ZOZO創業者、前澤友作氏が手金80億円をアパレル企業に投資した理由
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2020年10月5日 20時50分
新型コロナウイルス感染症(コロナ)の拡大の長期化に伴う経済の低迷により、これから事業再生、企業再生は避けられないテーマとなる。そこで私が独自に体得した「企業再建の手法」を解説する本稿もこれで第8回目。戦略と打ち筋はこれまで解説した通り。だが実際に実行するとなると計画通りにはいかないことも多い。その原因のほとんどが「人」の問題だ。現場の人間をどのように動機付け、意識を変え、戦略を実行できる集団に変貌させるのか?そして、現実が見えていない経営幹部にどう実態を知らしめるかが大きなテーマだ。ZOZO創業者の前澤友作氏がアパレル企業に巨額の投資をした理由など、アパレル業界の動きを踏まえながら、見ていこう。
アパレル業界は「最期」なのか!? 前澤氏巨額投資の意味は?
多くのアパレル企業が9月に半期決算を迎えるが、ここで我々は業界の地獄絵図を見ることになる可能性が高い。売上はなんとか維持し、メディアも「売上」だけで業界を評価してきたが、これはコロナ過において、過剰仕入となった春夏物を叩き売りして換金率を高めた結果であり、利益率は大いに低下。大赤字となる企業が出てくることになる。
また、EC化率は激しく向上するが、これは売上のパイが下がったからで、決して消費者の買い方に寄り添った改革の結果とはいえない。日に日に増す倒産件数にも中小のアパレル企業が名を連ねている。良い話といえば、ユニクロやワークマンなどのいずれかが、単月で昨対比を超え始めていることぐらいだ。
しかし、私は、これをもってアパレル業界の最期と見るのは時期尚早だと思う。時代は大きな変革局面にきている。何十年に一度といわれる新型コロナによる世界経済の停滞も、何十年も「変わる、変わる」と言われ続けてきたが、鉄の山のように動かなかったアパレル業界が動き出すトリガーとなったと見れば、「産みの痛み」であるともいえる。実際、体力のあるアパレル企業は、既にアフターコロナに備えて様々な戦略を立てている。私は、そのど真ん中にいるわけだが、散々メディアに叩かれ割安銘柄になったアパレル企業に対し、ZOZOの創業者、前澤友作氏が手金の80億円をアパレル2社に投資し筆頭株主になったのは同氏がこうした状況をよく理解しているからだと思う。人が服を着なくなるということはないし、もっと外に出られるようになり、海外旅行にも行けるようになれば人は着飾りたいと思うだろう。
「仕入れ先の集約」にしても、過去、再建プロジェクトで常に激しい抵抗勢力との闘いが嘘のように、今ではアパレル企業側から「集約したい」と言いはじめている。これまで数百社、数千社と節操なく仕入れ先を使ってきたアパレル企業が「これからは3-4社に仕入を集約する」といいだしたということだ。しかし、多くのアパレル企業は、仕入れ先の集約についても大きな誤解をしている。彼らは、付加価値をいかにして上げるかという、最も本質的な課題から目を背け、単に際限ないコストダウンをしているだけのように見えるからだ。
私は、よく「自動車産業」を例にし、二次流通市場の設立やトヨタJIT(ジャスト・イン・タイム)のアパレルへの応用を説いてきた。こうした文脈の中から、アパレル企業は「企業間連携」を加速させ、産業効率をあげよと語ったりしてきたが、私は単に集約すればコストが下がる、ということをいっているのではない。私が、「企業間連携」を推進しろ、というのは、異なる企業がそれぞれの「得意分野」を企業間を超えて連携し、VSN (バーチャルシングルカンパニー:仮想単一企業)、今風の言葉でいえば、新産業エコシステムをつくれ、ということなのだ。例えば、どのように見ても製造業に近いアパレル企業が、SPAの名の下にリテールオペレーションを自前で持ち、自社で顧客接点を作り上げようという試みは、企業文化を破壊し失敗する可能性が高い。
米国のデジタル企業、例えば、Appleの業態変化の歴史を見れば、自社に持ち得ない技術などは企業買収や企業連携によって他企業の力を使っていることは説明する必要は無い。私が事例に出すクルマ産業も、異なる企業がAI を使って自動運転技術の開発を同時に行うのなら、最も進んだ企業の技術を皆で使えば良いということだ。
