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アパレル産業の新世界、生存方法はアマゾン・楽天・ヤフーの傘下入りかデジタル企業への変革だけ

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2021年8月16日 20時57分

Sheinなどのテクノロジーとウェブマーケティングを駆使した新しいアパレルプレーヤーが台頭するなか、既存のアパレル企業はどうやって生存戦略を導くべきか?マーケットを取り巻く環境を分析しながら、解説する。

ことごとく当たった7つの予言、予言を上回ったのは「変化の速度」

 先週、日本企業の周回遅れの実態、そして、数々の誤解について私の考えを綴った。なかには、中国Shein(シーイン)について、「あんな安物は品質が悪い」などという声も聞いたが、ユニクロが原宿に出たとき、産業界は「あんな、安物は怖くない」と高をくくっていたのを思い出してもらいたい。

 世界規模で成功している企業を舐め、そのビジネスモデルの驚異から目を背け、自分こそ正しいと逃げていても何の問題解決にもならない。学ぶべきところは学び、そして、迫り来る日本企業への買収攻勢(多くは買収対象にもならないだろうが)に備えるため、対抗戦略を練るのが正しい経営ではないかと私は思う。

 さて、本論に入る前に、3年前の第一号で書いた「7つの予言」について、今一度検証をさせていただきたい。私は3年前このような予言を書き、「生き残るアパレル死ぬアパレル」の最終章にも書き綴った。 

変化1 企業数は半分以下に
変化2 販売拠点は自販機かwebに代わる
変化3 従業員の多くはエンジニアとクリエイターに
変化4 超大手と個人事業に二分される
変化5 個人間取引業者達が大きなシェア握る
変化6 在庫を持たなくなる
変化7 クラスターから個人へ

 この中で、外れた予言は1のみ。その他はほぼその通りになっている。あえて言うなら、変化1も、政府の流通業者に対する過剰融資によって、倒産件数が最低になっているという事実から実態は変化1もあながち嘘ではないということになる。唯一はっきり違うといえるのは、私は、この変化を5年後としたが、実態は3年でその通りになった、あるいは、なりつつあるという変化のスピードの速さだった。これに関してもコロナが時計の針を早めたとみれば、あながち外れてはないといえるかもしれない。

次世代の覇者はAmazon、楽天、ヤフーの3社

 今後5年、アジアの新興勢力による日本企業の買収、Amazon、楽天、Zホールディングス(ヤフー、LINE)のウエブ企業のマーケットプレイス・プラットフォームによる空爆が始まり、アパレルはこの3つの勢力に全方位させることになるだろう。皮肉にもDX(デジタル変革)が進まない日本のアパレル企業のデジタル化は、こうした企業による外圧でなされるということになる。

  誤解していただきたくないのは、私はこのようになってもらいたいといっているのではない。「過激」、「極論」と表される私の提言も、こうして3年前を振り返れば、今では当たり前になっていることを見てもらいたい。本日は、今後台頭するスタートアップ企業(特にウエブを軸に工場直販を実現しているD2C企業)の今と今後を分析し、日本の既存アパレル企業はどのようにこうした企業と競争し、勝ち残るべきかを提言したい。

 

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社内からデジタルという言葉を廃止せよ

 まず、DX が進まない企業ほど、社内では、オムニチャネル、OMO、デジマ(デジタルマーケティング)など、流行用語の社内活用をしているが、これを禁止することをお勧めする。オールドタイプのビジネスモデルと技術をわけて語っているのは、私を含めた老人だけで、若者はすでにデジタルなど自分の生活の一部に溶け込みそこに境目はない。デジタルを特別と考えるから顧客を顧みない無駄な導入が進むのである。

 例えば、丸井グループは一昔前、「オムニチャネル」という言葉を社内で使うことを禁止した。彼らは、ひたすら「お客様を満足させるためにはどうしたらよいか」を考え、その考えを実現するためデジタル活用を自然に検討してたAmazon創業者のジェフ・ベゾスも同様で、「顧客を満足させるため、これまでできなかったことをひたすらデジタルを使って実現してきたらこのようなビジネスモデルになった」、と述べている。

