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アパレル商社復活の道-2 アパレル商社の優勝劣敗を分けたのは戦略軽視

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2020年7月20日 20時55分

Ranee Sornprasitt / istock

私の30年にもおよんだ、商社復活のための戦略づくりの旅。この成果を、アパレル業界の様々な課題を商社視点でみながら、全3回に渡って解説していく。第2回は、アパレル商社を窮地に追い込んだ戦略の違いと、勝ち組と呼ばれる商社、と苦戦中の商社を比較し、その違いを論じていきたい。

Ranee Sornprasitt / istock
Ranee Sornprasitt / istock

アパレル商社を窮地に追い込んだ「コバンザメ手法」と「南下政策」

 商社の基本戦略は、トレード(売り買い)を主軸とした、「コバンザメ手法」と「南下政策」であった。 

 「コバンザメ手法」というのは、儲かっているアパレルを見つけ出し、そのアパレルの仕入(商社から見た売上)を可能な限り頂こうというものだ。結果的に、各商社では、与信が安全で売上が大きな無印良品やユニクロに群がらざるを得なくなり、商社同士がコスト競争に陥りながら、血みどろの戦い(レッドオーシャン)を行っている。本来、この「コバンザメ手法」というのは、産業が大きく拡大している時には有効であった。しかし、市場が縮小し、これだけ世界をまたいでモノが行き来するようになった今、輸入業務は商社の専売特許でなくなり、また、海外の工場、特に中国の工場のほとんどは日本語でビジネスが可能となっている。外貨送金による規制も何ら難しくない。結果、最もボリュームが固まる仕入はアパレル自身でやり、ハイリスク・ローリターンだけが商社に集中させられることになった。

 さらに、「南下政策」というのは、とにかく人件費の安いところに生産拠点を移動させ、徹底して原価を下げるアプローチだ。例えば、この30年で、生産拠点は韓国、台湾から広東省、そして、北の北京・青島あたりに寄り道し、さらに南下して東南アジア・タイ、今は、ミャンマーとバングラデッシュがメーン拠点となっていることはこれまでの論考で解説したとおりだ。なぜか、この30年、繊維製品の生産はハンド・メイドが基本となっており、自動化の技術はスルーされ、「人件費勝負」を繰り返していた。

  消費者側から見れば、手慣れた中国の広東省から、生産拠点として未成熟であるバングラデッシュへ拠点を移した生産からといって、商品が多少ほつれていても構わないということはないわけだから、商社のリスクはますます増えてゆくことになる。 

 他産業に目を向ければ、人件費は自動化によってゼロ近くなり、例えば、ドイツではインダストリー4.0といって、無人工場が稼働し、生産拠点を自国へ誘導する国家政策がある。しかし、なぜかアパレル業界ではそういうことはおきない。私は新入社員の頃、先輩に「なぜ、世の中はますます自動化がすすんでいるのに、アパレルのものづくりだけは人件費の安いところにいくのですか」と聞いたことがある。しかし、先輩は困った顔をし「屁理屈をいわずに仕事しろ!」と怒られたことがあった。こうして、純粋な疑問は昔から続くやり方に押しつぶされ、組織の中で消えていったのかもしれない。私自身、いつしか「南下政策」に疑問をもたないようになり、新たな地に出て行くことが商社マンの仕事のダイナミズムだと思い込むようになっていた。 

 結果、世界に誇る技術をもった日本の生産拠点は消えてゆき、今では総投入量の2%以下となっている。それでも「2%(=国内生産比率)もあるではないか」というので、ある工場を訪問してみると、働いているのはアジア人留学生ばかりだという。岡山のデニムなどのごく一部を除き、もはや日本から繊維製品の生産拠点は完全に消えていった、わずかに残った生産拠点は国宝級のレア製品ということになる。

 

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商社はKPIを、売上から利益率へ変えるべき

 この「コバンザメ手法」と「南下政策」の組み合わせこそ日本の商社を窮地に追い込んだ戦略ではないか。

 例えば、欧州に目を向けるとイタリアは、自らの生産拠点の付加価値を上げる逆戦略をとってきた。彼らは徹底して顧客志向を貫き、フランス・メゾンのOEMというポジションから脱却するため、国家戦略として世界化を進めていった。世界中からファッショニスタをフィレンツェに集め、イタリアはファッションの国というポジションを確固たるものにし、イタリアブランドを作り上げ、工場出し価格を上げてきた。

  これに対して、日本のものづくりは、商社のQCD (QualityCostDeliveryの略。うまい、早い、やすいという意味) 偏重により、世界のアパレル企業が数十万枚という単位で生産を行っている場所にまで乗り込み、日本の過剰品質と極小ロットという「日本の論理」を押しつけ、限界利益を下回るオーバーコストを発生させ、恐ろしいほどの歩留まりを吸収した原価で輸入していることになり、ますます下がる最終製品のマーケット・プライスの定価の板挟みとなり、事業が立ちゆかなくなっているのだ。 

