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低成長のサステナブル経済へ移行 商社と合繊メーカーが生き残るたった2つの戦略とは

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2021年7月26日 20時55分

metamorworks/istock

アパレル業界もサステナブル経済に移行しようとしている。これは、二次流通が発展する一方で、一次流通は縮小する。すなわち低成長時代に入るということだ。このなかでわれわれはビジネスモデルを変革しなければならない。サステナブル経済における川中(商社)と川上(素材メーカー)の戦略を解説したい。

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低成長下の企業戦略における最重要命題とは

 東京オリンピックの開幕式を生中継で観て、日本人としての誇り、そして、紆余曲折ありながらも、よくここまで形にしたものだと感心した。スタジアムで花火があがり、様々なパフォーマンスと苦難を乗り越え日本にやってきた海外の選手、そして、生きているうちに二度と見ることができない開幕式を前に、あらためてスポーツの素晴らしさを感じた次第である。この「今の」感動を素直に受け入れ、一生懸命戦うアスリートを皆で応援しようではないか。一言冒頭に書かせていただきたい。

 さて、私の愛読書である日本を代表する経営コンサルタント、大前研一氏が若かりし頃に書いた「続・企業参謀」(プレジデント社)、第二章「低成長とは何か」という章に、低成長下の企業戦略における最重要命題として、「なぜ事業を行うのか」という本質的問い直しが必要であり、企業目的の再定義が必要であると書かれている。

 同書の初版は1975年だから、今から45年も前に書かれたものなので、必ずしも現代の世情と処方箋を表しているとは言いがたいが、同氏の俯瞰力と本質を見抜く力に多大な影響を受け経営コンサルタントの道へ入ったきっかけとなった同書を私は今でも繰り返し読んでいる。私が、拙著「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社)を書いたインセンティブも同書であり、ダイヤモンド社の担当者と徹底して、この「企業参謀」をベンチマークし2年をかけて書いたものだった。

 思えば、私が尊敬する経営者の柳井正氏も、世の中が激しく移り変わる時代のなかで、「服は、我々にとっていかなるものか」という問いかけを自らに課して、「ライフウエア」というコンセプトを生み出したのは、いまさら私が解説するまでもない。このように、昔の名著と呼ばれるものの中には、今こそ我々が理解しなければならない格言や名言が山のようにちりばめられている。意味の見えないJARGON(専門用語)を使っても未来は見えない。むしろ、こうした名著を読み返し本質論から事業戦略を考えてゆくべきだというのが本日言いたいことだ。

 さて、前置きが長くなったが、最近私は「二次流通の河合」と言われているようだ。私は、真のサステナブル社会の実現、そして、その中でのアパレルの経済活動は、徹底的に無駄と重複を省いた「デジタルSPA」と、もう消費者が必要とする以上の新しい服を作らない「二次流通市場」による中古品販売による経済活動しかないと論じているからだろう。こうした世界観の中で、かねてから私が批判している「オフプライスストア」などによる、ブランド毀損と価格破壊を食い止めるためには、自らが自社のブランドを大切に育て、人が着たあとまで面倒を見る「Certified by XXX」という形でブランドが消費者から商品を買い取り、補修し再販するという動きをすべきであり、それこそが環境負荷も発生しないゼロエミッションの経済活動であると私は今でも信じている。

乱立するリユースだが課題も山積

zozoは以前からリユース事業を手掛けている
zozoは以前からリユース事業を手掛けている

 私が提唱するリユースは、業界に広がりつつある。しかし、それらは購買意欲をかきたてるものではない。リユースの最大手、セカンドストリート(https://www.2ndstreet.jp/store)をみれば、再プレスもなされず、シワシワのまま掲載されている。また、これらの服の着用イメージを想起させるマネキンもいないのは、後述するアパレルも一緒である。おそらく、アパレル商品の大量処分の権化といえる催事との差別化を図るためと思われるが、上代価格もアウトレットやセール品とそれほど変わらないし、そんなことをやっていては、いつまで経っても二次流通市場は成長しないだろうと思う。もっと、自分が手がけたブランドを大事にしてもらいたい。

 例えば、ZOZOTOWNは、ZOZOUSED (https://zozo.jp/zozoused/)をリユース事業としてスタートしており、さすがファッションECのパイオニアらしく、取り扱う商品もそれなりのもので価格も妥当だ。中には着用イメージが沸く写真を掲載しているものもあるが、やはり、着古したものをそのまま吊しているものも多く、「USED」のネガティブイメージを拭えない。

