アパレル全滅時代を救う 過剰在庫問題を解決する、シンプルかつ確実な方法とは
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2021年9月20日 20時55分
自宅の食卓でお腹いっぱい食事をしたとする。その時、突然、Uber EATSでフルコースの食事が配達されたら、皆さんはどうするだろうか?
SDGsの観点から、フードロスの問題がこれだけハイライトされている状況だ。「もったいない」とばかりに、お腹に入りそうなものを選んで、なんとか詰め込む人も多いことだろう。当然、食べ切れなかった分は、冷蔵庫や冷凍庫で保存されることになるし、自身も胃薬を飲むことになるだろう。
これが1日や一食だけの話なら、それで終わりだ。だが、これが(自分の意志とは別に)毎日続くことになれば、どうなるだろうか。結局は、過剰食品として毎日捨てられることになるだろう。
同じことが起こっているのが、いまのアパレル業界なのである。
私たちの経営環境を理解する
環境省のHPによれば、2019年のアパレル製品の新規投入量は「35億点」(売上ではない)と記載されている。しかし、同省のHPによれば、国民が年間に購買する衣料品は一人18点とのこと。つまり、ざっくり計算すれば20億枚。赤ちゃんやご老人など、服をあまり買わない層を計算にいれ、仮に1億人とすれば18億枚だ。つまり、国民は18億枚しか購買しないのに、毎年35億枚(購買数の2倍)の商品が市場に供給されている。
新品だけではない。繊研新聞社試算によれば、いわゆるC2Cのマーケットは衣料品を含むすべての物販で約2兆円。現在、その詳細を算出中とのことだが、この中の衣料品の割合を、メルカリの全トランザクションにおける衣料品割合である40%を当てはめると、2兆円×40%で8000億円となる。
これは、かなりラフな計算であることを承知の上で書いている。しかし問題解決というのは、まずは大きな全体感をつかみ戦略の方向性を見定めてから詳細に入ってゆくアプローチが必要なのだ。
次にこの8000億円(仮)のCtoCアパレル市場について、私はメルカリに出店している商品の正規上代に占める単品単価の割合を(30個程度ではあるが) アトランダムにだして平均値を算出した。結果は、メルカリで売られている商品のオフ率(値引き率)は、正規上代の約90%のディスカウントだった
ここから得られる示唆は、C2Cだけで8000億円なのだから、ここにサブスクやオフプライスなど二次流通全体を加えると二次流通の枚数は約1兆円規模になると想定され、この市場規模が90%オフ率の結果とすれば、総額約10兆円規模 (新規商品と同じ数) の枚数が流通していることになる。
今、新規投入の市場規模は、同繊研新聞社によれば輸入統計(現在、繊維製品は98%が輸入なので、輸入統計がそのまま市場規模となるというロジック)から算出され、8.5兆円から9兆円といわれ、環境省の10兆円より縮小している統計もでているほどだ。
これが、輸入統計であることからC2Cは除外されると考えると、「恐るべき事実」が見えてくる。つまり、新規に輸入されている商品点数に相当する量が、消費者同士による物々(ぶつぶつ)交換で取引されているのである。これでは、企業がいかなる努力をしても売れるはずがないのである。
私は当初、環境省HPに掲載されている「半分が残っている」という試算に懐疑的だったが、こうした事実を冷静に考え,考察を進めてみれば、あながち作った数の半分は売れずに残るという試算も「現実ではないか」と思うようになってきた。
マクロ分析から個別企業の戦略を考えよ
このような考察をすすめてゆけば、アパレル産業における企業が取り得る戦略の概要が見えてくる。言うまでもなく、個別の企業はこうした経営環境をしっかり分析し、個社が取りうる戦略を明確にしてゆくべきだ。しかし、多くの企業の戦略と称するものは近視眼的なものばかりに見える
上図を見てもらいたい。これまでの話を現在のアパレル業界の状況として俯瞰してみたものだ。つまり、冒頭で説明したように、既にお腹が一杯になっている状況の中で、さらに、食べきれないほどのフルコースを運んでいる。これが、多くの企業がやっていることなのだ。
ポイント、値引きセール、催事、オフプライスストアなど、言葉は違えど、あの手この手で値引き合戦を繰り広げ、お腹がいっぱいの消費者に、さらに衣料品を詰めこもうとしている構造がおわかりだろうか。
おそろしいのは、コンサルタントや評論家と称する人達でさえ、こうしたマクロ的考察に視座が及ばず、「自社システムを入れろ、そうすれば在庫の問題は解決する」など、業界の構造的問題を掴んでいないことである。すくなくとも、こうした全体を俯瞰した視座で産業が持つ構造的問題に言及している人に出会ったことがない。せいぜい、念仏のように「リードタイムを短くしろ、そうすれば在庫はゼロになる」など、全く非論理的な主張がまかり通っている。