 商品に、その商品しか持ち得ない特徴を「Attribution」というのだが、生産というのは、後工程になればなるほど、サイズ、色、デザインなどが確定しAttributionが明確になる。業界の最大の問題である余剰在庫については、このAttributionが少ない生地や糸などの原材料の段階で在庫を持てば、「虫食い」による穴が空かない限り5年〜10年は持つ。そして、自動車業界では当たり前のように、工程ごとの中間在庫量をデジタル技術をもって計測し自動補充してゆけば、納期遅れも撲滅できるし、製品のアセンブリーなど23日で可能なのだ。実際にドイツでは繊維でそのような作り方をしている工場が稼働している。 

 つまり、業界では当たり前と思われている「納期まで1ヶ月かかる」というのは、未だに紙と鉛筆を使った伝言ゲーム、何度も作り直しをさせられるサンプルと人間輸配送を解決しようとしない結果なのだ。こうした非効率は、商社とアパレルのトップ同士が「取り組み」を前提に、アパレル企業を正しい方向に導き(彼らに3D CADを使わせサンプルの微調整をやらせるなど)、その対価としてサンプリングのコストの削減、および、スピードアップをせねばならないのである。

 成熟社会の今、我々は、大量生産、大量消費をやめ、また、資源の有効活用を真剣になって考える時期がきている。そのためには、まず、市場が求めている以上の商品を売り込もうとする売上至上主義を廃止しKPIを、売上から利益率 (付加価値の大きさ)に変えるべきだと私は思う。サステイナブル経営とは、まさに「付加価値経営」であり、規模の大きさの勝負ではない。

 自動車でいえば、商社はこれまでは後部座席に座っていれば良かった。だが、これからは自らが運転席に座り、自らハンドルとアクセル、ブレーキを操る必要がある。主体的ビジネスを行い、アパレルの売上にあやかって自らの売上を増やすのではなく、取り組み先であるアパレルの事業価値をあげることで商社の利益率を高めるビジネスをしなければならないのだ。

勝ち組商社と苦戦商社を分かつもの

 視点を変えて経済に目を向けると、コロナ以前に日本はますます貧しくなり、こうした中、ユニクロも商品完成度を上げてゆき、プライベートブランド(PB)レベルでいえば、ファッションアパレルと何ら遜色ないほどになってきた。「アパレル不況の時代」がきたのである。あれだけ国民の生活に密着していた百貨店も、需要に対する供給という意味では世界で類を見ないほどのオーバーストアとなり、インバウンド需要が止まった瞬間に70%も売上が落ちるなど、地方の百貨店ほど危機的な状況に陥っている 

 こうした中、商社の中には、従来型の「トレード」を、ファッションビジネスのようなアップサイド・ボラティリティ(売上が読めない不確実の高い状況)が高いビジネスを避け、スポーツやユニフォームなど、比較的売上の変化が安定した領域にシフトし、さらに、収益の柱を、誰もが避けきた「ブランド」というインタンジブルアセット(目に見えない資産)に注力し恐ろしいほどの利益を上げた。当時、商社は「現場、現物、現実」という三現主義というドグマに汚染され、「ブランド」など手触り感のないものは商売にならないという「ハードウエア信仰」を貫いていた。多くの商社が、この戦略を真似し川下に進出したがうまくいかなかった。私はある時期、商社組織がブランドを発掘する「審美眼の裏にあるメカニズム」がいかにして生まれるかを調査したことがあるが、これは「企業文化」としか説明のしようがなかった。

 さらに「選択と集中」を加速させ、「3050億円以下の商売はやらない」と企業方針を決め、トップ営業で「勝ち組アパレル」と、売場から作り場までを、企業間取り組みで垂直統合した商社もあった。経営学を地で修得していた私は、このときほど「戦略」の違いが生み出す恐ろしさを感じたことはなかった。勝っていた商社は、等しく経営理論のセオリーに沿った動きをしていたし、何十年も仕事のやり方を変えなかった商社は、先日、亡くなられた私の崇拝するクリステンセン教授がいう「イノベーションのジレンマ」(企業は勝った理由で失敗する)に陥っていた。

 日本のアパレル業界の産業構造は「ファーストリテイリング一強」だ。ここに、日本中の商社が集まり潰し合いをやっている。結果、コスト競争に陥り収益を悪化させている。だから、商社が売上を求め、レッドオーシャンから抜け出そうと超ロングテールの領域に打って出てしまうと、企業数だけ独自のやり方や数にならない単位の発注が増え、生産性は著しく下がってしまう。まさに戦略が商社の明暗をわけたのである。

 戦略軽視の歴史は、アパレルだけでなくアパレル商社にもいえたのだ。戦略を軽視し、オペレーションを過度に重視したため、今となっては商社にハッキリとした明暗が生まれたのである。そこにコロナショックだ。今年、アパレル商社は大きな統廃合が起きる可能性が高い。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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