 オンワード樫山は、オンワードクローゼットの中に、リユースパーク (https://crosset.onward.co.jp/shop/reusepark)をもち、二次流通品の再販をはじめている折角、綺麗にクリーニングと再プレスをしているのだから、着用イメージを提案してはどうかと思う。同社は、服の程度をランク付けしているが、そもそも、ほつれが酷いような商品は買い取らない、あれいは、リサイクル代や修理代を買取価格から減額し消費者負担にすることも将来的には検討してはいかがだろうか

 SDGsの「作る責任、使う責任」を念頭において、物づくりをすべきだ。これからの時代、過度なデコラティブ(装飾性の高い)なものや奇をてらったものは必要以上に作らないなど工夫が必要だろう。また、消費者は、きちんとメンテナンスをして次の人が着れるような着方をする。売り手と買い手、双方が意識を変えなければ二次流通市場は発展しない。今の「USED」は、私がイメージしているものとは、まだまだ離れているように見える。そこには、やはり、「所詮はUSEDだろう」という過去からの既成概念が無かろうか。

 さらにこうした動きは、大量生産の権化であるユニクロこそ、先んじてやり、「このようにすべきだ」と見本を見せるべきだと私は思うのだが、同社のECサイトを見る限り、「大量購入サービス」や「まとめ買い」など、おおよそ時代の流れと逆行しているサービスを展開しているように見えるのが残念だ。ただし、ユニクロTOKYOのような、トレーサビリティや将来的なパーソナルオーダーに備えるであろう試みもスタートしており、今後の同社の動きに注目したい。

 私は、総じて二次流通提唱者として、USEDという言葉をネガティブなイメージで使うのをあらためてはいかがかと思うし、いかにすれば、中古品を自然に販売して、自然に買ってもらえるかを考えてみてはどうかと思う。クルマだって、リセールを想定して色や装備を検討して新車購入をするではないか自分の企業がつけるブランドの冠をつけている商品は、品質は新品と同じように保証するぐらいの覚悟で新商品を作り、二次流通品をもっと大事に売ってもらいたい。

 

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私に寄せられた反論に対する回答

 次に、こうした私の提言に対して、川中の商社、そして、川上の合繊メーカから幾ばくかの反論が来た。曰く、仮に二次流通が盛んになれば、消費者と小売が独自に衣料品を回流するようになり、川上と呼ばれる紡績は稼働率を落とし、商社の流通量は減ってしまう。さらに、二次流通がしっかりした形で世に出れば、より価格競争が激しくなり、アパレルやリテーラーは、数少ない委託生産コストをいっそう川上にヘッジすることになる、というものだった。

 商社出身であり、繊維、糸、テキスタイルの輸出からキャリアをスタートさせた私は、彼らが言っている意味がよく分かる。しかし、冒頭に大前研一氏の「低成長下の成長戦略」について、自らの存在意義を再定義するというセオリーに沿ってゆけば、自然に生き残るための解法は見つかる。

 

商社の本質は、優秀な人材と情報と金

商社は金融投資を繊維子会社は事業投資をやるべきだ(Dilok Klaisataporn/istock)
商社は金融投資を繊維子会社は事業投資をやるべきだ(Dilok Klaisataporn/istock)

 まず、二次流通が今のような形でなく、まともな形で発達し、調達量が圧倒的に減った場合、商社は自らの存在意義を再度問うてみれば良い。私は、商社は、総合商社本体は金融投資を、繊維子会社は事業投資をやるべきで、もはや流通に入る必要は無いと考えている。商社が流通に介在していた意義と意味は、日本が戦後、資源を輸入し加工品を輸出するという国家戦略をとっていたときの、海外との輸出入の窓口であったということだ。経済発展途上においては輸出を、そして、発展して金持ちになったときは輸入を一手に引き受けることで、産業全体の効率を高めていた。しかし、これからは循環経済である。もはや、物販を大量に流すことで、その存在意義を示すことはできない。そうした傾向は、現場の商社マン達が一番わかっているのではないか。

 今、水面下で総合商社は繊維部門を切り離して子会社化し、専門商社はアパレルと垂直統合をしているが、仮に商社「機能」がアパレルに吸収されることになったとしても、商社金融、あるいは、私が提唱するデジタルSPAの複数の商流をまとめる「ハブ機能」、あるいは、D2Cへの事業投資など、従来の商社とは異なりはするが、産業界が今求めている機能は山のようにある。

