流通M&Aの深層 #5 ドン・キホーテ躍進の原動力
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2020年11月29日 20時55分
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(東京都:以下、PPIH)の創業会長兼最高顧問の安田隆夫氏はかつて、「ドン・キホーテは、総合スーパー(GMS)の受け皿になる」と語ったことがある。現在の同社はまさに“宣言通り”の状況だ。長崎屋(東京都)、ユニー(愛知県)を傘下に収めて再生し売上規模を急拡大させ、今ではイオン(千葉県)やセブン&アイ・ホールディングス(東京都)などに次ぐ、流通業界4位のポジションにある。その原動力は何だったのか――。
経営破綻した長崎屋の再生に名乗り
PPIHが流通業界上位に駆け上がるキッカケとなったのが、長崎屋の買収だ。同社を買収したことにより、若年層から中高年層へ客層を拡大させ、郊外型の店舗づくりや地方都市での店舗展開といった現在に続く成長戦略の原型ができていったのである。
長崎屋は衣食住を総合的に扱うGMS業態で、買収前の同社は、当時の流通業界でよく言われた「何でもあるが欲しいものがない」というGMSの典型のような企業だった。
2000年には経営不振を理由に会社更生法の適用を申請し、長崎屋は事実上経営破綻する。そこにプリント基板の設計、製造を手がけるキョウデンが長崎屋の支援に回り、ドン・キホーテ(当時)がキョウデンから長崎屋の株式を取得。安田創業会長が言うところの「GMSの受け皿」となり、建て直しに着手する。
「MEGAドン・キホーテ」の誕生
長崎屋株を取得した当初、流通業界では「ドンキのような、仕入れから販売までの大半を店舗レベルでこなす属人的なビジネスモデルでは、GMSの再建はできない」という声が各所でわき上がった。GMSは本部集中化が進み、「店舗は本部の意向に従う」という構図が出来上がっていたからだ。
下馬評通り、ドン・キホーテは長崎屋の再構築にあたり、試行錯誤を繰り返した。そしてドン・キホーテは、多くの長崎屋店舗を、それまで成功していた「ドン・キホーテ」として建て直すのではなく、ドン・キホーテのDNAを受け継いではいるものの、ファミリー層に照準を当てた、まったく異なる業態として作り直し、再建にあたったのだ。
そうして誕生したのが、「MEGAドン・キホーテ」である。同業態では、ドン・キホーテが得意とする「POP洪水」や「圧縮陳列」も一部みられるものの、それらを極力抑え、ファミリー層も買物できるような業態に転換を進めていく。
当時は「ユニクロ」のような有力専門店が台頭し、多くのGMSが苦戦を強いられているなか、長崎屋の再生は成功を収める。安田氏は、長崎屋の買収、そして再建について「運がよかった」と後に語っているが、その運を引き寄せたのも安田氏の実力だろう。
ユニー再生の行方は
こうしてGMS再生のノウハウを獲得したドン・キホーテはユニーを買収し、再生に乗り出している。すでにドン・キホーテとユニーのダブルネーム店舗に転換した25店舗(稼働1年未満の店)は、売上高(20年6月期)が転換前との比較で40%増、粗利益高では同36%増と驚異的な成績を残している。
従来型のGMSだったユニーを再生させる原動力となっているのが、徹底した現場への権限委譲だ。安田氏のいうところの「現場の知恵と工夫」が、ダブルネームの店舗を活性化させた。従来型のGMSでは、本部人員が強大な権限を保有し、店舗を主導する立場にあった。本来、現場は膨大な情報の宝庫であるにもかかわらず、店舗を従属化していた。こうしたチェーンストアの在り方にアンチテーゼを唱え、不合理な体制を店舗段階から作り直し、体系化したのがドンキ流の組織改革だ。
ドン・キホーテの成功を受け、同様に大手GMSも店舗に権限を委譲する運営手法を模倣する動きが見られたものの、「明日から権限を与えるから仕入れも店舗運営も好きにやれ」と言われても一朝一夕にできるものではない。
安田氏はかつて「個店が地域ナンバーワンにならなくてはならない」と語ったことがある。現場の知恵や創意工夫といった個店レベルの取り組みがドンキ躍進の原動力となったことは間違いないだろう。
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