人類未体験ゾーン突入!ユニクロ以外アパレル全滅の時代 生き残るためのサステナブル経営の本質
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2020年12月28日 20時59分
2020年は新型コロナウイルス感染拡大に翻弄された1年となったが、一方でビジネスにおける「サステナブル」が大いに注目された年でもあった。本連載の2020年最後の論考は、この「サステナブル・ビジネス」について、多くの人が誤解していること、そしてその本質について明らかにしたい。
これまで、経済を牽引するエンジンは物欲だった
少々抽象的だが、理解を深めるために、大局的な話から始めたい。
国の経済発展の歴史を見れば、途上国はまず繊維産業で成長し、その後ブランドなどの無形資産(Intangible asset)のOEMを手掛け、その生産性を上げていき、次第に、自らブランドやマーケティングの領域に打って出る。さらにハイテク技術や金融などに軸足を移し、恐ろしいほど生産性を高めGDP(国内総生産)を押し上げ、先進国の仲間入りを果たしていく。日本も戦前、戦後、国を支えた産業の一つは繊維であったし、現在の大手商社はすべて繊維問屋から派生したものだ。バングラデッシュの輸出の8割は繊維・繊維製品なのだが、やがて彼らも産業の軸足を移してゆくだろう。
このように、経済成長を牽引する大きな原動力は人の「物欲」と「豊かさ」である。例えば、日本では3C (カラーテレビ、クーラー、カー:豊かさの三種の神器)などという言葉が流行したが、戦後、テレビで米国の豊かな家庭を見て驚いた日本人は、彼らに追いつくために「モーレツ社員」となり昼夜問わず働き続けたのである。ちなみに、当時のリゲインのCMキャッチは「24時間戦えますか?」だ。働き方改革とは真逆のことをしていたわけである。そして、当時、日本の「先生」は米国で、私も一昔前は米国で開催されるデジタル展示会に出向き、「我々の先生はこんなことをしている」といって、情報を先んじて得、日本で稼いでいたものだった。さらに、こうして目覚ましい経済発展を遂げてきた日本を研究してきたのが韓国、台湾だった。
人類は未だかつて経験したことがない世界へ
しかし、めざましい経済発展の結果、先進国では誰もが欲しいものは手に入れられるようになり、モノに溢れた時代へ突入する。
人が「消費」し、また、企業は「消費財」を供給する。このような関係が崩れ、人も企業もいまだかつて経験したことがない時代に突入したのである。もはや「物欲」がなくなった人類は「消費者」でなくなり、また、経済を牽引してきた「物欲」は消えた。安直な発想しかできないマーケターは、「モノからコトへ」などといっているが、実際には、マーチャンダイジングミックスをしているだけで、依然「物販」で利益を得るというビジネスモデルは変えていない。コンテクストが大事だ、などという人もいるが、その先にあるのは、やはり「物販」である。
端的に言えば、人はモノを消費しないし必要ともしていないのに、企業は屁理屈をこね、あの手この手で「物販」で売上・利益を求め、人を「消費者」と呼び、さらにロボットやハイテクを使って針の穴を通すような小さい売上拡大努力を続けているのである。
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バーチャルクラスターの誕生が
マーケティングを変える
人は、物欲がなくなった代わりに、自分と同じ嗜好をもった仲間とネット上で繋がり、自分のアイデンティティと自己確立をネット上で行ってゆくことに金を払うようになった。実際、私はビジネスパートナーの多くとはネットで繋がったし、最近では婚活もネットが主流と聞く。つまり、唯一の成長市場と思われたスマホも、実際は、スマホそのものに価値があるのでなく、その中にある仮想現実とリアルが混ざった世界における新たな「人とのつながり」が消費を呼び込んでいるのだ。
この破壊力は凄まじい。地球上の人間が世界規模のネットワークに参加しながら、新しいバーチャルクラスター(地理的制約を受けない同一嗜好性をもった集団)を形成するのである。それに伴い、マーケティングも恐ろしいほど細分化されてきた。また、情報は、過去企業側の唯一のアドバンテージだったが、今は、スマホのおかげで消費者のほうが企業より遙かに高い情報を持ち始めている。したがって、過去のように内外価格差1.5倍などというビジネスは成立せず、消費者は「バイマ」でポチって、世界中から欲しいものを安価に手に入れらるようになった。
本来、シンプルに考えてみれば、成熟した市場で、それでも企業が売上を志向するならオプションは3つしかない。
1.新しい市場を創り上げる、
2.成長著しいグレーターチャイナや東南アジアに進出する、
