」で、私も炎天下の下、販売解禁日に店にならび、自分用と娘のために二着ダウンジャケットを買ったものだ。アパレル各社は、こうした事実をひた隠しにする。また、そんなにものが良く、ブランド力を大事にしたいのであれば翌年売れば良いし、流行が変わるというなら、なぜ私が提唱する二次流通を作らないのか理解できない。結果、二次流通まがいの在庫破棄企業やC2Cと呼ばれる企業が上場し業績は絶好調。当のアパレルは「作りすぎ」で損益計算書は悪化し赤字を続けているという冗談のような状況が続いている。

 また、天気によって売上が落ちるなら仕入れを絞れば良い。私は、「クイックレスポンス(QR)が日本を破壊している」という立場をとるが、これは、日本のアパレルが正しいQRをやっていないという意味で、だからと言ってムダな会議や資料作りは今すぐ辞めるべきだ。「遅ければよい」というものでもないのだ。だから、別にユニクロがクイック生産をはじめると聞いても驚かないし、私の理論がおかしいともみじんも思わない。

勝てるバリューチェーンの作り方

tumsasedgars / iStock

 一例として、中国工場の日本人と会食した時の話をしよう。そこで語られたアパレル企業、いや、生産事業部の常軌を逸した「仕入れ先いじめ」は驚くほどだった。日本のアパレルは、完成品在庫は数百億円という規模でリスクを持ち、期末に数十億円という在庫を損金処理(破棄)する。しかし、上代の30%の、さらに30%、つまり、1万円の商品の1割程度しかない(輸入費を除けば実は5%程しかない!)原材料費(アパレル企業の原価は、FOB<仕入れ値>の30%が利益、30%が工賃、30%が原材料費と覚えておこう)は持とうとしない。半製品を持てば、使い回しもできるしライトオフまでの期間は5年から10年になる。よいこと尽くめなのだ。半製品で在庫を持てば、アセンブリ(組み立て)にかかる時間はたったの3日である。つまり、10日もあればバイオーダー生産はすぐに可能なのだ。これをアパレル会社のいろんな人に言っても、答えは「今までにやったことがない」と「仕入れ先に頼めばもってきてくれるので原価計算が面倒くさい」という回答しか得られない。まったく信じられないような話である。

 年商1000億円の企業が50億円程度しかない工場に対して、「ヘッジ」の名の下、契約があるにも関わらず、平気でキャンセルするのである。なぜ、体力のある年商1000億円企業が、たった50億円の規模しかない工場に対し、一旦約定をいれた商品をキャンセルするのか。その理由を解きほぐすと、私が批判している生産部や商社の丸投げ体質の実態が見える。

 話を、その会食に戻す。私はそんな企業と付き合うなといったのだが、「そんなことをしたら、次回からオーダーをもらえないのだ」という。私が業界にはいった30年前と全く変わらない慣習がまだ残っているのである。調べてみると生産部の人間が前述で述べたように、売場の上司に「ムリ、ムチャ、ムダ」を強要され、また、原材料を残したら怒られるという。

 また、もっと酷い例は、上司に「キャンセルして工場に“ヘッジ”しろ」と言われ、断ったところクビになったという人間にも会った。すべて本当の話である。一時が万事こうだがから、私が提唱するPLM (Product Life Cycle Management )モジュールなどはいるはずがない。なぜならこういうパッケージを導入すると、生産部の悪行が白日の下にさらされるからだ(ことわっておくが、私はすべての生産部が悪いといっているのではない。そういうアパレルもまだあるということだ)。

「今でもこんなことが続いているのか」と絶望的な感覚になった。フェアなリスクマネジメント、フェアなプロフィットシェア、全体最適という言葉は40年も前から言われてきたが、全く業界の体質は変わっておらず、結果的に、ユニクロと3〜5倍の「コスパの差」がつき競争負けする。「霜降り牛化したバリューチェーン」から生まれる商品を、「売り方さえ工夫すれば売れる」とうそぶき、「オムニチャネルだ」「O2Oだ」とJARGON (専門家しか分からない言葉)で煙に巻いている。本当に、アパレル業界に未来はあるのかと私は時に思うことがある。私は、アパレル企業の経営者に、今一度、自社の生産部をしっかり調査することをお勧めする。

