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アパレルは「丸ごと消滅する」産業か? 世界のDX化に乗り切れないリアルな理由と本質的解決策

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2021年6月14日 20時55分

metamorworks/istock

産業界はSDGs(持続可能な開発目標)、サステナブル一色だが、今まで成し遂げられなかったことが急にできるようになるわけではない。一見、鎮火したように見える『DX(デジタル・トランスフォーメーション)ブーム』だが、アパレル業界を取り巻く厳しい環境下において、DXを成功に導くことが企業ひいては産業そのものの生き残りを左右するだろう。
アパレル企業は、2021年の春商戦は緊急事態宣言で、夏商戦は間断になされた宣言延長で、トータル春夏では足腰が立たないほどの余剰在庫と含み損失を抱え、6月なのに秋までのセールが始まっている。これを、業務を知らない輩は「大量生産のせいだ」と的外れなことを言い出すだろう。このことはやがて大きな問題として企業にのしかかってくるものと思われる。アパレル産業はどのようにDXと向き合い、自社の課題解決を進めていけばよいのか。今日は、デジタル改革の最前線で戦っている富士通系戦略コンサルファームRidgelinez株式会社の西田武志プリンシパルとの対談を通し、アパレル企業のDXの本質について議論をしていきたい。

metamorworks/istock
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企業はデータの持つ意味にもっと深く向き合うべき

河合 本日は対談形式での議論にお付き合い下さり、ありがとうございます。まずは、西田さんがアパレル企業のDXを通して最も重要だと思うテーマから議論をしてゆきましょう。

西田 結論を言うと「データは汚れている」ということです。店頭データ、生産・調達、在庫情報などを結果データといいますが、仮説・検証型業務の計画した値、非財務データ、店頭を含むビッグデータなどは正確性が疑わしいということです。必要なデータを正しく集めるプラットフォームと、業務手順、役割分担などチェンジマジメント(企業の変革支援)を併せて考える必要があるわけです。現場任せにしていてはこの問題はクリアできません。入力専門のセンターを作ってでも実施すべきなのです。

河合 いきなり、ガツンときましたね。確かに、アパレル業界のバリューチェーンを見ていると我が社のデータの精度にはこだわるくせに、前工程(川上)には極めていい加減なデータ、手書きデータなどを平気で渡しています。以前、アパレル、商社とこの問題について議論したとき、AI』の文字認識技術をつかって精度を上げられないか、と相談されました。技術的には可能なのでしょうが、私はこうした対処療法に反対です。理想的と言われるかもしれませんが、きちんとバリューチェーン全体が話し合い、各工程が標準化されたデータの受け渡しを行うべきです。私は、6年前、経済産業省にこの問題を政策として提出したことがあります。

データをもとに分析とアクションのシナリオを決め、徹底的に運用する

luamduan/istock
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西田 私どもが企業変革をお手伝いする中で目の当たりにした実態は、ほとんどの企業が本来活用すべきデータを使っていないということです。

 例えば、店頭・ECの商品販売データからマーチャンダイジング(以下MD、商品政策のこと)を組み立てますよね。その際、MDに対するデジタル支援機能も、本来ビッグデータ活用のシナリオが組み込まれ、アップデートされるべきです。ビッグデータには顧客の動きが入っており、最新の技術を使えばそれらがしっかり理解できるからです。

 ところが実態は、昔ながらの単なる商品動向からの予測であったり、例えばビッグデータを使っていても、仮説(計画)検証(実績)が場当たり的に行われるなど、「意思決定とアクションの因果関係」の説明ができない企業がとても多いのです。

 結果的にデータベースが社内組織のステークホルダーの意思決定の正当性主張の道具となってしまい、都合のいいデータ集計と解釈に利用されているケースが多いようにも見えます。

河合 全く同感です。私も、MD業務というのは個別企業、個別事業の差別化要因の根幹であり、また、それゆえビッグデータと連係して調達も行うべきという立場です。私はDigital MDと呼んでいます。ところが実際は、まずは顧客不在の商品動向で、商品をセンターにぶち込んで、そこから販売になってはじめてビッグデータがでてくる。