 QR(クイック・レスポンス)の名の下、実際は、急激な直貿によって運転資本におけるキャッシュが回らなくなったようなアパレル、つまりは、売る力のないアパレルに良いように扱われているのではないのか、よく観察してもらいたい。感覚論でなく戦略論としてQRの産業効果を確かめるべきだ。私が訪問した商社の方達は、判で押したように「アパレルのQRを助ける」と言っているが、私から言わせれば、単に売るパワーの無いアパレルと付き合っているだけではないかと感じている。

合繊メーカーは商社と組み世界にでよ

 さらに、製造業である合繊メーカーは、製造業であるため「休転(工場などで機械の運転を休むこと)」を避け、可能な限り段取り替えを廃して効率生産をおこない稼働率を高めなければならない。QRの名を借りた、すったもんだにお付き合いしている暇など無いわけだ。私は、生産工場改革からマーチャンダイジング、ブランド開発からEC販売まで実務を経験してきた。交差比率が絶対指標の川下と、稼働率が絶対指標の川上を語れると自負している。だから、私の論考を読んでいる方は、時に混同し、「お前はどちらの味方なのか」と疑問をもつわけだ。しかし、私は、全体最適化されたバリューチェーンの話をしているのであって、どこか特定の領域の味方とか敵とか、そんな、レベルの話をしているわけではない。

 話を合繊メーカーの生き残り戦略に戻すと、サステナブル経済下において、こうした状況に対応するソリューションは論理的にいって2つしか無い。1つは、素材コンバータ機能を持つ商社と組んで、商社をハブにし自社生産の稼働を高めながら、商社に「小分け供給」を委託するというものだ。これは、瀧定名古屋、スタイレム瀧定大阪がその機能をもっており、彼らはグローバルSPAに直接アプローチもしている。

 以前紹介したPLMベンダーのMaterial Exchangeという世界中の素材のライブラリーに唯一掲載されていないのが日本の素材である。岡山のデニム、日本の梳毛糸など世界がうらやむ技術を日本は持っている。紡績メーカは、こうした商社と組んで販売力のある世界のSPA取引をシフトしてゆくことだ。くどいようだが、QRはもはや消化率をあげる手法ではない。単に便利屋遣いをされていないか、しっかりリテーラーの販売データをもらい、投入回数と消化率の関係を感覚でなくデータに基づき検証すべきだ。きっと、リアルな実態に驚くだろう。

 もう一つは、成長著しい東南アジアや東欧の「産業資材用途」の繊維供給を行うことである。実は、「産業資材用途繊維」は、世界市場で、年率5%程度成長しており、「環境破壊産業」とまでいわれている衣料品用途は、先進国では過剰供給になっており、途上国ではまだまだローカル素材が主流である。とても、日本が担いでいる素材を使うコスト吸収力は持ち合わせていない。こうした統計はハッキリとでているのに、なぜか日本の繊維産業は、「繊維と言えば衣料品」なのだ。カネボウのように、繊維から撤退し化粧品などの産業に移るのも一つの考え方だが、冒頭の「続・企業参謀」にも、多角化の範囲は、「自社の力の認識」と「他社(競合)との戦力の理解」の間に答えがあり、この問いに対する答えこそが、低成長下での最も重要な答えなのである。産業資材用途の繊維供給にネットワークがなければ、資源といえば商社、商社と言えば資源というほど、途上国開発に顔をだす商社と組むべきだ。

 このように、発想を変えれば、攻め入る先はいくらでもある。もちろん、こうした提言は「言うは易し行うは難し」であることは十分承知だ。また、ここにデジタル技術をどのように活用すれば、さらにサービスレベルを上げられるかというDX(デジタル変革)が加わってくる。海外の事例をよく研究していただきたい。「我が国は」「うちは、独特で」などというセリフをいまでも吐いているようでは先がみえている

 アパレル業界のバリューチェーンは、課題が山のように山積している。低成長下において、素人発想ほど危険なものはない。ちょっとのミスが企業に壊滅的ダメージを与えるからだ。「疑わしいコンサル」を信じられないのはよくわかるが、徹底してこうした議論を通し、信頼できるパートナーを見つけ、川中と川上は、川下で起きている循環経済と反する流通戦略を作り上げてもらいたい。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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