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デジタル化における店舗の役割を再定義する ユニクロが世界の大都市に店を建てる理由

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2020年11月30日 20時59分

ファーストリテイリングは、米国にある50店舗のユニクロをきょうから一時閉店すると明らかにした。写真はニューヨーク5番街の旗艦店。2011年10月撮影(2020年 ロイター/Shannon Stapleton)

前回、売らない店が増えていること、それがサプライチェーンの短縮化を狙ったものであるものの、肝心のEC時代のリアル店舗の位置付けがまだ明確化している企業が少ない点について解説した。そして、デジタル化で広告宣伝費を増やすほど利益が減るメカニズムについても明らかにした。今回は、その続き、いよいよデジタル時代における店舗の役割とは何か、について説明したい。

米ニューヨーク5番街のユニクロ旗艦店
ユニクロが世界の大都市に大型店を出店する理由を、デジタル化の流れという文脈で読み解く(2020年 ロイター/Shannon Stapleton)

情報に対して受け身になる私たち

 スマホとインターネットの普及によって、私たちは気軽に情報にアクセスできるようになった。アプリはますます高度化し、ネットの世界にある良質な情報を集め、高付加価値を持つ情報に簡単にアクセスできるようなった。しかも、我々の閲覧履歴からAI が分析し、例えば、私の場合、アパレル、ファッション関係のニュースの中でも厳選されたものが毎朝提示される。

 ネット上ではキュレーターと呼ばれる水先案内人が登場し、テレビでは、「池上彰、林先生現象」と私は勝手に呼んでいるが、難解で難しい世界の情勢を分かりやすく解説してくれる人が人気を博している。こうしたハイテク技術とアナログ・プレゼンテーションのあわせ技で、人の情報に対するパッシブ(受け身)な態度はいっそう加速した。

 さらに、情報は、活字から動画へと主戦場は変化してきている。今では、BLOGなども消滅しかけ、VLOGという動画を使った自分日記が一般化してきた。この傾向は、やがて新聞や活字メディアにも波及するだろう。今、エグゼクティブ達は、早朝にスマホをアームバンドに巻いてYouTubeを「聞き」ながら、ジョギングを楽しんでいる。やがて、メディアは自社の記事を音声や動画で配信するようになり、エグゼクティブの朝のトレーニングのワイヤレスイヤホンには、日経新聞や読売新聞の記事が流れることになるだろう。満員電車で新聞を広げる昭和の風物詩はもはや人の記憶からも消えて無くなる。

CPA<LTVの公式が成り立たなくなった!

 しかし、一見、便利だと思われる「情報革命」は、私たちから「考える力」を奪っている。だから、民放の放送局が新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大の話題を止めると、人はコロナがなくなったと思って日本中を旅し、一転して一斉に「コロナ第3波」を報道すれば、国民が全員怖がり、また巣ごもりに戻るということが起きるわけだ。

 その結果、昔のマーケティングの教科書に必ず乗っていた

 CPA (1件の成果獲得にかかるコスト)< LTV (顧客生涯価値) 

 という公式は現実問題として成立し得なくなっている。

 まず、広告のレスポンスレートはすでに1.0 (1/100)を切っており、値引き以外のEメールは全く無反応になった。最近では、こうした企業側のディスカウントメールが山のように届き、それらのほとんどがゴミ箱に直行するようメーラーはセットされている。

 今、最も反応がよいのはLINEとインスタだが、それらとて時間が経てば広告公害になり、これ以上の商品は不要と思っている消費者に、さらに商品を売ることは極めて難しくなるだろう。今、広告で新規顧客を獲得するとなると、そのAcquisition costは、20,000円近くに上がっている。一方、度重なる値下げによって商品の利益率は減少。また、EC戦略を理解していない経営者によって、モールに節操なく出店を繰り返しているわけだから他ブランド商品との「横比較」にもあって、消費者離脱率は加速する一方だ。今、「うちには200万人の会員がいます」と豪語するアパレル企業が多いが、よく話を聞いてみるとハウスカードに登録してもらっただけで、200万人の半数以上がDEAD(休眠顧客)になり、競合に浮気をしている。このように、Acquisition costは、分母も分子も改善変数とはなり得ない。

 

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未だに理解されていないオムニチャネルの戦略

 

 さらに、大きな誤解と言えるものが、オムニチャネルによるネットとリアル店舗の相互送客についてである。私は、業績不振のアパレル企業から、「うちはオムニチャネルをやっているのだが、効果が無い」という話を何度も聞いた。

 彼ら含め多くの企業が、「店舗に人が来ないからネットから送客する」「ネットに人が来ないから店舗から送客する」という戦略はとっている。

 だが、それがうまくいかないのは、至極当たり前のことである。 

 人気の無いブランド、そもそも人が来ない店舗や、人が見もしないネットのブランドが、誰を相互送客できるというのか

 「これからは、オウンドメディアの時代だ」と信じ、高い資金を投下して誰も見ないマーケットプレイスを作る。いくつかのアパレル企業が、オウンドメディアでお客を集め、自社ECサイトに誘導して購入してもらうという、2ステップ(一旦、コンバージョンが発生しないコミュニティに送客し、その後で購買誘因させる手法)マーケティングを導入しようとしているが、その「コミュニティ」は、よほど斬新性があり人々を魅了するものでなければ人は集まらない

