アウトドアウェアをストリートファッションに変え市場創造!ノースフェイスの直営店マーケとは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2021年10月19日 20時55分
長引くコロナ禍の中で、約2年をかけてECシステムを刷新し、OMO(オンラインとオフラインの融合)を加速させている「ザ・ノース・フェイス(以下「ノースフェイス」)」。ゴールドウイン(東京都/渡辺貴生CEO)が日本でのライセンス製造・販売を手がける。そのOMOにおいても、ノースフェイスの強固なブランディングの基盤となるのが、全国に約100店舗ある直営店だ。約四半世紀にわたって築き上げてきた、直営店を中心としたノースフェイスのマーケティング戦略を、あらためてひも解いてみよう。
マーケティングの転換を決意した、NYでの光景
1966年、アメリカ西海岸のバークレーで誕生したノースフェイス。その日本における歴史は、1978年に株式会社ゴールドウインが輸入販売を手がけるところから始まる。
その後、1990年代半ばに転機が訪れる。現・ゴールドウイン社長の渡辺貴生氏がニューヨークを訪れた時の逸話を、ザ・ノース・フェイスマーケティンググループ プレスチームLDの宮﨑浩氏が紹介してくれた。
「冬の寒い日に、ニューヨークの若者たちが、路上でヌプシジャケット(ノースフェイスの定番ダウンジャケット)を着ていたんです。当時の日本には、アウトドアのアウターをストリートで着る文化はまだない時代。アウトドアとストリートに線引きをする理由は果たしてあるのだろうか? と価値観を一変させられる出来事だったそうです」(同)。
帰国した渡辺氏は、日本国内におけるノースフェイスのマーケティング戦略の転換を決意する。従来の卸売りをメーンとしていたところから、直営店舗を通じて自社でブランディングを強化する方向に舵を切ったのだ。そして1983年3月に原宿駅竹下通口前に「ウエザーステーション」をオープン。1993年10月には今の原宿ソフィアビルに移転、2000年3月に改装して「ザ・ノース・フェイス原宿店」となる。
「それまでは、スポーツ用品店などで登山用のウェアとして販売していたものを、直営店で『ストリートファッションウェア』として打ち出すようにしました。商品自体は変わっていませんが、要は“売り方”を変えたんです」とEC販売部長の梅田輝和氏は話す。
折しも1990年代末から、日本のファッションシーンにもアウトドアブームが到来した。その波に乗って、ノースフェイスは「スポーツ用品店で売られるアウトドアウェア」から、「ストリート」やライフスタイル領域での認知を高め、飛躍的に成長していった。
卸先の店舗もチェック! 独自のVMD部隊
直営店第1号のオープンから四半世紀以上が経った今日においても、全国に約100店舗ある直営店を、ブランドの発信拠点と位置づけるノースフェイスの姿勢は変わらない。
その店舗づくりには、「一つとして同じコンセプト、商品展開の店はつくらない」という、現社長の渡辺氏をはじめノースフェイスが大事にしてきたこだわりがある。
たとえば、原宿エリアだけでも5店舗(2021年8月時点)の直営店があるが、タウンユース中心の「スタンダード」、女性をターゲットにした「マーチ」、親子向けの「キッズ」、本格アウトドア志向の「マウンテン」、サステナビリティをコンセプトに打ち出した「オルター」と、その顔ぶれはまったく異なり、それぞれの個性が際立っている。
その個性豊かな直営店の世界観を生み出しているのが、ノースフェイス独自のビジュアルマーチャンダイジング(VMD)チームだ。
「VMDの専門チームが、ファサードからインテリア、マネキンの飾りつけ、BGMに至るまで、店づくりに関するすべてのマネジメントを行っています。新規出店時だけでなく、その後も定期的に各店舗を回って、マネキンに着せる服の選定や商品の飾り付けなどをマネジメントしています」(梅田氏)。
VMDチームがカバーする領域は直営店にとどまらず、フランチャイズ店や卸先の店舗にまで及ぶ。この徹底したブランド管理が、ノースフェイスのブランドの強さを陰で支えている。
リアルならではの顧客体験を創出する「リペアサービス」
今後はECとの連携がリアル店舗の大きな課題となる中で、「リアル店舗ならではの顧客体験を強化していきたい」と梅田氏は意気込む。
その一環として、現在力を入れているユニークな取り組みが、商品のリペアサービスだ。
「当社では創業の地である富山にリペアセンターを持っています。これまでもお客さまから商品をお預かりして修理を請け負ってきたのですが、そのリペアサービスを、新たな顧客体験として打ち出そうと考えています」(同)。
その「新たな顧客体験」の一例が、単なる修理だけではなく、顧客が好きな素材や生地を組み合わせて「一点もの」の服を作れるアップサイクルサービス(期間限定、受付店舗限定のサービス)だ。
「アパレルメーカーにとって、直接的な購買につながらないリペアサービスは、本来ネガティブなものです。でも、そこにアップサイクルの要素を入れ、お客さまがリペアセンターのスタッフと直接コミュニケーションを取れるようにすることで、新たな顧客体験が生まれ、ネガティブをポジティブに転換できるんです」(同)。
2021年7月に、札幌の直営店で期間限定のリペアショップを開設した際には、顧客が愛用のアウターなどを持ち込み、リペアセンターから出張したスタッフとリペアプランの相談に応じる姿がみられた。思い思いの素材を組み合わせて、一点ものの服が生まれれば、ブランドへの愛着も高まるだろう。顧客とのエンゲージメント強化にもつながる取り組みだ。
リペアセンターのスタッフには、オンラインでも相談可能(期間限定の取り組み)だ。ここでも、ノースフェイスのOMO戦略、リアルの顧客体験をオンラインで再現する試みの一端が垣間見られる。
ECとの連携を見据え、リアル店舗の価値を再定義
「まだ公表はできませんが、これからも直営店ビジネスは推進します」と梅田氏。コロナ禍で先のみえない状況が続くが、その中にあってもリアル店舗をブランドの発信拠点として重視する姿勢を崩さない。
一方で、「OMOを進めていく中で、これからはリアル店舗の役割そのものを見直していく必要があります」と梅田氏は語る。
「今までのように、ノースフェイスの新しい店舗を作ればお客さまが来てくれるという単純な状況ではなくなっています。これからはECとの連携を念頭に置きながら、リアル店舗にしか生み出せない顧客体験をもう一度見直し、リデザインする時期にきています」(同)。
リアル店舗を重視しながらも、OMOの推進というストーリーの中で、リアル店舗の価値を再定義しようと模索するノースフェイス。四半世紀以上の実績を持つ直営店ビジネスをどう進化させていくのか、アウトドア界屈指のブランドの動向から目が離せない。
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