 仕入れ先の真の協力があってはじめて、「勝てるバリューチェーン」ができるのだ。私が提唱する解決案の1つは、入社してずっと代わらない生産部の部員をジョブローテーションをおこない、MDや販売員の人に代わってもらう、というものだ。なぜか、アパレルの生産部は窓際が多く、その道何十年という人が多く、絶対に席を譲らない。そこにメスを入れよう。


「ECが拡大する」というのは嘘

JohnDWilliams / istock

 こうした、論理的思考力の弱さからくるマネジメント力の弱さは、「コロナ後にはECが拡大する」という、念仏のように唱えられている言葉にも表れている。これは、人にとって必要な衣食住の中で、なぜ衣料品だけが産業として崩壊の危機に瀕しているのかという問題と無関係ではない。

 順を追って、説明しよう。

 テレワークなどは、私も含め「こんなに便利なものがあったのか」という驚きと、「これでも十分できるじゃないか」という、デジタルの威力を国民全員が知る良い機会となった。ある意味、コロナの副産物と言えるかもしれない。

 潜在的に便利なもの、今まで当たり前だと思って疑わなかったこと(毎朝、通勤地獄に紛れて所定の時間に出社すること)が、実は非合理的で、むしろ企業のコストを上げていた(ワークスペースや通勤交通費)ことを企業も個人も知った。こうしたケースにおいては、「アフターコロナに、テレワークは増える」に違いない。実際、コンサルティングファームではコロナ前から、ウェブ経由で会議に出席するケースが多かった。このテレワークのようにコスパも効率もよいものは、コロナ後に(その良さをしった人達によって)増えるだろう。

 しかし、ECはどうか。コロナの前から存在していたし、消費者もECの利便性はよくわかっていたはずだ。それが、コロナで巣ごもりを強要され、ようやく街にでることを許されたのだ。そういう事情だから、そこには「新しい発見」などなにもない。にもかかわらず、なぜ「ECが増える」と考えるのか。そこには、全く論理的な説明がない。

 そもそも、ECの拡大というのは、企業が決めるのでなく消費者が決めるものだ。企業が「拡大する」などと言っても、消費者がECで買わなければ売上を維持したままEC化率を高めることはできない。

 現在、日本のアパレルのリアル店舗とECの割合は90%と10%ぐらいである。つまり、アパレルに関していうなら、ECなど10%程度にしか過ぎないのだ。消費者からみてECで買う理由など、コロナ前から10%にも満たないと言い換えることもできるもちろん、ECの成長率は年率約8%だが、ここにも数字のマジックがある。8%というのは、全体から見れば10%の8%だから毎年1%弱しか成長していないことになる。そもそも衣料品のマーケットは縮小しているのだから、ECが成長しているという表記は間違い、消費者の購買チャネルが、毎年1%ずつ入れ替わっているというのが正しい言い方だ。

  つまり、「ECが拡大する」というのは、消費者側の論理でなく企業側の論理なのである。しかも、顧客買い込み策としてAmazonプライムやAIをつかったレコメンド、当日配送のロジスティクスといった“兆”単位の投資を行っているAmazon、楽天、Zホールディングス(ヤフー)に対して、蚊の鳴くような投資を行って、EC売上が増えると思ったら大間違いだ。このように、論理的に洞察を進めれば、コロナ後にECが拡大するというのは誤った考えであるということが分かる。

 「EC化率」は増える。だが、あくまでも「率」であり、絶対額としてのEC売上高はどんどん減少するだろう。Amazonや楽天、Zホールディングスに顧客を奪われるからだ。

 次回は、その先にある「EC化率が高まるほどに、ユニクロに完敗する」というセンセーショナルだが、悲しい事実を、論理的にご説明したい。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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