暗闇フィットネス®︎をブレークさせたFEELCYCLEのアパレルがコロナ禍でも絶好調の理由
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2021年4月18日 20時55分
苦難のアパレル業界にあって、コロナ禍でも快調なアパレルブランドがある。FEEL CONNECTION(東京都)が展開するFEELCYCLEだ。暗闇フィットネス®︎をブレークさせたことで知られる同社の母体はフィットネス業態。アパレル企業の多くが需要減などで厳しい状況にあえいでいるだけにその躍動ぶりは際立つ。同社のアパレルはなぜ、会員に支持され続けるのか。同社代表の橋本英治氏とApparel & Goods事業部長の真木賢太郎氏に聞いた。
「売れるもの」はつくらない!?
暗闇の中で音楽に合わせてバイクエクササイズを行う『フィールサイクル』*は、わずか45分のレッスンで大量のカロリーを消費し、効率的に、そしてファッショナブルに心身のデトックスができるエクササイズとして2012年の1号店オープンから、会員を増やし続けている。アパレル部門が立ち上がったのは、その1号店オープンから半年後だ。
*本稿ではアパレル「FEELCYCLE」と同名のフィットネス事業をカタカナで表記
その目的について橋本代表はこう説明する。「当社の理念は『関わる全ての人を輝かせよう』。母体はフィットネスですが、より人を輝かせる業態、サービスに広げていきたいというのが前提としてある」。つまり、同社にとってアパレルはサブ的位置づけでなく、会員のライフスタイル向上を包括的にサポートする上で不可欠な部門ということだ。
アパレル部門を統括する真木氏の言葉に、このスタンスの真意が凝縮されている。「僕たちは売れるものはつくりません。つくるのはお客さんが喜んでくれるものだけ。スタジオに通うことでどんどんきれいになる人たちに合わせ、輝きを放ってもらえる洋服となると、『本物を提供する』ということに尽きます」。
その言葉通り、同社の洋服づくりは職人レベルのこだわりに満ちている。肌ざわり、縫製、デザインはもちろん、「隣同士になった会員が同じデザインのウエアを着ていたらいやな思いをする」(真木氏)として、新作を出すサイクルをわずか2週間にするなど、身に着ける会員の満足感・心地よさに徹底フォーカス。採算は二の次、三の次だ。縫製のクオリティを保ちたいと国内での製造にこだわり、工場はアイテムごとに選定。生地もラグジュアリーブランドと同等のものを使用している。その結果、一般的なスポーツウエアとしては決して安くない価格設定となるが、それでも購入者の負担を最小限にするために粗利益率を圧縮して提供している。
なお、価格はTシャツで8800円(税込み、以下同)から、レギンスで9350円、タンクトップだと8250円からだ。
コロナ禍でもアパレル部門の売上は前年実績を維持
経営観点でいえば、コストダウンのために少しは妥協してもいいのかもしれない。だが橋本代表は「これがアパレル単体の事業なら確かにそうしないと立ちいかなくなるかもしれない。でも母体のフィットネス事業が成り立っているし、それを補完するためのものなので妥協はできない。販売する場所がスタジオで、売るのもインストラクター。そうしたことが単体事業と比べ、コスト負荷の軽減につながっている側面はある」と明かした。
最大の強みは、会員との強固な関係性だ。新型コロナが、図らずもその事実を証明した。3密の典型といえるフィットネス業界は、新型コロナによって軒並み大打撃を受けた。橋本代表も「瀕死の重傷だった」と率直に明かす。その窮地を救ってくれたのが会員だったという。
「スタジオは緊急事態宣言を受け、休業を余儀なくされた。そこで会員には休業期間中の会費の返金を申し出たが、そのまま継続してくれる会員もたくさんいた。急遽開設したアパレルのウエブショップでも多くの会員が、モノがなくイメージだけの段階にもかかわらず購入してくれた。こうした会員の応援は本当にありがたかった」と橋本代表は、しみじみ語った。
その結果、コロナ禍でもアパレル部門の売上はキープされ、失速は免れた。「会員の方に応援してもらっていることを常に感じる」と真木氏。商品クオリティ、それを熟知するインストラクターによる販売、そのインストラクターや提供プログラムを信頼する会員。この強固なトライアングルが、同社アパレル事業の成長を下支えしている。
「自分たちの世界観を伝えられるのか」だけを考える
アイディアがないからマネをする。売れないから安くする。安くするから品質が下がる。品質が下がるから魅力がなくなる。魅力がないから購買欲がそそられない…。アパレル業界は完全に負のサイクルに入っている。そうした中で、同社は市場調査はせず、どうすれば会員に満足してもらい、自分たちの世界観を伝えられるのかだけを愚直に考え続けている。したがって、「売れ筋商品を模倣しよう」という、その発想すらない。
スタジオ店頭での会員向けウエアの他に、セレクトショップ「DIFFERENTLY」も展開する同社のアパレル部門は着々と拡充し、いまや知る人ぞ知るブランドとして、世界のファッション界とコネクションを強めながら、コアなファンを魅了している。
アパレル部門のトップとしてこの躍進をけん引する真木氏は「アパレル企業の多くが儲けしか考えず、売るためだけに頑張っているようにみえる。そこに自分たちのアイディアはほとんどない。そんな姿勢では一時的には売れたとしても長続きはしない」と自戒を込めて言う。実は真木氏、アパレル業界に嫌気がさし、業界から身を引く覚悟でフィットネス業態の同社に中途で入社している。それがいまや四六時中デザインのことを考える毎日だ。
どうすれば売れるのか。市場が縮小する少子化時代に、もはやそうした発想では解にはたどり着けない。それよりもいかに、会社のポテンシャルを最大化するか。遠回りのようだが、ゴールには直結することを、同社は教えてくれる。
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