 私は、クライアントサイドに立って、いわゆるデジタルベンダーの営業の場に立ち会うことが多い。だが、その提案はクライアントの問題解決をしようなどという気持ちの微塵も感じられず、クライアントが「こんなことができるのか」と尋ねると、複雑なパラメータ設定をやり「このように操作すればできますよ」と煙に巻く。今、世界の潮流は、「忙しいエグゼクティブが一瞬で理解できるUI (ユーザーから見た見え方)をできるだけ直感的に示す」ことにあり、まさに、アップルのiPhoneが世界中を席巻した理由はここにある。実務家にとって難解な操作は「見るだけで蕁麻疹が出る」というものなのだ。

 それなのにひどいUIの商品を企業に押し付けようとするのをみると、「あなた達(デジタルベンダー)の付加価値はなんなのか」と逆に聞きたいぐらいだ。それほどひどいベンダーが多い。結局、UIが難解だとエグゼクティブは「よくわからんから、お前がみておけ」と情報システムに丸投げし、業務改善に寄与しないシステムがあちこちに出来上がるわけだ。

 こうしたシステム開発は本質的に間違っている。極論をいえば、システムというのはクラウドに置き、お金周りが絡む基幹システムと、その前段階の営業支援システムがバリューチェーンごとにあればよい。あとは、ビッグデータと、それを分析するAIダッシュボードで終わりである。こうした俯瞰的ものの見方ができないから、つぎはぎだらけの使えないシステムが社内のあちこちにでき上がるわけだ。とくに、その営業支援系システムというのは、顧客満足度をどのように高められるのか、という最も根源的な問いから設計することが基本である。逆に言えば、「そのシステムをいれてどれだけ儲かるのか?」と何度も聞けば良い。

 

世界的に非効率な小売業
デジタル企業にならねば生き残れない

 日本の流通、小売企業は人材ビジネスだ、というが、それは間違っている。単に生産性が低いだけだ。経済産業省の企業活動基本調査によれば、18年の小売業の労働生産性は、製造業の1197万円/人に対して、497万円/人と半分以下であり、世界と比較しても、「産業別労働生産性の国際比較:水準とダイナミクス」によれば、米国の32%、ドイツの33%、フランスの39%余剰人員の塊のような産業なのである。

 私は、拙著【ブランドで競争する技術】の前書きで、銀座のコーヒーは家賃が高いからでなく、銀座という街には高額のお金を払う人がいるからだ、と説いた。業績不振企業は、自社の固定費を賄うため商品を高額にし、「高いお金を出しても買ってくれる人がいる」と。日本でも数%以下のセグメントに大多数が集中しつぶしあいを行って、マスボリュームはユニクロ含めたグローバルSPAのやりたい放題となっている。こうした状況がこれ以上続くこともなく、GDP3倍という借金を背負った日本に、これ以上補助金を期待しても無理だろう。そうなれば、生産性の高いネット企業のプラットフォームに、これら、非生産性の塊を集約し産業効率を大きく高めてゆくことは必然なのだ。だめな産業とはいえ、9兆もある産業はそうそうない。

米アマゾンのアプリのロゴ
(2021年 ロイター/Dado Ruvic)

 私が、Amazonマーケットプレイス、楽天マーケットプレイス、そして、ZOZOとヤフー(ソフトバンク陣営)による囲い込み、そして、彼らを追いかけたいマガシーク率いるNTTドコモなどが、2万社あるアパレル企業の集約化を行うだろう。結果、日本のアパレル市場は、Amazon、楽天、ソフトバンク・ヤフー(ZOZO)の3つの大きなマーケットプレイスができあがることになる可能性が高い。ただし、アパレル産業は素人が下手に手を出すと火傷をするほど独特だから、しっかりした戦略と知見のあるコンサルタントなどと組むことが前提だろう。