3.競合を世界にだぶついた金を使って買収し規模を拡大させる、
このいずれかしかない。こうしたシンプルな発想さえせずに、縮小する市場の中であの手この手で「物販」というドグマから抜けられず、競争環境は勝者のいない消耗戦に突入した。
必要以上の過剰生産が人類を危機に
アパレル業界においても、人が必要としている量を遙かに超える過剰生産は止まるところを知らず、値引きし、赤字を出してでも消費者に購買誘因させているわけだが、こうした行為は恐ろしい状況を生み出した。過剰生産が人類を危機に陥れ始めたのである。
二酸化炭素排出による地球温暖化、あるいは資源の枯渇などである。合繊繊維はほぼ全てが、限りある石油が原料だし、セルロース系再生繊維は森林伐採によって生産される。それ以上に深刻なのは、毎年焼却される「売れ残り商品」の問題だ。
このように、人類の存在そのものが、そして、経済活動そのものが地球と共生することに相反するわけだ。今、私たちができることは、世の中に溢れる、掃いて捨てるほどのゴミ、大量生産を辞め、本当に人類が必要としているものだけを生産し消費することである。「自然と共生する」などというレトリックにごまかされることなく、可能な限り経済活動を合理化し自然破壊を遅らせる、というのが正しい解釈だろう。
サステナブル経営には「哲学」が必要な理由
アパレル・ビジネスでは、3R、つまりReduce (減らす)、Recycle (再活用する)、Reuse (再使用する)、がヒントになるだろう。サステナブル経営とは、かくも哲学的な思想が根底になければならないわけだ。
優秀な理系人材が国の競争力を決めると言われるが、私は極めて危険だと思う。合理化の先にある人間の幸福、そして、「経済発展の次にくる私たちの幸福とはなにか」という根源的な問いかけにアパレル企業は答える必要がある。そして、こうした社会における「人類の新しい生活様式」を、いかにアパレル企業が提案できるかに因るのである。
日本人が着飾り、分割払いをしてまで服を買ってきた時にすでに、ファーストリテイリングの柳井正氏は「ブランドとは虚像であり、服は部品である」という自らの考えを述べ、今日の時代を予見した。ユニクロが世界的ブランドになったのも、こうした思想が根底にあったからだ。市場が大きな変曲点を向かえるとき、私たちは街、そして人を観察し、彼ら、彼女らがどのような「スタイル」やニーズを持ち始めるのかという企業なりの思想が大事なのである。
セレクトショップが日本で広がったとき、その先には米国がいた。無印良品が世界に認められた背景には、ギラギラに着飾った外見のアンチテーゼとして、洗練された素材感とシンプルな色の組み合わせがあった。そして、マルキュー文化が渋谷を席巻したときも、フェイクデリック(現バロックジャパン・リミテッド)創業者達は米国での女性の社会進出をみて、日本の将来の生活様式を見た。このように、今企業に必要なのは、この「モノあまりの時代」に、人はどのような生活様式をおくり、その中に服がどのように登場するのか、ということを企業ごとに考える、まさに「哲学」なのである。
これが、私の考えるサステナブル経営である。
抽象的すぎて、具体論が提示されていないと感じる方は、サステナブル経営のハウツー(How to)本を読めば良い。私は、もっと本質的な読者のために本稿を書いている。ただし、それでもHow toを求めている方に警告をしておこう。
How toは、ものごとの因果関係が見えなくなり、単に現象だけを追いかけるオペレーションだけの世界に我々を誘うだろう。そして、見えない世の中で「敵は誰だ」と探し回り、隣国に責任転嫁する。各国で右翼主義、自国ファーストが台頭してくるのはこのためなのだ。今、私たちは功利主義に毒され、新しい世界の「正義」が見えなくなっている。
たかが服、されど服だ。幸福は学者やコンサルタントの小難しい理屈で解決されるものではない。政府が行っているMade in Japanの世界化はことごとく失敗しているが、例えば、日韓の親密さを強化しているのは、NisiUやBTS、Netflixのドラマなどのサブカルチャーではないか。海外に行けば、UNIQLO、MUJI、Ajinomotoだ。衣料品に従事している人達は、もっとプライドを持ち、オペレーション偏重主義から骨太な哲学からくるブランド化に力を入れるべきである。ブランド化についての詳しい手引きは、拙著「ブランドで競争する技術」に克明に記している。興味のある方はぜひ手に取って欲しい。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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