一世風靡のヴィレッジヴァンガード、ワンアンドオンリーなウェブプラットフォームが復活の鍵?
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2021年8月29日 20時56分
ヴィレッジヴァンガードコーポレーション(愛知県/白川篤典社長)が先ごろ発表した2021年5 月期連結決算は、売上高が282億9300万円(前期比96.7%)売上総利益が106億5800万円(同96.3%)。営業利益は2900万円(前期は赤字)、経常利益は4800万円(同)となり、前年の赤字決算から黒字に転じた。当期純利益は2300万円の赤字でこれは2期連続となったものの、赤字幅は5億9500万円も圧縮して黒字化手前まで持ってきた。
90年代後半から2000年初期に一世風靡
ワン・アンド・オンリー。1986年に創業した同社は理念にも掲げる通り、まさに唯一無二の個性的な「サブカル感」が充満する小売として90年代後半から2000年台にかけ一世を風靡した。
本屋をベースとしながら雑貨と融合した陳列には整列感はなく、店内に一歩足を踏み入れるとちょっとした非日常空間に迷い込んだような不思議なワクワク感を喚起してくれる。
90年代後半当時は本といえば本屋、雑貨といえば雑貨店、カフェはカフェと売り物やサービスと店舗イメージが合致していることが常識だった。それだけにヴィレッジヴァンガード物欲と好奇心を刺激する商品を揃え、それらの関係性を考慮し、その上で空間を縦横に活用した陳列は斬新だった。シャレのきいたPOPはそれだけで話題になることもあった。
五感を刺激する店舗は消費者の購買意欲にスイッチを入れ、業績は順調に伸びた。店舗数も急速に拡大。そして2003年にはジャスダックに上場する。新しい小売のひとつの象徴といえるまでの存在になり、その名は全国へ知れ渡った。
唯一無二小売はなぜ凋落したのか
ところが栄華は長く続かない。株価ベースでは2006年をピークに現在に至るまで下降トレンドで、売上も一時は店舗数増加もあって500億円に迫る勢いがあったが、もう数年低迷が続いている。
斬新ゆえに飽きられた、模倣店舗が増えオリジナリティが薄まった。そうしたことも要因として考えられるが、本質はそこではないだろう。皮肉だが、同社の存在価値である「ワン・アンド・オンリー」が、そもそも拡大にはそぐわなかったーー。それが今に至るまでの長いトンネルの元凶といえる。
<チェーン・オペレーションに頼らない、ワクワクする専門店集団を作り上げる>。同社の理念の「行動規範」の5番目にはそう明記されている。「ワクワクする専門店集団」は、まさに1990年代から2000年にかけて、消費者のハートを刺激し続けた同社の代名詞といえる。
ところが、店舗数が増え、特にモールへの出店が増え始めると、同じ店構えでもワクワク感が薄れたように感じられるようになる。加えて、他業種でもジャングル型の陳列が珍しくなくってくると、相対的にインパクトや感動が薄まってくる。
売上低迷を打破すべく、さまざまな改革に着手。2012年にはそれまで「活用しない」ことを標榜していたPOSシステムを導入。これは、同社のユニークさを棄損にするには十分に副作用の強い“クスリ”となった。
各店店長の「勘」と「センス」が独特のムードの源泉だった同社にとって、売上データに頼ることは個性を削るものでしかなく、「ワクワク」をなくすことと同義だからだ。
復活へ向け打ち出した3つの施策
2010年ごろからは小売領域のECが急拡大。この環境変化は、リアル空間でこそ持ち味を発揮する同社にとっては逆風となった。チェーンストアの拡大戦略が、唯一無二を存在価値とする同社にとっては、自らを否定しかねい悪手になるのだから、皮肉というほかない。
優れた才覚で画期的な小売の形を構築し、一定の拡大を成し遂げた同社。だが、環境の変化に対応しきれず、失速。もがき続ける停滞期が続いているのが現状だ。
この長いトンネルに出口はあるのか。同社は「新型コロナウイルス感染症の拡大により、働き方、消費行動などの社会環境が大きく変化しています。それに伴いデジタル化の重要度が高まり、その方向性はますます加速していくものと認識しております」としたうえで次のように、復調への方向性を明かしている。
「当社グループは、『いままで世になかった独創的な空間をお客様に提供し続ける』をモットーに店舗型小売りを経営の主軸としつつ、さらに以下3つの戦略を推し進め変革を図ってまいります」として、3つの施策を打ち出している。
- :イベント事業の強化及び収益拡大
- :オンライン事業の強化及び収益拡大
- :新規事業の創出
イベントは店舗との親和性が高い。そこに同社が培った陳列ノウハウをかけ合わせれば、集客と商品販促という相乗効果が期待できる。
さらにオンラインで情報発信や仕掛けをすることにより、さらなるシナジーにもつながる。こうした動きの中から新規事業を創出するのか、ポストコロナを見据えた、まったく新しい事業を生み出すのか。そこは同社の「勘」と「センス」を最大限に活用してもらいたいところだ。
同社は今後についてこうも語っている。
「当社グループは、POPUP店舗などのイベント事業及びオンライン事業の強化を図っております。今後はこれら両事業を連動したシナジー効果の創出により、収益を拡大してまいります。グループ内収益の構成比を大幅に変革することで高収益体制を実現させ、その原資を新規事業に投資することにより継続的な成長を達成します」。
ウェブを使ったワン・アンド・オンリーが早くも黒字化に寄与
その軸となりそうなのが、クリエイター作品やアーティストコラボ商品などをオンラインで販売するビジネスモデルのWebbed事業だ。同事業は、独自性が高く、模倣も簡単ではなく、かつヴィレッジヴァンガードならではの「センス」が活かせる事業でもある。これまでは同社100%子会社のVillage Vanguard Webbedが展開してきたがこの6月1日完全子会社化。経営資源の効率化に加え、リソースを同事業に費やす狙いがあるだろう。
実はヴィレッジヴァンガード事業は、21年5月期も5500万円の営業赤字。しかしWebbedは対前期比419%増となる7700万円の黒字で、連結決算の営業黒字化に寄与した。Webbed事業の売上高はわずか8億9100万円だから、その利益率は8.6%と高水準だ。
ネットの本格浸透で誰もが情報発信できる環境となったことで、各分野情報に精通した一個人やインフルエンサーが力を持つ時代となった。そうしたなかで、ニッチとはいえ特定の層に強くリーチできるクリエイターを数多く囲い込んで、ファンである顧客に提供するビジネスモデルは、まさに「ワン・アンド・オンリー」の原点回帰をデジタルを活用して行う、同社ならではのもの。
ただし、売上ボリュームの多い、「本業」たる店舗事業の収益性改善が両立しないことには屋台骨を支えることはできない。
同社としては、Webbed事業の成長と独自性をテコに、ヴィレッジヴァンガード事業への相乗効果へとつなげていけるかが業績復調の鍵を握りそうだ。
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