3大ネット企業のマーケットプレイス構想とは

 ここからは、あくまでも私の想定ではあるが、私が考案した商社を中心としたデジタルSPAに似たビジネスモデルが最も妥当と考えるべきだ。順を追って説明する。

 アパレル側から見れば、モールに出店することは自社の顧客を取られ、顧客のビッグデータも開示してしまうというリスクがあるが、とはいえ今のアパレルにはオウンドメディアに顧客を誘引する投資ができる企業はほとんどない。数々の役員との会話の中で、私が感じるのは、日本のアパレルはとにかく保守的だということである。

 彼らはおそらく変動費で家賃を払い、少しでも売上を上げるためにモールに出ようという流れになる。

 私がスクロールの取締役をやっていたとき、新規顧客を獲得するため、20億円を使って顧客を集めたことがあったが、株主から総攻撃にあった。Amazonは赤字が続いても株価がどんどん上がっていったので、私はてってきり投資先行型のネットビジネスを理解してもらえると思ったのだが、実態は逆だった。巨大な投資を行ってCPA (顧客獲得コスト)を綿密に計算したにも関わらず、全く理解してもらえなかった。その後、ゴルフをしにタイに行ったのだが、ある株主から「俺の資産を目減りさせておいてタイ旅行か!」と怒鳴られたぐらいだ。その後、同社の株価は3倍になっているのだが…。

 このように日本企業は、株主はビジネスの素人だし経営は先行投資を極端に嫌がる傾向にある。加えて、新型コロナウイルスとの共存はこれからも長期に渡って続きそうだ。ならば日本のアパレルは、短期的な売上を求め潤沢な資金力を持つAmazon、楽天、Zホールディングスなどのネット企業の傘下に落ちると考えるのが自然だろう。実際、ビームスはAmazonのプライベートブランドの供給を始めた。

 こうしたデジタル企業のプライベートブランドを供給することは、双方にとってリスクがある。ネット企業は、そもそもSPAなどやったことがないので、マーチャンダイジング、在庫レスの手法など知りもしない。しかし、3大ネット企業、Amazon、楽天、Zホールディングスの軍門に下ったアパレル企業の販売データは、すべてビッグデータとして、これらネット企業がすべて自由に閲覧できることになる。

 過去、私はZOZOがそれをやると述べたが、流石に日本という閉鎖国家では村八分にある可能性もあり、それは禁じ手となり、デニムとTシャツしかつくれなかった。本来、ZOZOには山のようなファッションデータ、価格データ、顧客データがあるわけだから、中国sheinのようなビジネスができたはずだ。要はビッグデータを活用し、最も売れている商品と価格でPBを供給すれば良いのである。

 ZOZOは日本企業だったし、当時は前澤劇場が盛んにメディアにでていたので、こうしたことはできなかったようだ、しかし、外資のAmazonであれば「I don’t care. Who cares. This is competition」でやってしまう。ただし、同社のアパレル部門のヘッドクオータはアジアにあるので、日本の事情をわかっているとは言い難い。しっかりしたマネジメントがアマゾンジャパンに入れば、Amazonがビッグデータを活用したデジタルSPAと、Amazon PBによる最先端の服を供給することになるだろう。また、Amazonがやれば楽天も追随することになる。

 これに対して、Zホールディングス傘下のZOZOは、先々週に紹介したスタートアップD2Cのインキュベートを加速させ、次世代のインキュベーションプラットフォームになると考えるのが自然だ。実際、Z世代を中心に、アパレルの役者は交代している。彼らは、sheinのケースからもわかるように、正しい戦略と投資を行えば世界規模のモンスターになる可能性もある。もはや投資会社と化した三菱商事や伊藤忠商事も、この領域に参画するだろう。彼らは、ブランドや小売に出ようとしているが、小売の世界は相当難しく、これまで商社が小売を手掛けて成功した事例は相当少ない。インキュベーションに舵取りを変えてゆくと考えるのが自然だ。

 こうした中、オールドエコノミーと化した、旧来型アパレルの対抗戦略とはいかなるものかは次週に書いてゆきたいと思う。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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