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破綻が迫るアパレル企業の事業再生手法#2小刻みのリストラが企業をジリ貧に

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2020年8月24日 20時55分

ridvan_celik / istock

私が独自に体得した「企業再建の手法」を明かすシリーズ。企業再建は「一枚目」「二枚目」、そして「三枚目」という表現を使って、3つのステップを踏んで実行していくことが大事だ。第1回は、「一枚目 余剰な商品、業務、店舗を切り離し、損益分岐点を下げること」について解説した。第2回となる今回は、「一枚目」の具体的な実務を説明していく。

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年平均成長率から、3年後の売上予測し、コスト削減を行う

 それでは、具体的な実務に入るとする。まず、過去5年の売上推移を見る。小売企業の場合、5年もあれば激しく出退店を繰り返しているだろうから、こうした店舗は除き、過去5年間存続した店舗だけの年平均成長率(CAGR、ほとんどのケースにおいて、マイナス成長であろう)を算出する

 業績不振企業の場合、過去5年のCAGRを、そのまま将来3カ年に当てはめると、私たち再建屋が言うところの 「ホラー・ストーリー」(恐怖の物語)に遭遇することになる。思わず足がすくむほどの低い売上水準なのである。その数字をみたクライアントは感情的になり「こんな売上になるはずがない!なんとか頑張って来年は復活させる」と言い放ち、同時にコスト削減の手を「現実解」の名の下に緩めてしまう

 しかし、業績不振企業は、過去5年も業績不振を見過ごし遊んでいたわけでなく、彼らもそれなりに努力をしてきた。ならば、こうしたダウントレンドの傾向は、クルマの運転に例えると、「同じドライバー」、つまり「同じ経営者、事業管理者」が行えば、なにをどうやろうと、過去の傾向通りに将来も進むと考える方が妥当だ。私の経験上、さらに鋭角のダウントレンドが進むことがほとんどだった。

コスト削減だけでブレークイーブンに持っていく

 例えば、こんなことがあった。

 年商150億円の某アパレル企業の業績悪化がとまらず、CAGRをそのまま将来予想として使うと、3年後に80億円になるという結果となった。これを経営企画室の人に見せたところ、「そんなことはあるはずがない!」と怒鳴りつけられ、「我が社は過去、300億円まで売上を上げた企業だ」と昔話を繰り返すのである。そして、「そんな机上の空論でなく、例えば、全員一丸となって頑張って、売上を昨対比に持ち直し、それをベースケース(基本的な予想シナリオ)とすべきだ」と言ってくる。私の経験上、十中八九がこのパターンである。

 そして、肝心のコスト削減については、「コピー用紙は裏表を使う」「真夏のエアコンの温度設定は28度にする」「海外出張は禁止」など、感覚的にものごとをすすめ、どのコストが販管費の固定費、あるいは、変動費の中で最も損益に影響を与えているのか、という基本的分析をないがしろにし、「売上横ばい × コスト削減は豆粒程度」という一枚目が完成してしまう。当然、社員がそれらのコスト削減を完全遵守しても、桁が違うほどの差が損益分岐点との間に存在するという、あたかも「転職で給与をあげて挽回する」という計画になる。

 本来、その企業が持つ「固定費」と「変動費」の最も大きな「改善変数」をあぶり出し、そこを徹底して攻撃し、コスト削減だけでブレークイーブン(損益分岐点)にもってゆくことが一枚目である。アパレルビジネスの代表的な固定費は販管費で、変動費は原価であるから、ここをしっかり分析せねばならない。

 

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絶対にコスト削減してはいけない項目とは?

 しかし、ここで注意が必要なのは、販管費、変動費の中には削減してはならない費用も含まれているということだ。企業の中には、手を出してはならない項目に対して盲目的にコスト改善を行い、逆に競争力を低下させることもある。例えば、レストランチェーンなどであれば、「味」に関係するコスト削減は慎重を期すべきで、むしろ追加投資が必要なぐらいだ。なぜなら外食ビジネスの最大の差別化ポイントは「味」だからだ。縮小する日本市場で顧客のLTV (生涯価値)を高める最も有効な手立ては「味」なのである。実際、コンビニのコーヒー販売も、マクドナルドの復活も、結局は、「味」に徹底して取り組み顧客を呼び戻していった。

 しかし、えてして「味」などという強みは、数字で計測できないし、計測できないモノは改善できない、というのが従来の企業改革のセオリーだった。したがって、調達コストのような計れるものをどんどん削り、ますます劣悪な素材、調理法などを使い顧客が離れてゆく。アパレルも同様だ。今の消費者は本当に衣料品の善し悪しを見る目をもっている。販管費の中の広告宣伝費も、必要以上に削減することで新規顧客獲得の流入をとめ、縮小均衡とリストラを繰り返すケースも幾度もみてきた。ここは、本当に信頼できる専門家を雇い、一律削減でなく、その中身をきちんと精査することが前提であるということは、絶対に忘れないでいただきたい。

 さらに、大変不幸なことだが、企業の宝である人材に手をつけてしまうケースも最近ではニュースで見るようになった。本当に心が痛むことではあるが、経営者が止むなく人材に手をつけざるをえない修羅場に幾度も立ち会った。思い出せば、二度とこうした経験はしたくないといつも思うことを前置きにして話を続ける。

 まず、人材に手をつける場合は、1.必ず一回でやること (その場合は、先にあげたCAGRを3年分引き、三年後の売上規模に見合ったコストをターゲットにすること) 2.人材に手をつける場合は、必ず、「成長戦略と一緒に従業員に示す」ことだ。

 一枚目で、「3年の生きてゆくための猶予期間」を確保し、二枚目、三枚目を実行する

 何度も小刻みにリストラを繰り返す企業が本当に多い。もちろん、昨今、一度失った社員はもどってこないという事情は分かるが、小刻みにやると優秀な人材からどんどん逃げてゆく。企業は人なり。そうなれば、企業は再起不能になる。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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