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アパレル商社復活の道-3 アパレル市場は4つに分かれる!商社復活「最後の戦略」とは!?

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2020年7月27日 20時55分

NanoStockk / istock

私の30年にもおよんだ、商社復活のための戦略づくりの旅。この成果を、アパレル業界の様々な課題を商社視点でみながら、全3回に渡って解説していく。第3回は、これからアパレル市場は4つに分かれていくことが、私の分析の結果明らかになった。どんな市場構造になっていくのかを詳しく見ていくとともに、その市場環境下において、商社が復活するためにどのような戦略を繰り出すべきかを提言する。これは、商社復活、最後の戦略と言えるものである。

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これからのアパレル市場は4つに分かれる

 以前この連載で、売上1000億円のアパレル企業のある経営者が「うちは、仕入が600億円だから仕入原価を1%減らせば6億円利益がでる」という発言を取り上げ、業界で多くの人が「企画原価率」という指標と構造をあまり理解していないことを述べた。

 「企画原価率」とは、アパレル経営で重要な4KPI(重要業績評価指標)の1つであり、残る3つは「プロパー消化率」「オフ率」「残品率」であることは再三述べたとおりだ。

 すでに米国で始まったアパレル企業の産業再編の波は、いずれ日本にも上陸する。私は、「今後アパレル業界は金融主導で業界再編がはじまり、レナウンの経営破綻はその序章である」と述べたが、その余波は巨大な運転資本の山谷の中でハイリスクなビジネスを展開している商社に及ぶことになる。本来商社は売上が大きなアパレルの請負仕事をするのでなく、このようなアパレル不況だからこそ、正しい経営のあり方をアパレルとともに考え、ともに4KPIを指標としたビジネスを展開すべきだ。例えば、商社は時に「下げるのはうちの原価でなく、あなたたちのオフ率であり、目指すべきはプロパー消化率の向上です」という仕組みを説明、合意を得て、ともに全体最適を進めながらアパレル企業とともに目指すべきゴールを達成すべきなのである。

 単なる「生産請負」の先に未来はない。今まで幾度もトライしても変わらなかったとあきらめるのでなく、バリューチェーン全体の最適化をプロフィットシェア、リスクシェアをしながら目指すべきなのだ。

 例えば、ある商社は、「コンサルティング機能」を持ち、売上が乏しいアパレルに何人もの人員を送り込み、物流や組織などを改革し業績を改善させ、結果的に随伴トレード(付随する取引)拡大に成功した事例もある。加えて、昨今のデジタル技術は、従来不可能と思われていた10日程度で生産が可能なパーソナルオーダーによる受注生産や、在庫発注点管理による自動補充なども可能なのだ。こうした取り組みは、決して、アパレル単独、あるいは、商社単独でできるものではない。企業間をまたぐ垂直統合されたバリューチェーンからのみ生まれる技術である。

 一昔前は、企業がまず戦略をつくり、その戦略にあわせたプロセス設計を行い、最後にシステムをいれて、そのプロセスを自動化するという流れが一般的だった。しかし、今は、戦略立案の最上流工程にデジタル技術を見据えた検討が必須となっている。従来のように、企業の業務遂行能力、競争相手との差別化、顧客のニーズ、ウォンツといった3変数(戦略の3C)だけでは、競争に勝てないのである。このように、デジタル技術と4KPIをしっかりと理解し、事業構造との整合性をとりながら「逆に企画原価率を上げれば、損益計算書の原価率は下がる」など、単純な原価低減とは比較にならないほどダイナミックな意思決定が可能になる。ちなみにユニクロ、ワークマンなどのプロパー消化率は70~80%といわれ、企画原価率は40%を超えているようだ。これは、ベーシック衣料ならではの「ライトオフまでの期間長期化」により、キャッシュフローを悪化させても損益を最大化させるという戦略であることは解説した通りだ。

 一方、日本のアパレル産業は、産業を俯瞰してみたとき10億〜50億円程度の2万社もの中小零細企業がひしめきあう細分化された産業である。数億円の投資が必要なデジタル改革などできる企業はほとんどない。つまり、これからは投資余力がある企業とそうでない企業の差がますます大きくなることになる。日本で生き残るのは大企業、あるいは投資余力がある企業だけで、残念ながら外資アパレルが日本に参入、あるいは、企業買収をしかけ市場を形成するだろう。その結果、日本のアパレル市場は、

  1. グローバルに事業を展開するSPAアパレル
  2. 富裕層をターゲットにした高級品を取り扱うアパレル
  3. D2Cと呼ばれる小規模だが独特の感度を持つアパレル
  4. 二次流通市場(市場にでまわっている余剰在庫を買取・再販するアパレル)

4つになると思われる。

 

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デジタル技術を使った「商社3.0」とは?