 私は、極論をいえば、もはや工場とか店頭とかいうバリューチェーンの括りさえデジタルによって消滅するし、そのように考えなければスマートファクトリーもできないという立場です。例えば、店頭で『なんでも10日以内に受注生産で供給可能ですよ』と何も考えずに売りまくれば、当然、工場のキャパシティをオーバーした場合、その約束は果たされない。私はアパレルが半製品在庫リスクを持って、工場のユーティライゼーション(稼働率)を見ながら、店頭で接客とデジタル連動させるというイメージを持っています。実際、オンワード樫山の「ザ・スマートテイラー」はそのように自社の販売と工場のシームレスな連携で、信じられないほどの短納期でパーソナルオーダーができている。これはいわゆる製販分離型のバリューチェーンではなし得ない技ですね。

 また、不完全なデータを使った分析が結果的にステークホルダーの都合の良い解釈になっているというのは、初めて聞きましたが、ありそうなことだと思います。

にしだ・たけし Ridgelinez株式会社Consumer Products, Distribution & Retail Services Practice Leader 約30年にわたり消費財のリテーラー、卸・メーカーの情報システム企画・導入をサポート。近年はDXをテーマにお客様の内外部の環境変化やビジネス課題を分析し、長年培った業務ノウハウ・システム知見によりプラクティカルな解決施策を提案。 富士通の営業、SEを経て、2000年よりコンサルティング業務に従事。富士通総研を経て、現職。
にしだ・たけし
Ridgelinez株式会社Consumer Products, Distribution & Retail Services Practice Leader
約30年にわたり消費財のリテーラー、卸・メーカーの情報システム企画・導入をサポート。近年はDXをテーマにお客様の内外部の環境変化やビジネス課題を分析し、長年培った業務ノウハウ・システム知見によりプラクティカルな解決施策を提案。 富士通の営業、SEを経て、2000年よりコンサルティング業務に従事。富士通総研を経て、現職。

西田 はい、AIIoTをはじめこれらのデータを用いた定常業務を全拠点に展開した事例は皆無に等しいのです。人の手により入力されないデータは、恣意的にデータを選択して自身の正当性を裏付けるために使われる結果、実態を見誤るリスクがあります。実際にPOC(実証実験)において、IoTデータに基づいた分析結果を提示したのですが、クライアントの担当者が望む答えと乖離したものが出たため、改善策を提示しても実行してくれなかったという経験があります。クライアント内部にいるステークホルダーの組織的、個人的な利益を達成して初めて、展開が検討される状態にあるのが実態というわけです。

河合 とてもわかります。最初から結論ありきのDXPOC (実証実験)がなされている。本来、データは嘘をつかないはずなのに、そうではないというのは企業変革にとって「極めて重要な示唆」ですね。それらがもしも、企業KPI (業績評価指標)の基礎データとなっているとしたら、これほど怖いことはありません。

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重要なデータの収集と仮説の立案に社内の従業員の英知を集める

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西田 もうひとつ重要な課題テーマを問題提起します。それは、「DXで生産性を上げ、空いた時間でクリエイティブな仕事をする」という企業は多いのですが、これを実際に行っている企業はそう多くありません。そのような発想すらしていない会社が多いのも現実です。人こそが資産のアパレル・ファッション業界で最もないがしろにされているのは、皮肉にも「人」なのです。

河合 デジタルの歴史を私のキャリアに沿って言うと、初期的にはマテハンのような力仕事をロボットにさせる世界を Step 1とすると、Step 2OAなどといって、いわゆる企業の中のファックスやコピーなどが入ってきた時代。そして、Step 3IT化、PCが全社員に配られ、コミュニケーション革命が起きた。企業でいえばERPなど企業内データの一元管理。そして、Step 4がデジタル化。いわゆるAIやロボティクス、クラウドと言ったハイテク技術ですね。

 こうした流れを見ていると、システムというのは力仕事からホワイトカラーの領域、そして判断業務にまで入ってきたと言えます。勝てないといわれていた将棋などでも人間がAIに負ける、このような現状に産業界はなんともいえない不気味さと神秘性を感じ、『ボタンを押せば、クリエーションもやってくれないの?』と簡単に聞くようになった。パイソン(AI開発言語)まで書けるようになる必要は無いですが、その技術の得意領域と限界を知りながら、全く新しい事業モデルを白紙の紙に描く力が求められるほど、デジタルは高度業務に近づいてきたというのは事実だと思います。