この課題解決は、実行するのは数多くの既得権益により極めて難しいが、進むべき方向性は極めてシンプルだ。
論理的にいって、すでに新規投入量の半分がいくら値引きをしても売れないのだから、投入量を半分にするしかない。しかし、さらに、賢明な読者であれば、「現在のプロパー消化率が50%程度だから、投入量を半分にしても単純にすべて売れるわけでない」ことを指摘するだろう。
これは、過剰投入が解消されることによるプロパー消化率向上が一定数があることから、仮にそれを20%(プロパー消化率は70%に上がる)とおき、現在の全投入量の70%削減を行う(投入量を30%にする)というのが私の提案である。
そうすれば、企業は否が応でも「売れ筋」しかつくらない、いや、つくれないようになるだろう。そして、残りの売上は、市場に余っているタンス在庫と隠し在庫を回流させる新たなビジネスを創り上げるように、産業政策で仕向けるわけだ。これが、問題解決の正しいアプローチである。
今、メディアではどこでも二次流通市場の拡大を報じている。もはや、二次流通市場は、私一人が騒いでいる夢物語でなく、真のサステナブル経済へ移行する上で極めて重要な産業政策の論点なのだ。いろいろな団体が設立しては消え、また、統合しているが、こうした全体像から政策立案を行っているのか、場合によっては公開ディベートをすべきだろう。どのような議論が繰り返されているか、ウエビナーで国民や産業界、メディアに晒し、本当に身のある議論がなされているかライブ公開もできる。
それでは、日本に2万社弱ある日本のアパレル企業の投入量を減らすのか。読者はこのようなつっこみをするだろう。「どこかの数社が投入量を70%減らしても、競合がここぞとばかりに、そのセグメントに対して投入量を増やすだろう」と。
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いかにして、企業に新規投入の70%削減を実現するか
丸井グループのように、自ら「脱物販」を掲げる企業もあるが、総じて、企業の多くは、未だに物販による「売上至上主義」から抜け出せず、また、それはある意味当たり前でもある。
したがって、企業ごとにバラバラに自社利益誘導施策をとり、これが正しいと信じているわけだからバリューチェーン全体の全体最適には行きつくはずもなく、もはや「お上」の産業政策と輸入関税などによる国家戦略に頼るしかない。 流通のど真ん中で改革の経験をした人間であれば、よくおわかりだろう。
そもそも、企業が自由に営利活動を行うことが許されるのが自由経済のルールなのだから、それを制御する政策をとるべきだ。それが、私が前回掲載した企業の「残品率」に対して税金をかける案である。
残品率というのは、一定期間内における総投入量に対して「売れ残り」の点数の率のことをいう。「残品率」は「最終消化率」の逆数であり買い約定先行取引である以上、いかなるデジタル技術を使っても、極小化はできてもゼロはない。もちろん、企業の商品特性によって損金処理までの時間や評価のやり方が違い、損金処理のルールさえない非上場企業も存在するため現実的な運用は相当複雑になる。しかし、その程度の話は大した問題ではない。私にやらせていただければ、3ヶ月で調達の標準フロー Level2 (デジタル技術を見据えた業務フロー。Level3はより詳細化されたデジタル技術の要件定義)を作り上げることは可能だ。
「サステナブル・ファッション」は、名前から想起されるイメージから(一度買った商品は長く使い、不要なものは買わないようにしましょうというイメージ)によって、アパレル産業の営業活動を止めるような響きを持っている。同時に、その意味合いも企業の都合の良いように曲解され、「土に帰る素材」や、「農薬を使っていない素材」を使えば、市場で半分しか売れないような数量を投入し続けているにも関わらず (図をもう一度みてもらいたい)、「これがサステナブルだ」と主張するなど、疑問だらけの施策が行われている気がするのは私だけだろうか?繰り返しいうが、すでに市場には新規に投入される枚数と同等、それ以上の商品がすでに流通しているのだ。半分も残るのは当たり前である。
本当にサステナブル(環境と経済を両立させる活動)な経済活動とは何か、というシンプルかつ、極めて強い問いを本日皆さんに提起した。
ぜひ、私たちの住む環境と共存できるすばらしい環境をつくりあげてゆこうではないか。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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