  そして、234が他産業のように合従連衡し、お互いに共通オペレーションの共有化を進めながら生産性を高め、差別化領域をわけて特徴をだしながら巨大企業に戦いを挑む市場が形成されそうだ。そのように考えれば、従来の、安く買って高く売る商社ビジネスの「次」ともいえる商社の戦略は明確になる。

 それは、「小粒でもピリリと辛い」強みを持つ中堅企業の大連合を組むためのプラットフォームともいえる、「データ・ハブ」となることだ。商社は、ヒト(経営者派遣)、カネ(M&A)、情報(デジタル投資)、そして、モノ(伝統的トレード)を複合的に組み合わせ、垂直統合したアパレルの「事業価値向上」を支援する業務に移行すべきである。実際に、いくつかの大手商社は、想定競合先を「戦略コンサルティング会社」と位置づけ、垂直統合した小売企業の企業価値を上げ、事業拡大させながら連結グループ売上を上げるなどをすすめている。商社による小売企業の買収が進んでいるのはこうしたことが理由なのだ。サンプルを持ち込み、1セントでも安いFOBの商品を積み上げ、売上を作ってきた事業を商社1.0、ここにM&Aを組み合わせ、垂直統合しながらトレードを誘引、あるいは、経営者派遣し人材補強する事業を商社2.0と呼ぶなら、そこに商社がデジタル投資を行い、日本のアパレル産業のマジョリティをしめている中堅企業のまとめ役としてクラウドビジネスを展開するビジネスを「商社3.0」と呼ぶ。

 私のこうした見解に異を唱える方が幾人もいることは分かっているし、なにより現実と理想の狭間でもがき苦しんでいるど真ん中の当事者は私自身である。しかし、ユニクロや大手企業のニュースばかりを解説しても、それはアパレル産業の一部でしかない。私は、元商社マンとして、私自身を育ててくれた日本のアパレル産業全体のことを考えた提言をし、また、企業改革の支援活動をしているわけだ。 

 私がいう「マルチプラットフォーム」というのは、商社を中心とした大連合が複数できあがるという意味である。事業を行う最も広大、かつ根源的なビジネス・プラットフォームはGAFAと呼ばれる米国企業にとられ、これをひっくり返す力は今の日本企業にはない。従って、こうした、ビジネス・プラットフォームの上に複数の「二階層プラットフォーム」ともいうべき商社を中心としたプラットフォームをつくるべきなのだ。しかし、残念ながら、私の知る限りこのような動きは、むしろ大手アパレル企業の方が先行しているように見える。「商社マンよ、みなさんの元々持っている虎の目、ライオンの牙はどこにいったのか」といいたい。 

 私の分析によれば、アパレルビジネスのバリューチェーンは、単純化すれば6つのパターンに分類できる。この6パターンを基本軸とし、標準形を完成させ商社とアパレルを垂直統合させるための業務フローの約束事(プロトコル)として以下を提唱したい。
①アパレルにサンプリングに3D CAD使用してもらい、複写専用伝票をEDI決済とする
②生産の業務フローは突発的な事情のみを例外とし「計画生産と工場の安定稼働」を前提としたマーチャンダイジングに変更し、調達業務のほとんどを自動化する
③トレンド品は売り切り御免とし、MDミックスの割合をベーシック衣料を増やし、作り増しをする。また、会計制度は商品の「価値の残存期間」と商品評価減、滅却ルールを同期化させ、仕入れた商品は全て売り切る仕組みをつくる。
④消費者のタンス在庫の買取事業に参入し、思い切って新規仕入は半分程度に絞る。ブランド自身で自らの商品を大事に再販する二次流通市場をつくる。

 これが、私が考える「サステイナブル経営」でもある。おわかりかと思うが、上記の4つが実現すれば、ムダな在庫は減り、重複した業務は効率化され、人は高い生産性の上に仕事を行えるようになる。理想的といわれるかもしれないが、商社の売上至上主義は解説したように成熟経済において存在価値を失わせるだけなのだ。

 商社というのは、極論をいえば「電話」と「人」しかない業態で、そもそもいかなるビジネスでもやれる柔軟性を持っていた。

 アパレル業界は、構造不況に陥っており、コロナショックで投資もできない状況になるほど複雑骨折をしている。商社とて、このご時世にここまで大胆な自己改革を成し遂げられないという向きもあるだろう。しかし、このままいけば米国の事例でもあるように、ドミノ倒しのように小売り、アパレル、商社、日本向けの工場という順で企業の経営破綻が起きる気がしてならないのだ。こういう時代だからこそ、大胆な産業転換を行う強いヴィジョンが必要なのではないか。

 今、商社のアパレル担当者は「入社した時から商社不要論をいわれ、勝った経験が無いため自信をなくしている」そうだ。企業は業績が悪くなると、社内政治の戦いや出世のための椅子取りゲームが始まるという。部下は社内と上司を見ながら仕事をし、いつしか顧客視点を失い、リスクはないが「我が道ゆく」方向を選ぶようになり、大胆な戦略は「リスクが大きい」という理由で切り捨てられ徐々に弱体化してゆくのである。

 読者の中には、リテイル(小売)をテーマとするオンラインニュースサイトの論考に、度々商社の話が出てくることに違和感を感じている方もいらっしゃると思う。しかし、産業というのは、等しく国の発展段階において繊維事業から始まり、やがて様々な産業に発展してゆくのだ。日本も先の戦争前から繊維産業で経済を発展させ、戦後の高度成長期においても繊維事業が牽引していった。私は、世界でも類をみない日本の経済復興のスピードと、商社という日本独特の業態が果たしてきた役割は無関係ではないと見ているし、その後、我々一般消費者が知らないところで商社の川下シフト(小売業界への参入)は益々加速しているのである。

 私が、世界中で苦境に陥っているアパレル「産業」の再生、再建に商社の果たす役割に期待するゆえんである。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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