DXITは道具ではなくビジネスの中心であるというトップの意識が重要

西田 アパレル・ファッション業界に限らず、DXを実施する際の重要なポイントを議論しましょう。いくつかの論点を上げさせてください。

 先ほど仰られたとおり、かつて情報システムは業務を合理的に運営するための道具でした。驚くような量のデータを一瞬に処理をするなどです。しかし、今や消費者がひとり一台スマホを持っています。結果、消費者にもたらされる経済利益は、パーソナライズされた情報収集環境や購買意欲の喚起、接客の最適化、注文・受け取り・決済です。これは情報システムがサービス提供の重要な武器となったということですね。チェンジリーダー (変革を志すリーダー)は、これらにもっと真剣に向き合う必要があります

河合 そうですね、これも100%同意です。

 一昔前の企業が情報を掴み消費者に一方向に投げる時代は終わり、今は消費者と企業が同じぐらいの情報量を持ち得ています。もし、企業がさらに進化すれば必ず新しい技術やアプリケーションが生まれ、消費者の利便性を高めるようなシーソーゲームが起きているように思います。

 したがって企業は消費者より質、量ともに上から目線で消費者と接するような関係はもはや成立し得ないわけです。消費者の買い物行動を見ていれば、ZOZOBUYMAなどでポチるなど、世界でもっとも安価で良いものを比較購買できる。私は、ECが企業の優勝劣敗をよりハイコントラストにしたのではないかという仮説をもっています。そうでなければ世界中の先進国でアパレル企業の入れ替わりが同時多発的に起きているという説明にならない。DEATH BY AMAZONなどと言っていますが、聞けば破綻の原因はみな違う。

 そこに共通項を見いだせば、本日のテーマである「データの質と量」、そしてその「データの企業と消費者の持ち分率の関係」と「EC」の3つでしか説明がつかないのです。もちろんコロナ禍という環境もありますが。

DX ITは単なるコストではなく研究開発投資として認識すること

baona/istock
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西田 先に述べたようにDX、ITをビジネスの中心と認識しているのなら、相応の投資が必要なのは自明です。これからのIT(DXテクノロジー)の役割は、利便性を体現させる情報提供機能、クリエイティブな発想をサポートするUX、到底人間では見つけられない法則性の発見などになっていきます。ただしスイッチをいれれば動くものではなく、試行錯誤でそのHigh hanging fruits(企業変革の上位概念、ヴィジョン、戦略など) を固める覚悟が必要です。

 そういう意味で、DXはベンダーに丸投げでなく、一緒に新しい事業を創ってゆくという研究開発投資という側面で理解すべきなのです。また、その成果は、『いくらコストダウンできたか?』でなく、ビジネスの業績にかかわる計数(客数・客単価の増加、トラフィックの増加、人時や売場生産性の向上など)でも計測が可能です。

 また試行錯誤しながらDXを推進するということは、失敗を許容し失敗から学ぶという運営基盤がベースとなるのですがここがなかなかご理解頂けない。チェンジリーダーはこのことしっかり考えていただきたい。

河合 私は、『お湯を入れれば3分でできあがるカップヌードル』症候群と呼んでいます。なんでも、金で買えると思っている。特に、こうした黎明期の技術はベンダーと企業が一心同体となり、一緒にリスクも許容するような姿勢で取り組むべきですね。コンサルタントを使う理由は、そのリスクがミニマイズ(最小化)されること、そして仮に不測の事態が発生した時、そのダメージを最小化できることだと思います。

 「金を払ったのだから完全なものを納品しろ」と上から目線で言われると、そのプロジェクトが極めて難易度が高い場合、サービスプロバイダー(コンサルタントやパートナー企業)側が『御免被ります』と断ってくる可能性もでてきますね。

西田 はい、自社製品の製造原価のようにそのテクノロジーを調達、運用するためにどの程度の資金が必要かについて技術の希少性、エンジニアの市場価値、カスタマーサクセスの難易度などを踏まえた相場観を持っていなければ成果を出せるパートナーからは見放されていくことになっていきます。結果、いつまでたってもDXは実現しない、結局は他力本願ではいけないということなのです。