 また、大金を投じて人を集めても、サイトを盛り上げ続けることは至難の業だ。あのFacebookでさえ、「シニアの日記」と化しており、移り気な若者は、すでにインスタやLINEに移動し、やがてスマホで簡単に動画が上げられるようになればYouTubeTikTokがそれに代わる。アメリカ企業はこうした動きをよく研究し、M&Aでコミュニティを買収し自社グループに送客しているが、日本は既に時代遅れとなったオウンドメディアに固執し、なんとか動かそうとさらに無意味な投資を続けてゆく。その結果、オウンドメディアは「サクラだらけではないか」と思われるような場になっている。

 実際に、私が写真を投稿すれば、山のように女性から「素敵!」と反応が来る。いい気になった私は、試しにインスタに投稿したのだが、誰も反応しない。ここまであからさまになれば、消費者と企業のだまし合いは、結局は消費者の勝利となる。

 つまり、誰もいないネットからリアルに送客する、あるいはその逆もしかりで、結局、そのブランドに人気がなければ、何をやってもダメなのだ。ユニクロのオムニチャネルが成功している理由はシンプルで、国民のほとんどがヒートテックや、カシミヤセータが欲しいからだ。つまり、私が10年前に提唱した、バリューベースの「ブランド化」(広告代理店の人達が説くブランド化でなく、しっかりとした骨太な価値を持つブランド化)こそ、真っ先にアパレル企業が取り組むべきなのである。

 バリューベースの「ブランド化」については、すでに絶版となったが、Kindleで読める拙著「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社)に詳細に記したので、興味がある方はそれを読んでいただきたい。

リアル店舗の最大の役割は広告効果

monkeybusinessimages / iStock
リアル店舗の最大の役割は広告効果(monkeybusinessimages / iStock)

 消費者調査をやれば分かるが、こうした情報の洪水の中を泳いでいる我々に、もっとも効果的に「認知度」と「好感度」を植え付ける方法は、世界の最も高い立地に、最もでかい店を作ることだ。立地が良ければ通行量は増え、サブリミナル効果(同じものを何度も繰り返し見ることで脳裏に残像が残ること)で認知度は上がる。ましてや、最も高い立地に、大きな店を作れば、こちらからお金を出して広告をうつ必要はなく、メディアから取材が殺到する、いわゆる「戦略PR」(お金をだして広告を出すのでなく、メディア側から取材される状況を戦略的に組み立てること)にもなる。ユニクロが、パリやニューヨーク、銀座など地価の高い立地にどでかい店舗を出すのはそれが理由なのである。一流ブランドは、一流立地に店がなければならない。例え、それが赤字であってもだ。ブランドとはそういうものである。

 だから、広告宣伝費に1億円お金を使うのなら、好立地に2000万円の赤字店舗を5店舗出す方が良い。東京の表参道などは、その最たるもので、今は知らないが、私が関わっていた時代は、別名「赤字ストリート」と呼ばれていた。私は、そのことを日本事業を担当する某ブランド企業のゼネラルマネジャーに話したことがあるのだが、「構わない。それで、香港でジュエリーが山のように売れる。そのためには日本の好立地に店がなければならない」と彼は言っていた。確かに、インバウンドが増えて外国人が日本に殺到するようになり、表参道や原宿を歩いた彼らの頭の中に「某ブランドは一流」というイメージを残したことであろう。

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これからの店舗の役割は4つ

 まとめよう。店舗は家賃と人件費が高いため、EC化が拡大した後は、ムダな店は閉められ、数は大きく減ることになる。そして、店舗の役割は以下のように大きく変わることになる。

  1. 店舗は広告宣伝の場となり、立地の良さと大きさ(目立ちやすさ)が勝敗を決す
  2. 店舗は、ブランド化に成功した企業だけが商品やサービスの「体験場」とでき、「受注場」であるECへの送客窓口となってEC比率は拡大する
  3. 店舗は“売る店舗”としての価値は消えず、女性が持つ「お買い物の楽しさ」を味わう場として君臨し続ける。”売らない店舗“と”売る店舗“は役割を替え共存する
  4. 店舗は、試着やカスタム・オーダーを通したサイズ計測場となり、形の複雑な靴、女性下着、パンツなどのサイズデータを企業のデータベースに組み込み、以降、ネットで購買してもサイズに悩まない(現時点の自動採寸技術は未成熟なものばかりで実用に耐えない)

*リテーラーは、ささげ業務(サイズ計測、撮影、原稿書き、の総称。ネット販売の基本業務)の中でも、特にサイズ計測をしっかり行い、同じ寸法の商品は来年も同じであることをきっちり管理することが前提となる。あるいは、これからは、消費者が自分のカラダの寸法を知っておく必要がある。 

 以上である。企業は、店舗に上記4つのミッションをしっかり与え、例えば、3が赤字でも1に意味合いがあれば存続させるなど、一面的なものの見方を止め、複雑に関連し合う事業性をいかに測るかという技術を進化させなければならなくなる。従来のような単店舗管理指標である店舗坪効率や貢献利益率など、古典的教科書に乗っている計測手法は役に立たなくなることを知るべきだ

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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