企業間連携とは、単に素材をまとめて大量発注すればコストが下がるという小さい話では無い。重複機能を共有化し、自社が最も得意とする領域を他社と共有化することで、産業効率とイノベーションを推進し、差別化領域は自社のチューニングで味付けする。企業間連携を考えている経営者の方達は、ぜひこうしたダイナミックな業界絵図を想像してもらいたい。ユニクロは、もはや規模もビジネスモデルも、日本のファッション産業が参考となるべきものは少なくなってきた。果てしないコストダウンの先には、崩壊しか待っていない。「これからは、AIがすべて仕事をしてくれるから、我々は家で寝ていれば給与がもらえる時代が来る」などというSFチックな話は学者にまかせ、我々実務家はもっとリアリティのある企業間連携、戦略絵図を白紙の紙に書かねばならない時代になったのだ。
周回遅れとなった日本アパレル企業の多くに勝ち目は見えにくいが、ファッションビジネスというのは「流行」という神風による逆転満塁ホームランもめずらしくない。例えば、メルローズが展開する「コンバーススターズ」などは、The North Faceを筆頭に、プレミアムスポーツカジュアルを展開するGoldwin社が得意とする成長領域のハイセンスブランドだ。私は、「トレンド」と「天気」で業績を語るべきでないと云ったが、トレンドを外し、今でも化石と化したブランドを売り続けるアパレルに未来はないのもまた事実である。後述するレナウンの事例などはまさにそうだろう。「トレンド」だけに頼るのもどうかと思うが、現実のビジネスとは科学と数字だけで勝てるほど甘くないのも知っておく必要がある。
さて、話を企業再建に戻す。
今回のテーマは「人の意識の改革」である。企業再建の最終章を「人の意識」に絞ったのは、企業再建とは、まさに「人の意識改革」に他ならないからだ。
先日のことだった。私は、ある大赤字の大手小売企業に呼ばれた。経営企画の方は、そのテーブルで、企業再建の仕事は「人の説得、人の意識改革がすべてだ」とおっしゃり、私の感覚と全く一致した。思い起こせば、企業再建の仕事の70%は抵抗勢力との闘い、改革の正当性の説明だった。企業再建とは、「請負仕事」では務まらない。コンサルタントと経営者がタッグを組み、同じ方向を心の底から信じることが成功の大前提である。そんなとき、私はいつも心にとどめている座右の銘がある。それは、
「同じ言葉は五回繰り返さなければ伝わらない」
これが企業再建の現場の真実である。
経営、あるいは経営企画の人達は頭の回転が速く、「そんなことは一回いえば分かるだろう」と丁寧な説明をせず、たった一度の説明で現場が理解しないと苛立った態度を取る。酷い例になると、数百ページのコンサルに作らせた難解な資料をポンと渡し、「これを読んでおけ」といって終わり。当然、現場は全く理解できないのだが、その場を取り繕うために「はい」といって、現場に戻った人間は、あやまった情報に尾ひれはひれをつけ、「近々、大リストラをやるらしいぞ」などという噂をばらまくことなど珍しくない。
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終わってみれば、たったの11億の価値しかつかないレナウンをどう総括するか
ドラマ「ハゲタカ」で、バルクセールというものがあった。ファンドマネージャ鷲津は、三葉銀行の持つ不良債権銘柄を徹底して調べ上げ、「価値ゼロ」と1円の値段をつけたシーンである。思えば、レナウンも絶頂期は3000億円近くまで売上を上げた日本を代表する優良企業だった。その後、中国企業に売却され、破綻に追い込まれたわけだが、9月11日の繊研新聞に寄れば、「シンプルライフ」、「エレメントオブシンプルライフ」は、たったの1億円である。「ダーバン」とあわせ、小泉アパレルがつけた価格は11億円。
この数十年で企業価値はたったの11億円になったわけである。あのドラマは単なる「ドラマ」ではなかったことになる。この数十年の同社の「価値毀損」は金額換算すれば凄まじい。こうした事例は他人事ではない。私は、「レナウン破綻は序章」と題し、米国で次々と破綻に追い込まれたアパレル企業の事例を紹介しこの余波は早晩日本にやってくると書いた。
旅行、飲食、アパレルの三大業種は、「コロナ倒産」により、9月の段階で500社の企業が破綻に追い込まれ、日本の失業率は3%となっている。
コロナの世界的流行は予知できなかった悲劇だと思う。しかし、コロナの前にアパレル業界は増税、暖冬、DXへの過剰投資により破綻の淵に追い込まれていた。この時点で業績が悪化しているアパレル企業、繊維商社には共通の特徴がある。彼らは戦略と称し、難解か抽象的で的が絞られていない、いわば具体性のない改革プランを現場や株主への説明に使っていた。曰く、