 デジタルで実現したい目的に対し予算の金額が桁2つ違うことはざらにあります。買いたたきや値引き要求は、あえていうなら無知、無理解であると考えるサービスプロバイダーもいるでしょう。結果、成果を出す意欲の薄いベンダーが寄ってくるようになり失敗・悪循環に突入してしまいます。

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最終的には業界のため・地域のため・地球のためという発想 オープン思考であること

西田 これは河合さんがよく言っていることですが、アパレル業界は本当にクローズですね。自動車産業などはすでに技術シェアが始まっているのに、アパレル業界は同じ会社の中で隠し合いが横行しています。今は業界が丸ごとなくなってしまうリスクが存在する時代なのです。

河合 それは私も感じます。あるプロジェクトで、同じチームだということでオープンネットワーク化構想を立ち上げ個別企業の技術調査を行いこれらの企業はこうした違い、差別化要因があり云々とPowerPointで説明した瞬間、慌てて「隠してくれ」と言われた経験があります。

 そんなことを言っている場合ではないのに、彼らはあまりに世界を知らないのです。私が「世界」というと大きすぎると批判するのですが、ならば消費者に聞いて見ろと言っています。

実際、マーケットで競争しているのは、ZARAでありH&Mでありユニクロ・g.uなのですよ。消費者がそういう企業と比較購買しているのに、「大きすぎる」から我々には関係ないという時代錯誤感覚が負け戦を繰り返している原因なのです。私は自分の品格を下げても新著「生き残るアパレル死ぬアパレル」にあえて、「ユニクロに勝てなければ生き残れない」と書きました。大好きな企業を仮想敵国にすることはとても苦しみましたが、何社の企業がこのメッセージを理解しているのかということです。

西田 本当にどれだけの企業がこのことに気付いているのかと思います。果たして百貨店は“今のままで”残り続けることができるのでしょうか、私個人としての答えは「おそらくNO」です。顧客理解、商品編成という百貨店の強みを使い新しい時代を切り開ける可能性はまだまだあると思いますが、群雄割拠のリテール業界において、百貨店産業丸ごとなくなってしまう可能性は残り続けるのではないかと思います。

 正直、百貨店に限らずアパレル業界も同様です。消化率が50%を切るほど膨大な商品を作り続け廃棄しています。消費者の期待に沿った買い物空間の提供と自社論理の衝突(ECと店舗のカニバリズムの放置などがその代表的な事象)もあります。現場スタッフへの包摂(インクルージョン)の欠如も重大な問題ですね。

 今後変革に着手し、一定の成功を手にすればそれを業界で共有し、ナレッジとして共有し、他の企業の経験を加えさら強靭なWisdom(知恵)に昇華させる。それを共同で行い消費者に貢献するオープン思考が必要なのではないでしょうか。SDGsに対応し環境汚染を最小化して潤沢な脱成長をかかげ、今こそ業界をあげて生活者へ貢献するという発想を持つべきだと思います。

河合 私はSDGsの問題はもはやデジタルの力を借りずして解決しないと思います。先日もある会議に参加し、私なりにアパレルビジネスの業務実態を踏まえたSDGsへの現実解を提示しましたが、「手短かにお願いします」などと言われました。私はこの人達は本気で聞くつもりがあるのだろうかと一瞬耳を疑いました。“消化会議”など何度やっても無意味です。

 結局過激派に見られたのか、来週は某TVの報道番組から出演依頼がきました。やはり過激な発言に期待をしているのでしょうか。講演の感想を聞くとやはりそういう期待が大きい。

 言いたいことは、私は過激派でも穏健派でもなく、心底、心の底からアパレル産業界を愛し、そして再建を手がけ成功してきた自負のようなものがあり、聞く耳を持たないのなら私は私が考える正しいと思うやり方で産業界に貢献することを続けるということです。幸運にも私には「言葉」という武器があり、こうして書くことも私の大事な仕事だと思っています。

 今日は難解なデジタル用語を使わず、DXの最前線でご活躍されている西田さんと討議ができて本当によかったと思います。DXについて広範囲な議論ができたと思います。ありがとうございました。

 

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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