- デジタル化の推進 ECの拡大
- 仕入先の集約による調達コストの低減・直貿(商社はずし)の拡大
- 海外展開
といったところだ。
1についていえば、そもそも、勝ち筋もなくECにでてもAmazonや楽天、ヤフーに勝てるはずもない。中には酷い事例があり、「客が違うから」などといって、これらのモールに出店を繰り返し顧客を奪われていった企業もあった。私はある再建企業に入ったとき、経営者が「これからはECだ!」と叫んでいたことに対し、現場は、「ECなんかに出たら楽天やAmazonにやられる」と陰で言っていた。私は、「なぜ、もっと表で議論をしないのか」と現場にいったのだが、彼らは、「それは経営が決めることだから」といっていた。ようは、業績不振企業の特徴は、戦略は常に赤提灯でしか語られない、ということである。経営が与党とすれば、現場は、対案のない批判だけを繰り返す野党となっていた。
2についても、調達コスト(企画原価率) が2-30%以下になったいま、仮にベンダーから、調達コストに占めるベンダーの利益率の半分を削減しても上代比率でいえば3%程度であり、本質的なバリューチェーン全体の流通改革をしなければ、競争力はなくなりプロパー消化率が下がってポイントやクーポンなどの叩き売りが始まって、際限の無い相対的原価高に襲われる。「商社をいくらはすしても原価は下がらない」という声を聞くが、それは、アパレル企業の上代が、それ以上に下がっているからだ。
3などは論外で、今まで海外で勝てなかったのに、なぜこれから勝てるようになるのか、今までと何が違い、なぜそこに勝ち筋があるのかという説明が見えない。高付加価値戦略について、「Made in Japanだ」と声高に叫んだアパレルもいた。しかし、実際やってみると、もはや日本に作り場はなく、まともにMDさえ組めない状況でだった。現場をバカにしている経営者は、実は現場にバカにされているという様を幾度も見てきた。
「目から鱗が落ちる戦略をつくれ」という残念な依頼
結論のでない延々と続く批判の応酬、難解で論点が絞り込まれない戦略と称するPowerPointの資料、これらは現場を混乱させ企業改革を遅らせる元凶である。本来、戦略というものは極めてシンプルで誰もが一目見ただけで「これだ」という実感が沸く1ページで表現できるものだ。だから、改革を先導する者たちは、現場が分かる言葉で可能な限り平易に、そして、現場に進むべき方向を説明し、理解を得なければならないしその具体性を示さねばならないのである。
企業再生というものは寝技や忖度が通用するほど甘くない。また、従来のビジネスモデルの延長線上にある「改善」の先に、大きく変わりゆくアパレル産業の未来像は見えない。シンプルで分かりやすいことは大前提だが、同時に、そのコンセプトは極めて大胆で「革命的」でなければならないわけだ。流行の言葉や、奇をてらったようなデジタル道具を使っても、実務家にとって成果実感がわかない道具は何の役にも立たないことを現場は知っている。
業績が悪化する企業は、時に、コンサルタントに「目から鱗が落ちる戦略をつくれ」と頼むが、そんなものに期待してはならない。
「Retail is detail」、あえて私なりの解釈をすれば、この格言は、小売業の改革のポイントは日々の積み重ねの中にあるということだろう、小売りの仕事というのは基本の反復以外にない。しかし、企業再生の現場というものは、誤解と曲解のオンパレードである。時間とともに、あれもこれもと話がどんどん曲がってゆく。強力な一枚の絵が持つ破壊力は想像以上に価値がある。「そんな話はしただろう!」などと怒っているのは経営者のおごりである。単純なコンセプトをシンプルな絵にすることは非常に難しいし、人間にとって理解と誤解の境界線は曖昧だ。
そんな私も、経営会議でクライアントの「目から鱗を落とした」ことが一度だけあった。しかし、その「目からの鱗落とし」の実態は、みなさんが考えていることと真逆である。当時、経営会議の最後を私の報告で終わる予定だった。その経営会議では、「米国では言語解析による発注が一般化している。我が社も採用すべきだ」とか「人工知能を活用して、将来予測を行うべきだ」などという「浮いた」議論がなされていた。
最後になって、私の報告が始まった時だった。私の報告はあまりに単純で、しかも、(あえて失礼な言い方を許して頂ければ)滑稽ともいえる現場の実態だった。経験豊かな経営者であれば、現場とはそういうものだという事実を分かっているが、現場感覚のない経営者はそれを分からない。特に大企業になればなるほど、現場は見えなくなる。リアリティのある実態の報告に、誰もが、まさかそんなことはないだろうという顔をしていた。とりあえず「最後まで聞こう」ということになり、プレゼンテーションが終わったとき幾人かの役員は「信じられない」という顔をしていた。
その報告で明るみになった「企業を赤字に追いやる実態」があまりに単純だったからである。「こんなことが放置されていたのか」というのが正直な感想だろう。しかし、事実は事実だ。それがいかに馬鹿馬鹿しく単純であっても、事実から目を背けてはならない。ましてや、改革を先導するものは実態を調査するより、経営者に忖度するなど、上司の考えを優先し、解決すべき課題の論点をずらしてはならない。
組織内で上司の考えや、「落とし所」を否定するのはなかなか難しい。そういうときこそ、客観的な分析をしてくれる外部協力者を雇うべきだと思うのだが、その外部協力者も、いわゆる「落とし所」を最初から探ろうとするからたちが悪い。結局、課題は解決されないまま放置されてしまうことになる。企業再生が如何に難しいかという現実である。結局、企業を大きく変えてゆくためには、その企業の中に当事者として入り込まねば、サラリーマン仕事でやれるものではないと感じるようになった。
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変われない社員は過去を見、変化する社員は未来を見る
改革途上で、頑固で自分の考えを絶対に曲げない社員や管理職もいる。そんな彼らの口癖は「実感が沸かない」と「腹落ちしない」だ。これらの言葉の共通点は、「腹落ち」というわかったようで、わからない基準で物事の正誤を決めようとする態度である。「実感」や「腹落ち」が、如何に企業を危機に追い込むかを説明しよう。
彼らの「実感」や「腹落ち」とは「過去の経験」であるということだ。過去に経験すれば「実感」があるのは当たり前である。しかし、彼らが言う「実感」や「腹落ち」を繰り返せば時計は止まったままだ。世の中はこれだけ早く変わっているのに、未だに何十年も前のやり方を変えずにいるのは、この「実感」と「腹落ち」に拘っているからだ。加えていうなら、今自分がやっている仕事を大きく変えられてはたまらない、という抵抗心である。社員のほとんどがこう考える組織は、業績がどんどん悪化する。これが、企業が変われない構造である。
また、彼らに共通しているのは、リスクのあることをやるときは、必ず「先行事例」を求めることだ。そうなると、みなが「ユニクロ右ならえ」となる。ユニクロはベーシックな定番衣料をハイコスト、ロングタームで売り切るビジネスであり、例えばファッション企業は、ローコスト、ショートタームで売り切り、売れ残りを換金するビジネスだ。これらは、似て非なるもので、ユニクロの真似をすれば良いなどというのは、全くの非合理的な考え方である。ファッションビジネスは、ファッションビジネスの戦略、オペレーション、ビジネスモデルを考えるべきなのだ。
これに対し、ビジョナリーな人間と話すと、彼らの「実感」は、頭の中にある「未来図」である。例え、過去経験したことがなくとも、他の業界での先行事例がある、あるいは、今世の中になくとも論理的に正しいものは、彼らの「実感値」として頭の中に高い解像度をもってくっきりと戦略絵図が映し出されている。過去の否定とは、アナロジカルシンキング(他の成功事例を自分の業界でも使えるはずだと考える思考法)とロジカルシンキングの二つが必要なのである。変われない社員は「過去の実感」を感じ、変化する社員は「未来の実感」を感じるわけだ。
日本のアパレル業界で、ユニクロを展開するファーストリテイリングが一人勝ちし、その他のアパレル企業が「ユニクロに右ならえ」となっているのは、そういう背景があるからではないか。アパレル業界は「構造不況だ」といわれるが、もし、「構造的に」不況なら、なぜ同じアパレル企業であるファーストリテイリングが時価総額で世界一位の座を射程距離に入れられるまで成長し、その他のアパレルが不況に陥っているのか説明ができない。
次回はいよいよ事業再生手法の最終回。どのように現場とコミュニケーションをとり、現場の士気を高め、結果を出していくのか。またその過程で、その企業の将来を背負って立つ人材が、生まれるのである。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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